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2012年10月10日 イイね!

振り向く暗闇の中にソレは居た・・・ “青い女”編 幕間狂言⑩

振り向く暗闇の中にソレは居た・・・ “青い女”編 幕間狂言⑩ 「ババァは、このアタシが、一人で焼いて喰うたんじゃー!」

乱れた髪を更に振り回しながら、母が警官達を睨み回した。

 「だが、お前らの思い通りにはならんぞ!」

そう言うと警官達を振り払い、中年女の動きとは思えない速さで台所

に移動すると、凶器として証拠写真を撮っていた鑑識官を突き飛ばし、

包丁をその手につかんだ!

 「やめろ!」

 「直ぐに包丁を置け!」

 「この野郎!」

狭い室内に怒号が飛び交った。

 「アホがッ! お前らなんかにゃ、殺されねーぞ! あーっはっはっはっは!!」

そして衆人環視の中、母親は柄と刃先を両手で持った包丁の刃を自分のうなじに当て、一気に

前に倒れこんだ!

 「うわぁー!」

 「キャー!!」

骨が砕ける嫌な音と共に、切り離された母の頭部が、勢いよく飛んで行った!

頭部の無い首の付け根から、噴水の様に鮮血が舞う。阿鼻叫喚が支配する室内の空気をあざ

笑うかの様に、切り取られた母親の生首は、ゴロゴロと玄関を通り過ぎ、外へと転がっていった。

外を固めていた警官や野次馬から絶叫にも似た悲鳴が上がった。唖然とする“彼女”の膝はガク

ガクと震え、その両足の付け根からは、本日2回目となる失禁の滴を迸らせていた・・・。


 その日、一応保護の目的で“彼女”は警察署に留置された。とはいえ、当事者達がいなくなって

しまった今となっては、“彼女”に対する取り調べは否応なく中止された…。後で聞いた話だが、警

察による鑑識が進む中、未だ呆然とへたり込む母親への、容赦ない事情聴取を受けていた母親は、

言葉にならない嗚咽を繰り返していたという。さらに警官からの質問に対しては、事ある毎に、

 「自分が自分では無くなる感情に支配された」

等と言っていたという。この言動から警察の中では、この母親を精神鑑定に回すかどうかで議論

していたらしい。その最中での凶行に、警察内でも納得するような雰囲気が流れ、早急にこの事

件の幕を下ろそうとする空気が支配しつつあった・・・。


 相変わらず学校ではこの話題で持ちきりだった。まったく収まる気配はない。引っ切り無しにその

後の情報を聞き出そうと、俺の元には各クラスからゴシップ好きが集まるようになっていた。そして

その様相は、村でも同じ事だった。

 当然と言うべきか、“彼女”の姿はその日から学校に無かった。事件の内容に加え、“彼女”の

保護者が皆一気にいなくなってしまったからだ。それはつまり学校だけでなく、狭い村故に“彼女”

の村での居場所が無くなるという事を意味する…。


 事件から1週間も経ったある日、学校から帰るバスに揺られながら、俺はぼんやりと外の景色を

見ていた。すると未だに立ち入り禁止のロープが張られた寂れた廃屋のような“彼女”の家…事件

現場が遠く視界に入ってきた。もうすぐ夕方という事もあり、その周辺に人影は見当たらなかった。

勿論“彼女”の家の中に明りが灯る事も無い…。

 俺はバス停に降り立つと、しばらくは黙って空を見上げ、自分の頭の中を整理していた。そして

考えがまとまった時、俺は、ある決意を胸に、家とは反対方向へと歩き出した・・・。


 やはり神社の裏に“彼女”はいた。制服を着たままだった。いつものように手すりに腰掛け、足を

ブラブラさせていた・・・。

 俺はしばらくその情景を眺めた後、ゆっくりと“彼女”に近づいて行った。“彼女”は俺の姿を見て、

ブラブラさせている足を止めた。俺はいつものように“彼女”の横に座った。ススキのざわめく音や、

カラスの鳴き声が辺りに響き渡っていた。お互い無言で時は過ぎていく。

 「あの…ね…」

第一声を発したのは“彼女”の方からだった。俺は返答せず、表情で先を促した。

 「あのね…、私、中学卒業したら働くけん…」

 「え?」

 「あのね、村の外れに新しいホテルが建ったでしょ。あそこのホテルの支配人さんが、

                           学校卒業したらウチにおいでって、言ってくれたんよ」

俺は最近出来たばかりの、村に似つかわしくない、小洒落た外観のホテルを思い出した。世間は

バブルといわれる時代に入りつつあった。その余波は、こんな田舎の山奥までやってきていた。

 「その支配人さんが、私の卒業までも面倒見てくれることになって…」

 「そうか…」

またしばらく二人の間に沈黙の時が流れた。

 「ねえ、…君」

“彼女”が先に口を開いた。

 「な…に…」

 「こんな私になっても…」

 「……」

 「私と…、私の事、好きでいてくれる?」

俺が最も恐れていた言葉に、俺はとっさに言葉が出なかった。

押し黙る俺に、“彼女”が先回りするように言った。

 「ごめんごめん! そうだよね、むりだよね!」

“彼女”が作り笑いをしながら、懸命に明るく話そうとしていた。そしてまた、沈黙の神が降りて来た。

 暫くはお互い無言で座っていた。すると“彼女”は止まっていた足をブラブラさせ始めた。それを

見た俺は、しかし今日は足をブラブラさせる事はなかった。“彼女”がブラブラのスピードを落とした。

 「やっぱり…だめ…か…」

“彼女”は足を止め、急速に曇る顔が項垂れた。俺は既に決意していた。“彼女”と別れようと…。

 こんな事件が起こらなければ、もっと早く言っていた。ただ“彼女”の心中を思うあまり、ダラダラと

先延ばしていたに過ぎなかったのだ。しかし、この事件があったからでは無い事だけは、“彼女”に

伝えたかった…。

 今思えば、まったくの蛇足で、そんな事を言う必要もなかったのだが、若い俺は、ケジメにはこだ

わった。その方が寧ろ“彼女”を傷つける事など、当時の俺は解らなかったのだ。

 しばらく俺の話を黙って聞いていた“彼女”であったが、俺が最後の結論を言おうとした時、キッと

涙に濡れた顔をあげ、俺を見つめた。

 「お願い…お願い…その先は…言わないで…。私を…私を、嫌いにならないで…」

いつの間にか“彼女”は俺の腕を両手で掴み震えていた。

 「お願い!お願い!」

“彼女”の手に増々力がこもる。

初めて見せる“彼女”の必死の形相に、俺は動揺した。だが中坊の俺は、それをなだめる術を知ら

なかった。俺の中に、ほんの少し恐怖混じりの感情が沸き起こり、思わず“彼女”を突き飛ばした。

俺に振り払われ、床に倒れこんだ“彼女”のセーラー服のスカートがはだけ、チラリと綺麗な太もも

の奥にある下着が見えた。俺の視線を感じた“彼女”が慌てて、しかし恥ずかしそうにスカートの裾

を整えた。その被虐美に染まった艶めかしい“彼女”を見て、突然、俺の中の何かが弾けた。次の

瞬間、俺は“彼女”を 押し倒していた…。

自分が自分で無くなる感覚…。今後幾度となく俺を襲う感覚の、初めて経験した最初の日であった。


                 ――― その日、俺は“彼女”を犯した ―――


   つづく
Posted at 2012/10/10 18:20:19 | コメント(1) | トラックバック(0) | 私小説 | その他

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