久しぶりに、マツダR&Dセンター横浜(通称MRY)で開催されるマツダ主催のフォーラムに参加した。今回のお題は「環境技術」。昨今かまびすしい地球温暖化対策のために企業がどういう視点で戦略を立て、どのように対応しているのかをアピールする場である。マツダでいえば、HR-X(以前撮影した写真を添付)なんかで先鞭をつけた水素ロータリー・エンジン(いま最新のヤツはガソリン燃料も併用可能に進化してる)が中心的話題になるだろう。
が。しかし。参加申し込みをして数日後にMRYから送信されてきた注意メールを見て、僕ぁビックリしましたよ。おおらかで開けっぴろげで、そんな事まで喋っちゃっていいのかよと聞いてるこっちがハラハラするくらいフランクなのが従来のMRYイベントだったのに今回は「写真撮影は一切禁止、講演内容の録音もしてくれるな」と、やたらに締め付けが厳しい。
一体どうしちゃったのよといぶかしむ一方で、こりゃもしかしたらモシカスル話ガ出テ来ルノカモ知レナイゾ……などと想像した。
で、迎えて当日の28日。現場に到着して、なるほど、これじゃあ仕方ないな、と一切の疑問が氷解した。ただ、なんで氷解したのかも「書かないで」とお願いされちゃった範囲に含まれるので、書けないのだった。ちぇっ。
まぁ僕も会社勤めの身の上なので、ファン心理としての不満を別にすれば了解可能の保秘対応ではある。
さて、その「書かないでください」に該当しない筈の話は、これはマツダの名誉のためにも書き記しておく値打ちがあると思う。具体的には、つい25日にナンバーがついたばかりの水素ロータリーのプレマシーにまつわる話だ。
環境問題が大きく取り上げられる今、自動車メーカーの商品ラインナップで強力なアピール力を持つのは、何といってもハイブリッドである。三菱なんかはコンセントから充電する電気自動車にまで一足飛びに行ってしまったが、航続距離を始めとする使い勝手のよさも含めて考えれば、ハイブリッド車の訴求力は大きい。「トヨタになりたい自動車メーカー」の最右翼である(と僕は認識している)ホンダも、トヨタより安価なハイブリッド車を市場投入して来た。
対してマツダは、商品ラインナップに競争力を備えたハイブリッド車を持ち合わせていない。(日産もだが)。お先真っ暗である――というのは若干早計で、少なくともマツダに関する限り、先に書いた「水素ロータリー・ハイブリッド」のプレマシーを月額42万円でリース販売できる程度にはハイブリッド車の商品技術を持っている。
このプレマシーの説明を(プレス・リリースなんかで大方公表されてる話だし)先にしてしまう。水素とガソリンが併用できる特別なロータリー・エンジンを発電専用の発動機として搭載し、出力軸に直結した発電機から取り出した電力でモーターを駆動するシステムを採用していて、プリウスなどのような併用型とは同じ「ハイブリッド」の用語を宛てても、その内容が異なっている。
しかも電力をバッテリーに蓄えず、オン・デマンドで作った端から消費する構造なので、発動機は最大効率の回転数で一定回転するのではなく今の内燃機関自動車のように負荷に応じて回転数が上下するのがユニークである。エンジンの効率から見れば明らかに非効率的なのだけれども、システム全体としてみた場合には充放電に際して熱になって失われるエネルギーもあるので、一概に非効率とまで言い切ることはできないとの説明。
しかし、実際の本音は「電池に蓄えた電力を引っ張ってくるのだと、運転の享楽性が削がれる」といった趣旨のコメントに表れているように感じた。さすが、デミオの時に「細いタイヤと高い空気圧を指定すれば燃費はもっと向上するが、それではZoom-Zoomな乗り味にならない」として燃費性能に割を食わせた“前科”を持つ会社だけのことはある。
……ちょっと脱線した。水素ロータリー・プレマシーの能書きを聞けば、たぶん大方の人は思うはずだ。「普通のガソリンを使うロータリー・エンジンに置き換えれば、そのままプリウスやインサイトと競合できるハイブリッド車として成立しちゃうんじゃない?」と。技術的には、まったくその通りなのだそうだ。水素ロータリーの代わりにレネシスを使えば、そのままフツーにハイブリッド車として成立する。
それなのに、否それにも拘らず、マツダはガソリン・ハイブリッド車を量産・販売するつもりはないのだという。
この一見不可解な――極めて不可解な――判断の理由が、先に書いた“マツダの名誉のためにも書き記しておく値打ちがある”と僕が感じた部分だ。マツダという企業が実直で、実直にすぎて不器用な部分でもある。
今回のフォーラムの講師陣の中で、恐らく一番高い地位の肩書きを持つ人に「ホンダが(鉛電池を用いた簡易型で)ハイブリッド戦線に名乗りを挙げた中、マツダがハイブリッドをやらない手はないのではないか」と、率直に疑問をぶつけた。その偉い人は「負け惜しみに聞こえるかもしれないが」と前置きした上で、あらまし次のような説明をしてくれた。
1.プリウスにしてもインサイトにしても、そこに投入されている技術内容から推定した製造原価は、あの販売価格では十分な利益を生み出すことの出来ない高価なものである。つまりトヨタとホンダの値付けは、政治的・戦略的なものなのであるが、マツダの企業体力では、そうした消耗戦に耐えることができない。
2.ハイブリッドという高価な技術によって実現できる燃費向上を100とした場合、その他の既存技術のブラッシュ・アップなどだけで燃費向上70が実現できるのであるならば、値段の張るハイブリッド技術を選択する必然性は低い。
2´.ラインナップの一部にハイブリッドという、極めて燃費性能の高い(そして価格も高い)商品を配置することで売り上げ全体として例えば3割の燃費向上という帳尻合わせをすることと、(相対的に安価な技術を用いて)ラインナップ全体の燃費を3割向上させることを対比した場合、マツダとしては後者を選択するのがユーザーの利益の観点からも正しいと考える。
3.直近の数年のレンジで見ればハイブリッドの訴求力は高いが、その期間は市場でガソリン内燃機関車が圧倒的優性にある期間でもある。既存技術の向上で目標とする削減値をクリアできる。
4.マツダは脱化石燃料(=水素燃料への転換)が本格化する時点を目標に設定して次世代技術の実用化に向けた開発を進めている。その時点では、今度はハイブリッド技術は過去のものとなる。
平たく言うと「ハイブリッド車は高い。その高い車を買える人に限定でベネフィットを提供するのは企業として不実だと思うし、そもそも原価の高い商品を薄利で売れるほどマツダに体力はない。ハイブリッドじゃない技術でイイ線まで燃料消費も抑えられるし、もうあと何年かで次の燃料に移行し始めるんだから無理してハイブリッド出すことはない」ということになるだろうか。
僕が書くと説得力が落ちてしまうけれど、当事者の口から出る言葉には、重みと説得力が備わっていた。……のであるが。今も以前も変わらぬマツダの悪い癖は、こうした説明がマーケットに届かない――積極的には届けない――ことだ。
説明のしかたもたぶん上手ではないのだろうけども、そもそも広くあまねく知ってもらおうという努力を果たしてしているのかどうか、外野の一ユーザーとして甚だ疑問に感じている。
折角いいポリシーを持っているんだから、フォーラムに足を運んだ人限定ではなくて、より多くの人に知ってもらって、より多くの支持を取り付けるのが上策だと思うんだけどなぁ……。
その「より多くの人に」という事ともリンクするんだけども、今回のフォーラム参加者が求められた“緘口令”、企業の保秘の点からは僕も納得している一方で、ユーザー(というよりも熱心なファン)の口コミ宣伝がもたらすプラスの効果というものも、もう少し前向きに検討していいんじゃないのかなぁ、と思わずにいられなかった。
僕ら純然たる一般消費者は、商業媒体と違って広告出稿がらみの利害関係みたいな余計なしがらみはないんだし……。無論その分、無責任だったり口さがなかったりって部分はあるのだけれども。