ロシアがウクライナに進行してから既に100日が経過したとのこと。目下のところ、戦争が終わるなり停戦するなりの兆候は見えませんね。戦死者や負傷者の数が積み上がり、どちらか、あるいは双方が国家として疲弊して音を上げるまで続けるしかないのでしょうか。
我が国もウクライナに支援物資を送っており、国民の多くがウクライナに肩入れしていて戦争の情報量も多いものの、やはり遠い国の出来事。私としても二つの国の歴史や国民性を知るために、これまでに見てきた映画や戦争が始まってから慌てて読んだ本を私の体験の古い順にご紹介しつつ、雑多な知識を整理・統合しようと思います。
まずはこれですかね。映画「
ひまわり 」
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観たのは高校生の時です。封切りは1970年とのことですから、私が観た時は既にリバイバル上映。(2本立てだったんですが、もう1本は何だったと思います? 実は「エマニュエル夫人」。こっちが目的だったことは言うまでもありません。)
第二次大戦中のイタリア。ジョバンナ(ソフィア・ローレン)とアントニオ(マルチェロ・マストロヤンニ)はナポリの海岸で出会い恋に落ちます。しかし、アントニオは最も過酷なロシア戦線に送られることになりました。ドイツが独ソ不可侵条約を破ってソ連に侵攻したために、イタリアもそれに付き合わされることになったんですね。
戦争が終わってもアントニオは帰ってきません。諦めきれないジョバンナは苦労してどうにかソ連に行き、アントニオの手がかりを探します。やっとの思いでアントニオを探し出したものの、彼は現地の女性と結婚して子供までいることが分かり・・・。
ジョバンナが行方不明となった夫を、一面に咲き誇るひまわり畑の中で必死に探しているこの映画のタイトルにもつながる印象的なシーンがありますが、今回のロシアによるウクライナ侵攻が起きてから、実はこのシーンはウクライナでの撮影であることが話題になりました。
撮影現場はキエフから南へ500kmほど行ったヘルソン州と言われています。(ウクライナ大使館のHPより)
この映画を観た当時は、ウクライナはソ連の中の一地域でしかなく、私はその存在を知っていたかな? 今でこそヘルソンも耳に馴染んだ地名になってしまいましたが、当時は知るはずもありません。
お次はずっと下って2001年の映画「
スターリングラード 」
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ヴァシリ・ザイツェフという257人の敵兵を殺害した実在の狙撃兵を主人公とした、実話に基づいた作品になっています。(原題は Enemy at the Gate 。史実と映画は結構異なるように思います)
祖父に狩猟の銃の扱いを仕込まれた主人公は徴兵され、貨車に詰め込まれてスターリングラードに送られます。列車が停車し扉が開くとそこは既に戦場。二人に1丁の銃しかなく、銃を持つ者が倒れたらもう一人がその銃で戦えと命令を受けて突撃。ドイツ軍の攻撃に恐れをなして引き返すと、待ち構えていた味方がそれを容赦なく撃ち殺します。
やがて主人公はその狙撃の才能で国家的英雄となり、ドイツの狙撃兵と一騎打ちに・・・。
この映画にはウクライナは全く出て来ませんが・・・
ザイツェフは戦後にキエフ(現:キーウ)の工場の管理職を歴任した。1991年12月15日死去。彼は生前ヴォルゴグラードに埋葬されることを希望していたが、キエフ(現:キーウ)に埋葬された。(Wikipediaより) ・・・ということで、モデルになった当人はウクライナに埋葬されたようです。
これ以降はロシアによるウクライナ侵攻以降に読んだ本、観た映画についてです。
比較的新しい映画と本ばかりですが、ネタバレを含みますので、これらの作品をこれから読んだり観たりしようとお考えの方はこれより先に進まない方がよろしいかと。
また、気分を害されることが予想される記述があります。読まなきゃよかったと後悔しても私は知りません。みんカラ事務局による削除の可能性も考慮し、一部で伏字を使いますのでご了解ください。伏字にしたところで事実には変わりないのですが。
本題に戻ります。
ロシアの侵攻直後に様々な媒体で様々な記事が発信されましたが、私は偶然にこの映画の紹介を二度目にする機会があり、ぜひとも観ておかねばという気持ちになりました。
2019年「
赤い闇 スターリンの冷たい大地で 」(原題は Mr.Jones)
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古い映画じゃありません。つい最近の映画です。日本でも2020年に上映されたはずですが、全く私のアンテナには引っ掛かりませんでした。
新しい映画だし、レンタルショップに行けばあるだろうと近所のGEOに行って店員に検索してもらいましたが、置いて無いとのこと。仕方なく、ネットのレンタルで観ました。金額はレンタルショップでDVDを借りるのとさして変わりません。
ホロドモールという言葉をご存じでしょうか? 恥ずかしながら私はこの映画の紹介を読むまで、知りませんでしたし、過去にウクライナにこんな悲劇があった事実も知りませんでした。「赤い闇 スターリンの冷たい大地で」はホロドモールを告発したイギリス人ジャーナリスト、ガレス・ジョーンズを主人公とした事実を基にした映画です。
1929年の世界恐慌のあおりを受けて世界中がまだ不況に喘ぐ中、ソ連だけは5か年計画を順調に進め経済発展していた。ジョーンズはこれを不審に思い、ソ連に向かう。ソ連に発つ前に、モスクワに着いたらピューリッツァー賞受賞ジャーナリストで、ニューヨークタイムズ支局長のウォルター・デュランティを頼るようにアドバイスを受けていた。ところが、彼を訪ねてみると彼は酒と女とドラッグに溺れる生活を送っており、完全にソ連の意のままだった。
ジョーンズはソ連の経済成長の秘密はウクライナにあるとの情報を得たが、モスクワから出ることを許されなかった。彼はウクライナにある戦車工場の工場長をだまして列車でウクライナに向かい、その道中の駅で一人降りてウクライナに潜入する。
駅から出てすぐ、雪の上に倒れて動かない人がいるのに誰一人振り向きもしない光景を目にする。そしてウクライナ中に飢餓が広がっている事実を知る。
ジョーンズはウクライナ生まれの母親の生家を探しあてて訪ねると、幼い兄弟だけがそこで生活していた。
食料が乏しい中、一杯のスープが出された。
「この肉は誰が獲ってきたの?」
兄の名前を言う長女。
「あ、お兄さんが猟師なんだ。それで何の肉なの? そう言えばお兄さんはどこに?」
沈黙の間
沈黙の意味を悟ったジョーンズが、慌てて口の中の物を吐き出そうと扉を開けると、雪の上には・・・。
ジョーンズはウクライナで逮捕され、イギリスに送り返されます。ウクライナの現実を記事にしますがジョーンズが務めるローカル紙では反響が乏しい上に、ウォルター・デュランティらの大物ジャーナリストがそれを否定します。偶然に知り合った大手新聞社の関係者のつてを利用して、改めてウクライナの現実を報道して、やっと世間がこれを認知するようになります。
彼のウクライナに関する告発はこれで終わるわけですが、映画のエンドロールで彼の最期について触れており、それを読んで愕然とします。
ジョーンズは1935年に日本占領下のモンゴルで捜査中に誘拐され殺害された。彼の殺害は、ソ連の秘密警察NKVDによって行われた可能性がある。(英語版Wikipediaより)
ソ連は恨みを忘れない国です。
ホロドモールの情報を補強しようとWikipediaで調べると、この映画よりもっと悲惨な情報にぶち当たります。
当時のウクライナでは餓〇者の肉を食べるだけではなく、家族間で〇し合いが起きて、中には「親が子供を〇してその肉を食べたあと、その後やはり餓〇したり」
引用が辛すぎます。極限状態の人間てこういうことするんですね。
そこに追い込んだのは言うまでもなく、スターリン率いるソ連政府です。ホロドモールは外貨獲得を目的とした人為的な飢餓でした。
ソ連政府は1980年になってようやくこの事実を認めました。ただ、当時の飢餓はウクライナだけでなくロシア領内でも起きていたため、ウクライナ人に対するジェノサイドと見なすことはできないとの見解を示しています。
更に恐ろしいのは、このホロドモールを語り継げなかったこと。一番恐ろしいのはこれなのかも知れません。
「1991年のソビエト連邦の崩壊にともなうウクライナの独立まで、飢饉について多くのウクライナ人は知らないままであったと、当時の飢饉を体験した生存者は語っている」
500万人が死んだ事実が闇に葬られようとしていたわけです。
次は書籍「
独ソ戦 」
ロシアによるウクライナ侵攻が始まってから、大きな本屋ではどこもそれに関する特設コーナーを設け、この本も次にご紹介する「同志少女よ、敵を撃て」も
平積みで置いてあります。ま、便乗商法ってことですね。
初版は2019年7月ですから、ウクライナ侵攻のずっと前。当時から話題にもなってましたし、いずれは読まねばと気になっていた本でしたが、この機会に手に取りました。私のは第14刷。人気があるようですね。
日本の敗戦も確かに悲惨であることには違いありませんが、軍人と民間人を合わせた犠牲者数は 2,620,000 〜 3,120,000 人。
ソ連のそれは 21,800,000 〜 28,000,000 人。(いずれも出典はWikipedia)
ざっと10倍!
独ソ戦は地獄だったとはよく聞きますが、どれくらい地獄だったのか? 残念ながら私の要望に応えようとした本ではありませんでした。ですが、やはり得られるものはありました。
まず、スターリンは側近からドイツの侵攻が近いと聞きながらもそれに耳を貸さず、備えようとしなかった。そして備えようがなかった。なぜならスターリンがそれまでの軍のベテランをほとんど粛清しちゃったから。つまりドイツが攻め込んだ時の軍の指揮部門は素人の集まりだった。そんなソ連も多大な犠牲を払いながらも最終的にはドイツに勝てたわけですから、やはりソ連軍は強かった。
そして、上で触れたホロドモールが終息した後もスターリンの恐怖政治に怯えていたウクライナ国民は、ドイツが侵攻してきたときに、最初は解放者だと思って歓迎したらしい。ま、すぐにそれは勘違いだったと気づくわけですが。
ウクライナだってソ連の一部だったわけですが、ソ連中枢部とはそれくらい気持ちが離れた地方だったということなんでしょう。
「
同志少女よ、敵を撃て 」
あえて、帯付きの画像にしてみました。この本に賭ける本屋の意気込みが伝わるでしょうか? 初版が2021年11月ですからロシアの侵攻前ですね。その直後に、侵攻が起きたわけですが、こんな巡り合わせでこの本を売り込めるチャンスが来るとは思ってもみなかったでしょうね。
しかし、残念ながら私には何も響かない本でした。帯には直木賞候補作なんて書いてありますが、ウソでしょ。本屋大賞受賞自体が”大人の事情臭”がしてならない。
主人公セラフィマは母親について猟銃の扱いを学び腕は確か。ある日狩りから戻ってみると自分の村の村民は侵攻したドイツ軍によって皆殺しにされており、母親も狙撃兵によって殺されてしまう。その後、セラフィマは女性狙撃兵の指導者であるイリーナに助けられてそのまま女性狙撃隊の訓練校に入り・・・。
上の方でご紹介した映画「スターリングラード」とよく似ている部分があります。
・どちらも家族から猟銃の扱いを学んでいて兵役に就く前から狙撃兵としての素質を備えている。
・スターリンラード攻防戦での活躍がある。
・ドイツ軍の狙撃兵が子どもを囮に使って主人公らをおびき出そうとする。
映画「スターリングラード」を意識していることは間違いないと思います。
ただ、当然のことですが映画「スターリングラード」には見られなかった部分もあり、訓練学校の授業の様子(期間は1年間で弾道学などの座学もある)などは割と詳細に描かれています。
そして主人公が女性であるということで、女性の視点での記述も特徴でしょう。
ソ連には他国では見られない女性狙撃兵が実際にいて活躍したし、戦闘機の女性パイロットも実在した。戦後ですが宇宙飛行士の分野でもソ連は早くから女性を起用していました。この辺はお飾りの看板としてではなく、ソ連独特の女性の起用感覚があるようで、それを思い出させてくれました。
また、緒戦ではドイツ兵がソ連女性を、反対に終戦近くではソ連兵がドイツ女性を暴行する場面の両方が描かれています。前提として欲望はもちろんあるのでしょうが、それは仲間の連帯感を深めるためだったとも説明されています。どの国の軍隊も紳士ばかりの軍隊は無いってことを言いたかったのかな? 書いてるのは日本人男性ですから、当然日本軍の従軍慰安婦のことも頭の片隅に置きながら書いてたのかな?なんてことも思います。
この本の中のウクライナですが、同じ訓練学校の仲間の女性がコサックの末裔だということくらいかな?
私なんぞは、コサックと言えばあのコサックダンスを思い浮かべ、単純にソ連もしくはロシアと結びつけて考えていましたが、ウクライナおよび南ロシアに存在した軍事共同体のことなんだそうです。
雑多な知識は、相変わらず雑多なままで格納しておきます。