”駆けぬけるおっさん”が 旬な試乗記をお届けする Fisher's Blog
本日の試乗記は アウディTTの最速バージョン”TT RS”です。
まあ 正確に言えば 最新の”TT RS Plas”が最速であり、
今回試乗したものは旧型にはなってしまうのですが・・・・
とは言え モニターで2泊3日 総走行距離840kmにも及び、走行シーンも
伊豆の名だたるワインディングを走破してきましたので、
ちょい乗り試乗とは一線を画した試乗となったわけです。
実はTT-RS ちょうど3年前にデビューした直後
6MTのものには2時間ほど首都高で試乗したことあります。
そのときの
試乗記はこちら
当時は興奮の中 その圧倒的なスタビリティにただただ感心した試乗だったのですが、
今回は1人試乗でワインディングをこれでもか!と言うくらい徹底して全快試乗しました。
なので 3年前に試乗したときとは違う印象も・・・・・・・
パワー、重量、大きさ的にライバル関係とも言えるZ4Mに乗ってるので
素人目線でZ4Mとの比較を中心に試乗で感じたままを書きます。
試乗は伊豆半島をほぼ1周
夜間のワインディングを含め、ウエット&ドライ、低速~高速コーナー、
急勾配の上り下りとワインディングのあらゆるシーンを試乗。
一般道の渋滞から高速のクルージングまでかなりの走行シーンも経験しました。
試乗車はオプション無しのTT-RS オドメータは5000kmジャスト
慣らしも済んでて エンジン的には良いころ。
タイヤは純正のコンチのスポーツコンタクト3で残り溝7~8割
エンジンもタイヤも慣らしが済んでて走りごろというお車でした。
結論を先に言うと・・・乗りやすいくせに、無慈悲なほどに速く
楽しさを感じにくいほどクールな高性能車です。
■主要スペック比較
TT-RS Z4Mロードスター(以下Z4Mと呼ぶ)
サイズ 4200×1840×1380mm 4120×1780×1300mm
重量 1530Kg 1430kg
ホイールベース 2465mm 2495mm
パワー 340PS/5400~6500rpm 343ps/7900rpm
トルク 45.9kgm/1600~5400rpm 37.2kgm/4900rpm
エンジン 直列5気筒ICターボ 2480cc 直列6気筒NA 3245cc
ミッション 7速Sトロニック ゲトラグ6MT
0-100km加速 4.3sec 5.0sec
■改めてのエクステリア考
素のTTとは固定ウィング、マフラー2本出し、
フロントのエアインテーク形状が異なるくらいで大きくは変わりません。
Z4Mが素のZ4と変わんないのと似たようなもので
EUのエボモデルは「これ見よがしなところ」が無いことが 逆に本物感を高めていると思います。
今回 いろんな角度からTT-RSの写真を撮ってみて

TT-RSが一番かっこよく見えるのはこの写真の前上方斜めから見た角度だと思います。

逆にローアングルからはボンネット形状にしまりが無く見えます

真横、厚みが気になるか?

後方斜めからはデザインとしては良いと思いますけど、スポーツカーに見えるか?というと・・・・
Z4Mと比べるとスリーサイズが少しずつ大きくなっていますが、
車高が特に高くなっているので全長はZ4Mより短く見えてしまいます。
■質感の高い内装
アウディの車の内装は全車に共通して質感が非常に高いですが
TTRSもさらっと見た感じは良い感じです。
全体的な内装は建てつけの具合がかっちりとして洗練された印象を強く感じました。
ただ、3年前も気になったのですがプラスチッキーで少しうるさい感じがします。
悪く言うとおもちゃじみた感じにもとられるかも?

専用の意匠を持つシフトノブは良いとして、

エアコンの操作パネル、特にダイヤル関係は他の内装の雰囲気からは
「もう少しデザインがんばって欲しかったよね~」と感じます。

メーター類はコンサバでZ4Mとタコ、スピードの左右位置が違う以外は似たような感じです。
(写真の オイルminのコーションランプ点灯は ガンガンにワインディング走ってるときに点灯
マニュアル見ると・・・「オイルが減少してます 出来るだけ早く補充してください」・・・と
でも 伊豆の南端なんだけど~ Dラに電話して沼津で補充してもらいましたが
モニター車出すなら オイル点検くらいはやっててもらいたかった・・・・・)

足元のスペースは高さも幅もTT-RSのほうが広くリラックスできます。
ステアリングの握りはZ4Mのほうが高級感があります。

TTRSの純正ナビの位置は視界の下のほうにあるので確認しにくいです。
これはナビに洗脳されてる僕には非常に気になるところです。
Z4Mのナビはダッシュの上に出てくるタイプなので走行中にも確認しやすくなってます。
ただ、TTRSの純正ナビは日本製のHDDタッチパネル式であり性能に関しては
圧倒的にZ4Mの純正ナビよりも優れてます。
IpodはUSBでグローブボックス内にあるUSBコネクターで接続できてナビ側で操作可能ですし、
SD、CD、ブルートースなどいまどきのメディアから音楽を聴くことが出来ます。
ひとつ気になるのは 曲がるポイントでの案内が遅い 9割くらいの確率で
ポイントを通過する瞬間以降に「ここで曲がります」とか案内するので間に合わない。

トランクはリヤシートを倒さない状態でもZ4Mよりも十分広いです。
後部座席を倒すと実に巨大な荷室空間が出来上がります。
写真のように荷物が動かないようにラゲッジネットも着いてます。
■ポジション
3年前試乗したTTRSにはオプションのバケットシート@25万円が装着されてました。
今回はノーマルの純正シート。買うならオプションのバケットは必須です。
TT-RSのノーマルはワインディングのホールド性が悪くてワインディングでは役にたちません。

3年前に試乗したバケットでもしっくりくる位置に調整できませんでしたけど、
今回のノーマルでも時間かけてなんども試みましたけどしっくり来る位置に
調整できませんでした。 原因はやはり着座位置の高さだと思います。
また、ノーマルは電動シート、オプションのバケットは手動で動くのですが
ノーマルの電動シートにポジションメモリー機能がありません。
さらに気になったのはシートヒーターの自動メモリー。
いったんスイッチを入れると次回に乗ったときに直前のスイッチポジションを覚えてて
勝手にヒーターが入ってしまいます。
走り出して しばらくして「えらく暑いな~」ってことになってしまい
冷えるまで時間がかかるので いらいらすることが数度ありました。
■走行インプレ
走りの全体的な印象は トルク可変型4WDの圧倒的なスタビリティと
信じにくいほどの乗りやすさを武器に、恐ろしく速い車です。
操作に関しての多少のミスは車がカバーしてくれますので、
ワインディングのハイペース走行も「おおっ俺って上手くなった?」と
勘違いさせてくれるほど容易に走ることが出来ます。
乗るたびに「俺って やっぱ下手だよな~」と突きつけてくるZ4Mとは対極の車です。
僕みたいな素人が乗ると ほぼあらゆるシーンでTT-RSで走るほうが速く走れると思います。
ただし、TT-RSの速さは大げさに表現するとTVゲームをやっているような感じで、
リアル感に欠けます。
なので 速いんだけど楽しいのか?と聞かれると少々疑問が残ります。
実際 3日間もワインディング走りたおしてみて「すっごく楽で速かったな~」
という印象のみが強烈で 「あその感触が気持ち良かったな~」という
車の挙動の印象は あまり無かったと言うのが僕の感想です。
では 各論に・・・・・
・今ひとつな7速Sトロニック:
VWのDSG、AudiのSトロニックといえばツインクラッチのお手本みたいな存在と
思ってましたけど、今回の試乗では印象が変わりました。
TT-RSのものは制御の関係か?低速でもシフトのつながりに
ギクシャクしたところがありまして、ワインディングでも
特にシフトアップ時のつながりにショックと違和感が大きかった。
今は設定が無いのですが3年前の6MTが非常に良く出来ていたという
印象があるのと対照的です。
ただ、速く走るということに関しては7速Sトロニックは非常に有効です。
MTに比べて絶対的に速く変速できるのと失敗が無いし、
コーナー途中でも自由自在に変速することが可能です。
対して Z4Mのゲトラグ製6MTはロングストロークエンジンと
重いツインマスフライホイールによる慣性が大きく、
シフトアップはおおむね気持ちよく決まりますけど、
シフトダウンはどんぴしゃのタイミングに決まりにくいです。
おまけに適切に操作しないとシフト自体が入りにくいので、
コーナリングに入ってからのシフトダウンはリスクが高くなります。
・性能的には良いのだろうけど感覚的になじまないハルデックスカップリング
TT-RSはセンターデフを持たずハルデックスカップリングという方法で
通常ほぼFFの状態から後輪にトルクの必要な状態になると
0:100まで後輪にトルク配分を行ってくれるということです。
トルク配分メーターなど付いてないのであくまで走行時の感覚ですが、
確かに加速時には後輪にトルク配分してくれるようですし、
コーナリング時から脱出までめまぐるしくトルク配分が変わっていく感じがします。
それと低中速ワインディングをハイペースで駆け抜けると
ハルデックスの作動音と思われるクククックルと鳩が死にそうな音が聞こえてきます。
これが速さの理由なんでしょうが、後輪駆動に慣れた身には
予測する挙動(もって行きたい挙動)と差が大きいので気持ちよくありません。
車が勝手に速く走らせてくれて
「お前がやるより俺に任せとき!そのほうが安全で速いから・・・」
といわれているような感じです。
静止状態から全開加速すると後輪が軽く空転して4WD状態になり
ロケットのように加速していきます。
コーナーリングを含め圧倒的なスタビリティによりコーナー脱出時には
Z4Mより脱出加速は明らかに速いのですが、エンジンの伸びが影響しているのか?
走り慣れたコースでのストレートエンドでの速度はほとんど変わらないものでした。
ただし・・・
Z4Mが暴れまわりながら恐ろしいほどの轟音をとどろかせながら加速していくのに対し、
TT-RSはあくまでクールに、排気音もまるでホルンのような楽器見たいな音を
聞きながら加速していく・・・・
結果が似てても それに至る状況は 笑ってしまうくらいに違ったものになります。
・ハンドリング:
ハンドルは低速では異様に軽く、スピードが増すにつれて重くなっていきます。
フィールもFFベースとしては良好と思います。
しかしながら、ステアフィール感はやはりFR車らしく
Z4Mが上質で接地感も把握しやすくなってます。
まあ TT-RSは「接地感? なにそれ? 曲がれば良いんだろ!」
と恐ろしく速いコーナリングスピードで車が走ってくれます。
また、コーナリングアプローチでのピッチ挙動やロールもZ4Mよりも小さくて
全方位フラットライドな感触です。
TTRSはハンドルも軽いしSトロニックのオートモードだと初めて乗っても
まったく違和感無く乗れると思います。
難易度的には大げさに言うと プリウスとそう変わらないと思います。
・5気筒エンジンのフィール:
ネットから拾った情報によりますと この5気筒エンジンは・・・
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かつてはアウディのアイデンティティとして知られ、
このTT RSで約15年ぶりに復活することになった直列5気筒エンジンは、
乗用車用としては世界初の試みとなるという最新素材「バーミキュラ鋳鉄」製の
シリンダーブロックと直噴システムを持つ。
実は、今や身内でもあるランボルギーニ「ガヤルド」の初期型に搭載されていた
5リッターV型10気筒と同じ82.5×92.8mmのボア×ストロークで、
排気量はちょうど半分となる2480cc。
1基のターボチャージャーを組み合わせて、最高出力250kW(340PS)、
最大トルク450Nm(45.9kgm)を発生する。
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とあります。 「ガヤルド」のエンジンにゆかりがあるとはなんか興奮しますね。
TTRSの5気筒ターボは独特のビート感がありながらも、
レベルの高いスムースさを併せ持っており、
どの回転でも独特の回転フィールが心地よくなってます。
トルクバンドは広いので街中では非常に乗りやすいと感じますが、
ワインディングに持ち込んで走らせると、それなりのペースで走らせるには最低でも4000rpm、
できれば4500rpmはキープしておく必要があります。
レブは6700rpmくらいでレブに当たると非常に不快なババババッっという音が出るのと
回転の上がりが俊敏なこともあり、実質上4500rpmから6000rpmあたりで走らせることになります。 非常に忙しいのですがパドルシフターでミス無くシフトできますし7速が生きてくることになります。
回転の上がりはフラットトルクな感じですが、排気量の関係か?
元気に走らせようと思うと意外にパワーバンドが狭いという矛盾した感触です。
Z4MのS54エンジンは吹け上がり感はドラマティックなピーキーエンジンですが、
実際の走行ではトルク感あふれパワーバンドも広いですから
データスペックと実際に感じるのとはまったく逆なTT-RSとZ4Mになります。
また、加速感に関してはZ4Mの乱暴きわまる加速感に対して
TT-RSは強烈ではあるけども あくまで安定してます。
ただ ターボらしく伸びが物足りない・・・・
TTRSのエンジン音はスポーツモードにすると吸排気音が心地よく盛り上がります。
レスポンスも多少は良くなりますが、ターボですからあんまり変らない。
ただ、速さに関してはスポーツモードに入れても入れなくてもあまり変わらないです。
6MTでは音量も適度で心地よいと感じたのですが7速Sトロニックでは
回して乗ると変速時に不快なビビリ音がします。
レブ近くで変速するとその不快指数も上がります。これは気持ちよくない。
速さには関係無いんですが明らかにマイナスポイントと思います。
排気音自体は低めの音であり加速すると勇ましくはあるのですがあくまで低音バリトン系の音
楽器で言えばホルンに近い音がフォ~(ブォ~というのと中間くらい)の音に終始します。
ちなみにアイドリングは静かです。
排気音とエンジンのメカニカル音の大きさに関してはZ4M圧勝です。
・圧倒的なスタビリティ:
3年前に乗ったときも圧倒的なスタビリティに感心しましたけど、
今回の試乗でもその印象は変わらず、ドライだと「スピンなんかするのかね?この車」
という感覚でウエットでも不安なくハイペース走行が可能です。
ウエットで神経質になるZ4Mとは偉い違いです。
先にも書きましたけどハルデックスカップリングによる無段階トルク配分が緻密に制御されていて
4輪のグリップがそれぞれ破綻しないようにコントロールしています。
・ワインディングは速いんだけど・・・
6MTでの試乗でも感じた重量配分がF/R=60/40のネガな性格は
下りのワインディングでは特に顕著です。
ブレーキングでは容易にリヤのロックを誘発します。
下りのハードぶれーキングからのコーナーアプローチはTTRSで唯一気を使うところですが、
一瞬挙動を乱しても次の瞬間何事も無かったように落ち着いていきます。
自分では特に何もしてないのに車が修正してくれる。
コーナリング途中でアクセル抜いたり加速したりするときにどうしてもフロント加重が重くて
アンダー気味な挙動に感じられますが、実際にはハンドルを深く切り込むことにより
何事も無く曲がっていきます。単に気持ち良くないだけです。
TTRSの得意なシーンは中高速コーナリング、
唯一苦手とも思えるのが下りの低速コーナーですが、
感覚的に気持ちよくないというだけで、あらゆるシーンでZ4Mより速く走れると思います。
ただし、自分でコントロールしているという充実感に欠ける。
シフトはタイミングだけの問題でシフト自体も失敗しないし、
コーナーも驚異的なスタビリティで曲がりにくい感覚は残るものの
切れば切っただけ曲がって曲がれる範囲でアクセル踏んで出口見えたら
アクセルべた踏みでも危なげなく立ち上がっていく。
まるでTVゲームでもやってる感覚でリアル感に欠けるんだけど現実にはとてつもなく速い。
ちなみにTT-RSで走りなれた感触でZ4Mでワインディング走るとまるでロデオ状態です。
Z4Mだと コーナー毎に「おっ 今回はうまく行った」とか
「今回はフロントをコジちゃったなあ」とか一喜一憂しながら走るんだけど
TTRSでは慣れたコースではバラツキ無く走れてあまり一喜一憂できません。
もっと言えばオーバースピード気味に入ってもハンドル切って一瞬じっとしてれば
車が勝手に曲がってくんで冷や汗もかきません。
・ブレーキは・・・いまいちかも?
フロントはドリルド+対抗4podで大径370mmで迫力満点なんですが
リヤはスリットもドリルドも無しで径も小径でチープな感じがします。
フロントブレーキは見かけの割には ハイペース走行では
効きとコントロール性がいまひとつと感じました。
Z4Mよりは耐フェード性は高いと感じました。
・良好な乗り心地
不正地では若干の突き上げは感じるんですが おおむね良好な乗り心地です。
・高速クルージング
理由はわかりませんが Z4MよりTTRSのほうがスピード感を感じます。
4WDなので直進安定性は優れているんですが、路面の細かいアンジュレーションに
サスがついていけてないような・・・
車の姿勢には影響は無いのですが細かい振動を感じてしまうことも影響しているかもしれません。
なので あまり速いスピードでクルージングしようという気が起きません。
・燃費
総走行距離840kmで 7.5km/Lという燃費でした。
道中 かなりワンディングで回して乗った結果としては良好な燃費と思います。
燃費計から推測すると ワインディングではZ4Mと同じくらい
クルージングでは10%以上はZ4Mより良好な燃費になると思われます。
■総合インプレ
3年前の6MTでの試乗では官能性も ある程度高いと感じましたが
7速Sトロニックでは あまりにも乗りやすいことが災いして
速さにしか面白みを感じない結果となってしまいました。
ただ、その速さは尋常ではなく
「速く走りたい。しかも出来るだけリスク少なく」という目的の方が居られれば
間違いなくベストチョイスな車になります。
ターボ車なんでROMチューンだけでも簡単に400PSオーバーになるらしいですし。
ハイグリップともいえないコンチのコンタクト3でZ4MにRE11履かせた車より速いので
ROMチューン+ハイグリップタイヤで さらにとんでもない速さに仕上がると思います。
ただ、車との会話を楽しみたい方には 別のチョイスが良いと思います。
TTRSは上質な内装とスポーツカーにしては広い空間をゆったりと楽しみながら
それでいて いざと言うときにはスポコン系の車を尻目に
「お~ がんばってますなあ じゃ お先に♪」
とクールに速く走らせる。 そんなシーンが似合う高性能車です。