
久し振りの投稿。しかもほぼ一月前のことになります。
各務原航空宇宙博物館で「空とぶ船 UF-XS 展-荒波をこえる飛行艇のはじまりー」という展示がありました。会期は7月16日から10月10日まで。これは行かねばと気には掛けていましたが、やっと重い腰を上げたのは会期末も近い今月1日。
飛行機に詳しい方でも「UF-XS? なんじゃそら?」って方も多いんじゃないでしょうか。タイトル画像がそれですが、オリジナルはこれ(↓)と同型の機体でした。
海上自衛隊の塗装になっていますが、アメリカ製のグラマンUF-2アルバトロスという名の双発水上機です。
これを日本の新明和って会社が魔改造してこうなりました。
アルバトロスの面影が残ってるのは胴体上面くらいでしょうか。
まずエンジンを二つ増やして4発にしてますね。しかも内側2基のプロペラがやや上向きなのに対して、新たに付けた外側の2基はプロペラが2枚になってるし真正面を向いてる。操縦席の上には何やら大きな膨らみが。そして機首の下半分や尾翼周辺も大きく変わっています。
このUF-XSが後のPS-1やUS-1に繋がっていくわけですが、簡単にその経緯を。
戦時中に日本海軍は二式飛行艇(二式大艇とも呼ばれる)と言う機体を運用していました。戦後にアメリカ軍がこれを調査し、世界最高の飛行艇であると評価します。
戦後の日本は新規の航空機開発は禁止されていましたが、二式飛行艇の性能に驚いたグラマン社やマーチン社は1958年(昭和33年)に、二式大艇を製作した川西航空機の後身、新明和興業(現新明和工業)に対して、自社の飛行艇の改造実験を行うように求めました。(Wikipediaより)
そしてその叩き台として使用すべく、UF-2アルバトロスを新明和工業に供与しました。
それ以前から新明和工業の中では飛行艇の性能向上案が検討されており、それに沿った改造をUF-2アルバトロスに施した機体がUF-XSということです。
UF-XSは主翼を延長してエンジンが4発になった他にも、機首の下面には波消し装置が取り付けられ、尾翼はT型尾翼に変更。操縦席の上の膨らみにはBLC用のガスタービンエンジンを2基搭載しています。
BLC(Wikipediaより)
揚抗比を保ち高い迎角でも低速時の飛行特性を向上させる装置。同規模の機体に比べ境界層制御を備えた機体は短距離離着陸能力や高速巡航における飛行特性が大幅に向上する。
境界層制御を使用する航空機の例として日本の新明和PS-1・US-1・US-2飛行艇がある。これらの大型4発機は、境界層制御専用のエンジンで圧縮した空気を翼上面に吹き出して層流を作り出すことによって境界層剥離を防ぐ境界層制御を行なっており、高い短距離離着陸能力を備えている。
つまり、低速飛行で揚力が落ちるのなら、翼の周りに高速の空気の流れを作りそれを補おうってことですね。
こうして生まれた機体が対潜哨戒機のPS-1と救難機のUS-1です。
どちらも波高3mの海で離着水が可能で、他国の機体では真似のできない性能を誇ります。
ところが、対潜哨戒機であるPS-1は就役時点で既にいちいち着水して音響探査するという非効率な索敵方法が時代遅れになっており、23機が製造されましたが1980年に生産終了。
過酷な運用のために事故も多く、退役までに6機を事故で失い、30名の自衛隊員が殉職しています(Wikipediaより)。
私もPS-1の胴体が真っ二つに折れて太平洋を漂流したニュースは記憶にあります。
US-2は外洋で使える救難機として唯一の存在であり、数々の実績を残しています。そう言えば、石原裕次郎が危篤状態になった時に、ヨットレースに出ていた都知事の石原慎太郎がこの機体を呼んで病床に駆け付けた時には、自衛隊機の私的利用として非難されましたっけ。
実現しませんでしたがたまに輸出の話も出ていましたね。
この機体は博物館で屋外展示されていますが、後で触れます。
たいそうな名前が付いた特別展でしたが、何のことは無い、以前からの収蔵機であるUF-XSにスポットライトを当てなおしただけで、ちょっと食い足りない展示だったかな。
てことで、久し振りでしたので館内の他の機体もご紹介。
入館してすぐのところにあるのがこれ。
乙式一型偵察機。
川崎造船所(現:川崎重工業)が本機の製造権を取得して、国産化に挑戦。4年後の1922(大正11)年に各務原飛行場で初飛行に成功した。
その後1927(昭和2)年までに各務原で300機が製造され、これが各務原における航空機産業の始まりとなった。(各務原航空宇宙博物館のHPより)
次の飛燕と共に、他の機体とは扱いが違います。
復元された 三式戦 飛燕。ちょっと厚めに写真を貼ります。
全体的な館内の雰囲気を。
歴代の自衛隊の戦闘機などが並んでおります。F-86Fなども欲しいところ。
2階からの見下ろし。
一番手前の大きな機体は、輸送機のC-1を改造した短距離離着陸の”飛鳥”。これも後が続かず実験だけで終わっちゃいましたね。
H2ロケットのフェアリング。でかい! 右端の人と見比べてください。こんなのが宇宙まで飛んでくんだ。
最期に屋外展示のUS-1について触れます。
US-1にも縁のある飛行艇の企画展だというのに、この状態でした。
全体に足場がかかっていて、塗装の修復作業中。
特別展に間に合うように工事を終えとけよとは思うものの、安心もしました。
すぐ上の写真をご覧ください。塗装がはがれている箇所がありますね。こうして定期的にメインテナンスしてもらえるなら、長く保存できるでしょう。屋外展示でほったらかしだと岐阜基地の屋外展示機のように、いずれ撤去と言うことになってしまいます。おそらく、メインテナンスの費用もちゃんと予算の手当てがしてあるんでしょう。
これを見てから隣に並んでるP-2Jを見ると・・・
きれいだ。おそらくは最近塗りなおしたものと思われます。
足場を見て、マンションの外壁塗り直しと同じだなと考えていましたが、よく見ると細かいステンシルなど飛行機独特の塗装もあるし、色調も細かい指定がありそうだし(変な色だとマニアが黙っていない)、そう簡単なことではなさそうです。
機体はこれでいいとしても、操縦席などの透明なアクリル部分は取り換えることができないので、紫外線に晒されて白濁や黄変が進むでしょうね。本当は屋内保存を望みたいところですが。
各務原航空宇宙博物館の屋外展示機をフォトアルバムにまとめました。
一部の写真の向きが修正できないのはご勘弁ください。
模型マニアしか喜ばないKV-107写真集
模型マニアしか喜ばないYS-11写真集
模型マニアしか喜ばないT-2写真集
模型マニアしか喜ばないP-2J写真集
模型マニアしか喜ばない 三式戦 飛燕 写真集
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飛行機 | 日記
Posted at
2022/10/30 10:23:09