この度、1年2ヶ月に渡り、セリカを所有した結果を長期レポートとし、今回記載しようと思う。
■概要
1989年に5代目のセリカとしてデビュー。
駆動方式がFFにバトンタッチしてからは2代目となり、型式はST180系。
今回レポートする個体は、FFの4WS付きグレードの為、ST183型となる。
■スタイル、パッケージング
全長×全幅×全高:4420×1690×1305(mm)
エンジン横置きの為、ノーズは短くても何も問題は無いのだが、スポーツカーの性か、ロングノーズ、ショートデッキのデザインを採用する。
当時としてはかなり最先端のデザインで、市場からは残念ながら先代程の支持を得られず、販売台数的には残念ながら成功とは言い難いところではある。
かくいう筆者も半ば成り行き上で購入したところがあり、当初はこのデザインにどうも馴染めなかったのが本音である。
筆者の好むシャープ感とは正反対とも言える程にずんぐりむっくりとした丸みのあるボディは、スポーツカーとしてはやや重たく感じる程であった。
しかし、所有していくウチにコレに関しては慣れてしまい、特にワックス掛けの後には、独特の曲線を持つボディ面に景色が流れ込む辺りはこの車ならではの個性だと思う位だ。
筆者がスタイル上で特に好みなのはリトラクタブル形式のヘッドライトだ。
開閉時には何とも言えない満足感が得られ、セリカで1番満足度が高い点であった。
また、ヘッドライトからグリルに続くガーニッシュがカーボン調デザインなのも面白い。
コレは前期型のみの特徴で、バブル期ならではの非常に凝った造りが楽しめる。
また、80年代と90年代の境界線を生きたクルマならではで、「TWINCAM16」のストライプは特に80年代臭漂わせる一品である。
残念ながら、高圧洗車機で一部文字が削れてしまい、最早何カムなのかわからなくなってしまった。
当時ではこのクラスでも電動アンテナは当たり前であった。
但し、ラジオONで自動で伸びるまでは良いものの、CDやカセットに切り替えてもアンテナが収納されないのは非常に困ったものである。
実際にアンテナが折れた場合にどうしようもなくなる不安があり、ラジオが極力使用しないようにしていた。
独特な形状のドアミラーは、当時レンタカー等で使用していた会社では、「見にくい」とのクレームがあったそうだ。
実際に筆者が使用した感じでは、独特の形状をしている割には、天地左右共に視界良好であり、問題が無かったことをつけ加えておこう。
サンルーフはガラス製では無く、スチール製のパネルルーフ。
チルト及びスライド機構というオーソドックスなものではあるが、コレが中々絶妙な位置に設置されており、風の巻き込みが少ないと共に、開放感もあり、非常に快適な設計であった。
さらに、意外かもしれないが、冬季に開いていると丁度良いのである。
理由としては、空調ユニットがカリーナEDの物と共用と思われ、EDと比べ狭い車室にカロリーオーバー気味のヒーターだと、車室が熱くなる。
そこに、サンルーフを開放すると、頭寒足熱で実に快適なのだ。
エンブレムに関しては、初期物は、まだCIマークが現在の物と違っている。
現CIマークはセルシオから採用されている為、その数か月前に登場したセリカは貴重な旧ロゴなのである。
また、反対となる位置には「名ばかりのGT-R」と言われてもおかしくないエンブレムが位置している。
スカイラインGT-Rが後方に迫ってきた際は、少々卑屈な思いになったコトを付け加えておこう。
勿論、道は開けないつもりで走っていても、右車線からアッサリと抜かれ、筆者は悔しさのあまり、涙を流しながら、ハンカチーフを食いしばるのである。
ウインカーレンズはスリット入り。
間違ってもガムの銀紙を挟み込んではいけない。
■装備、インテリア
インパネのデザインは独特で個性を感じるものである。
実際の使い勝手は意外とわかりやすくて良いが、一つ付け加えると、ハザードスイッチの場所がメーターバイザーの影に隠れ、見えにくいと共に少々使いにくい。
ナゼ、空調スイッチの方に設置しなかったのだろうか…明らかに視認性、操作性共に向上し、万が一の際に押すことが出来るようになるのだから。
運転席のシートはリクライニングがダイヤル調整式。
スライド、チルト機構付き。
このシートには電動でランバーサポート機構とサイドサポート機構が装備されるが、正直言ってこの車はシートそのものの設計が余りにもお粗末だ。
クッションが堅過ぎすると共に、どの調整機構を使用しても背中ばかりをサポートし、肝心の腰をサポートしない。
結果、3時間も乗車すればとにかく苦痛の連続でとても快適に運転出来たものではない。
今まで運転してきた中でも5本の指に入る程にお粗末なシートである。
表皮の素材、掃除のしやすさは良い。
リアシートは+2的な役割なもので、オマケと思って良いだろう。
荷物置き場として考えた場合は、シート座面が適度に傾斜している為、置きやすいのが特徴だ。
ラゲージスペースは日常使用においては、深さ、奥行き共に必要にして十分だ。
引越しも楽々こなせる点にはかなり驚かされた。
但し、開口部が高い位置にある為、重量物を搭載する際にはかなりの力が必要だ。
ハッチの開閉性は、リアスポイラーが取っ手代わりとなり、意外と軽い操作力で開閉可能だ。
さらに嬉しいところは、トランクスルー機構付きで、少々無理をすれば車中泊も可能。
セリカで車中泊で旅行をするのは筆者の楽しみとなっていた…コレでシートが良ければ正真正銘のGTカーとなるのだが…。
スイッチ類で不満だったのは電動格納式ドアミラーのスイッチがアームレストに装備されていることで、助手席に置いた鞄を取る際に、スイッチに当たり誤作動することが非常に多かった。
余りにも誤作動が多かった為、筆者は途中からカプラーを外してしまった。
カップホルダーはオーディオスペースに装備されているのだが、なんとこの当時の規格ながら偶然には500mlのペットボトルが入ったことだ。
コレは現行車ユーザーだと何とも気にならない内容かもしれないが、旧車ユーザーにとっては助手席にペットボトルを投げずに置くことが出来るというのは非常に有難いトコなのだ。
尚、筆者は緑茶よりもウーロン茶、それよりも写真の太陽のマテ茶を好む。
ガレージに寄られる際は差し入れにマテ茶を持って行くとよい。
尚、差し入れは上記に限らず常時募集中だ。
普段スーツを着用しない筆者だが、数回ハンガーフックも使用してみた。
しかし、掛かりが浅く、また車内寸法の天地方向が狭い為に、段差に差し掛かった際にハンガーが外れるケースも見られた…あくまで飾りと考えておこう。
面白いのはエアコンレジスターにシャット機能だけではなく、外気取り入れ機能まであるところだ。
実際のところ、特にメリットは感じることが出来なかった。
まぁ、他の車種に採用されていないところを見ると納得の装備でもある。
■動力性能
エンジンは3S-GE型、1998cc、165馬力。
1気筒辺り500ccあるコトにより、トルクは低回転から十分で、意外と高回転までリニアに吹け上がる。
しかしながら、低回転域の音はそこら辺の乗用車と同じく無個性なもので、柔らかめの足回りと相まってタクシーに乗っているようなフィーリングであった。
見た目とのギャップを特に大きく感じた次第である。
高回転域になると、カン高い音で中々のものであるが、残念ながら、当時のシビックと比べると、メリットは低回転域のトルクのみで、ホンダB16Aの方がその他の作りが圧倒的に良い。
コレに関しては、セリカのエンジンが決して駄作という訳ではない。
セリカのエンジンも十分に良いのだが、それにも増してホンダのエンジンが良過ぎるのだ。
燃費に関しては、ハイオク使用で、平均燃費が9.58km/l。
最高で13.71km/l、最低で8.26km/l。
数値上では良いように感じるが、実際のところハイオク仕様なので、前車GS121クラウンよりも燃料代が掛かる。
最初はもう少々燃費が伸びるかと期待したが、実際は思ったより伸びなかった。
ちなみに燃費でもシビックに劣る。
搭載されるミッションは5速マニュアルだが、コレがとにかく出来の悪いミッションである。
縦方向のシフトストロークが無駄に長く、そして引っ掛かりが非常に多い。
どうやら、設計時にシフトレバーを短くしていたそうだが、それだとシフトレバー荷重がトヨタの社内規定に引っ掛かると言うコトになり、急遽長くされたようだ。
しかしながら市場に出回ると、ユーザーからのクレームが相次いだそうで、2年式以降はややショートストロークになっているそうである。
とにかく筆者はこの最悪なシフトフィーリングに最後までしっくり来ることは無く、手放したくなった最大の要因でもある。
この時代のトヨタFFモデルはどれもシフトストロークが長めである。
しかし、同時期のAE92カローラレビンなどはそれでもシフトが思うように入るのである。
セリカは残念ながら全く持ってダメな造りのミッションだ。
また、今回の個体はデュアルモード4WS装着車であった。
実は、デュアルモード4WSはGTーRには標準装備で、装着されていない個体はレスオプションである。
ノーマルモードでは40キロまで逆位相、それ以降は同位相。
スポーツモードではその切替が60キロになるだけである。
最大切れ角は5度。
コレは非常に便利が良く、筆者は常時スポーツモードで使用していた。
街乗りではとにかく小回りが効く為、Uターンが楽しくなる。
バック駐車は最初こそ戸惑うが、慣れるとこれまた面白い。
慣れない人にはバック時のみのキャンセル機構も付いており、良心的である。
但し、この4WSは高速走行時の急速なレーンチェンジには不向きなようだ。
リアの動きがワンテンポ遅れる為、安定性に欠け、不安感がある。
さらに、全体的に足回りが柔らかい為に、その不安感は増す一方である。
ブレーキに関しては、ノーマルのままだと14インチのタイヤのキャパが低いコトも相乗し、効きも悪い。
途中から、ウェッズのストリートパッドに交換したが、コレが中々の一品で、タッチ、コントロール性、耐フェード性共にかなり向上した。
振動、騒音面に関しては、FF車というコトを考慮してもかなり良いものであった。
少なくとも、全般的に鉄板の薄い現行車よりも明らかによく、変なこもり音が発生しないところなどはやはりバブル期ならではの設計の良さを感じる。
サンルーフを開放した際に、風の巻き込みによるこもり音が常用速度域で発生する傾向にはあるが、その辺りは次第点だろう。
■総括
約1年2ヶ月、2万kmに渡り通勤に使用したが、やはりバブル期ならではの設計、造りの良さを感じた1台だ。
しかし、残念なのは最悪と言えるお粗末なシートとトラック以下のシフトフィーリングである。
体に触れる、又は操作する部分の完成度というのは非常に重要なもので、どんなにその他の設計が良くてもそれだけでクルマは台無しになってしまうという例である。
そのような意味ではセリカは非常に残念なクルマだ。
当時最大のライバルであるシルビアはこれより軽く、操作性は明らかに良かったのだから売れたのも納得である。
但し、シルビアもシートの出来はソコまで良くは無い…セリカよりマシ。
後はやはり筆者がFF車に馴染めなかったという点が大きいだろう。
なにはともあれ、この1年2ヶ月は色々あり非常に楽しめた。
やはりクルマは自分で身銭を切り、生活を共にすることにより、真の良さを発見出来るものなのである。