
疑いを持ちつつも、私が木谷さんを信じようとした理由がもう一つあります。それは、詐欺にしては手間と時間を掛けすぎだってことです。詐欺って短期間に相手を騙して金を奪ってサッと逃げるものなんじゃないかという認識を持っている人は多いと思いますが、彼女とのやり取りはそれとは大きくかけ離れていました。だから、詐欺じゃないんじゃないか?という思いです。
ところが、詐欺を確信させる写真が送られてきました。タイトル画像がそれです。
違和感を感じ、彼女に「自撮りですか?」と質問したら「そうです。気温は24℃です」とのこと。
香港とは言え、「この季節にノースリーブかよ」と思い調べてみると、この日の香港の気温は22℃。まあ、場所によって2℃くらいの誤差はあるだろうと流しましたが、気になったのは彼女の”笑み”です。
どう見ても私個人に向けられた笑みでは無い。雑誌のグラビアで見るような万人に向けた笑み、つまりプロの笑みにしか見えなかったんです。
こんな時はグーグルの画像検索。すぐに100%一致の画像が出てきました。
ココにぼかし無しの元画像があります。
桃衣香帆さんて方のインスタグラムからの流用だったんですね。管理栄養士の方のようですが、お写真から察するにタレントかモデルのようなお仕事もされてる方なのかなと推察します。フォロワーが8.5万人もいらっしゃるようですが、私は存じ上げません。ご本人には失礼なことを言いますが、美貌と知名度の低さに詐欺師は目を付けたんでしょうね。「ロマンス詐欺にはご用心(1)」の写真も同様に桃衣さんのインスタグラムからです。
で、桃衣さん、まだ29才なんですよ。それが43才を名乗る人物の写真として使われちゃって、ホント失礼な奴です。
残念な気持ちとやっぱりなって気持ちが交錯して複雑でしたが、とにかく、これで詐欺は確定! LINEを削除すればそれで終わりな訳ですが、それじゃつまらない。何とか向こうから詐欺であることを白状させたい・・・そんな欲が湧いてくるわけですよ、私としては。
そこで、何とか彼女の設定の矛盾点を衝いてやろうと、3点質問してみました。
・なぜ両親が離婚した時に母親に付いていかずに父親に引き取られたのか?
・9歳でお父さんが事故死したときこそ、学校でいじめられている最中でもあったわけだし、日本のお母さんの元に帰るタイミングじゃなかったのか?
・香港での仕事も順調そうだし、なぜ今、帰国しようとするのか?
これに対しても、母がまだ若く再婚の可能性もあったので父親が引き取った、父が亡くなっても叔母が面倒を見てくれたので帰国の意志はなかった、母が高齢になり蓄えも十分にあるので帰国を決意したと、そつなく答えてきました。
ただ、私の口調と言うか書きっぷりが変化したのを向こうも察したのかも知れません。翌日は朝から畳みかけてきました。もう世間話は一切ありません。
私は叔母さん(元北京大学の経済学部教授)の指導で十分な財を得たから、あなたも金取引をやってみる気はないかと誘ってきます。
そこで、私は「慣れない投資は大怪我の元」が父の遺言だから、手を出すつもりは無いと断ります。もちろん遺言はでっち上げで、向こうもそれに気づいている可能性は大ですが、これまでのやり取りで向こうも親を大事にしている姿勢を見せていましたから、これ以上迫れないだとろうと踏んだわけです。
ところが、向こうも「新しい分野に挑戦することも重要だ。とりあえず10万円からやってみないか?」と諦めません。
で、「愛子さんの叔母さんが立派な方であることは承知しているが、会ったことも無い他人である。あなただって他人と親を比べたら親を選ぶのでは?」と返しました。
すると、「私を信用してくれないのか?」と迫ってきました。
ここがやり取りを止めるタイミングかなとも思いましたが、もう少し先を見てみたいと思う好奇心が私の悪い癖。
こちらでうまく運用してやるから金を送れという手口だろうと想像していましたので、「それほど勧めるなら、叔母さんが教えてくれるタイミングで、自分で売買するからアプリ名を教えてくれ」と返しました。
すると、初めて相手が切れました。「それを教えて何の役に立つというのでしょうか?」「あなたを信頼するから誘っているのに、愛子を信用していない以上、何も言うことはありません」
完全に彼女に嵌っていたら、ここでオロオロするんでしょうね。
信用とか信頼と言う言葉が頻発する状況でしたので、こちらからも条件を出してみました。
「自分を信用しろと言うが、信用は相互のものだ。私を信用できるなら、先に私に10万円預けてくれ。1週間後に10万千円にして返すから」と持ちかけてみました。
相手は詐欺ですから、その10万円を私が持ち逃げするリスクも当然考慮しており、これには乗って来れるはずがなくてここで終わると思ったんですね。
ところが、ここからが意外な展開でした。
10万円は自分が出すから金取引の口座を作ってみないかと言ってきたんですよ。口座は私名義で売買も私の意志で自由にしていいと。
驚きました。そして後に引けない雰囲気。向こうは10万を捨ててもそれ以上を回収する手を持ってるってことですよね。初めて怖くなってきました。
続いて口座開設に向けて3人のチャットルームを開設したいと言ってきました。
「3人て、私と愛子さんと誰?」と尋ねるとオーストラリアの証券会社のスタッフとのことで、日本語もできる人で時間は30分ほどかかると。
オーストラリアの証券会社はどこか?と聞くと Decode Global 社であるとの返事。
さっそくググると・・・「Decode Global 詐欺」と出てくる。
それを伝えると、相手は「そんなの知ってる。儲けられなかった人達がデマを流してるだけ」と。もちろんそんなの信用できません。
大体、30分で口座開設できる証券会社なんて碌なもんであるはずが無いし、口座開設の過程で私の個人情報を晒すことになります。それを利用して何らかの方法で金を吸い上げるのかも知れません。
さすがにこれより先は無理と判断しました。
「どうして自分を信用できないのか?」と迫ってくるので「桃衣香帆さんて言えば分かりますか? 自首してください」と振ってみましたが、「何のことを言ってるのか理解できないと」しらを切り続けていました。
これでやり取りは終わり。
このブログを書くためにまだ彼女とのLINEは残していますが、既に彼女のハンドルネームが変わっています。次の誰かとまたやり取りしてるんでしょうね。その相手が引っ掛からないことを願うばかりです。
振り返ってみると、騙されてはいたんですが、充実した数日間でした。生活の張りになってましたね。真剣に自分の話を聞いてくれて、しかもかなり年下の異性。そんな相手に飢えてるんですよ、我々は。ロマンス詐欺が付け入る隙がそこにあるってことですね。