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2015年08月14日

回天と私

回天と私 確か高校2年生のときのことだったと思う。全校生徒が体育館に集められ講演を聞く機会があった。高校生活3年間でただ一度のことだった。講師が誰だったかは全く思い出せないが、内容は大まかに覚えている。母校出身の3人の先輩についての講演だった。講演のタイトルに「偉人」という言葉が使われていたような気がするが自信がない。もう40年も昔のことだ。違っていても許されるだろう。
その3人とは髙木貞治、平野謙、黒木博司。誰も知らないって? そういう人が多いだろうとは思う。

順を追ってご紹介したい。

まずは髙木貞治(1875年(明治8年)4月21日 - 1960年(昭和35年)2月28日)、数学者。最も有名な著作は「解析概論」。
この講演より前に髙木貞治の名と母校の先輩であることは知ってはいた。何せ超高校級の授業で私達を困らせた数学のA先生から何度も聞かされていたから。
講演後に感化された友人の一人は、重さ1㎏はあるんじゃないかと思えるハードカバーの「解析概論」を取り寄せて買い、通学鞄に入れて持ち歩いてた。チラッと見せてもらったが、とても私ごときが歯が立つような内容でないことだけはよく分かった。
この髙木貞治は偉人と呼ぶのに何のためらいもない。






二人目は平野謙(1907年(明治40年)10月30日 - 1978年(昭和53年)4月3日)、文芸評論家。元プロ野球選手にも同姓同名の人物がいるようだが、全くの別人。
この人をWikipediaで調べると、当然、確かな業績もあるのだが、プロレタリア文学に接近しながら、戦時中には戦争に協力していたとする説が有力らしい。
大学に入ってからだったと思うが、偶然に本屋で平野が書いた「芸術と実生活」の文庫本を見つけて読んだ。内容は全く覚えていない。活字の上を視線がトレースしただけ。
「偉人」と呼ばれるには、ほぼ社会全体の肯定的な評価が必要だろう。残念ながらこの人を「偉人」と呼ぶにはちょっと辛いものを感じる。









そして最後は今回のテーマである、黒木博司(1921年(大正10年)9月11日 - 1944年(昭和19年)9月7日)。帝国海軍の兵士。海の特攻兵器、人間魚雷「回天」の発案者の一人であり、開発者の一人でもある。黒木はその開発中に、艇が浮上できなくなる事故に遭い、22歳の若さで亡くなっている。
今でこそ、平野が偉人と呼べるかどうかに疑いを持つが、講演の当時、私は平野に対して全く知識がなく、講演内容を素直に受け入れるしかなかった。しかし、この黒木を3人の先輩の中に選ぶことに対しては当時から違和感を抱いた。正直、探せば(探さなければならない時点で偉人とは言えないのだが)もっと他にふさわしい人がいるはずだとも思った。つまり講師の人選の価値観を疑った。
今のようにネトウヨが跋扈するような時代ではない(当然ネットもないのだが)。まだまだ右の方々は、特に高校生を相手にするような方々の中では隅の方でひっそりと暮らしておられた時期だ。そこへ特攻兵器の開発者の称揚である。
ところが、この3人の内で私が誰に最も親近感を得たかと言えば、実はこの黒木である。黒木のことは幼い頃に親父から聞かされていて予備知識があったからだ。親父は黒木の名も、黒木が岐阜県出身であることも知らなかった。ただ開発中の兵器で事故を起こし、陛下の艇を失うことを詫びる遺書を残して死んでいった立派な軍人がいたという話を子供の私にした。戦前の教育を受けた親父にしてみれば、黒木は間違いなく偉人だった。その価値観で私に語った。
つまりこの講演は私にとって、ある意味、黒木との再開であった。しかし、その人が海なし県の岐阜県出身であり、しかも母校の先輩であることはこの時初めて知った。

黒木は艇内の酸素が無くなり意識が無くなるまでの間に、事故の原因などを自分なりに考察し、それを艇の内壁に書き残し、以降の開発に役立ててもらおうとしている。その中で下記のような陛下への詫びの文章もある。親父のような戦前派は胸を打たれるのであろう。

陛下ノ艇ヲ沈メ奉リ、就中○六(*回天のこと)ニ対シテハ、畏クモ陛下ノ御期待大ナリト拝聞致シ奉リ居リ候際、生産思ワシカラズ、而モ最初ノ実験者トシテ多少ノ成果ヲ得ツツモ、充分ニ後継者ニ伝フルコトヲ得ズシテ殉職スルハ洵ニ不忠申訳ナク慙愧ニ耐エザル次第ニ候

実はこの講演に関しては何年も前から、いつかブログにしてやろうともくろんでいて、それに合わせるために回天のキットを制作していた。それが最近になってやっと完成した。スケールは1/72でメーカーは豊橋のファインモールド。大戦中の兵器はキット化されていないものはないくらいだが、B29だとか日本人を苦しめた兵器、そして特攻に使われた兵器などはどうしても大手メーカーも配慮してキット化しない。ところがファインモールドのような後発中小メーカーにタブーはない。

キットは2艇入りで2,014円で購入。組み立ては簡単。艇体の上下を接着して合わせ目を消せば大体出来上がり。塗装の指定は艶消し黒だが、それでは黒いウインナーソーセージができるだけ。まず全体を黒鉄色で塗り、その上から薄めたエナメルの艶消し黒を、むらが残るように筆で縦に塗ってみた。完成すると、既存の九三式酸素魚雷から開発したという、その外観がよく分かる。実戦では真っ黒な艇が使われたはずだが、黒木が殉死したのは訓練中であったことから、おそらくはこのような上面が白く塗られた艇だったと思われる。
事故の原因は、悪天候によって急激に艇が沈下し、海底の泥にささってしまい浮上できなくなってしまったため。上面を白く塗ったのはこんな事故の際にも海上から発見しやすくするためだと思われる。

回天を調べていくと興味深いのは、この特攻兵器が戦局の悪化に伴って海軍上層部が発案し、それを実現したものではなく、若い士官が発案、上申し、海軍上層部はむしろそれに反対していたことだ。それも大戦後半になってからではなく、黒木は開戦直後に同僚と願書を血書し、何度も上京している。
回天の経緯は「特攻の島」として漫画化され(描いたのは「ブラックジャックによろしく」の佐藤秀峰)、その中に黒木も登場している。冒頭に特攻兵器を上官に一蹴される場面がある。

実際の黒木の写真と比べるとかなり獰猛そうな人物として描かれている。漫画にまで登場した先輩はさすがにこの人だけか?

昭和19年になると海軍上層部も打つ手がなくなり、回天の開発を認める。黒木の殉死は9月7日。回天の実戦投入は11月からになる。
イ号潜水艦に4~6艇の回天を固定し、目標の近くまで運び、ワイヤーを解かれた回天が目標に向かって突進するという運びとなる。
確認できる回天の成果は2件だけである。空の特攻兵器桜花と同様に母艦もろとも沈められたり、故障したりで、結局期待されたような戦果は上げられず終戦を迎える。

黒木は艇内に辞世の句を残している。私達とは根本的な教養の違いを感じる。

国を思い死ぬに死なれぬ益良雄が
友々よびつ死してゆくらん

男子やも我が事ならず朽ちぬとも
留め置かまし大和魂

また、こんな句も残している。

人の子の勉むは国のためなれど.ともに慶(よろこ)ぶ父母ありてこそ
(開戦前、母に宛てた手紙に添えられた句)

人など誰かかりそめに 命捨てんと望まんや 小塚原にちる露は 止むに巳まれぬ 大和魂
(戦局も押し迫った頃、戦友に宛てた手紙より)

最後の句の前半は、現代の多くの人も共感できるのではないか。


今回のブログは 創始者・黒木大尉と樋口大尉の殉職(遺書) から引用している画像やテキストがあります。









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Posted at 2015/08/14 11:16:24

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この記事へのコメント

2015年8月15日 9:32
おはようございます。

成田さんらしい、深いブログですね。
遺憾ですがタイムリーなものとなり。

以前私のブログへのコメントでだったか、この回天というものの存在を教えてもらったように記憶しています。

そのときは、なんて馬鹿げた作戦なんだろうと当時の司令部に腹立ちをおさえられませんでした。
今でもそれは変わらないんだけど、黒木さんの句を読んで少しだけ、納得できる心情がありました。

今の自分の息子たちと比べ、この若さでこんなにも強い意思を持って自分のやるべきことを全うする精神力には驚かされます。
時代が違って、こんなことじゃない方にその力を発揮してもらいたかったなぁ…
コメントへの返答
2015年8月15日 23:55
コメントありがとうございます。

もう少し反響があるかなと思って書いたんですが・・・、コメントしづらい内容ですからね。
やはりブログと言うメディアは、もっと軽い内容に適しているんでしょうね。

以前にも回天と私は無縁ではないと書いたような覚えがあります。あ、靖国神社に行ったときのブログですね。

若者が駆り立てられるように自分の死に場所を求めたのは、時代の雰囲気と教育なんだと思います。それを繰り返さないように、私達も注意深く時代を検証していかなくてはならいと思います。私達もその時代の中にいるわけですから簡単なことではないと思いますが。

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「この後の展開を見て子供たちは何を学ぶのか。結局、正しい正しくないではなく、「長い物には巻かれろ」が賢い選択であるという処世術を学ぶんだろうな。」
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