
俺が手始めにした事は、以前“彼女”に想いを寄せていた連中を
訪ねる事だった。俺は社会人になったとはいえ、社会的に見れば
まだ成人していないヒヨッコに過ぎない。それはつまりサカリ真っ盛
りの野郎達の年齢でもあるという事だ。昔から美形の部類には入っ
ていた “彼女” に想いを寄せている者は何人かいた。そうして今、
“彼女”は俺という若い男の精を吸いまくった結果、傍から見れば
ムンとするイイオンナとなっていた…。
俺の足は或る鉄工所に向かっていた。そこで溶接工として働いている“D志”に会う為だ。彼は
中学卒業後、高校へは進学せずに鉄工所で働き始めた。そして子飼いの不良達を集めて暴走
族を結成していた。まだ二十歳前の彼であったが、補導歴は既にベテランと言ってよい程のキャ
リアを重ねていた。そんな彼だったから、族の頭として君臨するようになってから、当時一高校生
だった俺に対して “御礼参り” を仕掛けて来たのは当然の行動だった。しかしここでは俺に運が
味方した。D志が鑑別所に入っていた時の房長(昔で言う所の牢名主)が、俺の柔道仲間だった事
だ。無論俺の方が強く負けた事も無かったものだから、俺がその房長の名を口に出した瞬間から、
D志が俺の所に来る事は無くなっていた…。
「ようD志! 久しぶり!」
いきなり、馴れ馴れしい口調で名前を呼ばれたD志は、鋭い目で声の方に振り向いた。
「チッ!」
D志は俺の姿を認識すると、大きく舌打ちの音を奏で目線を外した。
「元気そうだな」
D志は無言ながらイラついた表情を見せ、招かざる客として露骨に対応した。
「何だよ…」
俺は努めて明るく話し出した。
「お前、確か“彼女”の事好きだったよな?」
突然の質問にD志の眼が見開いた。
「な、何だよ急に!」
「いやいや、別にお前に如何こうしようって訳じゃないんだよ。ただ俺もそろそろ“彼女”にはウン
ザリして来ているんだよ。だけど中々別れる事が出来なくて困っているんだ。そこでお前に聞き
たかったんだ。今でも“彼女”の事好きかって…」
相変わらず視線を逸らしてはいたが、ハッキリと興味を示す態度に変っていた。
「だったら、何だよ!」
D志は強い口調で俺に詰め寄った。
「お前……“彼女”をヤレよ…」
D志の喉仏がゴクリと上下に動いた。
「勿論お前が俺のオサガリを受け取る気持ちは毛頭無い事は分かっているよ! だから俺の
名を一切出さずにヤッテしまえばイイ事だろう! まさか俺がヤッテイイって言ったからヤリに
来ました!とは言えないもんな!」
俺はマジシャンがよく使う、似非既成事実の擦り込みに励んだ。それはいつの間にか彼自身に
彼が自分で考え決断したと思わせる事だ。
「今やお前もこの辺一帯で体張ってる族のアタマなんだから、女の一人や二人を輪姦す事なん
ざ、朝飯前だろう!そう、もし“彼女”が警察に訴え出たとしても大勢でヤレば、罪も分散される
から、結局は一人当たりで換算すると、微罪で済む事にもなるしな!」
けしかける様にD志に言い寄る。
「とはいえ、今やフェロモンムンムンの“彼女”を好きなだけヤレるチャンスだぞ!」
俺はチラリとD志を見ると、彼は真剣に考えている様だった。
「ま、決まったら教えてくれ。“彼女”は、俺の方で段取りはつけるから」
しばらく考え込んでいたD志であったが、ふと顔を上げ、初めて俺の眼を見据えてこう言った。
「…お前も悪だのー」
そう言うD志の顔は、しかしドス黒くいつまでもニヤついていた…。
徹頭徹尾、俺はドス黒い謀略家として行動した。“毒を以て毒を制す!”というヤツだ。
既に俺の涙は枯れきっていた。何の躊躇も無く、“彼女”を貶めて行く事に励み、時を過ごした。
そうして俺はついに攻勢に転じた。いつも監視されていた立場から、今度は俺が“彼女”を監視
し始めた。“彼女”の勤務シフトは既に入手していたから、“彼女”の行動を把握するのは実に簡
単だった。俺は病み上がりという、正にうってつけの理由で、しばらくは残業せずに済んでいた。
当然その時間帯は“彼女”への監視に充てていた。すると思ったよりも早くチャンスが舞い込んで
きた。遅番の翌日がOFFという日が直近で出来たのだ。こんな日は間違いなく“彼女”の方から
俺に誘い(実際は命令だが)の声がかかる。
「私の仕事終わりに、あなたのクルマで何処かに食事に行かない?」
「俺はまだ少し疲れが残っているから…また今度にしよう」
あえて俺は消極的な態度をとった。途端に“彼女”の口調が厳しくなる。
「私は食事がしたいの! その後、あなたもたっぷり喰ってやるんだから!」
野獣のような顔となって俺に迫る。俺は気迫に押されるような芝居を打ちこう言った。
「わ、分かったよ…でも…」
「でも?」
「た、たまには俺にも刺激を感じさせてくれよ」
“彼女”は首を傾げ俺に先を促した。
「お前…まだ、セーラー服。持ってんだろ」
「うん」
「じゃあ、それ着て来いよ。そうすれば俺も少しは興奮するかもしれないし…」
俺の言葉を聞いた“彼女”は途端に破顔し、いやらしい目つきで俺に擦り寄って来た。
「ウフフ…〇〇君って、やっぱりエッチね!」
“彼女”が指先でゆっくりと俺の頬をなぞりながら、うっとりとした表情で囁いた
「いいわよ…その代わり、あなたも、私を何回も満足させるのよ!」
その時、俺は心の中では、
「ああ、それは保障する。間違いなく何回も何十回も野郎共にヤラれるんだよ、お前は!」
と悪魔の囁きが去来していた。但し口を告い出た言葉は、
「わ、分かったよ…何とか頑張る…」
と、弱々しげに宣言した。“彼女”は、もう堪らないと言った表情で俺に抱き付いて来た…。
その決行の日、俺は更にD志達をけしかける事に念を入れた。
「今日、“彼女”は自分の好きな制服プレイの格好で来ているから、もし運悪く警察に見つかっ
ても、いくらでも言い訳が出来るから、安心してヤリまくって来いよ!」
「そ、そうだな…」
「あ、そうそう、“彼女”の下着は多分Tバックだと思う。ひょっとしてノーパンという事も有るから、
ま、楽しく確認でもして味わってくれ!」
俺のセリフに族の連中が、一気にいきり立つのが手に取るように分かった。中には既に股間を
シゴキ出す者も現れる始末だった。
「よし、うまくけしかける事が出来たみたいだな」
俺は一人ほくそ笑んだ。
「いくぞぉー!」
D志が雄叫びを上げ、それに呼応して族連中が“彼女”をレイプしに荒々しく出発したのを見届
けた後、俺は素早く車に乗り込み今度は“彼女”の勤務先であるホテルへと向かった…。
つづく