山下達郎が炎上してますな。そんなこととは無縁の人だと思っていましたが、掘り下げて行くと結構根深い問題があるし、彼の意外な一面を知ることにもなりました。高校生の頃からのファンですし、ブログでも何度か採り上げていますので、この件についてこれから述べようと思います。
ただ、こういうのは誰に向けて書くかが悩ましいですね。全くこの問題について関心のない人に一から説明しようとするのは長くなるし正直面倒臭い。経緯も書きますが、なるべくリンクを張っておきますので詳しくはそちらでご確認いただければと思います。
(以下、敬称は略します。引用部分は青文字で示します)
まずは松尾潔について。
松尾潔の略歴は
こちら 。
音楽プロデューサーであり、リンク先のWikipediaの記述には「ヒット請負人」ともあります。知名度はそれほどないのかも知れませんが、かなりの実績のある方で、山下達郎とは旧知の仲であり、家族ぐるみのつきあいもあったようです。今回問題になっている業務提携契約も山下達郎からの誘いによるものとのこと。
松尾潔はBBCがジャニーズ事務所や元ジャニーズの被害者を取材して作った例の番組「J-POPの捕食者 秘められたスキャンダル/Predator: The Secret Scandal of J-Pop」を視聴し、これは放置できないと感じました。
VIDEO
(リンクは有効です。「詳細はYoutubeで見る」をクリックしてお進みください。)
そして5月15日のラジオ番組に出演した松尾潔は以下のように発言しました。
「今回の疑惑を放置することは、ジャニーズ事務所だけの問題じゃないと思っています。一番の弊害は、今回の報道やマスコミの有り様を見た子供たちが、もし性犯罪・性暴力の被害者になったとき『声を上げても無駄だ』という諦めの気持ちになるかもしれないことです。疑惑を放置することで、社会全体が諦めの気持ちを子供たちに植え付けかねないのではと怖れを感じています。メディア、広告業界、芸能界だけでなく、みんながこの問題を直視しない限り、性加害や性暴力は、この先もなくならないでしょう。音楽業界に身を置く私も正直つらいです。ましてや、こういう世界に憧れたことがある、あるいは憧れている家族がいる、といった人たちも胸を痛めているはずです。私たち一人一人が、この国が抱える問題として当事者意識を持ち、みんなで膿を出すというところに、舵を切るべきじゃないでしょうか」
翌日にそれがヤフーニュースの記事になり、山下達郎のプロダクションであるスマイルカンパニーの社長の小杉周水が松尾潔を呼び出し契約解除を迫ったのが18日で、中1日の急な展開だったってことですね。
スマイルカンパニーは1972年に山下達郎のマネージメントからスタートした芸能プロダクションで当初は個人事務所のようなものだったようです。現在は妻である竹内まりあなども所属し、面白いところでは放送作家の鈴木おさむも所属しています。同社の株の半分は山下達郎が所有しているそうです。
で、その社長である小杉周水に松尾潔が呼び出されたわけですが、小杉周水は2代目の社長で初代はその親である小杉理宇造(1984年就任)。小杉理宇造は1970年代にジャニー喜多川と知り合い、2003年にジャニーズエンターテインメントの社長に就任しています。
この辺からもスマイルカンパニーとジャニーズとの密接な関係が窺えるわけです。
松尾潔が小杉周水に呼び出されて契約解除を迫られたときの様子が松尾潔によって
7月6日の日刊ゲンダイ に詳しく載っています。
理宇造氏の長男の周水くんは作曲家の顔を持ち、ぼくにとっては親しい後輩でもある。付き合いも家族ぐるみだ。彼は、こんなことで松尾さんと向きあいたくはなかった、性加害は当然許されないことだし、松尾さんの話も正論、でも……と、Jやジュリー社長の名前をメディアで口にすること自体を問題視し、マネージメントの中途解約を切り出した。いわば不敬罪による一発退場である。
契約解除の理由は明らかだってことですね。ただそれは涙を流すような苦渋の選択でもあったようで・・・。
涙を流しながら解約の弁をくり返す彼に、ティッシュを差し出すぼくまでもらい泣きしたのは一生忘れられないだろう。
とてもビジネスの話とは思えない。
当然、松尾潔は納得できず、それを山下達郎も同意しているのかどうか直接確かめたいわけですが・・・
その場で達郎さんに電話したい衝動を必死で抑えながら、ぼくは社長の発言を尊重して、メールを含む夫妻への直接の連絡は一切控えた。
6月2日、SCオフィスで再会した周水社長は、ぼくの契約の中途終了に山下夫妻が〈賛成〉であることを告げた。RKBラジオ等での発言はいかにも松尾らしく正論でもあるが、これまでの山下家・小杉家・藤島家のつきあいの歴史を考えると、SCに松尾が在籍し続けるのを認めるのは難しい。なぜなら、三家のつきあいはビジネスではなく「義理人情」なのだから、ということだった。
(藤島家とはジャニー喜多川一族の家のことです)
契約を解除する理由は正論よりも「
三家のつきあい 」と「
義理人情 」が勝るからだと告げられたわけです。昭和の頃の昔話じゃないですよ。つい先日のことです。
日刊ゲンダイの引用を続けます。
この期に及んでも、どうしてもぼくに飲み込めないことが一点だけあった。周水社長からの報告という形でしか聞いていない山下夫妻の〈賛成〉だ。周水くんを疑ってはいない。ただ、四半世紀におよぶ付き合いのなかで自分が知る達郎さん、そしてまりやさんなら、本当に〈賛成〉するだろうか。その疑問が払拭できなかった。
周水くんとの信頼関係を考えれば、だからといって達郎さんに直接コンタクトを取るのはやはりためらわれた。ぼくは喜田村弁護士に、先方の代理人を務める弁護士へ尋ねてもらった。「松尾は、『山下氏と竹内氏が契約解除に賛成している』と社長から説明を受けているが、それは事実か」と。返ってきたのは「そうである」。この回答を確認したぼくは、契約終了の最終合意に応じた。
松尾潔はこの契約解除の件を世間に知らせるとともに第三者を介しての回答ではなく、どうしても本人から真意を引っ張り出したかったんでしょうね。7月1日に山下達郎の名前を出したツィートを上げます。
15年間在籍したスマイルカンパニーとのマネージメント契約が中途で終了になりました。
私がメディアでジャニーズ事務所と藤島ジュリー景子社長に言及したのが理由です。
私をスマイルに誘ってくださった山下達郎さんも会社方針に賛成とのこと、残念です。
今までのサポートに感謝します。バイバイ!
名前を出されたことで、この辺から山下達郎もついに自分に火の粉が飛んできたことを知ったことでしょう。そして山下達郎がどう対応していくのか世間の注目を集めることになりました。
山下達郎はツイッター等のネット媒体は一切使用しておらず、毎週日曜日に放送されているFMの彼の冠番組「山下達郎のサンデーソングブック」の7月9日の放送で時間を割いてこれに回答することを予告しました。
私は久し振りにリアルタイムでこの番組を聞きました。(全文書き起こしは
こちら )
約7分の時間を割いた長いコメントでした。部分的に引用します。
今回、松尾氏がジャニー喜多川氏の性加害問題に対して憶測に基づく一方的な批判をしたことが契約終了の一因であったことは認めますけれど、理由は決してそれだけではありません。他にも色々あるんですけれど、今日この場ではそのことについては触れることを差し控えたいと思います。
他にも理由があると含みのある表現をしながらも、松尾潔がジャニー喜多川の性加害問題に触れたことが契約終了の一因であったことを認めています。
そして、ここで多くの人が反発を抱くのは「憶測に基づく一方的な批判」でしょうね。この期に及んでそんなことがよく言えるなと。先に挙げたBBCの番組を始め何人かの元ジャニーズが実名も顔も隠さずに性被害を明らかにしているのに、不見識も甚だしい。
性加害が本当にあったとすれば、それはもちろん許しがたいことであり、被害者の方々の苦しみを思えば、第三者委員会等での、事実関係の調査というのは必須であると考えます。しかし、私自身がそれについて知ってることが何もない以上、コメントの出しようがありません。
自分はあくまで一作曲家、楽曲の提供者であります。
ジャニーズ事務所は他にもダンス、演劇、映画、テレビなど業務も人材も多岐に渡っておりまして、音楽業界の片隅にいる私にジャニーズ事務所の内部事情など全く預かり知らぬことですし、まして性加害の事実について私が知るすべ全くありません。
原則的な前提を言い訳として述べた上で、(先に述べたように山下達郎が所属するスマイルカンパニーの初代社長はジャニーズに縁のある人であり、自身もジャニーズのタレントと仕事上の深い付き合いがあるわけですから)一般人に比べればジャニーズの内情を知ろうとすればよく知ることができる立場であったはずなのに知ろうともしなかった責任は放棄しています。
そしてジャニー喜多川やジャニーズのタレント達への賛美が続き、山下達郎がジャニーズへ楽曲を提供してきたことが紹介されます。
その後です。
そうした数々の才能あるタレントさんを排出したジャニーさんの功績に対する尊敬の念は今も変わっていません。
私の人生にとって1番大切なことは、ご縁とご恩です。
ジャニーさんの育てた数多くのタレントさんたちが、戦後の日本でどれだけの人の心を温め、幸せにし、夢を与えてきたか。
私にとっては、素晴らしいタレントさんたちやミュージシャンたちとのご縁をいただいて、時代を超えて長く歌い継いでもらえる作品を作れたこと、そのような機会を与えていただいたことに心から恩義を感じています。
「ご縁とご恩」。私は森進一の舞台挨拶でも聞いているのかと我が耳を疑いました。演歌歌手から聞くのなら驚きはしませんが、まさかシティポップの雄である山下達郎がこれを口にするとは!
別にスマイルカンパニーだけじゃないのかも知れません。日本の芸能事務所すべてが前近代的なしがらみで動いているのかも知れません。しかし、今も「家」「ご縁」「ご恩」が優先されて犯罪が隠蔽されるような体質で済まされると思っているんでしょうか。
要するに、山下達郎は「恩義あるジャニー喜多川を悪く言うような人物とは一緒に仕事はできねぇ!」と言ってるってことです。彼にとってはジャニー喜多川の性加害を調査しようとか、その被害者を救済しようとか、再発防止だとかには興味は無いってことのようです。
私が一個人一ミュージシャンとしてジャニーさんへのご恩を忘れないことや、それから、ジャニーさんのプロデューサーとしての才能を認めることと、社会的、倫理的な意味での性加害を容認することとは全くの別問題だと考えております。
作品に罪はありませんし、タレントさんたちも同様です。
ジャニー喜多川の性加害を明らかにした上での作品の扱いについてであれば、異論はありませんが、その前提を述べていません。ただ、ジャニー喜多川の性加害の全貌が明らかになった時点で彼を尊敬し続けられる人はわずかだと思いますが。
最後に山下達郎はこんなことを言います。これが私を含む一部のファンの怒りを買いました。
彼らの才能を引き出し、良い楽曲を共に作ることこそが私の本分だと思ってやってまいりました。このような私の姿勢をですね。忖度あるいは長いものに巻かれていると、そのように解釈されるのであれば、それでも構いません。
きっとそういう方々には私の音楽は不要でしょう。
ケンカ売ってますね。正直、腹が立ちました。
それに一つ前の引用と矛盾しませんか? 一つ前の引用では作品とそれに関わった人達とは別に考えるべきだと言いながら、上の引用では「俺が嫌いなら俺の曲も嫌いなはずだろ。だったら聞くな! 俺の絶対信者だけが聞けばいいんだ!」ですからね。曲と関係者は別物なのか一体なのか発言者自信が整理できていない。
山下達郎が抱くジャニー喜多川への敬愛や尊敬はよく分かった。ただ、この状況の中でそれだけでいいの?ってことですよ。山下達郎は結果的にジャニー喜多川の性加害をうやむやにしたいんですよね。でもそれが被害者救済や再発防止の障害になるのではないかという視点を持とうとする気が無い。
山下達郎は珍しく社会的な楽曲をアルバムにぶち込む人でもあります。1986年のアルバム「POCKET MUSIC」に「THE WAR SONG」なる曲が入っています。反戦歌です。フォークソング時代なら分かりますが、シティポップ全盛期の1980年代にですよ。
「POCKET MUSIC」にはあの「俺たちひょーきん族」のエンディングテーマになった「土曜日の恋人」も収録されたアルバムです。そこに放り込まれた「THE WAR SONG」は正直なところ重くてアルバムの流れを止めるし、聞きづらかった。無くてもいいのに思ってましたね。
VIDEO
(オリジナルではなくカバーですがボーカルは山下達郎)
でも彼はこの曲をアルバムに入れた。耳障りのいい曲ばかりでなく、作品に社会性を持たせたい気持ちもある人なんです。
それだけに今回の件は残念でなりません。70歳という年齢が彼をしてそうさせてしまったのでしょうか。だとしたら、やはり齢は取りたくねぇな。
Tatsuro Yamashita does'nt RIDE ON TIME
長くなりましたが、この長さが私の無念さと思っていただければ。
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2023/07/17 00:00:52