手元に来てから4カ月、約7000km程度使用した為、ココでクラウンについての所感を纏めてみようと思う。
■概説
1983年にクラウンの7代目モデルとしてGS121型という型式である。
当時のCMでは「いつかはクラウン」というキャッチコピーで登場し、国民の憧れの1台として話題となったモデルだ。
実際に当時の日本のサラリーマン社会では、一種のヒエラルキー的なものが存在しており、平社員はカローラからスタートし、やがて出世して課長になった暁にはコロナ、そして部長になるとさらにステップアップしてマークⅡ、最終的に社長になったサラリーマン社会で言うところの成功者は文字通り、「いつかはクラウン」を購入するという図式が成立していた時代だ。
当時のトヨタとしても、まだレクサスなどというブランドすら存在していない時代、特殊なセンチュリーを除いてはまさに最上級車であり、トヨタの最新技術の粋を集めた1台だったのである。
アメリカでは成功者の証はキャディラックなのだが、日本ではこれがクラウンだと言えよう。
そして筆者が今回購入したグレード、2000ロイヤルサルーンは、2000ccグレードでは最上級グレードであり、当時の新車価格は325万円。
現在からすれば大した額で無いように感じるかもしれないが、当時の国民からすれば、正に「高嶺の花」であり、実際に購入者も会社社長や医者等の高取得者が多かったのである。
そんな当時の「高嶺の花」を、登場から約30年経った現在の視点も入れつつレポートしてみよう。
■パッケージング
全長4690mm、全幅1690mm、全高1410mm。
5ナンバーフルサイズなのだが、1クラス下のマークⅡは同サイズでもバンパーの長さがある為、実際にマークⅡよりボディ自体は一回り大きい。
また、デザインに関しては、3ナンバーサイズである上級グレードのロイヤルサルーンGを5ナンバー枠に収めるようにしたデザインの為、非常に寸詰まり感がして格好はお世辞にも良いとは言い難い。
特にフロントグリル廻りは3ナンバーグレードや後期とは違い、フロントグリルにフォグランプが内臓されていない為になんとも間抜けで高級感に欠ける。
実際に当時もこの前期5ナンバーに後期5ナンバーの顔や3ナンバーグレードの顔へカスタマイズするケースが多く、この前期5ナンバーの顔は不評であった。
その為、現在は市場的価値はともかく、この前期5ナンバーの顔は非常に貴重である。
リア廻りに関しては、Cピラー付近に樹脂の化粧板で装飾された、クリスタルピラーが特徴で、これが非常に高級感があり、格好も良い。
このクリスタルピラーこそがS120系クラウンのデザイン上での最大のトピックである。
取り廻しに関しては、写真からの見た目通り、スクエアなフォルムが幸いし、取り廻しが非常に良く、狭い路地でもなかなか扱いやすい。
また、各ピラーが細いこともあり、死角も少ないので、予防安全(パッシブセーフティ)に関しては、最高である。
■動力性能
エンジンは1G-GE型、直列6気筒ツウィンカム、160馬力。
なぜかトヨタはこのクラウンに当時のセリカXXやソアラ等に搭載された高回転型スポーツユニットを搭載してしまった。
実際に当時のカタログでも「スポーツ・クラウン」と謳っている。
しかし、実際に走らせてみると、1430kgという、当時としては重量級の車重が災いし、低回転域ではトルクの細いこのエンジンと全くマッチングせず、とにかく遅い。
平坦路ではまだ許せるが、登坂路に差し掛かると、一気に速度が低下し、踏んでも非常に苦しい加速で、軽自動車にも後ろから煽られてしまう始末である。
さらに、これに組み合わされる電子制御4速オートマティックのシフトスケジュールが最悪で、高級車らしさが全く感じられない。
全体的にギア比が高く、100km/h、4速で3000回転に達するのも燃費悪化の一部の原因となっている。
足回りは、現在の市販車と違い、独立したフレームを与えているのだが、トヨタはこのS120系より、4輪独立懸架を与えている。
しかし、言葉だけの4独で、コーナーリングではちっとも踏ん張らず、とても大きなロールが発生し、安定感に欠ける。
ただ、直線だけは最高の乗り心地で、冒頭のCMの如く、タバコの灰が落ちない位に、多少の段差でも、段差を越える音のみで、ショックは殆ど皆無に等しい。
さらに、クラウンらしく静粛性は抜群で、この点は現在販売されている車種に劣らないどころか、ヘタな高級車より勝って本当に驚かされる。
100km/hで定速走行していて、前後席の人間が小声で内緒話をしたとしても、その声が聞こえそうな勢いだ。
この辺りにはまさに高級車クラウンの威厳を感じるところである。
ちなみに、燃費はリッター辺り平均9km程度。この大きさではまずまずだろう。
■ユーティリティ
室内は5ナンバーフルサイズ目一杯に使用しただけあって、本当にサイズ以上の広さを感じる。
運転席のシートの寸法も十分で、ゆったりと落ち着いて運転が可能で、疲れを感じにくいものとなっている。
インパネも写真の通り、見晴らしが良く、視界の広さでは現行車よりずっと良い。
インパネはとにかく角張っており、一種の彫刻のような堂々としたもので、尚且つ風格を感じるものだ。
今回の車両はとにかく内装の程度が抜群に良く、このインパネの綺麗さには納車時に筆者も本当に驚いた。
また、この時代のクラウンと言えば、寧ろ前席より後席がトピックとなる。
現在のクラウンはオーナードライバー向けのクルマのような感じがあるが、当時のクラウンは後席こそ社長の特等席、ゲストの優先席的な扱いで設計されており、実際に後席の居住性は最高である。
シートは写真のように前方にスライド且つ、リクライニングが可能で、コレが非常に便利であるとともに安楽なものである。
実際に運転するより、後席に座りたくなるクルマなのだが、残念ながら、筆者専用の運転手はいない為、実際に後席に乗って優雅に過ごすにはまだまだ遠い未来のようだ。
後席の足元は前席シートスライド位置が中間地点でもこのように広々としている。
またアシストグリップが前席シートバックにも設置されており、このような配慮にゲストをもてなす工夫が凝らされている。
■装備、使い勝手
このクラウンというクルマ、装備がとにかく豊富且つ、使い勝手もとても良い為、以下に各種装備について説明していこうと思う。
まず、運転席廻りで言えば、ドアのアームレスト下端に電磁式オープナースイッチが設置されている。
この場所にあるボタン一つでトランクが開くのはとても便利で、実際に運転席に座ったまま、姿勢を崩さずにトランクオープンが可能なのは、まさにドライバーの使い勝手を配慮したものである。
また、ドアにサングラスポケットが設置されているのもなかなか凝った配慮だ。
サイズの大きさからして大木凡人タイプのものは厳しそうだが、笑瓶タイプやザマスメガネなら収納間違いなく可能だ。
助手席側足元にはゴミ箱が設置されている。
容量としては小さいものだが、ゴミを廃棄する際には、実際にこのゴミ箱は取り外しが可能な点も素晴らしい。
ただ、残念なのはスポットランプがヘッドライト及びスモールがONでないと、使用出来ないのは困る。
なぜ、このような設計にしたのかは未だに疑問に残る。
またルームランプが後席ドアを開けた際には点灯しない。
これに関しては、当時の設計者曰く、夜間に後席から乗降するゲストが顔が見えては困るというコトがある為に、点灯しない設計としたそうだ。
ドライバーの乗降性に関しても気を配っているのもクラウンならではで、乗降の際にステアリングコラム下に設置されたレバーを引くだけで、ステアリングが跳ね上がり、とても使いやすい。
乗り込んだら、跳ねあがったステアリングを降ろせばまた記憶した元の位置に戻るのも、おもてなしを考慮している。
空調に関しては、ツウィンエアコンで、前席に冷暖房、後席に冷房が装備される。
勿論、後席からはこの空調の操作が可能なスイッチが設置されているどころか、オーディオの音量調整や、シガーライターまで装備される。
後席のゲストが空調を操作すると、天井に設置された専用の吹出し口から冷房が、出るようになっている。
この辺りが高級車たる所以である。
後席灰皿がドア左右に装備されているのはこの時代の高級車ならではで、現在の高級車では、禁煙が煩い世の中なので、設置されていない。
唯一、中国は未だに喫煙習慣が多いようで、このように後席に灰皿が装備されるケースは普通である。
読書灯も勿論のようにあるのだが、実際に使用するのであろうか??
さらにゲストへのおもてなし装備は後席用冷蔵庫や空気清浄機までも用意される。
後席用冷蔵庫は、缶ジュースであれば5本収納可能で、当時としては非常に贅沢な装備だ。
トランクも広大で、荷物も沢山載るのだが、一つ注文を付けるなら、バンパー上より、トランクリッドが開いた方が、荷物を載せやすいと思う。
ただ、デザイン上の処理の問題で考えればここは好みの分かれるところだ。
■結論
動力性能では現在のクルマに付いて行くのは少々厳しい面もあるが、静粛性、装備、使い勝手に関しては、30年近く経過した現在でも何の不満も無く使用出来る点はまさに驚きの一言である。
かつてはクラウンと言えば、国民にとっては憧れの存在であり、また成功者の証とも言えるクルマだった為、冒頭に述べた通りまさに「いつかはクラウン」という夢のような存在であった。
しかし、それは1990年代に入り、セルシオの登場から始まり、さらにクラウンの兄貴分となるマジェスタの登場、とどめに21世紀に入ればレクサスブランドの登場により、時代の進展と共に、クラウンの威厳は段々と無くなっていってしまった。
当時の国民の憧れが時代の進展と共に、衰退し、現在では免許を取得したばかりの若者が「いきなりクラウン」という事もさほど珍しくなくなってきてしまった。
トヨタには今一度、クラウンと伝統のネームバリューを見直して、21世紀ならではの憧れと威厳に満ちた不動の存在であるクラウンを発表して頂きたい所存である。
最後にこのGS121クラウンは、現在乗っても非常に威厳に満ちており、また感動を覚えるところが多々あるクルマである。
興味のある方は是非一度、このクルマに乗ってみて欲しい。