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2012年10月13日 イイね!

振り向く暗闇の中にソレは居た・・・ “青い女”編 幕間狂言⑫

振り向く暗闇の中にソレは居た・・・ “青い女”編 幕間狂言⑫ 「先輩? 先輩!」

フッと我に返った俺は、声の出所の助手席の方を向いた。すると不思

議そうな顔で、B夫が俺の顔を覗き込んでいた。

 「…大丈夫っすか?」

 「あ…ああ、大丈夫だ。チョット考え事してた」

 「あのー、もう信号青ですよ…」

 「お、そうか、わりぃわりぃ!」

俺は慌ててギアをローに叩き込むとみ、商用車を急発進させた。田舎だから、青信号で止まって

いても、後ろに車の列が出来る事も無いので、クラクションも鳴らされず、俺は、つい深い思い出

に浸ってしまったようだった。外は相変わらずの猛暑だったが、今、俺が流している汗は、冷たい

モノだった。もっとも、そんな事をB夫が気づく筈もないが…。


 しばらくすると、目的の家が見えてきた。古くて大きな家だが、子供達は独立し、今は老夫婦が

二人だけで住んでいる。その広い庭に車を入れた。

 「どーもー! ○○の者ですが…」

しばらくすると老婆が一人出てきた。

 「あらあら、暑い中、すいませんねぇ」

 「いえ、仕事ですから…。で、不具合というのは?」

俺はさっさと処理したく、おしゃべりには付き合わなかった。

 「あのねぇ、さっきまでお湯出てたのに、急に出なくなっちゃったのよ…」

 「停電か何か起きましたか?」

 「いえ、そんな事は無かったと思うけど…」

自信なさげな老婆の表情にピンときた俺は、裏に回り、メーターボックス内を見てみた。すると案

の定、スイッチが下りていたのが確認できた。すぐさまスイッチをオンにした後、老婆にお湯が出

るか尋ねた。

 「あら! お湯が出たわ! よかったよかった直ったのね!」

恐らく使用電力過多で、ブレーカーが一度落ちたのだろう。その関係でセーフティの為に裏のス

イッチが落ちたままになっていたと思われる。そのことを説明しようとしたが、老婆相手に言って

も、多分解らないだろうと思い、俺はただ愛想笑いを続けていた。

 「ありがとうねー! よかったらお茶でも飲んで、ゆっくりしていって!」

断ろうとする俺の動作より先に、老婆は奥の台所へと姿を消した。思わずB夫を目を合わせ苦笑

する。しばらくすると、結露がいっぱい付いたいかにも冷えている麦茶とお菓子が運ばれてきたの

を見て、少し老婆に付き合うことにした…。


 他愛もない話に、機械的に頷いていた俺とB夫だったが、そろそろ忍耐にも限度が近づいたの

で、しゃべり続ける老婆の話の腰を強引に折るように立ち上がり、この後も仕事が詰まっている事

を述べ、車に戻ろうと場を離れた。B夫も素早く俺より先に車に戻り、ちゃっかり助手席に潜り込ん

でいた。老婆に挨拶をして車に乗り込もうとした時、また老婆が思い出したように話しかけてきた。

 「そういえば、村の小学校。とうとう廃校になるみたいよ…」

その一言が俺を立ち止まらせた。振り返り、老婆を見た。

 「え、廃校…って、あの小学校が?」

 「そうよー!まあ、あの村も若い人がどんどん出て行っちゃったから…」

 「そうですか…」

俺は老婆に麦茶の礼を言うと、車に乗り込みキーを捻った。車を出した俺は、しばらく考えていた

が、B夫に少し寄り道する事を告げた。

 「小学校…行くんすか…」

 「いや…」

そう言うと俺はハンドルを大きく切り、久しぶりに村へと向かった。ものの数分で懐かしい景色が目

に飛び込んで来た。田んぼのあぜ道や、バス停、それに、“彼女”の家があった場所も…。俺はそ

の場所はチラリと見ただけですぐに視線を元に戻した。数分後車を止めた。目の前には鳥居があ

る。俺とB夫はしばらくその鳥居の下で佇んでいた…。

 この神社も、昔からちっとも変っていなかった。が、俺の心の中は、良い思い出と、思い出したく

ない感情で複雑に絡み合っていた。鳥居の下から一歩踏み出し、俺は境内へと進んで行った。直

ぐに足をブラブラさせていた手すりが目に飛び込んでくる。淡く甘酸っぱいような想いが胸に湧き

上がる。しかし左側に目をやると、あの社務所がイヤでも視界に入ってくる。あっという間に俺の

心は、汚泥が胃の辺りに淀んだしこりとなって気分を萎えさせる。敢えて社務所を視界から外し、

俺は手すりに向かって歩き出した。何十年ぶりかにその手すりに腰掛けると、あのころと変わらな

い景色が正面に広がった。フッと力のない笑みが浮かんだ。そんな俺の姿を、チラチラと視線を向

けながらも、B夫は所なさげに脇をウロウロしていた。野郎二人っきりの沈黙に耐えられなかったか、

突然B夫が話しかけた。

 「そういえば先輩、確か昔ここで猫飼ってたんですよね」

想定外の語句が俺の脳裏を貫いた。大きく見開いた俺の眼には、今の今まで忘れていたセピア色

の景色がゆっくりと浮かんできた。

 「そう、そうだった…。俺は昔、この神社の床下で、猫を飼っていた…」

俺の感傷を無視するように、B夫がしゃべり続ける。

 「猫ってこの神社の何処で育てたんですか?」

B夫に一瞥を食らわせ、俺は手すりから飛び降り、ついてくるように促す。

 「そこだよ」

俺は通風孔のある床下を指差した。

 「へー、ここでですか!」

感心したような口調でしゃがみこんで通風孔を覗き込むB夫が言った。俺もしゃがんで詳しく話そう

と通風孔を覗く。

 「そうそう、この通風孔から少し奥に言った所の、あの辺の場所に…」

話が突然止まった俺の方をB夫が首を傾げ眺めていた。

 「!!!」

俺の口が震えていた。俺の視線が一点に集中する。

「あの場所が…あの場所に…掘り返した跡があるっ!!」


   つづく
Posted at 2012/10/13 10:52:30 | コメント(3) | トラックバック(0) | 私小説 | その他

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