◆「自衛隊ができない20のこと 17」
特別国会が始まりました。毎年、秋には各省の概算要求が出そろいます。我が国では予算は国会で決めると憲法で定められています。自衛隊も行政組織ですから例外ではありません。決められた予算の中で新しい装備品を買い、隊員への給料を払い、災害救助やミサイル防衛を行ったりしているわけです。つまり、自衛隊の行動は国会の予算審議で決まるということです。
「国会議員に言っても自衛隊は変わらない」という人がいますが、自衛隊の予算を決めるのは国会議員です。国会議員しか自衛隊の状況を変えられる人はいません。
防衛予算というと、我が国を狙う敵に対し、ありとあらゆる強い兵器を使って徹底的に攻撃をするイメージがありますね。たとえば、さる11月5日、横田基地でトランプ大統領は在日米軍に向けて「戦う必要がある際には、相手を圧倒し、常に勝利するために必要な装備と要員、資金を持つ」と演説しました。これは敵を排除できる予算を投入するという強い意志の表れです。
そもそも、船も戦車も飛行機も、燃料や弾薬が十分になければ戦いたくても戦えません。たとえば、ミサイル防衛の場合。迎撃ミサイルが全弾命中すると仮定しても、撃ち落とせる弾道ミサイルはこちらのミサイルの数だけです。つまり、予算が乏しければ乏しいほど、敵の攻撃を防げる率は低くなり、稼げる時間も短くなるのです。
どこの国も無限に予算があるわけではないですが、日本の自衛隊予算は他の行政庁と同じ扱いです。つまり防衛省も合理化、予算削減目標があります。その「削減ありき」の方針の下では、「我が国の領土領海を守ることができるかできないか」ということは問題にはなりません。他の省庁と同様に自衛隊に期待されるのは、「去年の予算よりも安い予算で無事に1年を乗り切ること」です。だから、様々な笑えない話が出てきます。
これまでに、「予算がないがゆえに自衛隊員が耐え難きを耐えている」実状をたくさんご紹介してきました。その一番の原因は、我が国の防衛予算の決め方にあります。
「国防のためにいくらほしいのか言いなさい」という「積み上げて合計を出す」システムではなく、「前年度より減らして概算請求を持って来なさい」と言われて予算請求をするのです。この理屈では、北朝鮮の核ミサイルが我が国の全土に降り注ぐ恐怖といったような軍事的脅威などまったく影響しません。まず削減ありきの考え方なのです。
前年度より大きな額の予算を請求すれば、その段階で差し戻しです。防衛省の担当官も、財務省を相手に周辺事態が緊迫していること、充分な人や燃料や弾薬や装備品がないと対処できないことをさんざん説明し、たくさんの場面で戦ってきましたが、何を言っても門前払いなのです。防衛省(自衛隊)は財務省には勝てません。ゆえに、どんなに必要でも、どうやっても足らないとわかっていても、少ない予算規模に甘んじなくてはいけなかったのです。
ではどうするか。そもそも必要な金額には到底足らないので、とにかく「自分たちの努力でどうにかなるもの」から減らしていくのです。隊員用のトイレットペーパーがなかったり、隊舎の洗濯機や暖房装置や冷蔵庫が壊れても修理せずに放っておけば、さすがに困った隊員たちが自腹でトイレットペーパーを補充したり修理費を負担して直そうとしたりします。そういうことが積み重なって、今の惨状になっているのです。自衛隊が隊員をひどい目に遭わせようと思ったわけではありません。最初から足りない予算のなかで、無理なやりくりを押し付けられているのです。
自衛隊が、トイレットペーパー代くらい国で買ってほしいと要求しない理由も明白です。予算の上限が決まっているので、国がトイレットペーパー代を出すと決めれば、大事な弾薬や燃料や演習、訓練費などの費用がそのために削られることになります。制服などの消耗品が買えず、修理できない装備品が多くても我慢している理由も同様です。
それでも、周辺事態には対処しなければならないので、当然、新しい装備品を買う必要は出て来ます。その場合は「何かを増やしたら何かを減らす」のです。今、防衛費は微増になっています。でも、微増ではまったく話になりません。現在のGDP比1%5兆円ではなく、せめて先進国の軍事費のスタンダードであるGDP比2%程度の10兆円規模がないとお話にもならないのです。
国家の根幹は治安維持と国防です。もっとも大事な国防には予算をきちんとつけてもらわないと困ります。国防がしっかりしてないと、私たちの生命や財産が奪われてしまうのです。「自衛隊が本気を出して戦えば北朝鮮なんて簡単にやっつけられる」と思っている人は多いと思います。でも、そんな余裕のある準備ができるような予算はどこにもありません。もう、現実を知れば知るほど涙・涙・涙なのです。
米軍では、ミサイルなどの弾薬は必要数を何年か毎に一括調達してごっそり備蓄しています。だから数年単位の弾薬があるのが普通です。一方で我が国は、ほんのわずかな予算の中でちまちまとやりくりして弾薬を買っています。対北朝鮮の迎撃でミサイルが尽きた後は、我が国に迎撃の手段はありません。北朝鮮が全力を出せば2日間で我が国の迎撃ミサイルが尽きると予想する軍事評論家もいます。その後は撃たれ放題です。自衛隊のなけなしの弾薬や燃料が尽きた時、我が国の命運は尽きるのです。
「必要でも予算は前年度より可能な限り低く抑える」、それがこの国の予算編成の鉄則です。さらに、使わなかった予算は大幅に減額されるか、なくなります。
畳み掛けるように自衛隊員の待遇が悪化し給料も減額されているので、隊員の数も減り続けています。必要な要員数を充足できない部署があちこちにでき、自衛隊の能力が損なわれつつあります。それなのに「人が減って運用できなくなったら、その部署や定員そのものを減らす」という対応に終始しているのです。
人員不足で使えない部署をなくせば節約できますがそれでいいのでしょうか? 潜水艦隊などはすでに運用が難しくなっていると聞いています。毎年どんどん現員が減っていくせいで、体面を整えるように一隻あたりの定員を減らし、さらに過剰労働で隊員が減り続けているのです。近日中に潜水艦隊は、実員のいない幽霊艦隊になります。でも予算は削減できる、そういう発想なのです。
これでは近いうちに必ず安全保障上の穴が空きます。予算がないため、人も装備も弾薬も燃料も足りない。こんなことで北朝鮮有事に対処できるのでしょうか。日本の防衛が本当に不安です。
【小笠原理恵】
国防鬼女ジャーナリスト。「自衛官守る会」顧問。関西外語大学卒業後、報道機関などでライターとして活動。キラキラ星のブログ(【月夜のぴよこ】)を主宰
確かに今は毎年予算編成時期になると国だろうが地方だろうが、「一般事務経費の要求額は一律前年比マイナス10%」とか事前に通達が回ってくるようだから自衛隊も一緒なんだろうねえ。戦闘機や護衛艦、戦車などを購入して派手にやっているように見えるけどその裏では福利光熱費から訓練用の油代、弾薬の購入費など削れるところは可能な限り削っているので見かけが立派でも張子の虎のような軍隊になっているのかもしれない。確かに北のミサイルを迎撃するミサイルの数も限られているだろうけど向こうのミサイルの数もそうそうたくさんはないだろうから双方あっさりと手持ちを撃ち尽くして戦争が早く終わるかも、・・なんてことを言っている場合じゃない。国防は危機管理だが、財務省はそろばん勘定で来るから自衛隊も大変だよなあ。医療費だの社会保障費の方をなんとかすればいいんだろうけどそれも表に響くからなあ、・・(^。^)y-.。o○。
Posted at 2017/11/25 10:33:39 | |
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