
その3)シートベルトを締めてこそエアバッグ
アメリカがクルマの安全性を強く意識するようになった1980年代に、消費者団体からNHTSA(道路交通安全局)にたいして法規制を早く整備するようなロビー活動が起きた。そこで1984年には衝突安全基準「FMVSS208条」では乗員の傷害値に関する法律が全米の三分の二にあたる州で制定されたのである。その結果、コンクリートの壁に正面から時速30マイル(48Km/h)で衝突したとき乗員の傷害値が制定されたのである。これは日本の保安基準(1994年制定)と同じであり、その内容はHIC(Head Injury Criteria 頭部傷害値)が1000以下、また胸部の衝撃は60G以下でなければならないとされている。
このような規定を生体工学として研究してきたのはデトロイト市にあるミシガンのウェイン州立大学。ここでは長い間、GMと共に死体を使った実験を行い、人間を模擬したダミー人形を完成させたのである。その実験結果はNHTSAに提出され、その基準が採択されたのである。
1984年にFMVSS208条が制定されと、エアバッグだけでなくパッシブベルトという自動的に3点式ベルトが締まる装置が考案された。当時はエアバッグの信頼性に不安があったので、GMやフォードはパッシブベルトで対応した。この時、経営的に窮地に立たされていたアイア・コッカCEO率いるクライスラーがエアバッグを採用し、クライスラーのクルマは売れに売れた。クライスラーはエアバッグのおかげで息を吹き返したのである。
この当時のアメリカではシートベルトの装着率は30%台と低く、残りの70%のベルト非装着の乗員の死亡者数が問題となった。エアバッグをいち早く普及させたクライスラーは208条で規定されたベルト非装着者の安全性を確保するために、大きなエアバッグを開発しが。これがアメリカにおけるエアバッグの加害性の問題の根源なのである。しかしベルトをしない乗員の安全性を守るというのはいかにもアメリカ的な発想である。エアバッグは本来SRS(補助拘束装置)すなわちシートベルトの補助装置と理解するのが正しいが、アメリカではベルト非装着者の安全性を確保しなければならない。208条は悪法ともいわれ国際的な矛盾となっている。
ところでアメリカ自動車技術会(SAE)の論文によれば、エアバッグのみの救命効果は18%に過ぎず、 一方シートベルトだけでは42%の効果がある。さらにシートベルトとエアバッグ併用では46%までに達するという。エアバッグはサッカーボールくらい硬さの物体が時速160Km/h前後で展開するので、ドライバーは前屈みになりすぎず、助手席同乗者はシートの先端に浅く腰かけず、またインストルメントパネルに顔や手足を近づけすぎないように注意する。
つづく
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クルマの安全 | 日記
Posted at
2012/04/05 00:17:31