今回、代車としてアルトラパンSS(以下=ラパンSS)を借りる機会があったので、以前掲載したノンターボモデルにやや加筆を行うような内容で以下に残しておきたいと思う。
以前掲載したノンターボモデルに関してはコチラをクリックして欲しい。
■概説
2002年にスズキが主に若い女性をターゲットに販売を開始した軽自動車がこのアルトラパンである。
内外装にややレトロチックなデザインを施し、各部に生活雑貨をイメージさせるパーツを装着させる事により、登場するや瞬く間にスズキの目論見通りラパンはそれなりのヒットを生みだした。
モデルチェンジと共にターゲットユーザーが変動しがちな日本車としては珍しく、ラパンはその後も2度程のモデルチェンジを行いながら現在もターゲットユーザーはそのままに進化を続け、メルツェデスのように独自のキャラクターを築いているのが特徴である。
その歴代ラパンのモデルライフにおいて、初代にだけ異端児とも呼べるモデルが存在する。
それこそが今回借りた「SS」というスポーツモデルである。
このSSは2003年の2型と呼ばれる一部改良時に追加されたものであり、それまでは可愛らしさを問われたモデルの中に突如現れたとてつもないオテンバ娘なのである。
■パッケージング、スタイル
全長×全幅×全高=3395×1475×1495mm、ホイールベース2360㎜。
ボディは5ドアハッチバックのみ。
今回のラパンSSは代車と言えど代車にあらず、通常のお客に貸し出すことはまず無く、顔馴染みのみになっているようである。
上記により、このラパンSSは数々のモディファイが加えられており、まず目に付くのは後期型のLグレードに用意された専用のフロントグリルへと交換されている。
通常ならメッシュグリルで精悍な表情のラパンSSだが、これだけで一気に気品が上がったかのように見え非常に好感が持てた次第である。
リア回りを見た感じでは通常モデルのラパンと何ら変化の無いスタイルである。
各ピラーが天に向かってまっすぐと延び、各グラスエリアが広く取るコトが可能となっている。
しかし、乗り込めば分かるが一体そこまでの室内高を必要としたのだろうかと思う程に頭上に余裕が残ってしまう。
やはり、ピラーが立っていることもあり、空気抵抗は大きめなのだろうから、以前述べたとおりで計算こそしてはいないが燃費はやや悪い傾向にあるのだと思う。
フロントフェンダーにはチェッカーフラッグのマーク、その横に赤いSSの文字が並ぶ。
筆者は視聴したことはないが、決して「二の呼吸、兎の舞」などと先取りした訳ではなく、あくまでレーシーな雰囲気を取り入れたものだ。
ところで、このラパンSSの「SS」とは一体何の略なのであろうか?
ルーツを辿ってみると、フロンテSSの場合は(ストリート・スポーツ)のようなので恐らくそれに倣ったものであろうと推測する。
ふと気になったのだが、アルトはイタリア語で「秀でた」という意味で、ラパンはフランス語で「ウサギ」という意味、そして英語で(ストリート・スポーツ)となり、実に車名だけで3ヶ国も混合するのである。
いかにも滑稽な感じがしなくもないが、思い返すとそのような車名は世界中に星の数ほど存在するので、そこまで違和感を抱くものでもないのであろう。
ドアミラーはややクラシカルな印象を抱く砲弾タイプの形状となっている。
雰囲気だけなのかもしれないが、このような遊び心は嬉しいし、何よりSSの雰囲気に非常にマッチしている。
それでいて視認性も十分なものである。
■インテリア
さて、このSSは通常のラパンと違い、専用のハイバックタイプのバケットシートが前席に装備される。
このシートはどうやら通常モデルよりも僅かながらヒップポイントが下げられているようだ。
やや低位置で着座し、気持ち立ち気味のステアリング、そしてこれまた立ち上がったピラーの位置関係から、幼少時に体験したローバーミニのような感覚を彷彿とさせた。
イタリアン且つフレンチな車名にアメリカンなグレード名、ソコにブリティッシュなドライビングテイスト。そんな日本車である。これで5か国だ。
インパネはSS専用でシルバー塗装されている。
本来、塗装が剥がれた際のみすぼらしさを嫌い、筆者はこのようなシルバー塗装を嫌う傾向にあるが、このクルマにはこのシルバー塗装が実にマッチしている上に、円形のフルシャットベンチレーターがまたこの雰囲気をより一層良いものにしている。
メーターも専用のSSが入ったホワイトメーターで、更にその右には通常モデルでは時計が入る部分にタコメーターが装備されており、レーシーな雰囲気を一段と盛り上げている。
但し、時間は分からなくなってしまうが。
タコメーターの右には、オーナーの好みでHKS製のブーストメーターが綺麗に装着されていた。
踏み方にもよるが、おおよそ2000回転からブーストが立ち上がり、最高で0.8キロのブーストが掛かっていた。
ステアリングコラム左側にはコラム式シフトレバー並びにワイパースイッチが装備される。
ワイパースイッチはフロントが間欠時間無段階調整式、リアが間欠式とこの時代の軽自動車としては結構豪華な物が装備される。
エアコンパネルはシンプルながらも扱いやすいダイヤル式の機構で、直感的に扱うならこれが一番であろう。
但し、欲を言えばもう少々上に位置した方が操作性は上がるのであろうが、見た目のバランスも考慮してこのように配置されたのであろう。
そして足元に目をやると、カップホルダーが装備されているのだが、こいつがなかなかに凝っており、前方のフタを開くことにより、なんともう一つのカップホルダーが出現するのだから大したものだ。
さらにこいつは当たり前のようにリアシートの乗員用にも備え付けられているのである。
助手席側にはグローブボックスとは別に引き出し式の収納が装備される。
通常のラパンではやや可愛らしい演出で中々のものだと思ったが、これがSSになると特段この装備について何も思わなくなってしまった。
前回指摘した建付については今回のSSでは気にならなかったので、推測ではあるが個体差によるバラツキだと考えられるフシがある。
リアシートに関しては前回のラパン同様。
但し、今回のSSはリアシートバックが分割可倒式になっているのが違いではある。
室内には一通り目を向けたので、今度はラゲッジスペースに目を向けてみようと思う。
昨今の軽自動車は室内の広さを各社アピールする傾向にあるのだが、それはラゲッジスペースを犠牲にしたスペースユーティリティでだと思っている。
ラゲッジスペースを犠牲にした結果、広大なリアシートスペースを設けたのは、メーカーの目線で見ると大いに結構なのかもしれないが、反面、後面衝突時の際、リアシートの乗員の頭部障害について考えているのかについては大いに疑問だ。
その点、このクルマはまだまだ言葉通りのラゲージスペースを占有しており好感が持てるのである。
この内容は前回の内容をコピー&ペーストしただけなので実に手抜きだ。
■ドライブフィール
この車両に搭載されているエンジンは以下の通りである。
K6A型…直列3気筒660㏄12ヴァルブツウィンカムターボ、64馬力10.8kg-m。
元々は女性向けのコミューターとも言えるラパンにスズキはアルトワークスから継承されるツウィンカムターボを与えて過激な方向へとシフトした。
これにコラム式の4速オートマチックが与えられる訳だが、相性は抜群とは言えず、出足でヨッコラショとワンテンポ遅れて走り出すのである。
無論、ターボということもあり圧縮が低いので出足は尚更つらい。
これは以前ドライビングする機会のあった5速マニュアル仕様では感じなかったことだから恐らくオートマチックの1速ギヤ比に要因があるように思う。
しかし、2000回転を超えた辺りからブーストが掛かると中々の加速をするので、この辺りは通常のラパンとはまるっきり話が違ってくる。
とくにこのクルマの気持ちがいいところは、40キロから60キロ辺りでの追い越し加速で、この辺りが一番のファンなところではある。
但し、それ以上になるとやはり立ったピラーも関係するのか、加速はそれなりとなってしまい、取り分けこのオテンバ娘には、ストリート・スポーツという言葉がまさに間違いないように聞こえてくるだろう。
足回りにはTEINの車高調が組み込まれている。
この車高調の動きとしてはとかくしなやかであり、前席に乗車する分に関しては路面からの入力を適度にいなし、非常に気持ちの良い仕事をしてくれる。
しかしながら、リア側に関してはフルストロークする前に気持ち大きめの入力で早くも強烈なバンプタッチをしてしまう。
理由としては、前後に装着されたBBSのホイールにブリヂストンのプレイズ、165/50R15の組み合わせが関係している。
あくまで見た目のバランスに拘った今回のクルマは、その見た目と引き換えに大きめの入力時にホイールハウスとタイヤが接触してしまう懸念に見舞われた。
そこで、リア側に関しては接触する前に早めのバンプタッチで事を済ませるように手が加えられているという訳である。
よって、後席の乗員はリアからの大きな突き上げに肝を冷やす場面もあるだろうが、このような代車を借用させて頂くだけでも十二分に贅沢な事だから、そのような些細なことを気にするのは全くもってナンセンスなのである。
故に、この痛快な代車はこれらの事情、扱いを理解した者にだけ貸し出すようにしているのだそうだ。ごもっともである。
■結論
概要で述べた通り、このラパンSSというクルマはラパンシリーズきっての異端児であるのだが、このラパンSSに心を熱くするファンは未だ持って多く存在している。
思うに、和製ミニと言えるような独特の着座感やターボが効きだしてからの痛快な加速が人々を虜にするのだろう。
この車両から漂う愛嬌もしかりである。
そんなことを思いつつ、現行のラパンを目にしてみるとこれがどうも筆者にはパッとしない。
人の好みは十人十色なので、現行ラパンのスタイルが好きな方も当然多く存在する。
しかし、私的には現行ラパンの車両を囲むように無塗装樹脂のプロテクターに覆われているあの姿にどうも好感を持てない。
いつからどの車種を起点に採用され始めたか定かではないが、元々「〇〇クロス」や「クロス〇〇」等のSUVチックな車種にワイルドさをアピールしたいのか、無塗装のオーバーフェンダーが採用されだして今日に至っている。
そしてなぜだか現行ラパンはチャーミングな外観になぜだかSUVチックな無塗装のプロテクターを纏ってしまった。
更に時は流れ、今やプレミアム系SUV等が無塗装では経年劣化でシミになるのを嫌ったのか、はたまた安っぽく見えるからなのか、カラードのプロテクターを設定したりしている現状がある。
そして次期ラパンがどうなるのかは分からないが、ひょっとしたらこのプロテクター類をカラードにしてくるのかもしれないと思うと実に滑稽でならない。
そのようなマッチポンプな改良等行った場合、最初からそのような物など付ける必要はまるでなく、ただのフェンダーで問題無かったということになる。
今後のラパンに期待したいところではあるが、とりあえず現状はアルトワークスが存在する限り、ラパンというブランドネームにSSという存在はもう2度と出ないだろうと思っている。
そう思うと実に貴重な1台だと言える。