19日の夜、NHKのクローズアップ現代で「見過ごされてきた踏み間違い事故」という企画を報じていた。翌朝の民放の情報番組でも、NHKが扱っていたのと同じ九州産業大学の松永勝也教授を出して同工異曲の企画を扱っていたので、もしかしたら背景に、どっかの売り込みがあったのかもしれない。
ところで僕は、22年半近く免許歴がある(運転歴はそれより半年くらい短い)のだが、その間に一度、アクセルとブレーキの明確な『踏み間違え』をやらかした。オートマ車を運転していて、存在しないクラッチペダルを踏もうとして左足がブレーキ・ペダルを蹴っ飛ばすミスは頻繁にやらかしているが、ブレーキのつもりでアクセルを踏んでしまったのは、後にも先にもその1回限りである。
そのときの状況は、こうだ。
僕は車を後退させるとき、基本的にはミラーで車と障害物の位置関係を確認している。直接目視もしないことはないのだけれど、それは車を「停めたい場所」に入れ始める前にあらかた済ませてしまい、バックし始めてからは(通常の走行で、見え方と車の姿勢を見慣れている)ミラーに映る風景に大きく依存している。ただ、このやり方は各種教本ではダメな運転の仕方ということになっている。
そこで、まだそれほど運転歴がなかった当時の僕は、がらがらに空いた駐車場で教本がお勧めする、上体を捻ってしっかり後ろを向いてバックする方法を試してみたのだった。安全のためにより適切な方法があるのなら、そっちを習得したほうがいいんだろうなあと思ったからだ。で、その結果がブレーキとアクセルの踏み間違えである。
上体を左に捻ったことで、足とペダルの位置関係がズレていることは認識していて、その分足の位置を補正したつもりだったのだけれども、それでも踏んだのはブレーキではなくアクセルだった。幸いにして、車の進行方向にはまだまだ余裕があり、かつチョイと踏んでアクセルだと分かった瞬間にペダルから足を離したので、車が何かにぶつかるようなことはなかったのだけれども、心底ヒヤッとした。
以来、僕はバックするときに直接目視をするような場合でも、決して腰から下は動かさないように心がけている。ドアを少し開けて顔を出し、背後の壁ギリギリまで這いずるように下げるときでも腰下は絶対にずらさない。
ところでテレビ番組のほうの話だ。
大学教授の実験に否と表白するのはおこがましいのかもしれないが、それでも僕は見るなり「やり方がおかしいやろ。このセンセ、車の運転してないんとちゃうか?」と思った。
実験では、ドライブ・シミュレーターの画面に青文字と赤文字でアルファベットのAとBが表示され、どっちが青でどっちが赤だったかは忘れたが、ともかく赤い文字が出たときはすぐにブレーキ・ペダルを、青い文字が出たときにはアクセル・ペダルを踏みなさい、というものだった。
反射神経や文字(図形)認識力を測定するようなテストならそれで結構だが、車の加減速、なかんずく急にブレーキを踏まなきゃならん局面というのは、目の前になんか飛び出してくる、車間が急激に詰まる、そういうことに対応してブレーキを踏むのである。図形認識――Aはブレーキだっけ?Bがブレーキだっけ?などと思考のプロセスが入り込む――をしているのとは違う。こんなテストで、年配者や高齢者はペダルの踏み違いが多い、なんてことが確認できると思っているのだとしたら、思い違いもはなはだしい。
そして、テストのやり方と別に僕が大いに驚いたのは、被験者たちのペダルの操作の仕方だ。
いや、確かに教本などでは「ブレーキを踏むときには踵を床についてはいけません、足全体でペダルを踏み込みなさい」的なことを指導している。そして被験者は、そのご指導の通りに操作をしているのだが……僕は、ブレーキを踏むときには踵を上げろ、というのは百害あって一利もない間違った指導だと考えている。ペダルの操作は一種のブラインド・タッチだから、ホーム・ポジションがずれて誤操作を招くようなことは、厳に慎むべきなのだ。
踵を着かず足全体でブレーキ・ペダルを踏み込むというのは、かつてブレーキ・サーボ(倍力装置)の能力が十分でなかった時代には極めて妥当な運転のノウハウだっただろう。実際、弟が所有する1960年代設計のスポーツ・カーなんかだと、そういうペダルの踏み方をしないとブレーキがまったく利かない。
けれども、昨今の車はペダルを軽く踏み込んだだけでもブレーキが利き始めるくらい、十二分な能力がある。踵を浮かせるペダルの踏み方は、そうしないと止まれなかった時代の「遺物」であって、今現在のドライバーにとっては「ブレーキが利かないリスク」を上回る「ペダルを踏み違えるリスク」を生じさせる“間違った運転のお作法”だと――競技などを別にすれば――言ってもいいくらいだと僕は思う。
さてNHKの番組では、かつてAT車の暴走事故が問題になった折に業界内で検討した際、自動車メーカーが「機構上の問題ではない」と結論付けて“対策をしてこなかったこと”が今日の踏み間違い事故増加の主犯であるかのごとき誘導を行っている。ホンマかいな。というか、なにゆーてけつかんねん。
メーカーが取扱説明書などで推奨する「正しい運転姿勢」をとり、ペダルを踏みかえるたびに足を浮かせるような運転を
しなくてもなお事故が増え続けているというのならば、あるいはそれは機械の側(つまりメーカーの対応の側)に帰すべき責任がある可能性がある。
だが、ユーザーの「間違った/適切性を欠いた」操作についての検証を十分に行わず、ケツを一方的にメーカーの対応に持ってくというのは、非科学的で不合理な言いようだ。機械を適切に操作できない/しないユーザーの問題をそっちのけに、原因を一方的に機械の側に求めるなど、筋違いな言いがりも甚だしい。
番組を見ていて気になったことをもうひとつ。
踏み間違い事故を起こした人たちの一覧表が映し出されて、免許歴20年とか30年とかのベテラン・ドライバーという話だったけれど、それもどうなんだろう。
人間工学的に(あるいは科学的に)検証するならば、免許取得から○年だなんて粗雑な指標ではなくて、航空機パイロットの「飛行時間○時間」みたいに、その人がどの程度の運転実績を持っているのかに着目するが筋なんじゃないだろうか。週に1回程度買い物しに運転するだけの人と、週5日は運転している人とでは、同じ20年の免許歴であってもドライバーとしての経験は雲泥の差であるはずなのだから。
Posted at 2010/10/25 10:59:18 | |
トラックバック(0) |
ふと思ったこと | 日記