2021年12月30日
エンジン的には037って言うよりもツインチャージャーだからS4っぽくも感じるけど上手い事現代風に仕立て直したよね
キメラ・エボ37へ試乗 ランチア・ラリー037を復刻 4気筒ツインチャージャー 前編
グループBマシン、ラリー037を復刻
キメラ・エボ37。これほど色々な思いを抱かせるクルマは、過去にあっただろうか。
すでに走行距離は7000kmを刻む開発車両の車内には、接着剤の匂いが残っている。シャシーのチューニングを詰める目的で、塗って間もない部分もあるらしい。美しいフォルムのボディは、ディティールまでしっかり仕上げられている。
雰囲気は紛れもなく、肉食動物。同時に整然としていて、上品さすら感じさせる。クルマ好きでなくても、思わず見惚れてしまうのではないだろうか。
いわずもがな、キメラ・エボ37の着想の元となっているのは、1980年代にピニンファリーナのスタイリングで仕上げられたグループBマシン、ランチア・ラリー037。ミドシップのラリー・モンスターだ。
筆者がいるのは、イタリア・ピエモンテ州のブスカ国際カートサーキット。まだ43歳だという、キメラ・アウトモビリ社の代表で開発を率いたルカ・ベッティ氏へ話を伺う。「現代の技術でラリー037を生み出したかったのです。同じ個性や魅力を持つクルマを」
オリジナルは、世界ラリー選手権が最も過激だったグループB時代で、最後に優勝した後輪駆動のマシンだ。だがエボ37は、いわゆる一般的なレストモッドとは少々異なる。
ラリー037たランチア・ベータ・モンテカルロをベースとしつつ、ほとんど部品を共有していなかったことと同じく、エボ37も多くが新調されている。ボディシェル以外、すべてが。
ボディサイズはラリー037とほぼ同等
設計自体はオリジナルの037に準じている。サスペンションは前後ともにダブルウイッシュボーン式で、クロモリ鋼のパイプで組まれたサブフレームに取り付けられている。
エンジンはコクピットの後ろ。ベータ・モンテカルロが横置きだったのに対し、こちらは縦置き。実際、ラリー037でも縦置きだった。トランスミッションの整備や修理の作業性を高めるため、かつてのエンジニアが選んだレイアウトだ。
ボディパネルの内側、シェルが同じということで、サイズもラリー037とほぼ同じ。しかしアグレッシブなフェンダーラインはわずかに広く、左右のタイヤの間隔、トレッドもワイド。ホイールベースも少し伸ばされている。全長は同じだという。
マツダMX-5(ロードスター)と同等の全長だが、全幅はBMW 5シリーズに近い。全高はアルピーヌA110より低いそうだ。こんなプロポーションは珍しい。
エンジンを観察できるウインドウの付いた、リアのクラムシェルを持ち上げる。スタイリングから受けた興奮が、さらに高まる。
ベッティはエボ37が公道を走れるロードカーだと説明するが、リアのダンパーは片側に2本付いている。オーバースペックに思えるものの、ランチアがラリー037に与えた仕様として、ここでも再現されている。
フロントアクスル側はダンパーにコイルがかぶさったコイルオーバー・タイプ。リア側は、ダブルウイッシュボーンを支えるスプリングの左右で、オーリンズ社製の精巧なダンパーがシャシーと結ばれている。美しい眺めだ。
ロンバルディ氏が再設計した2.2L直4
サスペンションは2種類から選べるそうだ。1つはこのオーリンズ社製を用いた、公道とサーキットを両立させた仕様。もう1つは、よりサーキットに軸足を置くTTX社製を用いた仕様。どちらを選んでも、減衰力と車高は手動で調整できる。
リアバンパーの直前には、大きなサイレンサーが付いたマフラーが鎮座する。ステンレスが熱できれいに染まっている。大きなターボチャージャーから太いパイプが導かれ、円錐形のエンドパイプへ続く。こちらも037からインスピレーションを受けている。
クラムシェルの内側でセンターを飾っているのが、4気筒エンジン。これには、フェラーリのF1チームを率いていた過去も持つ技術者、クラウディオ・ロンバルディ氏が関わっている。
彼はランチアで技術開発の責任者を務めていた時、ラリー037のパワートレイン開発に携わった。その後フェラーリへ移り、3.5L ティーポ043と呼ばれるF1用V型12気筒エンジンの開発を率いている。
それから20年後、ロンバルディはベッティに招聘され、2.2L 4気筒エンジンの再設計を依頼された。スチール製ブロックを制作し、最終的なセットアップまで面倒を見てくれたそうだ。
エンジンには鋭いアクセルレスポンスを叶えるために、電動式のスーパーチャージャーも組まれている。エボ37を力強く推進させるため、ターボチャージャーと共存している。
ツインチャージャーで420ps以上
オリジナルのラリー037は2.1L 4気筒スーパーチャージャーで、300馬力以上を発揮した。より過激なデルタS4は1.8Lのツインチャージャーで、500馬力以上を絞り出したといわれる。
このエボ37の場合、ターボブースト圧は1.5barと低い。ベッティによれば2.0barで700馬力は簡単に引き出せるというが、2万kmのテストの結果、充分にパワフルで信頼性も担保できることから、この値に留めているという。
今回、試乗を許されたエボ37の最高出力は420psに制限されていた。先代のBMW M2 CSとほぼ同じ馬力で、車重は1050kgと、それより約500kgも軽い。不足はない。
まずはベッティによるデモラン。筆者は助手席でハーネスを締める。サウンドも匂いも、本物感が強い。
アイドリング時でも、エンジンはメカニカルノイズと燃焼音が入り混じった轟音を放つ。現代のターボエンジンとは異なる音色だ。エンジンオイルが燃えた匂いが鼻を突く。このまま市販されるのかはわからないが、むしろ、このままが良いだろう。
ウォームアップが終了すると、ベッティは容赦ない。彼は2度ほど世界ラリー選手権へのエントリー経験があるそうだから、ホイールベースの短いミドシップ・マシンを思うままに振り回せることもうなずける。
ブレーキを引きずりながらのコーナリングをクルマが望んでいるかのように、機敏に動く。しかも速い。カートサーキットということで、ツインチャージャーの2.2Lエンジンを回し切れる時間はほんの僅か。直線での加速には息を呑む。
この続きは後編にて。
キメラ・エボ37へ試乗 ランチア・ラリー037を復刻 4気筒ツインチャージャー 後編
イタリアンなドライビングポジション
キメラ・エボ37の開発を率いたルカ・ベッティ氏は、レストモッドのカテゴリーに属するクルマとしては最もエクストリームだ、と表現する。ポルシェ911をDLS 911として再生させたシンガーが聞けば黙っていないかもしれないが、誇張ではないと思う。
エボ37に充分熱が入ったところで、筆者が運転席に座る。モモ社製のステアリングホイールが膝のそばに伸びる、イタリアンなドライビングポジションに収まる。脚は折り曲げて、腕を伸ばす格好だ。
基本的に、車内の人間工学もランチア・ラリー037に準じている。ラリードライバーのヴァルター・ロール氏やマルク・アレン氏が、こんな姿勢でステアリングホイールを激しく回していたのかと考えると、改めて驚かされる。
ぎこちない姿勢を除けば、それ以外は運転へ集中しやすい空間。プロトタイプということでセンターコンソールには無骨なトグルスイッチが並んでいたが、市販版ではもう少し美しいスイッチへ変更されるという。
ダッシュボードも当時のランチア風。横に長い箱のようなカタチは、至ってシンプル。マット仕上げが美しいカーボンファイバー・パネルへ、黒い文字盤に赤い目盛りのメーターが並ぶ。
バケットシート・シェルもカーボン製。鮮やかなレッドのアルカンターラもふんだんに用いられている。華やかだった、80年代の雰囲気を演出するように。
トランスミッションは6速MT。トランスアクスル・レイアウトで、シフトパドル付きのシーケンシャル仕様も選べるという。露出したシフトレバーの造形が美しい。
ブースト上昇とともに拍車が掛かる加速力
エボ37を激しく発進させるには、高めの回転数が求められる。クラッチペダルは適度に軽く、エンストさせずにつなぎやすい。ストレートのカットギアが唸る。後方からは圧縮される吸気音が響く。想像以上に運転しやすい。ゆっくり動かすような場面でも。
シフトレバーも軽く動く。少しタッチがゴムっぽいものの、ゲートは正確。運転席からの視界も良い。乗り降りもしやすかった。
ステアリングラックは、アルファ・ロメオ・ジュリア・クアドリフォリオ用のものだというが、レシオをクイックに変更し、電動アシストは抑えられている。繊細で滑らかに動く。ロータス・エキシージ S3のように、エボ37の運転は難しくない。
狭いカート用サーキットだから、長く加速は続けられない。それでも、アクセルペダルに対するパワートレインの反応はラリーマシンそのもの。
電動スーパーチャージャーが低回転域で効果的に動き、最新のターボエンジンと同等の吹け上がりを実現している。ターボラグが個性を与えている。比較的低めの回転数から太いトルクが発生するが、ターボブーストの上昇とともに加速力に拍車が掛かる。
あっという間に直線が終わり、アクセルオフ。ブローオフの悲鳴が聞こえる。ポルシェ911のレストモッドには、もっとリニアな加速と聴き応えのあるサウンドを叶えた事例もある。だが、グループBを彷彿とさせるようなドラマチックさでは負けていない。
エボ37を印象付けるハンドリング
エンジン以上にエボ37を印象付けるのが、ハンドリング。量産されるような高性能モデルと比較しても、アンダーステアが抑えられている。即座にフロントノーズは向きを変え、慣性や抵抗はほとんど感じられない。
コーナーリング中は、車重の軽さとシャシーバランスのおかげで、グリップ力も高い。ピレリPゼロ・タイヤの限界を超えても不安を感じないほど、クルマとコミュニケーションが取りやすい。
メッキ加工されたLSDがリアタイヤを統制し、テールを好きなだけ正確に振り回せる。420psの力を動員すれば、無限にドリフトアングルを保持できそうだ。クルマのしなやかさや漸進性、挙動の掴みやすさに深く感心する。
ただし、タイトコーナーでは少しトリッキー。予期しない勢いで回転する場合がある。クイックなステアリングでも、対処しきれないこともあるだろう。それ以外のコーナーでは、オーバーステアを堪能できる。高速で安全に運転できるセットアップだ。
許されるなら、アルプス山脈のワインディングでエボ37を味わってみたい。恐らく、人生で最も忘れられないドライブの1つになるだろう。
グループB時代のラリードライバー、ミキ・ビアシオン氏が動的特性のチューニングに協力してくれたと、ベッティが話す。この仕上がりを体験すれば、疑いようはない。
伝説的な傑作と現代的な技術の融合
近年のレストモッド事例もそうだが、ほぼすべてが新しく作られたといえるキメラ・エボ37も、非常に高価。完成度の高さと関わった人物の名前を聞けば、驚くことではないかもしれないが、48万ユーロ(約6240万円)だ。
明らかに前例のないプロジェクトの成果であり、伝説的な傑作に現代的な技術が見事に融合されている。再設計された2.2L 4気筒ツインチャージャー・エンジンも素晴らしい。白眉の操縦性は、唯一無二のものだといえる。
残念ながら、筆者はこれまでランチア・ラリー037を運転した経験はない。しかし、エボ37がその体験に相当近いものなのだろいう、ということは想像できる。電動パワーステアリングと、一般道での乗りやすさを除いて。
キメラ・エボ37をガレージに迎えることができるドライバーは、僅か37名。プライスレスなクルマが誕生したことは、間違いないと思う。
キメラ・エボ37(欧州仕様)のスペック
英国価格:48万ユーロ(約6240万円)
全長:3915mm(オリジナル・ランチア・ラリー037)
全幅:1850mm(オリジナル・ランチア・ラリー037)
全高:1245mm(オリジナル・ランチア・ラリー037)
最高速度:305km/h(予想)
0-100km/h加速:3.0秒(予想)
燃費:−
CO2排出量:−
車両重量:1050kg(予想)
パワートレイン:直列4気筒2150ccターボチャージャー+電動スーパーチャージャー
使用燃料:ガソリン
最高出力:507ps/7000-7250rpm
最大トルク:50.9kg-m
ギアボックス:6速マニュアル
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Posted at
2021/12/30 12:40:48
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