2020年08月24日
次は水素燃料電池車で競技ですネ
モータースポーツの未来へ、また一歩。水素燃料電池車のカテゴリー『HYRAZEリーグ』が2023年に発足
革新的なブレーキシステムを備えた水素燃料電池車による全く新しいレースシリーズ『HYRAZEリーグ』が2023年に発足することが発表された。
HYRAZEリーグでは、800hpのパワーを誇る燃料電池車を使用。ふたつの水素燃料電池から4つのモーターに電力が供給される。モーターへの電力供給を管理するため、ステアリングの操作は電気信号化(ステア・バイ・ワイヤ)され、トルクベクタリング機能によって各モーターの出力調整が行なわれる。
また燃料となる水素は、環境保護に配慮して生産されたものが使われるという。HYRAZEのマシンには、炭素繊維から作られた水素タンクが搭載される。このタンクは、複数の安全構造によって保護されている。
エネルギー密度ではリチウムイオン電池よりも燃料電池の方がはるかに優れていることから、HYRAZEのマシンはレース距離を通じてエネルギーを節約することなくレースができる。
さらに、マシンに搭載されるブレーキシステムは、レース中に発生するブレーキダストを取り込むことで、大気汚染を最小限に抑えるという革新的な機能を備えており、レース後には環境的に中立な方法によってそれが処理されるという。
また、このシリーズではシャシーのデザインを自由に行なうことができるよう計画が進められている。ただ、現代モータースポーツで広く使われているカーボンコンポジットモノコックではなく、天然繊維によるコンポジット構造を使うことが義務付けられる。
2023年に予定されているHYRAZE リーグの第1シーズンでは、参戦に伴うコストを削減するために標準部品を使い、空力開発が厳密に管理される。ダウンフォースを生み出す空力パーツを制限することで、ブレーキング時のバトルが白熱し、ブレーキング距離が長くなることでエネルギーの回生率を上げるという狙いもあるようだ。
HYRAZEリーグはドイツのADAC(ドイツ自動車連盟)やDMSB(ドイツモータースポーツ連盟)、シェフラーやDEKRA、HWAといったメーカーとWESA(ワールドEスポーツ・アソシエーション)が共同で策定したものだ。
HYRAZEリーグはEスポーツの世界ともリンクし、現実世界とバーチャルレース市場の両方にアクセスできるようにしている。チームはふたりのドライバーを起用し、ひとりは現実で、ひとりはバーチャルでレースをし、両方の結果がチャンピオンシップにカウントされる形になるようだ。
HWAのウルリッヒ・フリッツCEOは、次のように述べた。
「モータースポーツが社会でより広く受け入れられるようにするためには、(二酸化炭素などの)排出を減らし、より持続可能で経済的にならなければいけない」
「我々は車両開発者およびレーシングチームとしての経験を活かして、HYRAZEリーグという形で、これらの前提条件を満たす革新的なシリーズを立ち上げたいと考えている」
「プロジェクトの初期段階で、経験豊富なパートナーを獲得できたことを嬉しく思う。HYRAZEは優れたエンターテイメントを提供し、Eスポーツとの統合によって、より若いターゲットを刺激することができる」
「我々とパートナーにとって、量産に向けた技術移転があることも特に重要だ。モータースポーツは水素技術とゼロ・エミッション車に関する市販車開発において、パイオニア的な役割を果たすことができる」
ITRの救世主!? ドイツ産業界集結の燃料電池シリーズ『ハイレイズ・リーグ』概要を発表
DTMドイツ・ツーリングカー選手権で2018年までメルセデスベンツのファクトリーチーム運営を担い、現在はABBフォーミュラE選手権で、同じくメルセデスのワークスチーム活動を担当するHWA AGが、8月18日にドイツ・シュツットガルトで大規模なオンライン・プレスカンファレンスを開催し、2023年の創設を予定する水素を動力源とする燃料電池搭載車による新たな“ゼロエミッション”レースシリーズ『ハイレイズ・リーグ』の概要をアナウンスした。
HWA共同創業者で、DTMを運営するITR.e.Vの元代表でもあるハンス-ベルナー・アウフレヒトや、ドイツを代表する自動車関連技術企業デクラ社のクレメンス・クリンクCOOらが出席したカンファレンスでは、このハイレイズ・リーグのコンセプトが初披露され「水素を使用した世界初のレーシングシリーズとなる」ことが宣言された。
そのシリーズパートナーには車両開発を担うHWA AGを筆頭に、デクラ(車両検査機器/セーフティ)、シェフラー(パワートレイン、電装系)、ADAC(ドイツのASN)、DMSB(ドイツ・モータースポーツ連盟/セーフティ)、そしてeスポーツを世界的に統括するWESA(ワールドeスポーツ・アソシエイション)など、そうそうたる顔ぶれが名を連ねる。
使用されるマシンの全体的なコンセプトワークや車体開発はHWAが主導し、パフォーマンス指標として最高出力800PS以上、パワーウエイトレシオは2kg/PS以下、最高速250km/h以上、0-100km/h加速3秒以下という高い性能目標が掲げられる。
その源となるのは最大700barの高圧タンク内に蓄えられた水素で、車両前方から取り入れられた空気をコンプレッサーで圧縮し、水素との化学反応により発電。その電気で4輪に搭載されたインホイールモーターを回し、この4輪モーターがトルクベクタリングやブレーキ回生の役割も担う。
そのブレーキ回生の仕組みも「国際的なモーターレースで唯一のタイプ」と謳われ、発生したブレーキダスト(つまり標準的ブレーキシステムも併用)は放出することなく車内に取り込まれ、レース後に環境負荷の低い方法で処分されるという。
また、その減速時に高性能小型バッテリーセルに保存される回生ブレーキの電力回収にも工夫が凝らされ、車両の空力性能を著しく制限してダウンフォース量を抑えることで、長いブレーキングゾーンを確保。これにより「リソースを節約しながらエネルギー回収の効率を上げるだけでなく、追い越しが容易になりトラック上でのアクションが保証される」ことも狙われている。
エントラントの意向により量産車とのリンクなど、デザインの自由度が残されるプロトタイプ風ボディを架装するシャシーには、天然繊維複合材が用いられるほか、再生可能な原材料から開発された特別なタイヤは摩耗を大幅に抑えることで、ブレーキダストなどと同様に細かい粉塵汚染を抑制し、再生可能エネルギーを基に精製された100%クリーンな水素と合わせ、事実上の『ゼロエミッション』モータースポーツを実現する。
また、世界的な人気の高まりを見せるeスポーツの分野とも積極的なリンクを展開し、チームはリアルとバーチャルでそれぞれ1名のドライバーを走らせ、ともに実際のチャンピオンシップポイントが加算される方式を採用。そのパートナーとして指名されたWESAは、今後も最高水準の仮想環境の構築とシムレースの開発に従事することもアナウンスされている。
実際の車両は2021年を通じて開発作業が進められ、2022年にはテスト走行を開始。2023年にドイツ国内で最初のチャンピオンシップを開催し、2025年にはグローバルな選手権規模への発展を見込んでいるという。
この発表が行われた週末には、ドイツ・ラウジッツリンクで2020年シーズンのDTM第3戦が開催されており、そのパドックでハイレイズ・リーグの可能性を問われた現ITR.e.V代表のゲルハルト・ベルガーは「モータースポーツの未来に関連するすべての革新とコンセプトに大きな関心をもっている」と、今季限りでのアウディ撤退に揺れるシリーズの今後を念頭に、期待の言葉を述べた。
「モータースポーツの持続可能性、とくにプロフェッショナルなシリーズの存在目的を明確に示し、量産車の開発とテクノロジーの先駆者であり続けるためには大きな変革を必要とする時期に来ている」と続けたベルガー代表。
「(ハイレイズ・リーグの)タイムスケジュールは野心的だが、コンセプトは理にかなっている。水素技術が将来的に中心的役割を果たすと確信している」
この8月31日に2021年規定の提示締め切り期限を迎えるDTMは、GT3をベースとしたアップデート・フォーマット“GT3+”の採用が有力視されているというが、ディーゼルを含む内燃機関からEVなどの電動車両への方針転換を迫られている欧州自動車産業の背景や、シリーズパートナーに連なる面々を踏まえても、ドイツとしてもEVの先、『次なる一手』を見据えた動きの一環である、と言えそうだ。
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Posted at
2020/08/24 22:30:10
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