日産 セフィーロ 25SE Mセレクション (A31)
■概要
日産が1988年に送り出した、シンフォニーLシリーズの第1弾。
シンフォニーLシリーズは、A31セフィーロ、C33ローレル、J30マキシマ、R32スカイラインのミドルクラスセダンで構成されている。
日産曰く、スカイラインは若者向け、ローレルは40代以上の本物の価値観を知るアダルト世代。
セフィーロは、「33歳のセダン。」というキャッチコピーの通り30代のDINKS層をターゲットとしている。
発売前のティザーCMでは、斎藤由貴が登場し、「優等生のクルマばかりじゃ、つまらないと思います。」
と…トヨタの優等生、マークⅡ3兄弟にカウンターパンチを浴びせる形でスタート。
その他、和田勉などが、このティザーCMに登場し、いよいよ発売直前になると井上陽水がティザーCMに登場するようになった。
Xデーの1988年9月1日の本CMではティザーCMから続いて井上陽水がセフィーロの助手席から顔を出し、「皆さんお元気ですか??」というフレーズ、また、糸井重里による「くうねるあそぶ。」のキャッチコピーで話題を浴び、セフィーロのCMは一躍注目を浴びた。
肝心なセフィーロも、従来の車種と異なり、3種のエンジン、3種の足回り、そして各内外装を自由に組み合わせるコトの出来る「セフィーロコーディネーション」というシステムを取り入れたのも特徴的だった。
コレは1970年に登場した初代セリカの「フルチョイスシステム」に通ずるところがある。
しかし、登場当初の話題も短期間で消え、続く90年のマイナーチェンジでは、当初のセフィーロコーディネーションは廃止され、一般的なグレード構成になり、何の変哲も無い、フツーのセダンになってしまった。
メーカーの目論見も大きく外れ、中期の最後辺りには村山工場には多数のセフィーロが過剰在庫となり、ラインも1カ月止まってようで、当時の日産にとってはかなりのピンチだったようだ。
そこで、1992年にビッグマイナーチェンジを行い、全車3ナンバーサイズになり、起死回生を狙ったのが今回の後期モデルである。
■エクステリア
全長×全幅×全高=4765×1705×1375(mm)
後期型により全車3ナンバーサイズとなっているが、主に拡大されたのは、バンパーとサイドモールだけである。
個人的な意見だが、コレによりそれまでのセフィーロに見られた塊感がやや崩れ、フロントバンパーはおたふく風邪にかかったような感じに膨れてしまった。
当初はあまり好きになれなかったが、所有してみると、コレはコレで良いとも思えるようになった。
リア周りは一面レッドテールとなるが、個人的にはこのテールが結構気に入った。
尚、中期と後期で同じテールに見えるが、実はウインカーレンズ周りが少々違っている。
ヘッドライトは2連のプロジェクタータイプにイエローのフォグランプレンズが埋め込まれた異形タイプになる。
コレが暗いと当時から言われていたが、実際に結構暗い。
しかしながら、今やLEDヘッドライト装着車が増加しているコトもあり、ハロゲンヘッドライト車は全て暗く感じ、ハロゲン同士だと五十歩百歩と言ったところだ。
フロントバンパーには比較的大き目のコーナリングライトがあるが、実際にそこまで効果を感じる程の光量は残念ながら無い。
今回の個体は25SE Mセレクションという、セフィーロでは最上級グレードの仕様となる。
新車出荷時に貼られる「OKステッカー」も、まるで今生産ラインから出荷されたかのように、新品同様のコンディションだ。
また、リアピラーにもセフィーロのマークが奢られる。
ドアノブはセフィーロの専用品で、金属製…恐らくダイキャストだろう。
とても伸びやか且つ優雅なデザインで、バブルの匂いを感じるコトが出来る。
トランクエンブレムは、トランクリッドのキーシリンダーと共通になっており、エンブレムをずらすと、キーシリンダーが表れる仕組み。
リアガーニッシュには、当時の日産はどうも各ブランドを際立たせたかったようで、CIマークはこの部分にしか入らない。
トランクリッド右側には「25SE」のエンブレムが入る。
すなわち、外観上でMセレクションとハッキリ分かるのはフロントフェンダーのエンブレムのみになる。
リアガラスには初代オーナーが新車購入をした福岡日産のステッカーが貼られている。
■インテリア
インテリアに関しては、C33ローレルと共通部品がかなり多い。
ココでは、筆者の記憶を辿りに、C33ローレルとの主な違いも記載しておこう。
フロントシートは、C33ローレルと共通形状ではあるが、本革/エクセーヌコンビシートはA31セフィーロ、しかもMセレクションのみの専用シートである。
エクセーヌ生地はシート同様の生地がドアトリムにも奢られる。
シートの触感は本革にしては、やや柔らかくしっとりとしている。
しかしながら、ミドルクラスなのもあり、革の質感はそれなりな感じだ。
この手の本革はややデリケートな為、マメに手入れをしておかないと、簡単に表皮のヒビ割れやシワが起きたりしてしまいそうなので注意が必要である。
座った感じでは、座面の体重分布が均等で、ホールド感も良い為、長距離クルージングも楽に出来る。
リアシートもC33ローレルと共通であるが、セダンボディ故、ヘッドクリアランスに余裕があり、ローレルより快適に座れる。
写真のように後席乗員の爪先がキチンとフロントシートの下に入るのも特徴。
ヒップポイントが後席にしては、前席と同様の高さなのでやや低く、寝そべり系の為、見晴らしの面でやや劣るが、ルーフ後端が乗員の頭部を包むようにデザインされているので、非常に快適に大人4人が移動可能な空間になっている。
ローレルの場合だと、ルーフ後端が後席頭部まで伸びていないので、後席乗員の頭部がリアガラスに触れ、快適に移動するにはややツライ設計である。
運転席に座ると、アッパーインストはセフィーロ独自のもの。
助手席部分は物が置けるように大きくえぐられているが、衝突時の物の飛散による怪我を考えると、ココには物を置かない方がよいようだ。
ロアーインスト及びセンターコンソールはC33ローレルと共通であるが、アッパーインストにより上手くキャラクターを作り替えている。
Aピラーガーニッシュは、ローレルの植毛と違い、セフィーロは合皮になっている。
コストの関係で植毛を省いたとも見れるが、セフィーロはローレルよりややスポーティなキャラクターに振った点がこの辺りに表れる。
使いにくいと思ったのが、ドアロックスイッチ。
アームレストに手を置くと腕が接触し、誤作動を起こしたり、使用時には手を引かないとボタンが押せない場所にある為、慣れるのに多少の時間が掛かる。
メーターは、ローレルと違い、メーター内にデジタル時計が内蔵されている。
インパネ右側にはフォグランプと電動格納式ミラースイッチが装備されている。
ローレルと違い、フォグランプのスイッチが大きく、場所的に使いやすかった。
インパネ中央はエアコンパネル、ハザードスイッチ、熱線のスイッチの順で並んでいる。
運転席からのリーチを考慮してスイッチを前に出してきたのかもしれないが、反面、オーディオスペースに社外品のインダッシュ式モニターが入らないという弊害が起きている。
純正オーディオに関しては、ローレルにも言えるコトだが、スイッチが小さくやや使い辛い。
サイドブレーキのリリースレバーはローレルと同じく、センターコンソール中央に位置する。
E-ATのパワーモードスイッチをパワーやスノーに入れると、スイッチ自体が光る仕掛けになっている。
ローレルの場合はメーター内に表示されるがセフィーロはスイッチが光るだけで、実際にパワーモードに運転中に切り替えた際、目視出来るやや困る。
セフィーロの内装で特徴的なのは、サンバイザーがプッシュ式で、押したらスーッと降りて来るのが中々個性的で面白い。
コチラも合皮製だが、高級感を感じる触感、節度になっている。
ローレルの場合は成形天井だが、セフィーロは今では余り見られない吊り天井だ。
コスト面でこのようにしたのかもしれないが、成形天井だと、僅かながらヘッドクリアランスが稼げただろう。
但し、色が明るい為、解放感がある。
センターピラーにはシートベルトアンカーがある。
勿論アジャスタブルアンカーなのもあるが、ローレルと違い、確実に拘束出来るシートベルトだ。
ローレルは残念ながら、天井から吊られている為、ベルト自体の遊びが多く、万が一の時の安全性という面ではやや劣る面がある。
6ライトウインドウのセフィーロはご覧のようにクォーターガラスがある。
一見小さいが、コレがあると無いのでは状況は大きく違ってくる。
後席の乗員はこれにより、圧迫感が抑えられ、快適性が上がり、意外と考えられている部分でもある。
また、ローレルと大きく違うのが、リアアームレストを開けると、トランクスルー機能が装備されるのが実にイイ。
開口面積こそ大きくは無いが、万が一の際にちょっとした長尺物が入ると入らないでは大きく違ってくる。
ローレルの場合は、ピラーレスが災いし、リアバルクヘッドがボディ剛性を確保する為、一枚ものの鉄板でふさがれている…構造上仕方無いとも言えるが、ローレルにも欲しい装備の一つだ。
後席灰皿はローレルと共通で、センターコンソール後部に一つのみ。
マークⅡは後席各ドアに灰皿が装備されており、この辺り、かゆい所に手が届くトヨタならではの配慮であり、日産がおもてなしの面で一歩劣るところだ。
セフィーロで特に困ったのは、後席の窓が全開で僅かしか開かないのだ。
写真の通り、コレで全開なのだ。
窓面積は大きいのに、コレだけしか構造上開けるコトが出来ないのはやはり頂けない。
後席も全開…又はローレルのように斜めに開けるコトが出来れば、陽水だって前後席で「ダブルお元気ですか??」と…出来たのだが…。
勿論、その場合、井上陽水は分身出来ないので、神無月がリアシートに座るコトになる。
トランクルームは写真の通り、荷物でゴチャゴチャしている…のではなく、かなりの荷物が入る。
ソコは浅いが奥行きがある。
さらにトランクスルーが付く為、長尺物も一見入る…ように見えるが、リアガーニッシュより上から開く為、この開口部から入るものに限られる。
■動力性能
搭載されるエンジンはRB25DE型。
直列6気筒ツウィンカム24ヴァルヴ、総排気量2498cc、180馬力、最大トルク23.0kg-m。
コレに組み合わされるミッションは、通称:ガラスのATでお馴染みの5速ATである。
基本的にローレルと全く同じ…ようで実は少々違う。
車両重量がローレルより40kg軽いのが効いており、出足がやや軽く、加速、ミッションの変速ともにスムーズに行われる。
但し、ボディ形状の違いからか、アイドリングでややエンジン音がやや籠る傾向にある。
ココはどうやらセフィーロの登場時より指摘されていた項目のようで、4か月遅れて登場したローレルは、この辺りをやや煮詰めて登場したようだ。
足回りは、フロントがストラット、リアがマルチリンクであるが、リアよりフロントの方がややロールが深い傾向にある。
レーンチェンジ等でその傾向がやや分かるのと、ホイールベースの長さも起因するのか、リアの追従性が0.5テンポ位遅れる傾向にある。
しかし、非常に洗練された足回りであるのは間違いなく、ワインディングでもしっかりと粘り、さすがこの時代の日産を特徴付ける味付けであるのは確かだ。
実際に非常に気持ちのイイ走りでしばらく降りたくなくなるどころか、手放したくなくなるのである。
センターピラーがある為、ボディがしっかりしている(特にこの個体が極上車だったのもある)のもあり、ローレルとの剛性感は比べるまでも無い。
走るって気持ちいい。
セフィーロはキャッチコピー通り、そう思える1台だ。
最後に燃費は街乗り2回満タン給油で、平均リッター7.62km。
RBの2500ccと考えればマズマズである。
現代のクルマに比べ、燃費は悪いかもしれないが、それ以上に走る楽しさ、気持ち良さ、満足感を与えてくれる。
そう思えば、多少のガソリン代位は安い物ではないだろうか。
■総括
その後のセフィーロはモデルチェンジにより、従来のマキシマのキャラクターを踏襲する大型FFセダンになったが、アレはアレで中々にイイクルマだ。
実際に初代より市場の評価も良かった。
しかしながら、この初代セフィーロは、昭和の最後に日産が魂を込め、「つまらない優等生ばかり」にアンチテーゼを打ち、本気で向かって行った1台であり、間違いなく名車と言える1台である。
今回、所有するに辺り、ローレルと各部において比較するコトが出来、お互いの美点、欠点を知る良い機会となった。
やはりクルマは身銭を切って所有して、共に生活してみなければ、本当の良さは分からないものである。