今回は、GX71の代車として1週間ではあるが、初代アルトラパンで過ごしてみたのである。
■概説
2002年にスズキが主に若い女性をターゲットに販売を開始した軽自動車がこのアルトラパンである。
内外装にややレトロチックなデザインを施し、各部に生活雑貨をイメージさせるパーツを装着させる事により、登場するや瞬く間にスズキの目論見通りアルトラパンはそれなりのヒットを生みだした。
モデルチェンジと共にターゲットユーザーが変動しがちな日本車としては珍しく、ラパンはその後も2度程のモデルチェンジを行いながら現在もターゲットユーザーはそのままに進化を続け、メルツェデスのように独自のキャラクターを築いているのが特徴である。
世間一般では「ラパン」という名で親しまれているクルマだが、実際のところ「アルトラパン」というのが正式名称であり、アルトファミリーの一員なのである。
アルトとしての販売台数を増加させる為に、スズキとしてはこのレトロ風な軽自動車にアルトのサブネームを用いたと推測するが、このネーミングだとどうもお買い得感やボンヴァン的なイメージが湧いてしまいこのクルマの印象にそぐわない感じがすると思うのだが。
なお、今回の車両はその中でも初代の一番最初に登場したモデルで、「X2」という最上級モデルである。
■パッケージング、スタイル
全長3395mm、全幅1475mm、全高1510mm、ホイールベース2360mm。
ボディは5ドアハッチバックのみ。
最上級グレードのX2というこのモデルは、ルーフにホワイト塗装を施し、ツートーンカラーとした仕様である。
ホイールも白塗装の専用品となるのが特徴だ。
一見してこのボディカラーが特にそう思わせてしまうのだろうが、コイツはミニクーパーになりたかったようにも思う。
各ピラーが天に向かってまっすぐと延び、各グラスエリアが広く取るコトが可能となった。
しかしながら、フロントピラーをやや立たせ過ぎた背反であろう、60キロ以上になるとフロントピラー周りの風切り音が大きくなってしまったのである。
空気抵抗は自然と大きくなり、この手のコミューターとしては悲しいかな燃費が悪かったのである。
このクルマのエンブレムはフランス語で「Lapin」、つまりウサギという意味なのだ。
一文字変えてしまうと、伝説の大泥棒となってしまうので注意が必要である。
■インテリア
ラパンのインパネはこの時代にしては珍しく直線基調で、前面は白い塗装が施され、レトロモダンな印象を与えるが、ふと目を向けると、半月状のいかにもイタリアのエキゾチックなスポーツカーに与えられるであろうデザインそのもののベンチレーターが備え付けられている。
ドライバーズシートに腰をかけると、コレが中々当たりの良いシートで座った瞬間こそ、「軽自動車もなかなかのものだ」と思わせるものがある。
しかしながら、このシートの残念なところはフルフラットの機能を活かしたいが為にシートバックの高さが低い。
当然ながらヘッドレストの高さも低い位置に備え付けられるので、万が一のアクシデントで本来の機能を発揮出来ないのである。
リアシートも然り、悲しいかなフルフラットを演出したいが為に同様の状況である。
しかしながら、足元は広く、とりあえず4人が座って移動が可能な空間は出来ているのである。
ただ、背丈がそれほどにも無い私でも、さしずめガリバーになったような気分だった。
インパネに再度目を向けると、メーターの右横に、生活雑貨のような演出したいのかアナログの時計が装備されている。
こいつは緑の光で照らされ中々に格好の良い演出である。
ジャグワーのようなクラフトマンシップこそ感じはしないが、この時計がこのクルマを演出するのに一役買っていることは間違いないだろう。
エアコンパネルはシンプルながらも扱いやすいダイヤル式の機構で、直感的に扱うならこれが一番であろう。
そしてメーターに目をやり、トリップメーターのリセットスイッチを数回押すと写真のような表示が私の前に出てくるではないか。
私はどうせスズキのことだから経年劣化でメーター表示が壊れたものだと疑っていた。
しかしながら、どうやら壊れていたのは私のほうであり、どうやらこいつはメーター照明の明るさ調整が出来るものらしい。
間違いだらけなのは私のほうだ。
そして足元に目をやると、カップホルダーが装備されているのだが、こいつがなかなかに凝っており、前方のフタを開くことにより、なんともう一つのカップホルダーが出現するのだから大したものだ。
そしてこいつは当たり前のようにリアシートの乗員用にも備え付けられているのである。
ただし、いかんせんもう少々ユーザーに目を向けて欲しいと思ったのはサイドブレーキレバーの位置が低過ぎるコトだ。
シートバックの高さは話にならないが、座った瞬間に全てのスイッチやレバー類が届くと思われたが、こいつの位置だけは最後まで惜しいと言わざるを得なかった。
しかしながら、この辺りもメーカーは遅ればせながら気付いたようで、後にフットブレーキ式の機構へと改められている。
そして運転席側のみではあるが、女性ユーザーを意識したのであろうバニティミラーが装着されている。
ただ、この辺りでもスズキの軽自動車と言ってしまうと語弊が生じるかもしれないが、まるで貼り付けたようで見栄えが全くもってよくないのである。
特に酷いのは、この車ならではの演出が出来るであろう助手席側の引き出しの建付けの悪さにある。
一般的なグローヴボックスなるものは勿論備え付けられているのだが、それとは別に引き出し式の収納がこのように設けられているのである。
小物を入れてみたり、時には助手席のパートナーを驚かせてしまうようなサプライズメッセージを隠してみるのもまた演出だと思う。
この引き出しの有無で、このラパンが醸し出す世界はまた一味別のものになると私は思っている。
それなのに、その要となる物がこのように隙だらけの建付けだと一転して台無しとなってしまう。
折角のアピールポイントをこのように台無しにしてしまうのは実に勿体ないことだと私は思ってしまうのである。
室内には一通り目を向けたので、今度はラゲッジスペースに目を向けてみようと思う。
昨今の軽自動車は室内の広さを各社アピールする傾向にあるのだが、それはラゲッジスペースを犠牲にしたスペースユーティリティでだと思っている。
ラゲッジスペースを犠牲にした結果、広大なリアシートスペースを設けたのは、メーカーの目線で見ると大いに結構なのかもしれないが、反面、後面衝突時の際、リアシートの乗員の頭部障害について考えているのかについては大いに疑問だ。
その点、このクルマはまだまだ言葉通りのラゲージスペースを占有しており好感が持てるのである。
細かいところで言えば、ラパンはリアゲート左右にダンパーを設けているのはメーカーとしての良心だと私は思っている。
■ドライブフィール
この車両に搭載されているエンジンは以下の通りである。
K6A型…直列3気筒660cc12ヴァルブツウィンカム、54馬力、6.4kg-m。
驚くべきことにスズキはこのような女性向けのコミューターに1気筒辺り4ヴァルブのツウィンカムエンジンを与えてしまったことである。
メルツェデスやべ―エムベーをも圧倒するような機構で凝りに凝ったメカニズムだが、1気筒辺りの排気量に影響が出てるのか登坂ではさすがにパワーに今一つな感じが否めない。
そして、今回気になったのは、30キロ以上且つ0.3G以上のブレーキングで停止まで行った後、終始エンジン振動が大きく不快だったことにある。
私はこれをエンジン前後方向に配置されるマウント容量からの影響かと思っていたのだが、どうやらこれはアイドルスピードコントロールヴァルブの調子が悪いと対応出来ずにこのような現象が起きるのがこの手のK6Aエンジンの常らしい。
私はまだまだ勉強不足なのが垣間見える瞬間である。
どうやら間違いだらけなのは私のようだ。
しかしながら、前述の通りフロントピラーが立っているのが災いしたのか、燃費は約13キロ台半ばとなってしまい、予想より悪かったのである。
そして間違いだらけの私が載った今回のエンジンには4速のコラムオートマチックが与えられる。
このオートマチックは中々ではあったが、下り坂での減速時には意に反し時折1段シフトアップするような様を見せたのである。
本来なら停止する為にエンジンブレーキを効かせるであろうこの瞬間に意に反した制御をしてくる辺りは当時のオートマチック・トランスミッションとして考えるとまだまだ発展途上であったのだろうと思われる。
足回りはフロントがストラット、リアは3リンク式でスズキで言うところのI.T.Lという定番の機構を採用している。
直線をただ定速でひた走る場合には、終始微振動をダンパーが拾わずに突っぱねる印象で、いかにもただ固い足でありしなやかな印象は皆無であった。
すると、コーナーに差し掛かるとこの足回りは一気に腰砕けとなり、柔らか過ぎるダンパーと相成ってなんとも頼りないコーナリングを行うのである。
コストの折り合いもあろうが、この辺りもう一つフランス車的なソフト且つ粘りのあるキャラクターを外観通りに保って欲しかった次第である。
更に気になったのは電動パワースティアリングの制御である。
なんと45km/hを境に不自然に重みが増すのである。
その結果、ステアリング中心からの切り始めの際に妙な引っ掛かりを感じてしまう。
どうやら予想するには直進安定性を増す為に中心点辺りのフィールを重くしたのであろうが、スティアリングというものはどの切れ角から切ったとしても重さは一定なものが一番自然かつ扱いやすいものである。
このように妙に直進安定性を増すようなセッティングに仕向けたようなスティアリングは、最早アシスト機構として見れば不自然極まりないものだと思う。
■結論
かのように女性ユーザーをターゲットとして登場したラパンは瞬く間にスズキの予想した通りの好調なマーケティングとなった。
しかしどうだろう、モデルチェンジを重ねる度にラパンとしてのキャラクターが若干薄まりつつあるように渡りは思ってしまう。
今はハスラーの廉価版だけのように見えてしまうのは私だけであろうか。
折角の初代で築いたであろうこのキャラクターを今後のモデルでどのように昇華させて行くのかは今後のスズキの腕の見せ所だと私は思っている。
ルパンのようにユーザーの心を奪って行ってしまうような未来の陽気なウサギに会えることが出来たなら私もついつい浮足立ってしまうものだ。
それは当のスズキのサジ加減次第なのだが。