2021年08月07日
STIスポーツに関してはインプレッサスポーツでFFにも投入してきたからな〜
スバルSTI スポーツの開発キーマンが語る「運転が上手くなるクルマ」の作り方
販売好調が伝わるレヴォーグの実に半分近くを占めるのが、トップグレードの「STIスポーツ」である。「走り」にこだわった新しいブランドが意図するものは果たして何か。そのエッセンスを開発のキーマンであり、スバルテクニカインターナショナルの開発副本部長 高津益夫氏に訊いた。聞き手はMotor Magazine編集長 千葉知充。(Motor Magazine2021年8月号より)
STIコンプリートカーとSTIスポーツの違いは?
千葉 まずはSTIスポーツ誕生の経緯を教えていただけますか。
高津 スバルテクニカインターナショナル株式会社(以下、STI)は、モータースポーツを通じて、スバルを世界一のブランドに成長させることを目的として1988年に設立されました。そこからモータースポーツに直結した商品やコンプリートカーの開発に携わってきました。コンプリートカーというのは、量産ラインからベース車を抜き出して作る基本的にハンドメイド的なクルマなので、量産ができません。結果的に価格も高価になってしまいますし、生産台数も限られます。もっと一般のお客様にSTIの商品をお届けしたい。それによってスバルのブランド価値も上げていきたいという思いが、STIスポーツの誕生につながっていきました。
千葉 STIコンプリートカーと、STIスポーツの違いはどこにあるのでしょう。
高津 コンプリートカーはあくまでSTIが企画して開発するもので、あらゆるところに手を加えています。一方、STIスポーツはスバルが企画を提案して、STIが走りの味付けを担当する量産カタログモデルであり、イメージを牽引するという位置づけです。スバルの生産ラインで組み立てられることが前提のクルマなので、主にサスペンションを中心に手を加えています。
千葉 スバル側とのすり合わせが大変なのではありませんか。
高津 それはありません。そもそも両社がめざしている方向性は同じですから。STIにとっていいクルマは、スバルにとってもいいクルマなのです。
公道でもレースでも求められる性能は同じ
千葉 STIスポーツの開発指針はどのようなものなのでしょう。
高津 これはSTIスポーツでもコンプリートカーでも基本的に違いはないのですが、ひと口で言えば「運転が上手くなるクルマ」にすることですね。実は、ドライバーが違和感や疲労感を覚えるのは、車体の応答遅れが原因なのです。STIでは、そこを可能な限り小さくすることを目標に突きつめてセッティングしています。
千葉 応答遅れとは?
高津 たとえば、一見真っ直ぐな道でも、路面が傾いていたりワダチや凹凸があったりと、タイヤの接地荷重も刻一刻変化しています。さらに、横風や横を走るクルマの影響など、さまざまな外乱の要素もあります。ドライバーはそれに抗いながら無意識にハンドルを調整しながら走っています。そこで応答遅れがあるクルマだと、反応が鈍いからドライバーはハンドルを切りすぎてしまう。クルマが反応した時点ではハンドルは切り過ぎているから慌てて戻す。この戻しの反応も遅れて、今度はハンドルを戻しすぎる。その繰り返しで、実際には微妙に蛇行しているのです。これではドライバーにはストレスがたまりますし、同乗者も疲れます。
千葉 その遅れをとにかく小さくして「運転が上手くなるクルマ」に仕上げるわけですね。
高津 レースでもまったく同じで、我々が参戦してきたニュルブルクリンク24時間耐久はその格好の実験場でもあるわけです。ニュルの北コースは道幅も狭いし路面のコンディションも良くないし、連続するブラインドコーナーの先は(クラッシュなど)何が待ち構えているかわかりません。究極の外乱状態です。そこで思いどおりの動きができるクルマというのは、プロレーサーにとっても非常に大事なことです。
動的な質感にこだわったレヴォーグSTIスポーツ
千葉 レヴォーグSTIスポーツの販売が好調ですが、開発過程でエピソードがあれば聞かせて下さい。
高津 レヴォーグは、スバルにとってもSTIにとっても、初めて手掛ける電子制御サスペンションでした。ですから、STIのメンバーとスバルの開発メンバーがまさしく一体となって開発に取り組みました。レヴォーグのイメージをけん引するクルマとして、とにかく動的な質感の向上にこだわりました。ハンドリングだけではなく、振動、騒音など、すべてにおいてワンランク上を目指したのです。幸いレヴォーグに採用されているSGP(スバルグローバルプラットフォーム)は、従来のプラットフォームとは次元が違うレベルでしたので、ごく初期の試作段階から予想を超えたハイレベルな仕上がりで驚きましたね。
千葉 では最後に、これからのSTI、そしてSTIスポーツの抱負を聞かせてください
高津 我々の技術=「運転が上手くなるクルマ」はお客様に安心と愉しさを提供できる技術です。もっと幅広くいろいろなクルマに展開したいですね。一方で、コンプリートカーはもっともっとパフォーマンスを上げて高性能なことでもスバルのブランドを牽引していきたいと考えています。従来のSシリーズを超えた次元に行けるように頑張りたいと思います。
千葉 それはとても楽しみです。今後もSTIの活動から目を離せませんね。(文:Motor Magazine編集部 千葉知充/写真:永元秀和)
実はFFにこそスバルの真髄が? なぜインプレッサだけに“FF”車が設定されているのか
スバル車のウリのひとつが「シンメトリカルAWD」。水平対向エンジンと組み合わせた独自の四輪駆動システムを採用することが特徴で、レヴォーグもフォレスターも全グレードで4WDを採用している。
しかし、そのなかでインプレッサだけは4WD以外に、FFモデルも設定されてる。スバルといえば4WD! それなのに、なぜインプレッサだけFFがあるのか? モータージャーナリストの斎藤聡氏が解説する。
文/斎藤 聡
写真/SUBARU、ベストカー編集部
【画像ギャラリー】FFでもスバル?FFこそスバル?? インプレッサこそスバル!?
■スバルの歴史を紐解くと!?
スバルというとAWDのイメージが強いですよね。インプレッサWRXの世界ラリー選手権での活躍や、オンロードAWDを定着させたレガシィの功績によるところが大きいのだろうと思います。
現在のスバルのラインナップを見ても、2輪駆動なのはダイハツからOEM供給を受けているジャスティと軽自動車、それからトヨタと共同開発したFRスポーツカーBRZだけ。純スバルの車種は、ほぼすべてがAWDというくらい、AWD比率が高くなっています。シリーズのなかでもFFがあるのはインプレッサ (含むG4)だけです。
スバルのCセグハッチバックであるインプレッサスポーツ。純スバルの量産車としては数少ないFF仕様がある
もちろんインプレッサG4にもFFがある。スバルはAWD採用の車種比率が高くなっており、逆にFFのインプレッサは希少かもしれない
では、なぜインプレッサにはFFが残っているのでしょうか。当然の疑問ですが、そう考えると話は逆にわかりにくくなってしまうかもしれません。
確かにスバルはAWDを重要な技術と考えていますが、スバルの歴史を考えると、「AWD=スバル」ではないということがわかります。それよりも4WDに至る経緯がとてもユニークで興味深いものなんです。
■量産FFのブレイクスルー
スバルの前身はご存知のように中島飛行機で、97式戦闘機や、「隼」と呼ばれる一式戦闘機などを製作、またゼロ戦にも搭載されたエンジン「栄」も中島飛行機製でした。
終戦後、中島飛行機は富士重工となって(途中変遷はありますが)自動車の開発に乗り出します。
航空機の技術を応用したフレームレスのモノコックボディを得意とし、モノコックフレームのバスや、FRで1.5Lの試作乗用車P-1(スバル1500)の開発を経て、大ヒット作となったスバル360を開発します。リアエンジンリアドライブ(RR)で、 2サイクル2気筒エンジンを搭載していました。
この後やはりヒット作となった軽のキャブオーバーバンのスバル サンバー(RR)で自動車メーカーとしての基礎を築くと、1966年に水平対向4気筒エンジンを搭載したFFモデル=スバル1000を発表します。
初の水平対向エンジン縦置きのFFを採用したスバル1000。ドライブシャフトの端に取り付けるジョイントを工夫し、振動問題を解決した
このスバル1000が、スバルにとってはとても大きな技術的な分岐点になるのです。
試作車のP-1では、プロペラシャフトの重さと振動に課題を残していました。またフロアトンネルによって居住性が犠牲になることもネガティブなポイントでした。スバル360では、RRの弱点である横風安定性の弱さが課題として残されていました。
そういったクルマ開発の経験から、プロペラシャフトのない、RRではない駆動方式のクルマ、つまりFFが小型車には理想的とスバルは結論付けたのでした。
一方、エンジン形式はどうやって決まったのかというと、FFであるということが決まっており、オーバーハングが短いこと、デフがクルマの中心にあること、エンジン→デフ→トランスミッションがストレートなレイアウトが望ましい、というのがエンジン形式を決めるにあたっての条件だったのだそうです。
横置き4気筒、縦置きV型4気筒、水平対向4気筒などの案が挙げられた末、水平対向4気筒に決まったのです。
水平対向4気筒のFFを実現するにあたって、ドライブシャフトの上下動による有効長の変化を吸収するダブル・オフセット・ジョイントを発明しています。
こうしてスバルの水平対向4気筒+FFという基本形ができあがったのです。つまり、FFはスバル車の廉価版ではなく基本形なのです。
写真はスバル1000にも搭載されたEA52型水平対向エンジンのドライブトレイン。1966年はトヨタ カローラやダットサン サニーがデビューした年でもあり、ともに国産自動車史の夜明けを飾ったと言っても過言ではない
■世界初、オンロード4WDメーカーへの道
4WDメーカーになるきっかけは東北電力の要請を受けて1971年に制作したスバルff-1・1300Gバン4WDでした。当初東北電力は宮城スバルに製作依頼をしたのでした。依頼を受けた宮城スバルは試作車を製作しスバルに持ち込みます。スバルは即座に生産し限定販売したのでした。
東北電力からの依頼が1970年5月。宮城スバルの試作車の完成が1971年2月といいますから、もの凄い開発スピードだったわけです。1971年3月にスバルに持ち込まれ、8月に一次試作車4台のテストが行われ、年内にさらに7台が製作され東北電力と長野県飯山農協と白馬村役場に販売されました。
ff-1 1300 G 4WDはスバルAWDの原点とも言えるが、一般向けの販売はされなかった
これがスバルのオンロード4WDの原点となるわけです。
4WDの量産モデルは1972年9月にデビューしたレオーネ4WDエステートバン(FFのレオーネクーペは1971年7月デビュー)からになります。
時系列をたどってみると、1971年の3月に宮城スバルから4WD試作車が持ち込まれてから、1972年9月までわずか1年半で量産モデルが誕生しているわけです。ものすごいスピード感だと思います。
想像ですが、宮城スバルに東北電力から話が持ち込まれた時には、スバル本社にも相談が行くでしょうし、試作の状況を把握していたとしても不思議ではありません。
いずれにしても、短い期間で次期主力セダンであるレオーネに4WDを搭載すること決め、かつ1972年9月にレオーネエステート4WDエステートバンとして量産モデルを発売したのですから、スバルとしてもオンロード4WDの可能性に大きな可能性を見出していたのでしょう。
ちなみに欧州の4WDメーカーとして知られるアウディがクワトロをデビューさせるのは1980年3月のジュネーブショーですから8年も速いことになります。
1972登場のレオーネ4WDエステートバン。スバル1000にも搭載されたEA型エンジンは、レオーネとともに歴史を重ねることに
ともあれ、こんな具合にスバルは世界的にみても珍しい4WDメーカーとなったのですが、その一番根っこの部分には、水平対向+左右等長ジョイントのFFレイアウトがあるんです。これもまたスバルらしいFFといえるのではないでしょうか。
■やっぱりAWDのほうが……
最後に、はたしてインプレッサを買う場合はFFで充分なのか、それとも価格は高くてもAWDがいいのでしょうか。
インプレッサのプラットフォームであるSGPはいろんなメーカーが作っている新世代プラットフォームのなかでも出色の出来だと思います。そのためFFでも走りの質感がとても高いです。
インプレッサスポーツ STI Sport。インプレッサの最上級モデルだが、ちゃんとFFも選択できる。4WDは292万6000円、FFは270万6000円
ビタッと路面にタイヤを接地してくれるような安定感と接地感があります。直進安定性、旋回性、乗り心地など、どれをとっても文句がありません。
そういう意味ではFFはあり! なのですが、困ったことにAWDはもっといいのです。たぶん価格差以上にAWDのメリットが感じられると思います。普段走っていて、まったく4WDの重さや鈍さ差を感じないし、それでいて雨が降ると抜群の安定性を発揮してくれます。もちろん雪も。
なので、+22万円差ですが、もし可能ならAWDを選んだほうが少し余計に幸せになれると思います。
インプレッサはFFもいい。でもAWDはもっといい……
ブログ一覧 |
富士重工 | 日記
Posted at
2021/08/07 19:40:14
今、あなたにおすすめ