この度、セリカを修理で入庫させた為、代車を貸して頂いた。
今回レポートするのは、平成13年式 スバルプレオLである。
コレを2日間、約150kmの距離を走行してみたので、レポートしてみようと思う。
■概説
軽自動車規格が現在と同じ規格へと変更された1998年10月に、スバルから登場したトールワゴンタイプの軽自動車である。
従来のヴィヴィオのハッチバックタイプと決別し、当時、ワゴンRから流行となった軽トールワゴン市場へスバルが放った回答がこのプレオである。
当時のライヴァル車である、スズキ・ワゴンR、ダイハツ・ムーヴ、ホンダ・ライフとは一味違い、スバル独自の凝ったメカニズムが盛り込まれた車種であり、また、コレも多くのスバリストを納得させる魅力を持っていることを感じ取れる車種だ。
■パッケージング
全長3395mm、全幅1470mm、全高1575mm。
全長及び全幅は軽自動車規格ギリギリのサイズではあるが、当時のライヴァルと比べ、全高が比較的低いのが特徴である。
しかし、残念なことに都心のタワーパーキングでの標準全高規格、1550mmに入らない故に、後の改良時にルーフ形状を変更し、タワーパーキングへの対応を可能にした経緯を持つ。
現車は平成13年式の為、全高は1575mmとなるが、筆者の住む地方では、そのような心配が無い為、この全高に関しては、問題が発生しない。
プレオという車は、モデルライフが11年もの長きに及んだ為、一部改良やマイナーチェンジが多く、一般的に区別が付きにくいのが難点だ。
筆者の所感で言えば、2005年辺りにライヴァルに触発されたか、リアピラーにまでリフレクターが伸びた独特のスタイルは格好が悪く見える。
一番、この13年式のリアスタイルが、クリアテールになっており、個人的には好感に見える。
特筆すべき点で言えば、従来型のヴィヴィオより、センターピラーの強度が7倍に増加したのが、功を奏したのか、全体的にボディが軽自動車クラスにしてはしっかり感が出ているのは、いかにもスバルらしいマジメさを感じるエピソードだ。
■ドライブフィール
エンジンはEN07型、658cc、58馬力。
軽自動車にしては比較的珍しい4気筒エンジンを搭載し、これまたこのクラスではスバル独自のスーパーチャージャーを搭載している。
但し、このプレオLのスーパーチャージャーは、ハイパワー版のRSやLMと違い、過給圧を下げており、メーカーではコレをマイルドチャージという呼称で販売していたことを付け加えておく。
この度、このマイルドチャージ版は初めてインプレッションしたのだが、NA版に比べるとパワーがあるが、スーパーチャージャーと聞いてしまうと物足りなさを感じる動力性能である。
しかしながら、1名及び2名乗車のシティコミューターと捉えて使用すると、この動力性能で必要十分ではある。
ドライバビリティに関しては、4気筒ならではのメリットか、アイドリング時の振動はかなり少なく、軽自動車としては1クラス上の質感を楽しめる。
このエンジンに組み合わされるミッションが、CVT開発に実績のあるスバルらしい、CVT-iが搭載される。
コレは、従来型のECVTと比べ、電磁クラッチを使用せず、トルクコンバーターを使用した為、オートマチック車同様のクリープが発生し、動きの違和感を最小限に抑えている点がポイントだ。
但し、現在のCVTと比べると、制御に設計の古さを感じることは否めない。
このCVTの面白いところは、急発進時でのホイールスピン時に、CVTの回転数を遅くしてトラクションコントロールと同様の機能が搭載されているところだろう。
さらに、このi-CVTにはECOモードが搭載されている。
試しに使用してみたが、これがなんとも言い難く、非常に違和感を覚えるものだった。
CVTの回転数制御を行う為、アクセル開度をある程度開かないと、スムーズな発進が出来ない。
この機能に嫌気が差し、即スイッチをOFFにしたのだが、それでも実燃費はリッター辺り15.3kmと中々のものであったことを付け加えておこう。
このプレオの美点はなんといってもスバルの軽の売りである、4輪独立のサスペンションだろう。
特に、リア廻りの足の動きは良く、確実に地面を捉え、ライバルに比べると旋回時の安定性は明らかに高いのがわかる。
しかしながら、今回試乗した個体は、社外のホイールが入っていた為、愛称の問題か、ややアンダースティアな傾向があった。
それでも、このクラスとしてはかなり真面目に作られた足回りであり、ここにスバルの面白さがある。
さすがに、ベーエムベーやメルツェデスのようにアウトバーンでの超高速域には対応できないことは承知の通りである。
静粛性は、独特のピラーが立った形状のせいで60km/h辺りでのフロントピラーからの風切り音がやや大きい傾向だ。
■インテリア、使い勝手
インパネはオーディオ廻りがインパネ上部に位置する、比較的現行車へと通ずるデザインとなっているが、意外なことに、プレオにはこの時代にしては珍しくカップホルダーが装備されていない。
最低限カップホルダー位は装備してほしいものである。ドリンクを飲まないユーザーがいないとでも設計者は考えているのであろうか。
フロントシートは少々小ぶりではあるが、デザインの割りにホールド性が良く、また疲れにくい。
良くを言うならシートバックの高さをもう少々高くしてもらいたいものである。
それよりも疑問に感じるのは、ここまでもアップライトなポジションを取りつつも、頭上空間にゆとりが有り過ぎるのはいかんせん不満で、全高をこんなにも必要とする理由があるのであろうか。
コレが災いし、ピラーからの風切り音は大きくなり、さらに重心が高くなる為、せっかくの粘り強い足の良さが多少ならずともスポイルされてしまう。
以前、ムーヴの項でも述べたが、あと7cm程度でもベルトラインを低くすると、室内空間にも無駄が無く、また、重心も低くなり、安定性も上がるだろう。
リアシートはリクライニング機構付。
至って標準的なものであるのだが、フォールディング機構を考慮した為か、これまたフロントシート同様で、シートバックはやや低い。
リアシートフォールディングはこれまた中途半端な印象で、シート座面が落ち込まない為に荷室がフラットにならないのは、ライバルに比べ一歩劣る。
エアコンパネルは初めての人間にはレバーが多めで少々分かりづらい。
また、ドライバーの視点移動に距離がある上に、コラムシフトをDレンジに入れた際にシフトレバーが邪魔し、見辛いのが欠点だ。
収納に関しては、グローブボックスが2段式になっているのは使いやすく、さらに2段共に蓋が装備されている点に好感が持てる。
これがライヴァルのワゴンRだったりすると、上部に蓋が無い為、場合によっては物が落下するケースがある。
勿論、衝突時に物が飛んできて二次災害にならない為にも蓋付きが好ましいのは言うまでもない。
キーレスエントリーは赤外線式なのだが、これに関しても使いづらく、運転席ドア近くで押さないと全く効かない。
これも現在のスマート方式と比較すると、もう旧世代の装備である。
筆者はこれまでにキーレスエントリー装備の車を所有したことないが、寧ろ無くて良い物だと思っている。
ドアのキーシリンダーを回す瞬間から運転という一つの儀式をスタートするという、一つの気構えが出来る点でも好ましい。
決して羨ましいとは思っていない。決して。
■結論
スバルというメーカーは、嘗て、故・百瀬晋六氏の開発したスバル360によって、一躍、軽自動車の代名詞となった。
このスバル360においては、百瀬氏以下、当時の開発者らにより、1グラム単位の軽量化や独特の機構、装備の改善がモデル末期までエンドレスに続けられた。
その故、エンドレス百瀬と社内で呼ばれていたのであるが、その百瀬氏のエンドレス精神は、その後のモデルにも脈々と受け継がれ、勿論、このプレオにも4気筒エンジンや4輪独立サス、CVT等の技術で大いに生かされたのである。
しかし、そのスバルが2012年にとうとうサンバーの終了により、独自の軽自動車開発から幕を閉じた。
現在もプレオは存在こそするが、それはダイハツからのOEMであり、独自の精神はとうとう断ち切られてしまった。
スバルというメーカーは、その気になればこのように素晴らしく個性的な車を作ることが出来るはずなのにこれは何とも勿体ない話である。
現在、スバルは北米市場をメインターゲットに置いた、レガシイやインプレッサの販売が好調で、収益も上がっているということだが、果たして本当にそれでいいのであろうか。
確かに、金銭は大事である。そうでないとメーカーが生き残れないのは周知の事実である。
しかし、このままでは、独特のスバルの良さ、個性を自然に失っていくのではないだろうか。
このプレオに乗ると、もう一度、百瀬イズムを継承した個性豊かなスバルの軽自動車を再生産してほしいと筆者は常々思ってしまうのである。