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2012年12月15日 イイね!

振り向く暗闇の中にソレは居た・・・ “青い女”編 幕間狂言 epilogue 中巻

振り向く暗闇の中にソレは居た・・・ “青い女”編 幕間狂言 epilogue 中巻 それはいつもの様に“彼女”の異常ともいえる嫉妬から端を発した。

 或る日、会社に出勤すると加奈の姿が見えなかった。気にはなった

が、しばらく休んだ手前、仕事の方に集中していると、あっと言う間に

1日が終わった。そして次の日も加奈の姿が見えなかった。どうしたの

だろうと訝しく感じたが、やはりその日も仕事に忙殺され、特にその事

を気にかける暇も無く1日が過ぎて行った。そしてその翌日、とうとう加

奈の身に起こった事を知る事になる。流石に気になった俺はいつもの様にA美に探りを入れようと

席を立った時、会社の総務部長がうちの部署にやって来て、ウチの課全員にこう告げた。

 「一昨日の夜、この部署の〇〇加奈さんが、何者かに襲われました。かなりの大怪我を負って

  △△病院に入院されていますが、なにぶん本人は強いショックを受けておりますので、彼女の

  容態が安定するまで伏せておきました。なので、この部署で仲の良かった方は、彼女を安心さ

  せる意味でも、時間が空いた時は、なるべく見舞いに行ってあげて下さい」

そう言って部長が出ていた後、当然の様にザワつく社内では色々な憶測が飛び交い始めた。そし

て、憶測を言い合っている連中は、必ず俺の方をチラリと見る事も欠かさなかった。俺は中学の頃

を思い出しながら、しかしまさか“彼女”がここまで実力行使に出るとは予想もしていなかった。何故

なら最近は加奈と挨拶もしていなかったのだ。要するに“彼女”の要望に応えていた状態だった筈

だ。とは言え、流石に加奈が心配になって来た俺は、居てもたってもいられず、丁度見舞いに行くと

いう集団に強引に入り込んで付いて行く事にした。その中の2,3人からは蔑んだ視線が送られてき

たが、そんな事は気にもせず俺は、ただただ加奈の具合が心配だった。A美は俺と目を合わそうと

さえもしない。

 そうして加奈の病室に辿り着いた集団は、その姿に息を飲む事になった。全身がミイラの様に包

帯に包まれ、身体のアチコチに管が這い回っているその姿に…。

 加奈は現在薬を飲んで寝ているところらしかった。傍にいる母親に、お見舞いの言葉と、社員一同

からのお見舞いの品を渡すと、彼女の母親は涙を流して礼を言った。俺は居た堪れなくなって病室

を飛び出した。俺は廊下の壁際に有るベンチに腰を下ろすと、溜息をついて下を向いていた。

 「…〇〇君?」

俺の名を呼ぶ声がした。ふと前を見ると看護婦が一人佇んでいた。

 「やっぱり! 〇〇君じゃない」

訝しく看護婦の顔を見ると、何か見覚えのある顔だった。

 「〇恵…〇恵か?」

 「そうよ! 久しぶり! よく憶えていてくれたわね」

懐かしい口調と、後半は皮肉を込めた口調でそう言った。

 「お前、看護婦になっていたのか!」

 「そうよ! 何せ、貴方にフラれたから、主婦になる事が出来なかったんだもん!!」

今度は、皮肉に加え怒りの口調となっていた。俺は思わず苦笑し、素直に謝った。

 「うふふ! 冗談よ!」

〇恵は白い歯をむき出しにして笑った。

彼女とは中学時代のクラスメートだった。今は笑っているが、確かに彼女に告白された事は有った。

勿論その時既に、俺は“彼女”のモノとなりつつあったから、即座に断ったのは言うまでもない。

 「ところで、こんな所で、どうしたの?」

俺がその病室に入院している加奈の同僚で、皆と見舞いに来た事を告げると、一瞬にして彼女の

顔に赤みが差し、俺の袖を掴んで廊下の隅に引っ張って行った。そして今、俺が最も欲しかった情

報をマシンガンの様に捲し立ててくれた。彼女が言うには、救急で運び込まれた加奈を見て、

 「私も仕事柄、色んな怪我の人を見て来たけど、彼女の状態は、私でも目を背けたくなる程だっ

  たわ! まるで、ヤクザのリンチ並みの大怪我みたいだったから。もう全身凄い痣だらけで、

  アッチこっち骨も折られていたし、その中でも特に顔の損傷が激しくて、鼻を削がれてメッタ

  切りにされた上に、髪の毛もザンバラに切られて、もうそりゃ酷いもんだったわよ!」

と一気に捲し立てた。俺は段々血の気が引いてくるのを自覚した。

 「ところで〇〇君は今でも、アノ…娘…と、付き合っているの?」

押し黙っている俺に、実は彼女が一番聞きたかった事であろう話題を、俺にぶつけて来た。

 「う~ん…どうだろう…」

ファジイ―な俺の対応に、また皮肉を込めた目となって俺に言った。

 「そーよねー! コワイカノジョだもんねぇ~ くわばらくわばら!」

そう言うと、シテヤッタリといった表情で、〇恵は忙しそうに仕事に戻って行った。その時、見舞い

の集団が、ゾロゾロと病室から出て来た。俺も加わろうと其方に向かったが、全員が一様に俺を

無視して素通りしていった。過ぎ去るその背中からは、お前は仲間じゃない! と言っている様な

雰囲気を出していた。

 一団を見送った後、俺はまた加奈の病室の前に立った。中からは、啜り泣く母親の声だけが聞こ

えた…。俺の中に、恐怖とは別の感情が湧き起って来るのを感じた。


 病院を後にすると、早速“彼女”に対峙する為のエネルギー補給に向かった…。

 “彼女”はいつもの様に俺の部屋で何事も無かったように寛いでいる。その姿を見るだけで背筋に

冷たいモノが走るが、今日は違う態度で臨まなければならないと思った。

 「…お前、…加奈…先輩に、何かしたか?」

チラリと俺を一瞥した後、直ぐに顔をTVに戻し、ポテトチップスを口に放り込んだ。

 「おい! 何とか言えよ!」

面倒臭そうにもう一度こちらに振り向くと、吐き捨てるような口調で言った。

 「…君。今日、その先輩の所にお見舞いに行ったわよね」

想定外の反撃に、こちらが怯んだ瞬間、突如青く妖しく光る眼で俺を見据え、あの重低音の声が

部屋に響き渡った。

 「今度見舞いに行ったら、許さないわよ!」

俺は立ちすくんだ…。

 しかし俺は翌日、“彼女”の警告を敢えて無視して、業務終了後マイカーに乗り換えて、加奈の

病室へと足を運んだ。相変わらず寝たままの彼女の姿を見るにつけ、罪悪感と怒りとが俺の中で

せめぎ合う。結局、加奈が目を醒ます事も無く、俺は同僚達から預かった励ましの手紙を、決して

歓迎していない表情を俺に向けている母親に渡し、病室を後にした・・・。


 ポツンと1台駐車しているスターレットに歩いて行き、もう一度病室の窓を振り返った。溜息をひと

つ吐き、車のドアを開け車内に入ると、ムッとする臭いが鼻腔を駆け抜けた。しかしそれは身に覚

えのある、嗅いだ事の或る匂いだった。間違いなく“彼女”の愛液だった。それをシートの至る所に

塗り付けて有った。溜息と共にハンドルを握った瞬間、ヌルッと手が滑り落ちた。慌てて掌を見ると、

血がべったりとついていた。俺は吐きそうになった。これは…、そう、それは“彼女”の、女の…“血”

に違いないと感じたからだ。寒風吹き荒ぶ病院の駐車場で、嘔づきながら車内を拭き上げている

時、俺は決心した。“彼女”を何とかしようと…。

 このまま“彼女”の暴走が続けば、歯止めの効かなくなった“彼女”と、その周辺の人々に、いずれ

破滅の時が来るのは火を見るより明らかだ。既に“彼女”に対しては愛情のカケラも残っていない。

 今、俺と“彼女”を結び付けているのは、“恐怖”の二文字以外に何も残っていなかった。俺は深く

思案の海に潜った。加奈も失った今、俺に失うものは無かった。そして、これから一生味わい続け

る恐怖と、これからする1度きりの恐怖とを天秤にかければ、おのずと俺の進むべき方向も見えて

来る。どちらにしても、俺の人生の全てを賭けて決断をしなければならない時期に来ていたのだ。

そして俺は腹を括った。後者を選択したのだ!


 そう決心した瞬間、俺の瞳の奥に暗く妖しい光が生まれた…。


  つづく
Posted at 2012/12/15 20:13:35 | コメント(1) | トラックバック(0) | 私小説 | その他

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