今回は約200kmに渡り、ヒュンダイグレンジャーの走行テストを行った為、レポートしてみようと思う。
■概要
2005年に韓国において、TGグレンジャーとしてデビューしたモデルを、2006年に国内輸入して販売したモデルである。
日本国内では約300万円という低価格で、クラウンクラスの車両となる為にかなりリーズナブルではあった。
そのグレンジャーを日本国内のタクシー事業者向けに展開したモデルが今回のグレンジャーLPIというわけだ。
実際には通常のモデルはヒュンダイモータージャパンにおいて販売をしているが、このタクシーモデルに関しては、とある事業者が輸入代理元となって販売していたというのは意外と知られていない事実ではある。
この事実の内容はかなり面白い裏話なのだが、内容が内容の為、本稿で解説出来ないのが少々残念ではあるが、ご了承して頂ければ幸いである。
■スタイル、ボディサイズ
全長4895mm×全幅1865mm×全高1490mm。
このサイズはクラウンより、フーガよりも大きいサイズとなっているのだが、実車を目にすると意外とそこまで大きさは感じられない。
フロント及びリアのスタイルはホンダアコード及びインスパイアとかなり酷似しており、オリジナリティは欠けてしまうが、それでも尚、韓国車らしいアクの強さを所々に感じ取ることが出来る。
リア周りに関しては特にテールガーニッシュやエンブレムを明示するなどの処理に未だ90年代の国産車のような雰囲気を残している。
この時代の国産車にはこの手を示すエンブレムを残そうとしない手法が流行り出した為、この辺りにお国柄が出ているように思える。
サイドビューについては、標準仕様のQ270は16インチホイールなので、デザインにアンバランス感がある。
上級グレードのQ270Lパッケージになると、17インチホイールになり、見栄えも向上する。
それでいて新車価格は各種装備が増えた上で30万円差なので、上級グレードのお買い得感は十分にあると思う。
しかしながら、このモデルでも十分に装備が奢られている為、不満は日常の仕様において全く発生しないこと付け加えておく。
日本国内においてはヒュンダイのブランドイメージというのはかなり低いのだが、世界シェアで見るとこのメーカーは実はかなりの上位にある。
その証拠の1つとして、フロントガラスに中国輸出を意味するCCCマークや欧州輸出を意味するEマークが刻まれている。
このような観点から見ても、グレンジャーというクルマは、グローバルに展開されていたことがわかる一つの基準となるだろう。
■インテリア、装備
驚くべきことに、グレンジャーは全てのグレードにおいて、この価格帯ながら本革シートが全車標準装備となっている。
また、このシートは硬さ、ホールド性共にかなり良いレベルにあり、実際に200km程度のドライブでは全く疲れを感じさせない素晴らしい造りであった。
しかし、革の通気性が悪く、蒸れやすい為、エアシートがあればと思うと残念でならない。
この辺りはモデルチェンジされた現行グレンジャーには装備されているので、一歩劣るところだ。
国産車との差異を大きく感じるのは触感で、粗さを感じる。
この辺りは使用される革のレベルが低い為と思われるが、価格を考えると必要十分である。
カーナビはイクリプス製が標準で、イクリプスになった経緯も知っているのだが、この理由にはかなり驚いてしまった。
本来ならかなり書きたい内容なのだが、この辺りも諸事情により、書けないのが残念な限りだ。
スイッチ類の操作性においては、国産車と比較しても全く違和感がない。
敷いて述べると、ハザードスイッチがややドライバー側に設置される点に設計の古さを感じる。
昨今デビューするモデルにおいては、ISOの観点から、助手席の乗員も緊急時にスイッチを押せるようにインパネ中央に配置される傾向がある。
グレンジャー全体においての最大の欠点は実はインパネの耐久性にある。
この個体も例外に漏れず、インパネ表面が割れていた。
事情通によれば、新車1年で割れてしまっていたらしい。
輸入車ならではのエピソードだ。
メーターに関しては、一般の国産車と比べると色使いがやや濃いめである。
視認性はよく、使い勝手は良い。
またLPG車ならではのスイッチも設置されている。
聞くところによると、緊急時に押すことにより、1分後に燃料供給がカットされるスイッチのようだ。
エアコンは左右独立式。
国産車のものと比べると、お国柄なのか、効きが今一つであった。
風量、スイッチの操作性については分かりやすく問題は無い。
褒めるべき点はサンバイザーからさらに小さいシェードが出てくる点にある。
通常のサンバイザーではもう少々面積が欲しいと思うことがあるのだが、イザという時にこれはかなり重宝するであろう。
ヒュンダイ車の特徴として、ヘッドレストがかなり上に伸びていく傾向がある。
今回のグレンジャーはこれでもまだマシな方で、現行グレンジャーを1度だけ乗ったことがあるのだが、それに関しては、頭一つ分位伸びていった記憶がある。
あれは首長族専用だったのか??
パワーウインドウスイッチに関しては、大きさがやや小さめの傾向にある。
使い勝手は最初こそ戸惑うが、なれると気にならないレベルであることを付け加えておこう。
インテリアのデザインで良いところは木目パネルの配置にある。
車内を取り囲むようにラウンドして配置してある辺りは、高級感に加え、囲まれ感の演出が中々の物で、木目の色遣いも明る過ぎず暗過ぎず適度であった。
韓国車ならではのツッコミどころではあるが、書体が非常に独特で笑いを誘う。
リアシートの造りは座面長、バックレストの角度も適度で、座り心地はかなり良い。
さすがタクシーとして使用されるだけの理由が十分に感じ取れる内容である。
このように、足元にもかなりの余裕がある。
関西や関東に行けば、グレンジャーのタクシーは比較的多く走っているので、この辺りは是非乗って実感して頂きたい。
一応、高級車だけのことはあり、センターコンソール後方にはベンチレーターが装備されるが、結局のところ、上記の通りにエアコンの効きが悪い為、グリコのオマケ程度に考えていて欲しい。
■エンジン、動力性能
エンジンは2700cc、165馬力。
V6の為、静粛性もあり、低速から高速域まで吹け上がりは実にスムーズだ。
振動も少なく、現行トヨタ製の2ARなどに比べてもこの辺りは完璧にグレンジャーに軍配が上がる。
但し、3500回転付近で若干のエンジンのこもり音がある。
しかし、それは言われないと全く気にならないレベルだ。
それよりも、一番耳に着くのはアイドリング時の電動ファンのノイズである。
このクラスにしてはライバルに比べると劣る。
これに5段変速のオートマチックが組み合わされるのであるが、かなりフィーリングが良く、ATの変速ショックもある一定のアクセル開度及び、全開時以外はほぼ感じることが出来ない優秀なものであった。
足回りに関しては、現行同クラスの国産セダンに比べるとソフトな印象ではあるが、日常使用においてはむしろグレンジャーの方が快適ではある。
これについてはホイールが16インチだったということも少なからず影響しているであろう。
敷いて言うのであれば、路面の継ぎ目を乗り越えた際に、やや足がバタつく印象がある。
また、やや凹凸のある路面では小さめではあるが、ピッチングが発生するような傾向が見られた。
ロールに関しては、現行型グレンジャーよりも今回のグレンジャーに軍配が上がる。
現行グレンジャーはとにかく足回りが柔らか過ぎて80年代のハイソカーの如くかなり大きいロールが発生する。
ところが、今回のグレンジャーに関しては、国産セダンよりは深いが、現行グレンジャーよりは浅く、筆者の好みとしては適度でかなり良い。
前後のバランスも良い為、高速時のレーンチェンジでの前後の収まりや追従性も必要十分の性能だった。
それにしてもこのクルマで驚かされるのはやはりLPGと言うことであろう。
LPGでイメージするのはやはりパワーの無さだと思うのだが、このクルマは見事にいい意味で裏切られた。
動力性能に関してはこの通り、全く持ってほぼ問題は皆無であるのだが、以下の点に注目してほしい。
一つはボンネットのダンパーなのだが、なんと写真の1本だけで支えられている。
このクラスにしては、普段目にしない場所ではあるが、高級感に欠けるところではある。
またこの辺りにも韓国らしさが出ているのだが、注意書きの書体が胡散臭くて笑えてしまうのである。
何気に取扱説明書も見たのだが、コレが誤字に脱字と書体がの無茶苦茶ぶりで、ヘタなお笑い芸人より笑えるレベルである。
筆者としては、1日中ふかわりょうのライブを見るよりもグレンジャーの説明書を見る方が笑えるレベルだ。
どうしてそこまで面白い物をアップしないのかと言うと、車内に同じ説明書が2冊入っていた為、1冊を譲っていただいたのがその理由である。
この説明書に関しては、後日別にアップ予定なので楽しみに待っていてほしい。
■結論
グレンジャーは新車価格から考慮するとかなりレベルの高い1台になる。
正直、このグレンジャーにディーラーのサービス網、ブランドネーム、耐久性の3つさえ揃ってしまえば間違いなく国産車は1夜にして売れなくなる位の破壊力がある。
では、なぜヒュンダイは日本を撤退してしまったのか??
それはまさしくブランド力が一番の要因にある。
輸入車を想像して頂ければわかる通り、ブランド力で言えば、メルツェデス、ベーエムベー、フォルクスワーゲンを筆頭に一般的には欧州勢だと思う。
しかし、今回グレンジャーをインプレッションするに辺り、街中での注目度が皆無なのは火を見るより明らかであった。
実際に今回はこのグレンジャーを乗るまで、ヒュンダイのイメージにそこまで良い印象を持たない方もいたのだが、イザ乗ってみるとその考えは瞬時に逆転してしまった。
それ位にこのグレンジャーというクルマは乗ってこそその価値がわかる1台である。
是非、今回のレポートを見た方々も、ブランド力に騙されず体験してみて欲しい。
そして車種の好みに捕われず、機会があれば色々なクルマを運転してみて欲しい。
きっと先入観というものは実にくだらないものだと気づかせてくれる-それがグレンジャーである。