
気怠い月曜日の時間割も、何とかあと少しで終わろう
としていた・・・。
時間割の最後であるHRが終わり、ガヤガヤと皆が一斉
に立ち上がって、清掃の時間が始まった。皆、椅子を机の
上に載せ、教室の後方へと移動させた。今週は運悪く、私は一番手間がかかる教室の床掃除の
担当となっていたので、仕方なく箒を手に、“塵取り担当”とチャンバラごっこに勤しんでいると、佳
子はチラリと私に意味ありげな視線を向け、教室から出て行った。訝しく思ったが、コチラはまだ
清掃中の身分、追いかける事は出来なかった。
「なんだ?」
更に、その佳子を見つめながら、“しおっち” が後を追う様に教室から出て行ったのには、何か
違和感を感じた。
「??」
手を動かさず、その光景をボーっと見ている私の頭上に、担任の雷が落ちた…。
結論から言えば、この日は何もなかった。こちらは朝からアドレナリン全開だったのに拍子抜け
した。しかしここは油断せず、また気持ちも新たに明日を迎える事にした…。
「ちょっと! どういう事よ! どうして…」
家に帰ってからしばらくして電話が鳴った。佳子からだった。そしてすぐに弾劾の口調と、後半は
悲哀の口調で捲し立てた。私は何がなんだかさっぱり分からなかったが、私の冷静な口調に佳
子も徐々に落ち着いてきたようだった。ようやく私は理由を聞く事が出来た。
「ちゃんと最初から話せよ!」
「今日の放課後の事よ! 何で…あっ!」
受話器の向こうで争う声がした。
「やだ! やめてったら!!」
「ウルセー! どういう事だ!!」
ガキ大将の声がした。
「お兄ちゃんには関係ないでしょ!」
「なにー!」
「きゃっ! ガチャン! ツーツー」
通話が切れた。なんとなく向こうの情景が目に浮かんだ(苦笑) 結局何が言いたいのか分から
ずじまいだったが、敢えてコチラから電話をする事も無いだろうと、私は受話器を置き、ひとっ風
呂浴びて寝る事にした…。
そして翌日。今日こそは何かアクションがあるだろうと気合を入れて登校した。
しかし私の下駄箱は、相変わらず変化は無く、ただ寂しそうに上履きが置いてあるだけだった。
「ま、いいか!」
気を取り直して教室へ向かった。が、やはり今日も異変を感じた。
昨日同様、教室に入った途端、佳子の姿を探した。いつもの様に取り巻きの女子達に囲まれて
はいたが、その視線は私を凝視していた。その表情は暗く、申し訳なさそうな顔だった。まあ、昨日
アレだったから、まあしょうがないと思い、平静を装って席に着いた。すると、私の隣の席に居る、
“しおっち”は、何故かソワソワと落ち着きを無くしていた。よく見れば昨日とは違い、顔色が真っ青
となっていた。更にその視線は絶えず泳いでいたが、必ずと言ってよい程、その視線の中に佳子の
姿をおさめていたのは間違いが無かった。
「やっぱり変だな…」
再度疑問が湧いて来た時、始業を告げるチャイムが校舎に響き渡った…。
今日一日の授業も終わり、億劫な掃除の時間となった。教室の床担当の私は、いつもの様に箒
を片手に定番のチャンバラを楽しんでいた(笑々)
そんな中、昨日と同様に佳子はチラリと私に意味ありげな視線を向け、教室から出て行った。訝し
く思ったが、コチラはまだ清掃中の身分、追いかける事は出来なかった。しかしその佳子を見つめ
ながら、“しおっち”が後を追う様に教室から出て行った。そしてその表情は苦悶に満ちていた。よく
見れば足が震えている。それはまるで刑場に連れ出される罪人の様な雰囲気だった。
「???」
その光景をボーっと見ている私の頭上に、デジャブーの如き担任の雷が落ちた…。
結論から言えば、この日も何もなかった。こちらは朝からアドレナリン全開だったのに今日も拍子
抜けした。しかしここは油断せず、また気持ちも新たに、明日を迎える事にした。が、やはり、既に
事件は起きていたのだ。
「おう! てめぇ! この卑怯者が!!」
家に帰ってからしばらくして電話が鳴った。ガキ大将(佳子の兄)からだった。大声で罵詈雑言を
叫んでいた。私は何がなんだかさっぱり分からなかったが、私の冷静な口調に、ガキ大将(佳子
の兄)も徐々に落ち着いてきたようだった。ようやく私は理由を聞く事が出来た。
「ちゃんと最初から話せや!」
「今日の放課後の事だ! 何でお前…あっ!」
受話器の向こうで争う声がした。
「やだ! やめてったら!!」
「ウルセー! どういう事だ!!」
佳子の声がした。
「お前には関係ないだろ!」
「あるわよ!!」
「うっ! ガチャン! ツーツー」
通話が切れた。なんとなく向こうの情景が予想出来た(苦笑) 結局何が言いたいのか分からずじ
まいだったが、敢えてコチラから電話をする事も無いだろうと、私は受話器を置き、ひとっ風呂浴び
て寝る事にした…。
しかし風呂から上がると、今日は、“第三幕” が待っていた。
「あ…の、…コン君ですか」
意外な人物からだった。
“しおっち” の消え入りそうな声が私の耳に入って来た。
「どうしたの、こんな時間に?」
私は不安より先に好奇心が湧いて来た。
「ご、ごめん!!」
いきなり謝罪から始まる事に慣れていない私は、一瞬キツネにつままれた顔になった。
「なに?」
その言葉に、しおっちは怒涛の如く喋り出した。
彼曰く、
「昨日、クラスの佳子さんから、“放課後体育館の裏に来て”って、ら、ラブレターが入ってて、
行ってみたら、何か物凄く佳子さんに怒られて、びっくりしてたら、今日は、ば、番長から
“放課後体育館の裏に来い!”って、は、果たし状が入っていたから、行かないようにした
んだけど、つい行っちゃって、そしたら、番長が凄い怒り出して、びっくりして逃げて来て、
それから……」
「……」
私は一旦、“しおっち”の言葉を遮ると、しばらくそれらの語句を咀嚼し、要点を絞って言った。
「要するに、俺の下駄箱と勘違いして、しおっちの下駄箱に手紙が入っていた訳ね」
受話器の向こうで、大きく頷いている気配がした(苦笑)
この “しおっち”は、私が別の場所に勝手に下駄箱を移動した事を知っていたようで、その空い
た本来の私の下駄箱をコチラも勝手に拝借していたのだった。そんな事は露とも知らず、佳子と
ガキ大将が続けて投書したものだから、彼はパニックに陥ったであろう事は、容易に推察出来た(笑)
正に、天国から地獄。だから、昨日と今日の顔色が目まぐるしく変わっていた訳か…。
私は受話器を置くと、“苦笑”と言うより、大きな声で笑ってしまった…。
そして、今度こそ、間違いなく “勝負の日” となるであろう朝を迎えた。
つづく