
シックでゴージャスなホテルフロアを横切り地下へと向か
うエスカレーターに乗ると徐々に下から熱気を感じ始めた。
ホテルの地下にこんな広い空間があるとは思わなかった
が、その広い空間も大勢の人でごった返していた。 コレが
午後になれば、更に人出が増す事が予想されるので、ホント大きなイベントだという事が判る。
その会場の入り口に、現役のカップカーが皆を出迎えており、更にそのクルマの傍には綺麗な
オネーチャンが文字通り花を添える様に笑顔を振り撒いており、セレブな雰囲気と相まって、華や
かな空間を演出していた。 故に、否応なくコチラのテンションも上がり始める・・・。
そんな中、一際人でごった返している、空港のチケットカウンターの様な長大な受付ブースへと
向かうと、正にポルシェジャパンの社員総出で、来場した顧客の対応に追われていた。テーブルの
上には、今回の引き出物であるカタログやトートバッグ等が山積みとなっていた。招待状をポケット
から取り出し、私の担当が属するエリアの販売店ブースへと向かった。そこには女性スタッフが4~5
人おり、私が招待状を差し出すと、
「トートバッグの色は緑とオレンジを御用意しておりますが、どちらにされますか?」
と聞かれたので、ちょっと迷ったがオレンジ色にした。それらが入った引き出物の袋を受け取ると、
早速メイン会場の方へと歩いて行った。そしてスグに嬉しい景色が目に飛び込んで来た。つい先日
ルマンで行われた24時間レースで、ポルシェ久しぶりのウィナーになった919の3号車が展示されて
いたのである! しかも特別なステージ上にある訳でなく、さらに柵やロープで遮られている訳でも
無く、フロアと同じ高さの床に普通に停まっていた。そんな扱いだから、最初レプリカと思ったが、ま
ごう事無く本物であり、私のテンションは更に高みへと向かった! しかし…。
「こんな凄い車が間近に展示されているのに、殆どの客は興味を示していないって…」
モーターサイクルショーの時もそうだが、世界的なレーシングバイクやクルマが身近に展示されてい
るにも拘らず、余りにも注目度や理解度が低いのは、全く持って情けないの一言である! これだ
からいつまで経っても欧州人に舐められるのだ。
とは言え見方を変えれば、このクルマをじっくりと堪能する事が出来る贅沢を味わえるという事で
もあるので、眉間に寄った皺はいつの間にか霧散し、口元には笑みが零れ始めていた。
という訳で、一通り、“ル・マン ウィナーカ―” のモックアップ(自爆)を堪能すると、いよいよメイン
とも言える、お目当てのクルマの元へと向かった…。
今回のポルシェジャパン≪イチオシ≫のクルマは、スポットライトも眩しい、正にメインステージと
言える場所に鎮座していた。赤白黄色と綺麗に並んだそのクルマは、それぞれ、911GT3RS、ボク
スターGTS、そして、今回私のお目当てのクルマである、ケイマンGT4であった。 兎に角、佇まいか
らして美しい。腰の据わりと言うか、バランスと言うか、兎に角素人目に見ても美しく、そして速いとい
う事が、ビンビン伝わってくる。 しかもそのカラーは大好きなイエローと来ていた!
「うぉ~! マジで欲しい!!!」
既に日本割り当て分は完売状態ではあったが、それでも何とかして欲しいと思った久しぶりのポル
シェであった。
「う~ん…色はこれで、エアコンとナビとドライブレコーダーとレーダー探知機付けて、
フロント周りにカッティングシート貼って、ホイールのリムの淵をボディ同色に塗って、
助手席に“坊(仮名)”用の4点シートベルトを噛まして、右ハンドルのMTがイイかな…」
等と、妄想に突入し始めた時、背後から私を呼ぶ声が聞えた。
「どーもー! しんげんさん、此方に御出ででしたか!」
振り返ると、久しぶりに会う私の新しい担当者が立っていた。ハッキリ言って顔は全然忘れていた
が、向こうは私の事をハッキリと憶えていた様である。 何故だろう?
こちらから話しかけるより先に、マシンガンの様な勢いで担当であるA氏が捲し立てた!
「いやー、先日は席を外しており、申し訳ありませんでした! その時、私の代わりに
御案内させて頂いたSも、しんげんさんと話して大変勉強になったと申しておりましたよ!」
と言って来た。
あの時の事が鮮明に蘇って来る。まあ、120%お世辞だとは解るが、やはりというか、その後の
セリフには一人納得していた。
「因みにそのSですが、ウチで一番の古株であり、生き字引でもありまして、そのSが感心
する位ですから、その事を聞いた時、流石しんげんさんだと、私の鼻も高かったですよ!」
充分イケメンの範疇に入るであろう、そのフェイスに満面の笑みを浮かべながら、歯の浮く様な
セリフを、耳を浮かせながら聞いていた…。
暫くは、GT4やS氏の“生き字引っぷり”についての話で盛り上がっていたが、次々と彼の付けて
いるイヤホンに来客を告げる連絡が入っている様で、申し訳なさそうに話を切り上げ、挨拶もソコ
ソコに、次の顧客の元へと去って行った。
「商売繁盛、なによりかな…」
独りになった私は、再度GT4の元へと向かうと、今度は本格的にじっくりと吟味に入った…。
「見れば見る程、ビンビンに私の心をくすぐる!」
これは
1989年の東京モーターショーで初めてタイプ964を見た時と同じようなワクワク感であった。
何故この様な感情が芽生えて来たのか? それは誤解を恐れずに言えば、このGT4に “本物の
911” の残滓を感じ取ったからに他ならない! ハッキリ言って、今や、この “ケイマンGT4” こそが
“911” のアイデンティティーを継承する本流だと私は断言したい! また多くの敵を作ると思います
が、993以降の911は、どれも大きく重たくなっており、それは私にとって、もう既に、“911” では無い
のです。
964までの911は、、カローラとほぼ同じボディーサイズだったという事は意外に知られておりませ
ん。既にランボやフェラーリが大型化に邁進していた時も、頑なにポルシェはこのボディーサイズを
堅持していたのです。ボディーサイズが小さいという事は、すなわち車体重量の増加を防ぐ事に直
結するので、スポーツカーにとって実はとても大事なファクターなのです! だからこそ、昔からショ
ボイエンジンを積んでいるにも拘らず、ロータスが未だに高い評価を得ているのであり、そのドライ
ビングプレジャーは、確かに素晴らしいのだ! 最近ではコレに近い車として“アルファロメオ4C”
があるが、これもまたスポーツカーの原点である “軽量化” を突き詰めた結果の高評価だとココに
断言する…。
図体のデカいオッサンが、ブツブツ言いながら怖い顔してGT4の周りをうろついていると、また背後
から私を呼ぶ声がした。なんだろうと振り返ると、そこにはA氏と同じくポルシェスタッフの制服に身を
包んだ人物が立っていた。
「担当のAより、しんげん様のアテンドを仰せつかりました、Mと申します」
そう言いながら名刺を渡して来たその人物は、妙麗な女性スタッフだった…。
つづく!
※尚、この日の模様は、愛車紹介ポルシェ カブリオレ フォトギャラリー
内の→ “
ココ” と “
ココ” にありますので、どうぞご覧下さい!