2013年01月25日
NAVIアーカイブ(2006年1月26日発売)
(6)メルセデス・ベンツML500
メルセデスの論文を夢中で聞いていたのは……
タイプ:LSDなしセンターデフ式4WD
トランスファー:センターデフ(ベベルギア)
前後トルク配分:通常時50:50
4WD市場の拡大を受けて、GクラスやMクラスといったSUVに加え、CクラスやEクラスにも積極的に4WDモデルの“4MATIC”をラインアップしているメルセデス・ベンツ。この4MATICとMクラスの4WDは、実は基本的な構成において同じで、通常時はベベルギアのセンターデフによりトルクを前後車軸に等配分するが、前後の回転差を制限するLSDを持たないのが特徴だ。もちろん、回転差を野放しにしておくわけではなく、必要に応じて、4WD車用のESP(エレクトロニック・スタビリティ・プログラム)である“4ESP”がスリップする車輪にブレーキをかけることによって、他の車輪にトルクを伝えている。なお、今回試乗したML500にはオプションの“オフロードパッケージ”が装着されていて、これを選ぶとAIRマチックサスペンションやローレンジモードセレクターとともに、電子制御のセンターデフロック/リアデフロックが加わる。本格的なオフロード走行にはぜひほしいアイテムといえるだろう。
◇インフォメーションの伝達
メルセデスの4WDは、ポルシェやアウディ同様、オーストリアのマグナ・シュタイヤ社と密接な関係にある。1979年に登場したゲレンデ・ヴァーゲン(Gクラス)は、日本ではプレミアムなニッチカーとして人気がある。Gクラスは四半世紀以上モデルチェンジしていないが、最近のミニタリーブームで再び売れだした。まるでオフロードカー界の貴公子のような存在だ。
このクルマはメルセデスのバッジをつけているが、100%シュタイヤ・プフ社(現在のマグナ・シュタイヤ社)が開発したモデルだ。その後、メルセデスはアウディ・クワトロの影響もあってシュタイヤ社とともに本格的な乗用車4WDの開発に着手する。
87年、メルセデスは初めてミディアム・クラスで4マチックを登場させた。初代4マチックはポルシェと同じように油圧電子制御の4WDであった。当時の4マチックを雪道でテストしたことがあるが、発進ではテールが簡単にズルッと滑るほどトルクの伝達に遅れを持っていた。これではせっかくの4WDなのに、パフォーマンス(加速性能)は決して有利ではないと思った。
いったいメルセデスの4マチックにどんな考えがあったのか、疑問に感じていた。当時の日本のエンジニアはメルセデスの思想を理解できず、自分たちが開発したフルタイム4WDや電子制御4WDのほうが優れていると信じていた。実際、加速性能などでは国産4WDの方が優れていたのだから。
ある年、アメリカで行われたSAE学会(The Society of Automotive Engineers)でメルセデスは電子制御4WDの開発思想を発表した。メルセデスが4WDを採用した理由は、駆動力を高めることではなく、タイヤのスリップを量るための駆動力配分である、という論文を発表したのだ。きょとんとする各国のエンジニアが多いなか、日産の研究所でGT-Rに使われた油圧電子制御を開発していたエンジニアは鳥肌を立てて聞いていた。
メルセデスは、発進の際、(リアのスリップによって)フロントへトルクが流れるのを意図的に遅らせ、後輪が滑ることをドライバーに体感させ、さらにインパネに「!」マークを点灯させることで、路面が滑りやすいという状況を知らせる。「タイヤの接地状況の厳しさをインフォーム」することが目的……。そう述べたのである。そして、その若きGT-Rのエンジニアは、その意味を正確に理解していたのだ。
そうした思想をベースに、メルセデスの乗用車4WDの開発が始まった。しかし、メルセデスは次の世代の4マチックを電子制御からメカニカル4WDに変更してしまった。今度は50対50のフルタイム4WDだ。発進時からストレスなく発進する様子は、機能としては優れているが、初代の4マチックに与えた崇高なインフォメーションとしてのオンデマンド思想は継承されなかった。
メカニカルタイプのセンターデフに変更した理由は「コストの関係」とエンジニアは正直に述べている。電子制御4WDもメカニカル4WDも実際の開発はオーストリアのマグナ・シュタイヤ社が担当した。もともとこの企業はポルシェ博士が主任技師を務めていたオーストリッチ・ダイムラー社、軍事産業のシュタイヤ社、小型車の専門メーカーであったプフ社が合体した企業だ。100年以上も前から険しい冬のアルプス越えを強いられてきた同社には、欧州でも有数の4WD技術が集積されている。
しかし、メルセデスの先進技術部門では、もうひとつの極めて重要なある技術が着々と開発されていた。路面の状況をドライバーに知らせる「インフォメーション」をアナログからデジタル化する戦略が講じられていたのだ。テールを少し滑らせ、ドライバーに路面状況を知らせるというのは、考えてみれば野蛮な手法だったかもしれない。
そして、90年代半ばになると、ESPという画期的な安定装置が考案され、クルマの不安定さをタイヤのスリップで見張る従来の手法から、車体に発生するヨーイング・モーメントで測定する手法が実用化されたのだ。ヨーレイトをコアにした車両情報をもとに、ステアリング角やステアリングの操舵速度などを検出し、ドライバーの意志をコンピューターに伝える。実際の挙動とドライバーの意志がずれたと判定すると、自動的にエンジンの出力を制御したり、片輪ブレーキを介入させて、積極的かつ自立的に安定性を確保する。ESPはそうした一連のシステムを統合した、画期的な技術であった。
◇やっぱり宇宙一
メルセデスの安全思想はどの時代も健全で、SUVとして登場した新型Mクラスにもふんだんに先進技術が織り込まれている。大きなボディにもかかわらず、とてもリズミカルに走れる。リスクの高い路面を安心して走れるのには、それなりの理由がある。
まず、スロットルは過敏ではなく、リニアにコントロールできる。300ps超、50kgm超のエンジンだが、雪道で利用できるのは4分の1程度。そんなわずかなパワーとトルクを、寒さで感覚が麻痺している右足でもデリケートに操作できた。
そんな当たり前の性能。誰も気が付かないが、誰もが感じている性能が、本当によくできている。メルセデスは人間研究がもっとも進んでいるメーカーなのだ。
ブレーキも違う。低ミュー路にもかかわらず、「なんでこんなに利くんだ」と思わず声を上げてしまった。リニアな「ちょっと踏めば、ちょっと利く。しっかり踏めばしっかり利く」。強く踏むとABSが作動するが、減圧していても「グワーッ」と引き込まれるように利く。
さらに驚いたことに、雪道でもステアリングのセンターフィールをしっかりと感じとることができたのだ。最終的にはESPで安定性を維持しているが、操縦性がリニアな点が後述するライバルのボルボやエクスプローラーとの違いだ。
雪のジムカーナはどんなパフォーマンスか。驚異的だったのは、2トンを超えるMクラスが旋回ブレーキテストで、正確に曲がりながらストッピングパワーを出したことだ。タイムも、この巨体を考えると予想外。なにしろ、ポルシェよりも速いのだ。多くのクルマのABSが暴走気味となり、減速Gが減少する傾向にあったが、Mクラスは雪道旋回ブレーキでも宇宙一だった。メルセデスの思想は貫かれていた。ことダイナミックな安全性に関してはMクラスは血統書付きだ。
<タイムメモ>
メルセデスML500
ESP ON 42秒30
ESP OFF 41秒85
Posted at 2013/01/25 11:10:05 |
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2013年01月23日
NAVIアーカイブ(2006年1月26日発売 3月号)
(5)Porsche911 Carrera 4 Cabriolet(MY2000)
ABSひとつとっても……
ポルシェ911カレラ4 カブリオレ
タイプ:オンデマンド4WD[スタンバイ型]
トランスファー:ビスカスカップリング
スーパースポーツとして今なお語り継がれている959では電子制御多板クラッチ式のアクティブ型オンデマンド4WDを搭載したポルシェだが、その後964型の911カレラ4ではいわゆる“ファーガソン方式”、そして今や最もシンプルなビスカス式と、時代の流れに逆行するかのような動きを見せている。997と呼ばれる現行型の911同様、このテスト車も基本的にはRRとしながら、路面の状態や運転にあわせて最大40%のトルクを前輪に配分する。PSM(ポルシェ・スタビリティ・マネージメント)と協調して、最大限のトラクションとスタビリティの確保が目的というのは、他の4WDスポーツと異なるところだ。911カレラ2がスポーツカーとして高い完成度を誇るポルシェの自信が、ここに表われている。
◇駆動力向上と重量増加のせめぎ合い
編集部の要望で自分の911カレラを参加させた。なにもポルシェでスキーに行くために4WDモデルを買ったのではない。十数年前に911初の4WDモデルである959(グループBのカテゴリーで開発、アウディ・クワトロのパワートレーンを前後ひっくり返して搭載した)のタイヤテストを行った時から、ポルシェの4WDモデルへの思いを知らされていた。トラクション性能がクルマの運動性能にとっていかに重要かを、ポルシェは911の開発の歴史のなかから見いだしていたのだ。
ポルシェの4WDシステムはユニークだ。その進化のプロセスに“合理性”という創業から続く思想が感じられる。959は湿式多板クラッチを油圧で断続する電子制御だったが、その後の本格的な量産モデル964ではよりシンプルなメカニカルセンターデフに変更された。
ポルシェと4WDに関するこんなエピソードがあった。
第二次世界大戦前、フェルディナンド・ポルシェ博士はドイツを率いるヒットラーから道なき道を走破できるオフローダーの開発を命じられた。戦車を中心とする機甲部隊との連絡に機動性が高くコンパクトなオフローダーが必要だからだ。ヒットラーは米軍が有するジープのような4WDをイメージしていたが、ポルシェ博士は、悪路を走破するのに必ずしも4WDである必要はないと考え、RRを利用して前後のオーバーハングを切りつめたオフローダー(キューベルワーゲン)を提案した。ポルシェ博士は、当時の技術では、オフローダーの欠点は機構が複雑なことであり、そのために自重が重くなり、だからこそより大きなトラクション性能が必要になると考えた。さらに、重量増加は燃費を悪化させ、戦費がかかるという悪循環にも気付いていた。
この合理的な考えは、その後、水陸両用車の開発にまで及び、4WD技術がかならずしも正しい技術(appropriate technology)だとは限らないことを示唆した。
こうしたポルシェの思想は、高性能4WDのスポーツカーを開発する時にも生かされている。先に触れた通り、ポルシェの4WDは電子制御からメカニカルへ、そして最終的には簡素なビスカスカップリングへと進化しているが、その狙いは軽量化にほかならない。どんなに優れた駆動システムを持っていても重量が最大の敵となる。これこそ4WDがブレークスルーしなければならない課題であると考えていたわけだ。
では、なぜ重量増加というリスクを伴っても4WDにこだわるのか。ポルシェのエンジニアに何度も同じ質問をしてきた。答えは常に同じ。「300km/hの安定性です」。RRレイアウトのまま世界最速のスポーツカーでなければならないポルシェにとって、高速タックインの抑制は最大の課題なのだ。
911のステアリングを握るドライバーは、高速でスロットルを戻した時のリヤのナーバスな動きに本当にビビってしまうほどの怖さを覚える。リヤの慣性モーメントが極めて大きく、フロントの接地性を失いやすい911の高速安定性をどのように解決すべきなのか、ポルシェは長い開発の歴史のなかでもがいてきた。
◇高速安定性こそがカレラ4の神髄
例年にない寒さが日本列島を襲っているニュースを聞いて、すぐにスタッドレスタイヤに履き替えた。最近の日本のスタッドレス・タイヤの性能進化は著しい。ところが冬の北海道では満足できるスノー/アイス性能を誇っているが、関東で使うには高速走行は不得意だし、ウェットのハイドロプレーン性能もよくない。こうした偏った性能は日本のタイヤ業界が成熟していない証拠だ。
テスト当日の未明、愛車カレラ4をガレージから出し、一路東北を目指した。福島県に入ると、高速の路面はアイスバーンと雪に覆われている。タイヤのトレッド剛性が足りないから、本来のポルシェの高速性能は味わえないが、それでも安心して高速をドライブできた。テストする目的地に着くなり、早速スノーロードのインプレッションを行った。
高速安定性向上のために開発されたカレラ4であるが、雪道でも走りやすい。その理由は4WDである以前に5段ATのティプトロ制御が巧みで、エンジンパワーを抑えてくれるからだ。スロットルを踏み込んでも、キックダウンせずギアを固定できるため、滑りやすい路面ではとても走りやすい。高いギアを選べば、エンジン回転を低く維持できる。これはとてもありがたい、地味なトラコンの一種なのだ。
4WDの弱点であるブレーキ性能はどうだろうか。タイヤのロックを未然に防いでくれるABSは、雪道で意外に使いにくい。タイヤが適当にロックしたほうが、スタッドレスタイヤのブレーキ力が高まるという事実を知らない自動車メーカーやブレーキメーカーのエンジニアもいる。タイヤがロックしたほうが制動距離が短い場合があるのだ。早い話がABSが必要以上に作動し、ブレーキ圧を減圧してしまう。ロックはしないが、減速度は期待値以下。
ところが、ポルシェのABSは、まるで雪道でチューニングしたかのようによく利く。250km/hでもフルブレーキができるように作られたABSだが、雪道での性能も確保されているのには驚かされた。ごく普通に走る限り、カレラ4は走りやすい。ただ、車高が低いので(カレラ4S)、スポイラーを壊したり、轍で亀の子にならなければいいのだが……。
タイヤが太いからトラクションはあるが、新雪だとタイヤが雪に乗り、さしずめ雪のハイドロプレーンみたいな現象が起きる。太いタイヤを履く4WDは注意が必要だ。しかし、ポルシェはフロントタイヤの接地が薄くなる様子を確実にステアリングに伝えている。路面とタイヤのグリップ感というインフォメーションがポルシェの生命線だろう。
最後に、助手席のアシスタントとのやり取りを再現しておこう。
清水大隊長(以下S) 登りは天国、下りは地獄。
アシスタント(以下ア) ABSはどうですか?
S 下りでもブレーキが利くから走りやすいね。
ア でもテールが振りだし始めた瞬間は怖そうですね。
S リヤの接地荷重が大きいから、意外に滑り出しは穏やか。さすがモンテカルロラリーに出るクルマだね。ただ空調はよくない。内外差の温度が激しいとウインドウが曇る。
ア ジムカーナのタイム計測でPSMを切ると大隊長でもスピンしてましたが。
S ビスカスだから、フロントの駆動力が足りない。前足で引っ張れない。これじゃカレラ3だ。チクショー!
ア フィットに0・1秒負けましたね。
ポルシェはやはりスキーヤーズスペシャルを作ったのではなく、雨のハイスピード走行の安定性のためにカレラ4を作ったのだ。その意味をよく理解する必要があり、公道では決してPSMを切ってはいけない。
<タイムメモ>
ポルシェ911カレラ4S
PSM ON 43秒49
PSM OFF 3回目 45秒72
Posted at 2013/01/23 09:11:18 |
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2013年01月22日
NAVIアーカイブ(2006年1月26日発売 3月号)
基本に一日の長あり Audi A4 2.0TFSI Quattro
@4WD解説@(横組み)
アウディA4 2.0TFSIクワトロ
タイプ:LSD付センターデフ式4WD[リアクティブ型]
トランスファー:センターデフ(トルセン)
エンジンを横置きするA3やTTを除いて、現行のクワトロといえばセンターデフ式4WDというのが特徴のアウディ。エンジンを縦置きするA4も当然このタイプで、トルセンのセンターデフを使って常時前後の車輪を駆動している。ちなみに、トルセンそのものがLSDとして機能するため、分類上はLSD付センターデフ式4WDとした。通常はトルクを前後に等配分するが、状況に応じて±25%の範囲で自動的に配分を変更する。車輪が空転を起こした場合は、EDS(エレクトロニック・ディファレンシャルロック・システム)が働いてトルクを他の駆動輪に伝える。また、ESP(エレクトロニック・スタビリティ・プログラム)の働きによりトラクションを確保する。
@本文@
◇きっかけは“存在感”を示すため
アウディを立て直すため、ポルシェの実験部長からアウディに転籍したポルシェ創業者の孫、フェルディナント・ピエヒ博士は縦置きFWDのレイアウトに目をつけ、1980年のジュネーブ・ショーにアウディ・クワトロを登場させた。
世界初の乗用車フルタイム4WDは、4WD技術に携わるエンジニア達からは注目されたが、4WDとは無縁の人々にその価値を知らしめることは容易ではなかった。オフロード以外の4WDのメリットをどのように理解させるか、アウディは考えていた。
もともとFF車を作っていたアウディが、伝統的な高級車であるメルセデスやBMWと肩を並べるには、独自の技術が必要だとピエヒ博士は考えた。クワトロはアウディをプレミアムなブランドへと大きく飛躍させる原動力となっていた。クワトロを単なる4WD技術ではなく、アウディ・ブランドのコアバリューにするという壮大なビジョンが、ピエヒ氏の頭の中にあった。そこで、クワトロのポテンシャルを示すには、WRCに参戦するのが手っ取り早いと考え、ラリー・クワトロがすぐに開発された。
クワトロ技術は、オーストリアのシュタイヤ・プフ社(当時の名称)と共同で研究された。多くのエンジニアを招き入れ、シュタイヤ社から4WD技術を学んだ。その後の活躍は枚挙にいとまがないが、アウディが縦置きFFの中型車を作っていたことが、クワトロ化に最も適していたわけだ。BMWのようにFRレイアウトをアウディが持っていたなら、きっとクワトロという発想は浮かばなかっただろう。
一方、日本では小さな自動車メーカーであるスバルも着々と4WDの道を歩んでいた。アウディと同じ縦置きFFが幸いし、60年代に東北電力の依頼を受け、レオーネ・バンの4WDを開発している。スバルは雪で苦しむ北国地方のモビリティの一躍を担った。生活4WDがスバルのDNAであったが、アウディ同様、ラリーの世界でも4WDの優秀性を実証していた。
アウディはラリー活動を中心にクワトロの普及拡大に努めていくが、オンロードのハイスピードへの訴求も忘れてない。80年代後半にはアメリカのIMSAにクワトロのレーシングモデルを登場させたし、90年代はBTCC(2ℓエンジンのツーリングカーレース)にA4クワトロを参戦させた。このレースでは、クワトロがあまりに速いために、その後レギュレーションでは4WDが禁止された。
◇ハイテク武装の前にすべきこと
“4WDは雪道で楽しい”という人がいるが、それは危険な考えだ。ルールに則ったモータースポーツならいいが、一般の雪道でドリフトをさせたりするのは事故のもとだ。スパイクタイヤが禁止されてから、路面は磨かれ、路面の摩擦係数は昔よりも低下している。雪道で、楽しむためにESPをオフにして走るのは非常識というものだ。
今回の取材でも残念ながら、そんな勘違いをした隊員(アシスタントY)がいた。
清水大隊長(以下S) スタッドレスを履いてたってアイスバーンでクルマをコントロールするのは無理。滑ったら絶対に止まらない。最悪のミラーバーンでは路面の摩擦係数が0・1。40km/hの制動距離が200mだ。ブレーキをいくらしっかりと踏んでも、間違えてアクセル踏んだかと思うほど、止まらない。
アシスタント(以下ア) ……肝に銘じておきます
S 雪道の極意はいかにタイヤを滑らさないで走るか。ところで、A4はやっぱり雪道が得意だね。ESPが装備されているけど、テールが流れるとコンピューターの介入が巧みだ。
ア ブレーキはどうですか?
S よく利くよ。雪道をどれだけまじめに考えて開発しているか、アウディの完成度の高さには脱帽だ。
ア 和製アウディと言われるスバルが今回参加していないのは残念ですね。
S レガシィは4WDしか作っていない。アウディ以上に雪道の研究は進んでいると思う。昔は赤城の小沼で開発していたもんだ。
A4が走りやすいのは、路面からのインフォメーションを伝えてくるからだろう。ブレーキを踏んだ時、タイヤが一瞬ロックしている様子を知らせてくれるし、そのためにABSの作動に伴ってペダルを振動させている。今回は参加していないが、FFのアウディでも、雪道は充分走りやすい。4WDはベースとなる2WDの資質の高さが問われるシステムだ。
ポルシェしかり、メルセデスしかりだ。アウディはスタイリッシュさが目立つが、基本性能の高さを忘れてはいない。4WDである前のもっと基本の部分が優れている。エンジンはターボだが、ドッカンパワーではない。低速トルクが大きいから雪道でも走りやすい。280psを売りにするスバルよりもエンジンは扱いやすい。
アウディは縦置きFFを基本とするアーキテクチャーを持つので、フロントの重量配分は60%くらいだろう。従って、雪のジムカーナでは若干、曲がりにくさがあった。ただ、基本となるサスペンション、エンジン特性、4WDシステムには、一日の長がある。メカニカルセンターデフのチューニングにおいて、多くの実績から導きだされた特性を実現している。どんな路面でも信頼感があり、安定性を重視している。これがラリー・クワトロから育ったアウディの4WDの思想なのだ。ジムカーナではESPのスイッチを切ってもあまりタイムが変わらなかった。つまり、A4はハイテクに頼らない基本性能で勝負しているわけだ。ハイテクを満載したホンダ・レジェンドと異なる開発思想だと言える。
<タイム>(表にしてください)
ESP ON 43秒04
ESP OFF 41秒67
注……ESPをOFFにしてもABSが作動するとONとなる
Posted at 2013/01/22 16:20:29 |
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2013年01月21日
NAVIアーカイブ(2006年1月26日発売3月号)
(3)見え隠れする出自 VolvoXC90TE
ボルボXC90トップエグゼクティブ
タイプ:オンデマンド4WD[スタンバイ型]
トランスファー:ハルデックス
先代のV70 AWDではビスカスカップリングを用いた通常のオンデマンド4WDを採用していたボルボも、現行V70やこのXC90といった最新モデルでは同じオンデマンド4WDながら、電子制御方式を採用、確実に進化を遂げている。ビスカスの代わりにトルク伝達の役割を果たすのは、ボルボと同じスウェーデンのメーカー、ハルデックス社製のハルデックス・カップリング。優れたレスポンスを誇るのが特徴で、前輪のホイールスピンをセンサーが感知すると、瞬時(タイヤ1回転未満)に後輪へトルクを配分し、トラクションを確保することが可能。一方、左右のトルク配分はTRACS(トラクションコントロールシステム)により制御。ホイールの空転をブレーキにより抑えることで、反対側へのトルク配分を増やす。なお、システムは電子制御であるが、基本的には前輪のスリップを感知して初めて後輪にトルクを配分するため、スタンバイ型に分類できる。
@本文@
◇一番寒い北欧でなぜ4WDが主流にならない?
1997年、ボルボとして初の4WDをV70に設定した。しかし、それは北米のスノーベルト地帯で売るために設定したのであって、本国用には今でも4WD車の必然性をあまり感じていないようだ。
アウディ・クワトロが注目されるようになった1990年代初め、スウェーデンの自動車関係者に、「雪に閉ざされた長い冬を過ごすのに、スウェーデン車はなぜFRにこだわるのですか?」と質問をしたことがある。「4WDがまだ特殊なクルマであると認知されていると同時に、FRでもそれほど不自由を感じていないから」という答えが返ってきた。
北欧には山岳路が少ないことや交通の密度が低いこと、道路自体もゆったりと整備されていることなど、そう答える理由はいくつか考えられる。今でもスパイクタイヤを使えるということもあるだろう(ドイツは70年代、日本は93年に禁止)。しかし、最大の理由は、極寒の北欧が、その“寒さ”ゆえ、日本の雪国などよりもよほど走りやすいということだろう。
我々は、北国の道路というと、雪に覆われた山岳路やミラーバーンと呼ばれる極めて滑りやすい路面の北海道や東北を思い出す。実はその日本の北国の道路環境は、世界一厳しいのだ。
北欧の冬の路面温度は常にマイナス10度以下だ。そこまで低温になると、路面の摩擦係数は返って高まる。冷凍庫の内壁に手を入れると皮膚がくっついてしまうのと同じ。ところが、氷が溶け始める0℃近辺の温度は、表面に水分がつき、驚くほど滑る。水割りの中の氷をつかむのが難しいのと同じだ。極端な言い方をすると、極低温ではサマータイヤでもグリップするという、我々の常識では考えられない路面状況になるからこそ、北欧のクルマは冬にFRでも活躍できるのだ。
また、こんな理由も聞いたことがある。もしAWDが普及すると、たとえば深夜に隣街まで行く途中にコースアウトすると、FR車ではレスキューできないということ。人里離れた場所で脱出できないと、寒さのために死を覚悟する場合もあるそうだ。
◇極寒の地出身者(車!?)の面目躍如
そうはいっても、普通のFRで雪道を走るには、なんらかの工夫が必要になってくる。北欧で生まれ育ったボルボには、雪道を安全かつ快適に走るノウハウが、DNAとして継承されていると私は考えている。
今回テストしたのは、見るからにアメリカ人が好みそうな大型SUVのボルボXC90TEだ。ヤマハ製V8エンジンを搭載したこのSUVは、間違いなくプレミアム路線のSUVだ。こんなビッグパワーのSUVは、雪道ではじゃじゃ馬だろうと思っていた。ところが、とにかく乗りやすいことにまず驚いた。その理由はどこにあるのだろうか。
ボルボは全車に共通して、スロットル・ペダルのストロークが非常に長い。当然、スロットル全開にするまでに時間がかかるので、サーキットなどではイラつく(私はせっかちなのだ!)こともあるが、滑りやすい路面では、このストロークの長さは幸いする。より微妙なスロットルコントロールをしやすいからだ。こういう些細なところに雪国育ちのDNAが見え隠れする。
少し荒っぽくスロットルを扱っても、安定性に関する基本性能は非常に高い。ちょっとやそっとの出来事では、進路が乱れないのだ。ボルボの安定装置VSTCは、ステアリングを切ったりスロットルを多めに踏んだりすると、早めにエンジンを絞る。タイヤが滑る前に制御を介入させるという万全な安全思想を感じる。多少お節介な感じだが、ボルボは世界的に女性ドライバーの比率が高いので、サバイバル環境が厳しい欧米ではありがたいかもしれない。
たとえば、アウディはドライバーとクルマの一体感をできるだけ高めるという、ボルボと正反対の思想で安全を成立させようとしている。どちらも超一流の思想家だ。
ところで、XC90にVSTCは不可欠だ。V8のパワーは雪道には余りある。このエンジンが吠えたらどんなタイヤも滑りを止めることはできない。その一方で、2210kgの巨漢にもかかわらずブレーキは結構止まる。今回のテストで実感したのは、重いクルマは路面とタイヤの接地荷重が大きいため、予想以上にブレーキ性能が高かったということ。雪道のように慣性が大きくはたらくほどではない速度域では、“重いクルマは止まりにくい”という常識は通じないようだ。
パワーステアリングは軽いが、手応えはしっかりある。アメリカ向けとはいえ、さすがに洗練された欧州車だ。
XC90はカウボーイ相手のクルマであるが、全体のバランスが人間を安心させてくれる。厳しい環境で生まれ育ったボルボは、北欧育ちの面目躍如といったところか。実用的な領域をよく知っているのだろう。
最後に雪のジムカーナを報告しておく。VSTCをオフにすると、ヤマハのV8が目を覚ます。どう猛な猛獣に遭遇した感じだ。スロットルを踏みつけると、巨漢は全身を身震いさせて、暴れ始める。ユーザーは雪道ではくれぐれもVSTCのスイッチに手を触れないでほしい。
<タイム>
VSTC ON 43秒69
VSTC OFF 44秒08
Posted at 2013/01/21 21:45:12 |
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2013年01月21日
これ、やばいッス!病みつきになりそうw
https://minkara.carview.co.jp/userid/364801/blog/28953491/
Posted at 2013/01/21 21:40:16 |
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