先日、島田商会の嶋田社長のご厚意により、センチュリーを30km程ドライブする機会があった為、今回、レポートしようと思う。
■概要
1997年にトヨタが発売した、2世代目のセンチュリー。
型式をGZG50という。
今回レポートする個体は、平成15年式のもので、走行距離は34万kmであった。
センチュリーという車種は、価格こそ新車で1200万円台と、同社で生産するレクサスLS600hLよりも300万円程度安いのではあるが、その車格では未だにトヨタではフラッグシップと位置づけられている。
レクサスがどんなに価格の高い高級車であろうと、量産車であり、センチュリーは職人による手作業で作られている箇所が多く、利益を重視するトヨタにとってはかなり異例である、販売台数が増えるにつき赤字という、大バーゲンのような車種でもある。
また、購入の際にはトヨタ自身が顧客の職業や収入を審査した上で販売するというのもトヨタがセンチュリーという商品を大事にしているということがわかる部分でもある。
以下、詳細をレポートしていきたい。
■スタイル、パッケージング
全長×全幅×全高:5270mm×1890mm×1470mm
スタイリングは全く新鮮味の無い、古典的なものではあるが、他車とは比較にならない、威風堂々という言葉がピッタリなものである。
上記の通り、数値上ではかなり大きいように感じるが、実際に見ると数値程でもなく、ドライヴァーズシートに収まってみても、視界がかなり良く、取り回しは非常に良好であった。
ボディカラーのネームは摩周(ダークブルーマイカ)で、センチュリーはこのようにボディカラーのネームが唯一漢字で表されている珍しい車種である。
その他、神威(黒)、瑞雲(グレー)などある。
全体的にそうなのだが、1967年に登場した初代センチュリーをオマージュしたデザインなので、全く持って現行モデルなのに新鮮味を感じない。
しかし、古臭いというわけでも、例えるなら日本人にとってのご飯と味噌汁である。
進化せず、退化せず、それが当たり前と思わせるのが、他車と一歩違うところではないのだろうか??
その中でも、センチュリーのデザインは細部に職人の技が入るのが特徴である。
その一つがエンブレムであり、通常の量産車と異なるところは、金型は職人の手作業により彫られているところである。
言われなければ気の付かないところであるが、それだけトヨタがこの商品を大事にしている証拠である。
このようにセンチュリーのエンブレムは1つ1つが入念に作られており、V12であることも十分にアピールされている。
また、独自の世界を展開するセンチュリーにとって、トヨタのエンブレムは一切使用されない。
■装備、インテリア
インパネのデザインは全体的に保守的なものではあるが、室内の至る所に使用されている木目パネルは、職人の手作業により作製されている本木目のパネルである。
10年、34万km使用された個体でも、その木目には一切の劣化を感じず新車のようであった。
耐久性はかなり高い。
シートは高級車だと安易に本革を使用しがちな傾向だが、センチュリーは一般的に布地のシートが使用されている。
高級車と言えば本革シートだと言う方も多いだろうが、歴史を辿ると大きな間違いなのだ。
本来、馬車の時代において、野ざらしになる騎手側は耐候性を考え本革のシートを採用し、客車に乗る貴族は布地のシートに座るのが常識であった。
つまりはセンチュリーが布地のシートを採用しているのは、歴史を考慮した上なのである。
しかしながら、それでも本革シートを希望したい場合はオプションで設定されているので、現代においては最早好みの範疇ではある。
シートは布地ながら一般的なものとは隔世の感があり、触り心地はサラッとしており、通気性もかなりよく、夏場ながら蒸れを感じない気持ちの良いものである。
センチュリーにとって一番インプレッションする上で大事なのはやはり後席及びその機能でだろう。
後席は非常にゆったりとしているが、実のところ、LS600hLを体感したものにとっては少々狭い。
それでも、十分に広く、快適性は最上だ。
面白いのは、リアシートのドアノブが姿勢を変化せずに、手のリーチで開閉出来るようにアームレスト前方に引き上げる形で設置されているところだ。
実際に使用してみると、非常に使いやすく、操作力も絶妙で最適のチューニングが施されている。
さすが後席優先車両だけあり、シートヒーターは勿論、リフレッシング機能もある。
また、その全てのスイッチがわかりやすく日本語表記なのも特徴だ。
日本人の為の、日本人が扱いやすい、日本人への最高のおもてなしを提供しているのがセンチュリーらしいところである。
アームレストを開くと、カップホルダーとオーディオスイッチがあるのだが、実はさらに前方の蓋を開くと沢山のスイッチが出現する。
シートの前後調整は勿論、リクライニングからヘッドレストの上下前後、さらにはリアシートの座面前方を持ち上げるリフター機能まである。
また、当然のごとく、後席に座るVIPの為に、個別調整が可能なように、メモリー機能も装備されているのだ。
天井にはルームランプに加え、読書灯も装備される。
読書灯は明るさを調整可能なのも細かい配慮だ。
さらにはリアシート専用のエアコン、またリアの天井左右にバニティミラーも装備される。
今回の個体はデュアルEMVパッケージだった為、このようにリアにもナビゲーション機能を兼ね備えたモニターがリモコンを含んだうえで装備される。
さらに自動車電話も装備されていたが、現在はサービスが終了しているので、ただのオブジェと化している。
15年式であればこれにビデオデッキが標準装備される。
現在のものはこのあたりはさすがにDVDプレーヤーへと置き換えられている。
さらには音楽を楽しみたいVIPには専用のカセットウォークマンとイヤホンまで用意される。
このあたりにまでセンチュリーのロゴを入れる拘りは脱帽ものである。
■動力性能
エンジンは1GZ-FE型V型12気筒、4996cc、280馬力、トルクは49キロとスペック上では凄まじいものである。
この1GZ-FE型エンジンは、嘗てクラウン等に搭載された1jZ型直列6気筒エンジンをベースに12気筒化されたものである。
また、万が一の故障の際は、片バンクの6気筒だけで走行が可能なのも特徴であり、万が一の際でもVIPを守る為に設計されているのも注目すべき箇所である。
ところがエンジン始動から実に穏やかで、フル加速を行おうとスロットルを全開にしても車両の味付けからか加速は非常に緩やかなものであった。
しかし、気づけば独特のデジパネにはかなりの速度が表示される為に注意が必要である。
また、非常に静寂なエンジンで、車内にはエンジン音は余程の高回転まで引っ張らない限り、ほぼ無音に等しく、これには驚愕した。
さらには、低回転域から高回転域まで不快なこもり音や振動の類は皆無であった。
未だ嘗て試乗した車両でこんな事はあったであろうか。
このエンジンに搭載されるミッションは意外にも4速ATである。
6速ATになるのは2005年以降からなのだが、島田社長曰く、燃費に全く変化が無く、調子の悪い6速ATよりも調子の良い4速ATの方が燃費が逆転するケースがあるらしい。
このセンチュリーの実際の公道においての走行燃費は街乗りでリッター5km、高速でリッター9kmなのだそうだ。
このパワートレインに組み合わされる4輪エアサスがこれまたかなり出来がよく、まさに船のような乗り心地という言葉が似合うものであった。
通常のバネサスに乗り慣れた者であれば、独特のロール感やノーズダイヴ、発進時のスクワットに多少の違和感を覚えるだろうが、それでもこのエアサスには独特の良さを感じることが出来るだろう。
■結論
センチュリーという車はトヨタでは採算度外視でプライドを賭けて最高の技術を使用した最高の1台である。
しかし、その装備やメカニズムを見直すと、最高の技術を使用しているが、最新の技術は一切使用されていない。
つまりはこのセンチュリーという車は熟成された確かな技術、装備のみを使用し、斬新さは無いが、全てが確実という非常に保守的で且つマンネリの塊である。
筆者はこのセンチュリーをドライヴィングをして非常に感動するものもあったが、その反面、怒りを覚えたのも確かである。
このセンチュリーという車をトヨタは非常に分かったうえで設計している-それは、振動やこもり音の低減技術、または安全に対する考え方である。
これらはセンチュリーで培った技術を一般大衆車にもやり方次第で十分にフィードバック可能な点である。
しかし、コストや車格を考慮して、コスト内で可能な技術であろうにも関わらず、トヨタはわかったうえで一般大衆車の性能を落としているのである。
センチュリーに一度乗ってしまえば、トヨタは非常に良い車の作り方をわかっているのだと痛感できるが、その反面を考えてしまうとどうしてもトヨタのやり方には納得しかねてしまう。
話は変わり、初代センチュリーは30年に渡り販売された。
現行も30年販売されるのであれば、丁度現在はそのモデルライフの半分にようやっと達したことになる。
偉大なるマンネリ車がこの後、どうなっていくのか、また、トヨタというメーカーの車作りがどう変化していってしまうのか-センチュリーという車は色々な意味を含め、とても興味深い車だ。