最初の試乗を終えてテントへ戻ると、休む暇なく次の
バイクの試乗へと向かった。
「混む前に乗る!」
である。 既に行列が伸びてはいたが、昼過ぎからは、
“こんなもん”では済まなくなるのが目に見えていたからに
他ならない。幸いな事に、次に乗るバイクは殆ど並んでおらず、スグに乗る事が出来た…。
“T-MAX530”
このヤマハが誇る、≪スポーツ・スクーター≫は、昔から好きではあったが、基本、バイク好きの
ワタクシとしては、スクーターは 大きかろうが小さかろうが、バイクとは認めず、新しい乗り物、シ
ティーコミューターとして認識している。 故に嫌いでは無かったが、好きでも無いというスタンスを
採っていた。その考えは今も変わらないが、このビッグスクーターというモノがとても便利な乗り物だ
という事は良く解っている。何故なら過去に3台程ビッグスクーターを乗り継いで来たからだ!(自爆)
パワーが無いのは仕方がないが、この乗り物の特筆すべき長所は、何と言っても積載量であろう。
兎に角、車体内に荷物が積めるのである!
クルマでは当たり前の事だが、バイクは基本“剝き出し”である為、荷物も剝き出しとなってしまう
のだ。なのでライダーはリュックを背負うか、パニヤケース等のバイク専用の積載パーツを取り付
けねばならない。しかしそれらを取り付けると、見た目が猥雑となるばかりか、折角のバイクの利点
である≪クルマのすり抜け≫に支障を来たす事にもなるのだ!
そんなビッグスクーターである。ライディングポジションはアメリカンタイプと同じ様になり、長距離
走行での体力負担軽減に直結しているし、基本操作は原チャリと同じである為、兎に角運転が自然
で楽なのである。
そして車体内にかなりの荷物が積めるとなれば、これは本当に便利な乗り物となる…。
“T-MAX530”は、530㏄にボアアップされたとはいっても、パワーはそれほど大きくない。が、この
スクーターの最大の売りは、シャシーの剛性力であるので、その辺りは特に気にしていなかった。
実際このスクーターより大排気量で大パワー&トルクを有するスクーターは何台かあるが、しかし
サーキットを走らせれば、間違いなく最速ラップを叩き出すのが“T-MAX530”となる事に異論を挟む
余地は無いだろう。そう、この “T-MAX530”はまるでポルシェの様なのだ!
高い剛性力、走りの質感、それほど凄くないパワー、上まで回らないエンジン、しかし荷物の積載
量と、いざサーキットを走らせると一番時計を叩き出すという、スポーツカーとしてトータルな性能を
コンスタントに発揮出来る等、正にポルシェではないか!!
ま、ちょっと言い過ぎの感はあるが、兎に角、“T-MAX530”に対し悪い印象は無かった…。
さて無事、気になっていたバイク試乗を終え、まだ人も疎らなオープンテーブル席のあるエリアへ
と歩いて行った。そこで圭夫妻が仲睦まじく待って居たからだ。
「ども! バタバタしてスイマセンでした」
「いや~、しんげんさん久しぶりですね! 何年ぶりでしたっけ?」
「確か熱海のガストで、“サーキットの狼”と
“ローラースルーGoGo”について語り合った時以来ですよ!」
圭さんの目が細くなった。
「…あ…ああ…、そ、そうでしたね…」
「ほらほら、あの、“ジャバザ・ハット”みたいな占い師が、オネーチャン達を独占していた…」
圭さんの目が遠くを見つめていた。
「…あ…ああ…、そ、そんな事も有りました…」
圭さんの目が泳ぎ始めた。と、そこで一旦話を中断し、この窮屈なライディングウエアから一刻も
早く解放されるべく、私はフィットへ戻る事にした…。
“坊(仮名)”を引き連れ再度オープンテーブル席に戻り、本格的にトークを楽しむ事とした。とは
言っても、圭さんは試乗中である為、圭さんの御台所様と犬談義となったのは自然の流れであった。
「いや~、ニャンコもイイですよ!!」
「ん~、私はチョット…」
「躾も楽だし、シモの世話も楽ですよ!」
「あの自分勝手な所が、私には合わないみたいだし…」
「ワタクシも、自他ともに認める超が付く“ドS” ですが、
今では喜んで“お嬢(仮名)”の“シモベ”となっておりますよ!」
「……」
犬派の保守本流を歩む御台所様の牙城を崩すのは、やはり難しかった…(自爆)
とそこで“トレーサー”の試乗を終えた圭さんが戻って来た。
「どうでしたか、トレーサーは?」
「う~ん、まあまあかな…。それよりも、凄い人出になりましたな!」
圭さんが辺りを見回しながら言った。 と、ココまでは良かったのだが…。
いきなり嵐がやって来た。と言うより、私が嵐を呼んでしまったのだ!
「ホンダやカワサキの東京会場での試乗会はもっと凄いですよ!」
「ほー、そうなんですか!」
「はい、ヤマハ、ホンダ、カワサキは凄いです!
あ…スズキは、クソなので興味が無いから、行った事が無いですが…」
一瞬、圭さんの目が≪スッ≫っと細くなった。刹那、私は例え様の無い恐怖感が脊髄を駆け上
がって来たのを感じた。
「ん? あれ…、確か…、圭さんの…、愛車って、…は…ヤ…ぶ…サ」
≪ソレ≫に気が付いてしまった私は気絶しそうになった。恐る恐る圭さんの方を見た、特に変わった
様子も無く、私のバカ話にニコヤカに相槌を打ってくれていた。
「流石大人!!」
私は気付かれないようホッとした。どうやら私の心配は杞憂に終わったようだ…。
「じゃあまた、何か乗ってきますので!」
話が一段落した所で、圭さんがメットを手に取り言った。
「あ、それでしたら、“T-MAX530” が空いていますから、お勧めしますよ!」
圭さんはひとつ頷くと、“T-MAX530”の列へと歩いて行った。
また、御台所様とトークが弾んだ。
「あの屋台で、何か食べましょうか?」
私がそれとなく屋台の方に目を向けながら話題を振ると、御台所様は満更でも無い表情となった。
「品数は8品しかないみたいだから、圭さんと御台所様と私で、
このメニュー全部!って言ってきましょうか?」
私は特に気負うでも無く、淡々と普通の口調で言った。が、ソレに対する返答を待つまでも無く、御
台所様から冷気が発せられていた事に気が付いた。恐る恐る御台所様の方を見た。少し、蔑んだ
瞳を私に向けていた。私は蛇に睨まれた蛙状態となったが、ココは努めて明るく振る舞った。
「なーんちゃって! オヤジ・ジョークが、つい口から出てしまいましたな~~ハッハッハ……」
何とか危機を乗り越えた頃、“坊(仮名)”と遊んでくれていた何処かのオチビさんと、御台所様の
輪の中に、圭さんが加わって来た。
「ふー!」
と言ってヘルメットを脱ぎ、御台所様から渡された冷たい緑茶を一気に呷ると、グラブも取って、リ
ラックスの表情となった。私はここぞとばかりに、バイクの感想を聞いた。
「どうです?“T-MAX530” って悪くなかったでしょ!」
一瞬、圭さんの目が細くなった。そしてペットボトルに残った緑茶を一気に飲み干すと、私を正面に
見据えた。目が座っていた。
「“T-MAX530” なんか、クソだ!!」
温厚な圭さんの口から突然、弾劾の言葉が迸った! 私は一気に緊張硬直した! そして…。
「やっぱ……怒ってた……」
との思いに至った!(核自爆) 故に、それから止め処なく続いた“T-MAX530”の不評を、只々身を
小さくしながら私は聞く事となった。
「御尤もで御座います! 流石圭様でございます! その見識には只々、恐れ入り奉ります!」
私はコレでもかという程、圭さんの御機嫌を損ねない事を意識した……。
さて、楽しい会話のネタは尽きる気配を見せなかったが、昼近くになり場内が物凄い混雑となって
来たのを見て、ココで御開きとする事にした。
「ではまた、ツーリング企画立てますので、ドッカ行きましょう!!」
圭夫妻は優しげな微笑みを返してきた。そして圭さんの返答を待った。
「…ま、今度は、雪の降っていない時に行きましょう!
暖かい“時”に行きましょう! 暖かい“所”に行きましょう!
“スズキの隼”は、立派なツーリングバイクですから何処へでも行きますよ!!」
と、笑いながら言った。 目は笑っていなかった…。
「わ、わ、わかり、りました!!」
私は震える口を懸命に堪えながら言った。
最後まで、シッカリと釘を刺された…(大核自爆)
小1時間後、無事帰宅した。
現地で食べ損ねた昼飯を、自宅で“坊(仮名)”と一緒に喰った。なんだかんだ言っても“坊(仮名)”
はまだ仔犬である。今日は初めて体験する事がいっぱいあったのだろう。ご飯を食べると、スグに
ソファーのベットメイキングに取り掛かり、ソコにチョコンと伏せをすると、あっと言う間に寝息が聞
えて来た。それを見た私も、つられる様に大きな欠伸をした。
「取り敢えず、“お嬢(仮名)”の御飯も用意して…」
私は皿に授乳期用の餌を盛ると、ソソクサと自室に戻り、ベッドへと倒れ込んだ。疲れてはいたが、
久しぶりに心地の良い疲れだった。
「今寝たら、何時に起きるのだろう…」
と、一瞬考えたが、また一つ大きな欠伸すると、瞼が徐々に閉じていった…。
おわり!
※えー、上記一部は、あくまでも “フィクション” ですので、誤解無き様、お願い致します(笑)
※尚、この日の模様は、愛車紹介ヤマハFZR250 のフォトギャラリー
内の → “
ココ” にアップしておりますので、どうぞご覧下さい!
でわでわ!