
先週は二日連続で映画を観ました。二本ともノンフィクション。

1本目は「アルゴ」。内容はご存知の方も多いかも知れません。1979年に起こったイラン革命の時、暴徒がアメリカ大使館になだれ込み、大使館員60人以上を1年以上に渡って人質に取るという事件がありました。その時、危うく難を逃れ、カナダ大使私邸に身を隠した6人の大使館員がいました。発見されれば間違いなく殺されてしまいます。
CIAはこの6人を何とかして無事に出国させようと頭をひねります。自転車で国境まで走るなんて奇策まで真面目に検討される中、採用されたのはニセの映画製作をでっち上げ、そのロケハンに来たカナダ人の映画スタッフになりすまして帰国するという荒唐無稽な案。CIAはこの作戦に使えそうな映画の脚本を探し、見つけたのが「アルゴ」というタイトルのSF映画の脚本。
これが、フィクションじゃなくて事実だと言うから、正に「事実は小説より奇なり」! 18年間の機密扱いが解禁されて、晴れて映画化されたのが本作。
スリリングではあるんですが、「ホンマかいな?」と思うようなギリギリの展開があったりして、100%ノンフィクションかどうかは疑わしい部分も。
2本目がブログのタイトルにもした「危険なメソッド」。この映画に関しては何の前知識もありませんでしたが、偶然通りがかった小さな映画館のポスター(タイトル画像)に引き寄せられました。
ユングとフロイト!?
精神分析界の2大巨人が登場する映画! これは見ないわけには行きません。
精神分析関係の本を読み始めたのは浪人時代に読んだフロイトの「精神分析学入門」が最初でした。有名なハンナ・Oの症例に見られるように、意識で蓋をした無意識に光を当て、患者がそれと真正面から向き合って受け入れることができると病状は劇的に改善する。読者としての私も、まるで推理小説の謎が解けたときのような開放感を感じました。
フロイトを読めば当然のようにユングにもたどり着き、ユングを解説した本も何冊か読みました。日本人では なだいなだ、「モラトリアム人間の時代」で有名になった小此木圭吾、(心理学の分野ですが)唯幻論の岸田秀、それぞれのそこそこの数の著作を読んできました。
この映画の主人公はユング。フロイトの本を読んでフロイトの治療法に強い関心を持っていたユングは、病院に運び込まれたロシア系ユダヤ人の若い女性患者ザビーナに、フロイトの対話療法を用いて治療を開始します。治療が進んでいくうちに、ザビーナの症状の原因が、子供の頃に父親から受けた虐待にあることが分かっていきます。彼女は虐待に悦びを感じる症状を持っていました。
やがてユングとザビーナの間に恋愛感情が芽生えます。
精神分析において、治療者と患者との間に「転移」と呼ばれる擬似恋愛が芽生えやすいことは、その時点で既にフロイトが警告を発していました。
なだいなだ の短編小説にも、転移に関する、おそらく自分自身の体験をモチーフにした「れとると」という作品があります。若いモデルの患者と接するうちにお互いに恋愛感情が芽生え、治療者自身がこれは転移に過ぎないと自分に言い聞かせつつも・・・・なんて話だったかな?
もちろんユングも自分を抑えようとします。ユングには妻も生まれたばかりの子もいました。が、ユングは結局ザビーナと関係を持ってしまいます。
このスキャンダルは私にはちょっとショックでした。ユング関係の本も何冊か読んだと書きましたが、そんなこと、私が読んだ本のどこにも書いてなかったからです。映画を観終わって買ったパンフを読んで理由が分かりました。1977年にジュネーブで偶然にザビーナの手紙が発見され、ユングとの関係の詳細が明らかになり、それが世間に知られるのに時間がかかったからです。
ザビーナはユングと別れた後、医師となりフロイトの研究を手伝ったりしてフロイトにも影響を与えました。その後、同じユダヤ系ロシア人医師と結婚しました。
映画の最後の場面は、湖畔の優雅なユングの邸宅の庭でのおだやかなティータイム。招かれた大きなおなかのザビーナがユング婦人から懇願されます。「夫を分析してやってほしい」と。患者と治療者の逆転です。ユングは、またユダヤ系ロシア人の女性患者を愛人にしていました。
ユングがフロイトの汎性欲主義(様々な症例を何でもかんでも性欲の抑制と結びつけて考えること)を批判したり、逆にフロイトがユングの神秘性やオカルト的な面への傾倒を危険視したりする場面は、精神分析史の教科書的でもあり、そういった意味でも全編を興味深く観ることができました。
動画部分が終わり、テロップで登場人物のその後が説明されます。
悲しいのは、ザビーナが二人の子と共に、ソ連に侵攻したドイツ軍によって虐殺されてしまった事実。ザビーナは児童心理学で有名な
ピアジェの師でもあったようです。
Posted at 2012/11/11 14:51:50 | |
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