■概要
今回は沖縄で人生初のレンタカーを借りることとなった。
そこでまず手を出してみたのが、このザ・ビートルカブリオレである。
2013年式のカブリオレ国内導入開始直後の個体で走行距離は70000㎞。
メカニズムはゴルフⅥを踏襲しており、基本的な話はゴルフそのものなのだが、やはりVW、走る・曲がる・止まるに関しての性能は見た目のパイクカー感とは裏腹に、徹底的に煮詰められておりメーカーの良心、ポリシーを感じ取ることが出来る。
反面、比較的過走行…そして渋滞が多く速度の乗りにくい国土ならではの高負荷条件等の要因が重なり露呈した耐久性の面においても後述で触れるとしよう。
■エクステリア
全長×全幅×全高=4270×1815×1485(mm)
上記スペックを見る限りではワイド&ローな感じである。
しかしながら、このクルマは数値なんてものが全く意味をなさず、歴代続くビートルが持つ愛嬌を的確に体現している。
威圧感を大きく感じることがある眼光鋭いヘッドライトと対極を行く、愛らしさタップリの丸味を帯びたヘッドライトは「移動の為に要するツール」という自動車としての最低要件を超越し、「相棒、家族、仲間、親友」等というフレーズが似合うであろうキャラクターへと成立させている点は流石である。
写真ではオープンにしているのだが、敢えてメタルトップにせず、初代からの伝統を重視したのか幌にしたのもこのクルマのキャラクターを成立させる点として敢えて一役買っているかと思う。
確かに防犯という面に関しては明らかにメタルトップに分がある訳だが、幌ではないと感じることが出来ないビートルならではの「味」がある。
テールレンズはタイプ1での小判型でも無ければニュービートルの円形でもない、歴代モデルのどれにも似つかない独特な形状だが、それでもフェンダーのフレア形状に従来型の雰囲気が出ているからか、何も違和感なく収まっている辺りは中々だと思わせるものがある。
その他、外観上は現代車ならではと言えるクリアランスソナーがリアバンパー上に装備されているが、他社と比較し小刻み過ぎてウルサイと感じるブザー音やBMWのようにセンサー検知範囲の見える化が出来てない辺り、このような細かい技術でVWは今一つ煮詰めが欲しいところである。
■インテリア、装備
シートは本革張りでフィット感サポート性共に十二分と言えるもので、長距離の移動でも疲れを感じないとても良く出来たものだ。
敢えて注文を付けるならアームレストがやや寸足らずな為、ゴルフⅦのように伸縮可能なタイプだったら尚のこと良かったのかもしれない。
インパネはボディカラー同色のパネルが奢られており、初代ビートル…すなわちタイプ1のような鉄板剥き出しだった時代の物をオマージュしつつも、その見た目は決してチープではなく、高品質感を出すことに成功している。
インパネ右側には欧州車特有のダイヤル式のヘッドライトスイッチにヘッドライトレベライザーのダイヤルが装備されている。
操作性はゴルフ同等。日本車から乗り換えた場合はいつもの通り慣れを要する。
メーターはシンプルに左から、タコメーター、速度計、燃料計という非常にシンプルな構成。
各メーターとも比較的大きいこともあり、視認性は昼夜問わず抜群であった。
その他、必要項目は都度速度計下側に配置されたインフォメーションディスプレイで確認するようになっている。
最も、今回の個体はシティエマージェンシーブレーキ等の各種先進装備が無い為、表示される項目数は殆どない。
エアコンパネルは操作性に優れたダイヤルパネルで、温度や風量の調整は容易だが、反面風向の切替ボタンが小さく、都度目視確認が必須なのが欠点だ。
切替ボタンの両端にはシートヒーターのスイッチがあり、温度調整は3段階に渡り可能。
外気温が20℃を下回った夜間にTシャツを着てオープンで走る際には非常に重宝した。勿論効きは十分。
さて、運転席に座り目線を上に上げると、自動防眩式のルームミラーに、スポットランプを兼ねたルームランプ。
更にルーフの開閉レバーがある。
ルーフの開閉は非常に容易で、スイッチの押引で僅か10秒程で完了する。
幌自体の対候性、静粛性も十分な性能を確保していた。
実際にバイパスで巡行しても、幌のバタツキは無く、助手席との会話も普段通りの声量で十分にコト足りるのである。
インパネ助手席側上段に収納ボックスがあるが、ガッチリとしたリッドに、それなりの容量が確保されている。
この奥に助手席エアバッグも当然の如くある訳だから、中々である。
そして当然のようにインパネ下段にグローブボックスが装備される。
容量はさして大きくないが、それでも車検証に取扱説明書は十分に収納することが可能。
リアシートはシートバックが置き気味な上、元々が+2的な考えであろうこのオープンは当然後席のレッグスペースは狭くなり、最早荷物置き場と考えた方が妥当である。
万が一座ったとしても1時間も耐えれれば十分だろう。
そのようなエマージェンシー用と考えても良いであろうリアシートでも12Vのシガーソケットとカップホルダーはナゼか1名分だけ用意されている。
トランクリッドはこれまたゴルフ同様、エンブレム下部に手を入れて引き上げる方式だ。
見栄えが良い反面、手は挟む構造の為、良いとも悪いとも言い難いところではある。
さて、小さなトランクリッドを開けるとトランクリッドは2本のダンパーで支えられている上、トリムも惜しみなく奢られている。
トランク容量は決して大きくなく、写真のようにスーツケース1個とバッグを1個入れるとソレだけで容量の6割位が食われるようになった。
しかし、実用性もしっかりと考えられており、なんとトランクスルー機能がある。
コレにより2人の小旅行ならば居住性、ラゲッジスペース共に容量は十分と言える。
■動力性能
VWザ・ビートルカブリオレに搭載されるエンジンは以下の通りである。
CBZ…直列4気筒1200㏄SOHCターボ、105馬力、17.8kg-m。
コレには7速のDCTが搭載される。
足回りはフロントがストラットでリアが4リンクサスである。
実際に100㎞程度乗り回した訳だが、その乗り味はまんまゴルフであるの一言に尽きる。
エンジンのカムの本数の違いはあれど、パワー感の違いはほぼ皆無と言える物である…少なくとも2000回転まではそうだった。
惜しむらくは、今回の個体は調子が悪く、2000回転前後からアクセル開度を4分の1も開くと、突如としてエンジンが息継ぎを起こす為、それ以上に加速出来なかったコトである。
最終的に返却するまでついぞこのエンジンの特性を全体的に掴むコトは出来なかった。
しかし、今回このクルマでの特筆すべき点はオープンボディにも関わらずガッチリとした高剛性を保っていたコトで、コレには心底驚いた次第だ。
何しろ高速道路でオープンで走行した際でも外乱によりボディがワナワナと震えるコトがなく、車体はガッチリと安定して狙ったラインを走行するのである。
少なくとも今まで乗ったオープンボディではレクサスIS350cでさえワナワナと震える場面があったにも関わらず、それ以上の剛性感は明らかにあったのだ。
やはり鋼板の使い方、コストの掛け方に違いが見られるのだろう。
参考ながら、今回は約100㎞程度を走行。
燃費はリッター辺り13.7kmであった。
■結論
タイムリーな事にココ最近、ザ・ビートルの生産が終了し、同時にモデルライフの幕を閉じるコトとなった。
タイプ1ビートルの「国民車」という概念に対し、ニュービートルとザ・ビートルのオマージュ的パイクカーはその成り立ちは全く違ったものではあるが、結果的に「ユーザーに愛され、周囲を幸せにするクルマ」としてこの3台は同じDNAを持っていたのではなかろうか。
ザ・ビートルは惜しまれつつ有終の美を飾った訳だが、残念ながらこの愛らしいキャラクターの後継の話題はまだ出ていない状態である。
少なくとも次期モデルが出るとしてもEVになるのだろう。
パワーユニットが何であろうと構わないので、早いとこ人々に幸せをもたらす次期ビートルが登場しないかと切に願ってしまう。
この愛嬌溢れる姿にどうも自然と魅了されてしまう辺り、ザ・ビートルというクルマは中々にニクイ奴である。