ある日、ふと、「地震予知が正確にできるようになった何が起こるんだろう?」って思い付きが浮かんできました。それができるとして、どれくらい前に予知できるんだろう? 1秒前? 1分前? 1時間前? 1日前? 1週間前? 1月前? 1年前? 10年前? 予知がどれくらい前かによって起こることはまるで違うものになるのではないか? この思い付きから、久し振りに小説を書いてみることにしました。
私の小説は「
日高の遺書-another story-」もそうですが、なぜか会話主体になってしまいます。まるで脚本みたい。まあ、どうせ素人の拙い小説。お目汚しですが読んでみてください。
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その日
「ちょっ、ちょっ、そりゃないでしょ。いきなり全員解雇だなんて!」
西日の差し込む工場長室に大声が響き渡り、その声は廊下を歩く女性事務員の耳にまで届いた。
「誰もいきなりなんて言ってないだろ。5ヶ月後だ。それに全員じゃない。ほぼ全員だけどな。」
「5ヵ月後だって、いきなりじゃないですか! それと、だ、誰が残れるって言うんですですか。」
「そう、唾を飛ばすな。まだ誰と決まったわけじゃない。中国に建設される新工場に行って作業の指導ができる者は会社に残れる。まあ、10人くらいらしいがな。」
「たった10人。それも中国。」
「委員長、あんただって、度重なる円高で中国への生産施設の移転の噂は聞いたことがあるだろう。それが例の地震予知で早まっただけのことだ。元々、会社は考えていたことなんだ。」
「しかし、あとたった1年で中国工場で操業なんてできるんですか。」
「9ヶ月でできるそうだ。会社はそう言ってる。もう用地は押さえてあるらしい。あす、全体朝礼でこの工場の従業員全員に伝える。その前に君達、組合執行部にこうして伝えたわけだ。」
「あ、あんたはいいよな、工場長。首にはならないんだから。俺たちゃどうすりゃいいんだ。」
「安心しろ。俺も解雇だ。新工場長は、ここにいる副工場長だ。人件費の高いものは真っ先に首だよ。」
工場長の斜め後ろに立つ副工場長は目を伏せた。ソファから立ち上がったままの委員長は、二人の顔を交互に見つめ、拳を宙に止めて口を開けたまま息を飲んだが、すぐに続けた。
「だ、大体、会社はあの地震予知連の眉唾を信じる気なんですか。あんな明日の天気も当てられない連中の戯言を真に受けるんですか。」
「最初は日本中が疑ったさ。でも君も連中が二つの中規模地震の発生を連続して当てたのを知らんわけじゃないだろう。最初は相模湾のマグニチュード6、続いて駿河湾のマグニチュード5。二つ目は確かに想定発生時期は外れたが、その3日後にちゃんと起きた。予知連は、大きな地震ほど当てやすいと言い訳までした。政府はもちろん、財界も疑うものはおらんよ。予知発表から1月経ったから、あと11ヶ月プラス・マイナス3ヶ月で、東海・東南海・南海大地震が起こることは、まず間違いないだろう。」
「しかし、地震とこれとは・・・・。」
村木委員長は消えかけた語尾に、自分の無力を感じずにはいられなかった。
「さっきも言ったが、これは地震予知がなくても起きてたことかも知れないんだ。私としても残念だが了承してくれ。それと、この工場での操業はあと4ヶ月間。その間は忙しくなる。おそらく残業が続くと思ってくれ。部品を作り溜めて長野に確保した倉庫に保管しておく。その後はラインを撤去し、中国に運ぶ段取りだ。」
「本当に、もうどうにもならないんですか。社長はあんなに国内生産にこだわるって言ってたじゃないですか。」
「ああ、もうどうにもならん。決まったことだ。あとの条件闘争は会社とやってくれ。ただな、社長も決して安易に中国への工場移転を決断したわけじゃない。この工場を耐震改修する費用と中国移転の費用を天秤にかけて、総合的に判断したと言っていた。この工場の耐震改修には建て替えと変わらん費用がかかるそうだ。費用をかけて耐震改修したところで、工場がここにある限り、被害なしと言うわけにはいかないだろう。工場が持ちこたえても電力や道路の復旧にどれだけかかるか見当も付かない。その間、親会社への部品供給を止めるわけには行かないんだ。特に、今回のように事前に分かっていてはな・・・。」
「いっそ、地震予知なんてない方が・・・。」
「それを言うな。少なくとも今度の大地震では人的被害は出ないはずなんだから。」
Posted at 2012/01/29 23:09:29 | |
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