2020年10月22日
もう6車種もブラックシリーズになってたんだ
【量産AMG最強の730ps】メルセデスAMG GTブラックシリーズへ試乗 新V8搭載 前編
歴代6台目となるブラックシリーズ
text:Matt Prior(マット・プライヤー)
translation:Kenji Nakajima(中嶋健治)
こんな話題は、最近珍しい。新しいエンジンをご紹介できる機会は、あとどれくらいあるだろう。
メルセデスAMG自慢の、クロスプレーン・クランクを備えた4.0 V8エンジンがバージョンアップ。AMG GTブラックシリーズ用として、フラットプレーン・クランクのV8ユニットに生まれ変わった。
ただしこれは、AMG製の2シーター、GTクーペを陶酔させるようなサーキット・マシンに仕立てた要素の1つ。ほかにも、エアロダイナミクスの改良など、数え切れないほどの改良が加えられている。
過去にも、何台かのブラックシリーズという特別仕様が、AMGのモデルラインの頂点を飾ってきた。今回はその6番目となる。
これまでに登場したブラックシリーズは、SLKとCLKのほか、カッコいいSLに、とてつもないC63。直近となっていたのは7年前のエース、SLSだ。
すでに十二分な迫力を持つAMG GT。仮にハンドリングの向上だけなら、気付きにくいかもしれない。もちろん、見た目もちゃんと差別化されている。
数多くのカーボンファイバー製部品が投入され、AMG GT Rと比較して、ブラックシリーズは35kgも軽く仕上がっている。レースカーのGT3の開発にも関わった技術者が、空気力学的な改良を施している。
トラック・パッケージでは、チタン製のロールケージと4点ハーネスが標準装備となる。ホイールは10スポーク・デザインの鍛造品。フロントが19インチでリアが20インチとなる。ブレーキはカーボン・セラミック製だ。
メルセデスAMG量産モデルで最強の730ps
そしてV8エンジン。これまでのクロスプレーンのV8エンジンも、酔わせてくれるユニットだった。それがフラットプレーンに変わっている。これにより点火タイミングを最適化でき、カウンターウエイトも軽くできる。
AMGはさらに、クランクシャフトやカムシャフト、エギゾーストマニフォールドも、新設計としている。ターボには新しいベアリングが組まれ、高いブースト圧に対応。インタークーラーも大型化された。圧縮比も見直されている。
これらを合わせ、英国での価格は33万5000ポンド(4489万円)なり。
このフラットプレーン・クランクのエンジンは、フェラーリやマクラーレンなども採用する構造。クロスプレーン・クランクより、高回転型にしやすい。そのかわりV8らしい、ドロドロとしたサウンドは薄れてしまう。
AMG GTブラックシリーズでは、レブリミットは200rpmだけ引き上げられ、7200rpmとなった。最高出力の発生回転数は500rpm上昇し、730psを獲得している。
馬力は、メルセデスAMGの量産モデルとして歴代最強。最大トルクも81.4kg-mという極太だ。
エンジンの仕様や数字を見ると、最高出力や排気量、フラットプレーンというクランク、ターボなど、フェラーリF8トリブートやマクラーレン720Sと重なってくる。だが、決して近似したクルマだとは感じない。
メルセデスAMGは、GTのエンジン搭載位置はフロント・ミドシップだと表現する。でも、つまりフロントエンジン・リアドライブ。ミドシップとは違う。
レーシングカー的なインテリア
4.0LのV8エンジンは、2m近くあるボンネットの後ろ側に載っている。大きく空いたフロント部分には、冷却系のシステムが収まる。フロアが完全にパネルで覆われていない理由でもある。
ミドシップのようにエンジンが乗員の後ろにある場合、エンジンルームへ空気を導くのは少し難しい。逆に空気を外に出すのは、簡単になる。
メルセデスAMG GTでは、エンジンはフロントの低い位置にレイアウトされ、その後ろに7速デュアルクラッチATが組まれる。運転席と助手席は、大きなパワートレインの両脇に収まる。
インテリアは、かなりレーシングカー的。シートはサイドサポートが高く、容赦なく身体を固定してくれる。ハーネスを締める前に、ドアは閉じておかないと手が届かない。
ドライバーズシートに座る。小さなシフトレバーと、ドライブモード・オプションがセンターコンソールに並ぶ。アルカンターラに似たダイナミカ素材が巻かれたステアリングホイールには、シフトパドルとショートカットボタンが付いている。
ドイツにあるラウジッツ・サーキットは、やや路面が荒い。ダンパーの設定は、レースよりスポーツ・モードの方が良いようだ。
コイルオーバー・サスペンションは新しくなっているが、アダプティブ・ダンパーは残された。一般道も大丈夫だとメルセデスAMGは話すが、毎日乗りたいとは思わないだろう。
今回はサーキットのみでの試乗。一般道での走りは別の機会に試すしかない。でも、サーキットを走らないドライブ旅行なら、より適したグランドツアラーはほかにもあるはず。
この続きは後編にて。
【量産AMG最強の730ps】メルセデスAMG GTブラックシリーズへ試乗 新V8搭載 後編
優れた重量配分と動的性能のFRモデル
text:Matt Prior(マット・プライヤー)
translation:Kenji Nakajima(中嶋健治)
サーキットでの、メルセデスAMG GTブラックシリーズは素晴らしい。そして通常のAMG GTより、かなりうるさい。
船の機関室や下町の工房のように、AMG GTブラックシリーズの車内には、ノイズが共鳴する。ロードノイズが聞こえない場合でも、エンジンノイズが騒々しく響く。
新しいV8エンジンは、ざらついた魅惑的なサウンドを発する。通常のAMG製のV8エンジンとは異なる。フェラーリのように高音を響かせたり、マクラーレンのようにフラットな唸りでもない。
筆者は、チューニングを受けた2代目フォード・エスコートのサウンドに、少し似ていると感じた。33万5000ポンド(4489万円)もするクルマだから、もう少し個性のある響きでも良いように思う。でも、好きだ。
そして、ドライビング体験も大好きになった。重量配分の正しい、高い動的性能を備えるフロントエンジン・リアドライブのクルマに乗ったら、丸1日楽しんでいられる。メルセデスAMG GTブラックシリーズは、まさにそれ。
バランスは、アストン マーティンV12ヴァンテージSのよう。それでいてポルシェ911 GT2 RSのような積極性と個性がある。ファンタスティック、といいたくなる。
縁石にタイヤが乗り上げると、ガタガタと音を立て、振動が伝わってくる。それ以外の場面では、乗り心地は硬すぎず、落ち着きすら感じられる。
魅力的なコミュニケーション力の高さ
コーナーでは身のこなしに合わせるように、わずかにボディがロールする。ある意味で、911 GT3 RS以上の乗り味だと思う。
車重は1520kgで、AMG GT Rより35kg軽い。燃料などを搭載した状態で計測してみると、1665kgになっていた。このボディサイズや最高速度、レイアウトを考えれば、1600kg前後は妥当だろう。余裕のある冷却系も必要となる。
その車体を、自由に振り回せる。挙動にも感心する。信じられない勢いで加速し、ブレーキが強力に減速してくれる。フェードする兆候すらない。
エンジンはだいぶクルマの中央側に寄せてあるものの、まだドライバーの前にある。コーナーへの侵入速度と重心移動を意識していないと、アンダーステアが出てしまう。実際、ブレーキが不要な高速コーナーでは、安定したアンダーステア傾向にある。
速度域に関わらず、730psというパワーで旋回姿勢の調整は可能。AMG GTブラックシリーズに載ったフラットプレーンのV8を唸らせれば、クルマのコーナリングラインを補正できる。
スタビリティ・コントロールが部分的にオンの状態では、ノーズがコーナー出口へ向く前に、パワーが絞られるようだった。オフにすれば、10段階のトラクション・コントロールが支えてくれる。コーナリング姿勢を、より積極的に変化させて楽しめる。
AMG GTブラックシリーズの運転を魅力的にしている要因の1つが、コミュニケーション力の高さ。AMG GT Rでは、こんな印象はなかったと記憶している。
歴代AMGブラックシリーズで格別に良い
ステアリングは適度に軽く、操舵時の重さや感触が、自然に、直感的に変化する。ポルシェ911 GT3 RSの水準ではないにしろ、手のひらでの対話が楽しい。
以前に試乗したAMG GT Rでは、クルマとの一体感が乏しかった。だがサーキットに出れば、驚くようなラップタイムを刻めた。
ブラックシリーズなら、クルマとドライバーとの強い結びつきの中で、高速に周回できる。本気のGT3レースカーより、5秒程度だけ遅いラップタイムも狙えるように思える。なんとスリリングなクルマなのだろう。
メルセデスAMG GTブラックシリーズを走らせれば、GTシリーズのポルシェ911やBMW M4 GTS並みの、充足感と陶酔感を味わえる。筆者は大好きなタイプ。でも、全員の同僚がそうだとは限らない。
こんな激しいクルマが好きだなんて、と思われるかもしれない。それでも構わない。
確かにメルセデスAMGのブラックシリーズは、すべてが極上の仕上がりだったわけではなかった。でも、このGTブラックシリーズは、格別に良いと思う。
メルセデスAMG GTブラックシリーズ(欧州仕様)のスペック
価格:33万5000ポンド(4489万円)
全長:4544mm(標準GTクーペ)
全幅:1939mm(標準GTクーペ)
全高:1287mm(標準GTクーペ)
最高速度:325km/h
0-100km/h加速:3.2秒
燃費:7.8km/L
CO2排出量:292g/km
乾燥重量:1520kg
パワートレイン:V型8気筒3982ccツイン・ターボチャージャー
使用燃料:ガソリン
最高出力:730ps/6700-6900rpm
最大トルク:81.4kg-m/2000-6000rpm
ギアボックス:7速デュアルクラッチ・オートマティック
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メルセデスベンツ | 日記
Posted at
2020/10/22 20:46:12
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