定期的に運転する機会に恵まれた際、軽く印象をブログにアップしているが、今回は手放してしまったアイについて、詳細を久々に残しておくこととした。
このような形式で話題とするのは、2021年に代車で借りたラパンSS以来であるから、実に2年半ぶりである。
■概説
2006年に三菱が世に問うた、新しいカタチの軽自動車がまさにこのアイである。
この手の定石として、大半は前輪駆動であり、全高を1700㎜前後で纏めたトールワゴンとしている。
そしてこれまた限られた枠で最大限の室内空間を求め、各車コレでもかと言わんばかりのスクエアなフォルムで構成されるのが一般的なトールワゴンに求められる条件にもなっている。
しかし、三菱はこの当時、新しいスモールカーの提案として、スタイリッシュな卵型のフォルムにミッドシップレイアウトを採用してきた。
それはまるで初代エスティマを軽自動車の枠に凝縮したコロンブスの卵的な軽自動車であり、何とも言えぬ愛嬌までをも併せ持った言葉通りの名車である。
■パッケージング、スタイル
全長×全幅×全高=3395×1475×1600mm、ホイールベース2550㎜。
一見、丸味を帯びているデザインは、まるでそら豆やハムスター、ウサギのように丸っこく、愛らしさしか無いようなファニーカーのように思えてしまうが、実のところはこれに全ての機能美が詰め込まれていると言ってもあながち間違いではないだろう。
ミッドシップ故、車体の前後目一杯に取られたホイールベースは、なんと同社のコルトよりも長い。
また、現在まで販売されてきた軽自動車の中でも圧倒的に長いのである。
このように真横から見ると、その長さがお分かり頂けるであろう。
そして全高は1600㎜と、ライバルに比べやや低いので、洗車も脚立要らずで出来てしまうのも有難いことである。
ミッドシップモデルのアイは、後輪が太い為、非常に見た目での安定感がある。
そして、ほぼほぼ全てのディテールが円で構成されており、見た目の纏め方がとても軽自動車の寸法枠に収めたものだと思えない程にスッキリとした感じが持てる。
更にこのデザインは古臭さを感じさせず、未だに近未来感を持ったままだ。
これをパッと見ただけではとても2006年式とは思えないのである。
ヘッドライトはインナーがブラックアウトされたプロジェクタータイプなのだが、コイツの照度が致命的に低く、夜間の運転が億劫になるレベルである。
このMグレードはハロゲンヘッドライトの仕様なのだが、上級となるGグレードはディスチャージタイプなので、恐らくこの心配は無用かと思われる。
筆者所有では初代トゥデイ以来の1本ワイパー。
払拭面積は大きく、作動音もトゥデイのようなノイズも無く、ダブルリンクの効果か絶妙の拭き具合あであった。
但し、ウォッシャーの噴射面積がやや足りず、末端まで届きにくい為、噴射量が自ずと多めになってしまうのが玉に瑕である。
ガラス上端を起点に一体化したようなガーニッシュが装着されるのがデザイン上のポイントと言える。
センターアンテナは脱着することも無く、デザイン上でも、まるで動物のような共愛感が持てるポイントとなっている。
リア周りの各ディテールもまた特徴的で、ハイマウントストップランプ、テールランプ、リアガラスが一筆書きでオールインワン化されたような一体感がある。
リアワイパーはRレンジ連動となっており、三菱らしいギミック感が入っている。
エンブレムは至極シンプルで、メーカー(このクルマからは三菱らしさを全く感じないが…)シンボルと車名エンブレムのみ。
グレード感の隔差は少なく、一目でグレード判別を行うのは、所有者や余程のファンでない限り分かりにくいものとなっている。
■装備、インテリア
所有していた仕様は、Mという中間モデルであったが、このモデルでもキーレスオペレーションなる、スマートキーシステムが標準なのは驚異的で、プレミアムスモールを感じることが可能な一面である。
ドアハンドル上部のボタンはドアロックのみ。
1度押しでロック、2度押してドアミラーを格納。
また、ドアミラーを格納したまま発進しても、30km/h以上で自動展開され、そのハイテクぶりに驚嘆してしまう。
アンロックはドアハンドルを引いて行うものの、アンロックしてからドアを開ける
為に、必然的に2アクションを必要とするのは少々使い勝手が悪い。
前席ドアトリムは、クロス張りも無く、プラスチック成型のみであるが、デザインが絶妙で安っぽさを感じない。
パワーウインドウスイッチは、この年式で前席フルオートで使い勝手は抜群だと言える。
前席シートは柔和な印象を持つ、丸味を帯びたシート形状ではあるが、実際の触感はやや硬め。
惜しいかなやや小ぶりで、身長168cmの筆者の体格ならフィット感も絶妙で快適に座れるが、割腹のよろしい方だといささか窮屈かと思われる。
このシートにはリフターが装備されるが、使い勝手は標準的。
但し、あまりにもシートサイドとデザインが一体化され過ぎている傾向があり、初見はやや気付きにくい。
インパネも外観同様の近未来的フォルムで、これまた古臭さを感じないものだ。
このインパネはその触感こそ、射出成型によるプラスチックそのものではあるが、デザインが非常に凝っており、外観からの見た目まで考慮されており、見栄え品質が非常に高い。
よって、チープな印象は皆無で、非常に計算された設計となっている。
また、インパネ形状や広いグラスエリアも相まって、車内は解放感に溢れ、運転視界が非常に広々としており、いつもの景色が新鮮に見える程に不思議な感覚が出て来るのが特徴である。
ステアリングはエアバッグ内蔵の3本スポークステアリング。
写真からも分かるように、ホーンパッドの建付けが悪く、右側の隙段差が目立つ。
コレはアイに関わらず、以前エクリプスクロスでも建付けの悪さが目立ったので、三菱はあまりこのような箇所の質感を気にしていないのかもしれない。
ステアリングを通してのメーター視認性は十分なものがあり、問題は皆無である。
メーターは3つの円形で構成されているのが特徴であり、そのレイアウトから、ネズミの国の白黒の輩を連想させる。
タコメーターを除き、液晶で構成されるこれらのメーターは、左側から燃料計、スピードメーター、オド・とリップ・レオスタットの切替メーターとなっている。
バックライトがオレンジのこれは、日中の視認性で一歩及ばず、最近のフル液晶メーターに見慣れた目からすると、やはり古さは否めない。
インパネ右側は、ミラースイッチ、レベライザー、その下にETC、フューエルリッドオープナーとなっているが、特に問題無く、使いやすい配置となっている。
このフューエルリッドオープナーの下には、写真の反射で白っぽく見えてしまうが、実際には黒いフードオープナーを配置。
開閉力は低く、このように短いレバーでも実際は非常に開けやすくなっている。
インパネ中央は上段より、視認性の良い位置にモニターが鎮座。
その下の噴出し口はやや小ぶりだが、中央にあるハザードスイッチが大きく押しやすいことに非常に好感が持てる。
エアコンパネルは手探り操作性に優れたダイヤル式で、驚くことに噴出口を含む全てがフルオートである。
但し、風量をオートにした際、自動的にコンプレッサーまでONになってしまうのは頂けない。
その下は左側に運転席用カップホルダー、右側にコインボックスを配置しているが、このコインボックスの手前にあるフラットな面はペットボトルのキャップ置きとなっており、非常に配慮が細かい。
しかし、使用することは1度もなかった。
また、カップホルダーは一見では右側が好ましいように思えるものの、室内幅が狭い軽自動車ではリーチの都合上左側の方が扱いやすい。
インパネセンター下面は手荷物を置くスペースとなっており、これには非常に重宝した。
しかし、トレイはやや浅めとなっている。
センターコンソール前方は小物入れとなっており、これはカップホルダーとしても利用が可能。
利便性の非常に高いものだ。
センターコンソール後方にはサイドブレーキのレバーが配置されている。
経年劣化でレバーのボタンとなるプラスチック素材が悪く腐敗する傾向にある。
インパネ左端には、格納式カップホルダーを装備。
使い勝手、配置共に上々。
カップホルダー右側には奥行のある小物入れ、そしてその上部にはなんとティッシュを取り出せるようになっている。
このティッシュ収納ボックスが絶妙で、なんと市販のボックスティッシュが入ってしまう。
このアイデアは見栄えも良く、非常に優れた機能だと言える。
その下のグローブボックスは容量も十分な上、驚くべきは閉じたままでも先程の小物入れの隙間から車検証の出し入れが可能なのである。
見た目もさることながら、機能美に溢れ、かなり凝ったクルマであり、これは普通車を含む日本の乗用車の中でもかなりのグッドデザインだと思っている。
天井側には運転席にバニティミラー付のサンバイザーを装備。
これは後年になり、助手席側にもバニティミラーが装備されるようになっている。
頭上空間は絶妙で、高過ぎず低過ぎず、ムダを感じない設計。
圧迫感は皆無で、この手のトールワゴンで感じる空虚感もこれまた皆無で絶妙なパッケージングと言わざるを得ない。
後席側に話題を移すと、リアドアトリムも前席同様で、クロス張りは皆無。
しかし、デザイン上の工夫により、然程安っぽさを感じないのは中々である。
前席同様のインナードアハンドル形状になるが、これも非常に開けやすい。
後席はやや小ぶりで、前席同様やや硬めではあるものの、レイアウトがいいのか、乗り心地は良く、寧ろ快適である。
ただ、エンジンが後方に迫る為、静粛性の劣るのは致し方無いところだ。
また、このリアシートはISOFIX対応だが、金具が非常に見やすい位置にあり、装着が容易なのがうれしい。
参考までにL175ムーヴは、この金具は非常に奥まった位置にレイアウトされ、非常に使いづらい為、チャイルドシートの装着頻度が高いユーザーからすると、このような細かい不満が意外や大きな不満となる。
アイのリアシートは車両外側にリクライニング機構が装備され、細かい調整が可能ではあるものの、レバーの配置、使い勝手が悪く、レバーを前方に倒してリクライニングをさせるものである。
手を捻るような態勢でリクライニングを強いられる為、この辺りでやや使いづらい。
また、リアフードを開けるには、このリアシート左右を前方に倒す必要があり、整備側にとっては手数が増えると共に、汚れた手でこの手のレバーに触れないといけない為、非常に気を遣ってしまうのである。
その他、ライバル比較でスライド機構が無く、荷室面での使い勝手でやや劣る。
後席側のユーティリティは、元々がコミューター的要素の軽自動車故に乏しいものがあり、右側にコートフックが1個あるのみである。
筆者は未使用のままであった為、利便性は未知数。
但し、使用頻度の高いであろう運転席側に配置している辺り、取り出しの容易性、や使い勝手に配慮したフシはある。
トランクスペースはこのように広いとは言えず、写真のバギーと呼ばれる小型ベビーカーとCDケースを2つ搭載した時点で、最早買い物で購入した生鮮食品は満足に搭載しにくい。
結果、筆者の場合は、誰も乗らない助手席や、妻が膝上に購入した荷物を持ったまま、買い出しの際は移動を行った。
これだけでは無い、子供がいると、着替えにオムツ、ベビーフード、飲料を入れたマグボトル、冬期は各自の防寒着と荷物は満載なので、これに買い物をした荷物を搭載するのは毎度至難の業であった。
かと言ってプリウスPHVがあるから問題無いだろうと思っても、同じように4人乗りな上、EVバッテリーがラゲッジスペースを占有する為、荷室容量はアイと然程変わらないのである。
このような移動時の問題が生じ、キャラバンとの代替に至る。
荷室右側にはジャッキを装備。
スペアタイヤが無い変わりにパンク修理キットが搭載されるものの、搭載位置が特殊で、リアシートクッションを取り外すだけに至らず、更にフロアに配置された遮熱版を取り外した後にやっとご対面という有様である。
恐らくクルマに興味すら無い一般ユーザーだと絶対に分からない。
■エンジン、メカニズム
上記トランクルームのマットを跳ね上げ、エンジンフードを固定する4つの蝶ネジを取り外すと、いよいよエンジンとの無機質なご対面が待っている。
・3B20…直列3気筒660㏄DOHCターボ、MIVEC、64馬力、9.6kg-m。
車両重量が900kgと重い為、活発な動力性能では無いものの、十分な動力性能を持っている。
2000回転辺りからターボの恩恵があり、特性は非常にマイルド。
3000回転を超える辺りから、判別しにくいレベルでタービンノイズが発生する。
このエンジンに組み合わされるミッションがゲート式の4速ATとなっている。
ゲート式シフトレバーの節度感は非常に優れたレベルで、また操作力も自然なものである。
但し、このオートマは特性が少々曲者で、ギヤ比が異様な高速寄り。
60㎞/hを超えてしばらくしてから4速に入る有様で、一般道の日常走行ではほぼほぼ3速走行となる為、高回転まで回さなければならず、燃費も比例して悪化する。
そして面白いのは、4速に入ってからで、高速巡航は非常にハイギアード。
エンジンがミッドシップ配置なので、騒音が後方へ抜けていくこともあるのであろう、静粛性が高く、運転席側からでは低速域より静かに感じるのである。
このような要因で、このアイというクルマは軽自動車なのにコミューター的用途に適さず、寧ろツアラー的な用途で光ってしまうという、特異なキャラクターになってしまうのである。
1年半を所有する中での平均燃費はリッター13.33km/h。
このような特性もあり、車格を考慮すると決して燃費だけでは良いとは言い難い。
他、メカニズムで言えば、ラジエターやエアコンコンデンサーを前方に配置。
故に各種配管は非常に長くなる。
経年劣化によるトラブルは他車比較でややリスキーな傾向ではあることと、冷却系配管が長い故に、冬期は水温が非常に上がりにくく、暖房が効きだすまでにおおよそ15分は必要とする。
これに対し、三菱はオプションでPTCヒーターを用意している。
当初は、なぜPTCヒーターを用意する必要があるのか疑問しか無かったが、冬期に使用しその必要性を痛感した次第である。
価格の上昇は避けられないが、このようなことが分かっておきながらオプション化した三菱の判断は果たして正しかったのだろうか?
少なくとも、ディーラー営業マンですら新車時にこの装備を購入するであろうお客に、その必要性を理解させる説明をするのは決して容易ではないと思うのだが。
そしてこのエンジンはその特異なレイアウト故、右リアフェンダーに吸気口を備える。
i-MIEVでは、ここが充電口として備えられる。
さて、フロント側へ話題を移すと、そのスペースはミニマムではあるものの、各種のメンテナンスホールとなっている。
ブレーキマスター、ABSユニット、ウォッシャータンク、ラジエター、そしてバッテリーまでも押詰められており、整備性はとにかく悪い。
バッテリーですら交換が面倒と言える。
特にABSユニットはこのように、隅へと追いやられ、恐らく各機能部品の配置では開発陣のかなりの苦労が伺われてしまうのである。
足回りはフロントこそ一般的なストラットであるが、リアはド・ディオンアクスルと非常に凝った機構が採用されている。
乗り心地は軽自動車としては非常に良く、他車トールワゴン勢に比べ突き上げも少なく非常に安定している。
更にボディ剛性がこの手の軽自動車としては異様なまでに高い。
そして驚くことは、ミッドシップ故にフロント周りのクラッシャブルゾーンが広く、前方からの衝突に優れているのは想像にたやすいが、リア周りも軽自動車で唯一64km/hオフセット衝突に対応している。
故に、最新の軽自動車を含め、後面の衝突安全性は未だもって最強の軽自動車なのだ。
また、ホンダより特許使用料を払い、センタータンクレイアウトまでをも採用し、重量配分や、アシの特性等、非常に凝ったこれらのメカニズムは珠玉の逸品という他に言葉が見当たらない。
今後、このような軽自動車は開発コストや市場ニーズを考慮すると絶対に出てこないのだから。
タイヤはミッドシップ故に前後異型で、フロントは145/65R15と、非常に幅が細い。
このサイズでは実際に役不足で、乗り方によってはプッシングアンダーで負け気味となる。
せめて155幅が欲しいと思うところではある。
対し、リアは175/55R15で異様な幅の広さと言える。
最も駆動力を必要とするので、この太さが重要となってくる。
実際に出足のダッシュ力では、他の軽自動車とは一線を画す頼もしさがある。
また、上級グレードのGはアルミホイールを標準とするが、このMは写真のようにフルホイールキャップである。
ところが、このホイールキャップのデザインは中々のもので、ホイールの穴の部分がしっかりとアイのエンブレムと同形状になっているのである。
ホイールキャップと言うと、大半が安っぽくデザインされた何とも言い難いものであるが、このアイに限ってはホイールキャップ1つとってもかなりのチャレンジングな内容でとても面白い。
そしてブレーキの効きが抜群で、4輪が均等に安定して効くのが特徴。
制動距離も軽自動車ではトップクラスで短いものである。
■総評
昨今のスーパーハイトワゴンが人気の大半となるこの市場では恐らく理解されず、独特の設計やメカニズムにより今後はマニアライクな1台としてしか捉えられない1台である。
この独特な設計は、非常に魅力的ではあるものの、今後においては経年劣化で独特な設計が仇となり、その維持が困難となってしまう、諸刃の剣となる可能性が非常に高い。
なので、筆者のように相場が底値でコンディションの良い個体を手に入れ、尚且つ覚悟が出来たなら必死で部品をストックし、維持するのも良いだろうし、また、現在の比較的維持のしやすい、旬とも言える時期のみ手軽に所有し、ミッドシップライフを経験するのもまた良いのではないかと思っている。
高年式でユニットに拘らなければEVモデルを購入する楽しみもあるだろう。
レアではあるものの、最終の小型乗用車になったモデルだとまだ新車保証すら効いてしまう。
ことさらガソリンモデルのアイに関しては、ミーブと共通部品の箇所のみで言えば部品入手も恐らくあと10年は不安も無く、まさに今だからこそ今回のガソリンターボは特に買いだと言える。
アイの特性を考慮しながら、理想的なユーザー層を想像して行くと、長距離移動に優れたコンパクトなモデルで、単身または2人で気ままにビジネスホテルでも予約しながら手荷物程度で旅行を楽しみたい人という、かなりニッチな人物像にはなるが、そういう人にはベストではなかろうか。
1年半、約3000㎞という、使用頻度としては低いものの、かなり満足度の高い1台であった。
酒やタバコ、ギャンブルを控えれば、このような末端の1馬力家庭サラリーマンでも毎月のお小遣いで辛うじて維持出来るクルマなのだから、保管場所さえ確保出来れば、この世界を経験してみることをお勧めしよう。