2021年12月31日
ケーターハムは軽さがウリだからね〜馬力だけで言えば180馬力ない程度だし
ケータハム・セブン 420R チャンピオンシップへ試乗 孤高のワンメイクレーサー 前編
パワーウエイトレシオは911 GT3に匹敵
これまでにないほど威圧的なブラックのケータハム・セブンが、トレーラーから降ろされる。興奮するとともに、一抹の恐怖も感じる。このケータハムには、確かにこの色が一番似合うと思う。
四角くフラットなテールが、まず先に姿を表す。鮮やかなレッドに塗られた、大きなロールケージがすぐに続く。エイボン社製のスリックタイヤが、粘っとした光沢を放つ。
磨かれた太いエグゾースト・サイレンサーが、陽光を反射する。フロントガラスはない。エンジンから伸びる4本のタコ足が、サイレンサーへ導かれている。フロントタイヤの上には、小さなサイクルフェンダーがかぶさっている。
ゼッケンは7番。数秒の時間をかけて、今日の試乗車が姿を表した。妥協なしに作り上げられた、ケータハム・セブン 420R チャンピオンシップというレースカーだ。その姿からして、忘れがたいインパクトがある。
このシングルシーターのケータハムは、現在販売されているセブンで最もパワフルなモデルではない。その栄光は620Rが保持している。スーパーチャージャーで加給される314psのモンスターは、どんなスーパーカーにも太刀打ちできる。
この420R チャンピオンシップの最高出力は、177ps。4気筒エンジンは自然吸気のまま。それでも重さ当たりの馬力、パワーウエイトレシオは最新のポルシェ911 GT3に匹敵する。
シーケンシャルMTにスリックタイヤ
420R チャンピオンシップは、ケーターハムのワンメイクレースに作られたサーキット専用マシン。このレースには4カテゴリーが存在するが、その最上位用モデルに当たる。911 GT3とは、直接戦うことはないだろう。
ケータハム 620Rのように、公道を走るための法規に準拠する必要もない。フロントガラスはなく、新製品だというタイヤには、溝もまったく彫られていない。
トランスミッションは通常のモデルと異なり、サデブ社製の6速シーケンシャルMT。過去にも公道用のセブンへ限定的に採用されたこともあるが、鋭いシフトアップと、素晴らしくメカニカルな感触を味わわせてくれる。
恐らく、最も精巧なデュアルクラッチATの感触をも超えると思う。そこから、ドディオン・アスクルに載るタイタン社製リミテッドスリップ・デフへパワーが導かれる。
エンジンは、フォード社製の2.0L 4気筒デュラテック・ユニット。スリックタイヤのグリップ力とパワーを受け止めるため、各部に補強が施され、A型フレームも剛性が高められている。
サスペンション・スプリングはアイバッハ社製で、ダンパーはビルシュタイン社製。サスペンションアームは新設計のものになり、キャンバー角の調整が可能だという。
420R チャンピオンシップに乗り込む方法は、ロールケージの上から身体を落とすのが良い。シートというより、身体が動かないようにするためのバケットに、腰をはめる。通常のケータハムより背もたれが寝ている。
エンジンの反応は敏感そのもの
正直いって、ドライビングシートは窮屈。目線は、クイックリリース・ボスの付いたモモ社製ステアリングホイール・リムの上をかすめるほど低い。
背の高いトランスミッション・トンネルにも、一切のパッドがない。縁石の段差に乗り上げると、跳ねるような振動で腰骨に衝撃が加わることを、後で思い知ることになる。
走るのは、英国西部のスランドウ・サーキット。余分なものが剥ぎ取られたセブン 420Rのエンジンを、ピットレーンでスタートさせると、エグゾーストノートが充満する。ステアリングホイールはコンクリートのように重い。LSDがガタガタと音を立てる。
アクセルペダルに対するエンジンの反応は、敏感そのもの。上質なガソリンがタンクを満たしているのだろう。燃料計はないものの、サーキット走行では45分で燃やし切るらしい。
公道用のケータハム 420Rですら、装備が豪華で居心地が良かったと思わせる。それよりスパルタンなクルマとなると、実際のところ、相当な我慢が求められる。
コースインしたら、まずはタイヤを温めなければならない。かなりのペースで走り込んで、冷え切ったゴムの温度がようやく上昇してくる。
ケータハム・チャンピオンシップ・シリーズでの優勝経験も持つ、豊富な知識を持った今日のサポートクルーの1人、ジョン・バーン氏ですら温めるのが大変だったと話していた。なるほど。
この続きは後編にて。
ケータハム・セブン 420R チャンピオンシップへ試乗 孤高のワンメイクレーサー 後編
タイヤが温まると全貌が見え始める
ケータハム・セブン 420R チャンピオンシップのスリックタイヤを温めるべく、数周走り込むと、純粋なレーシングカーであることが見えてくる。公道用モデルをチューニングしたセブンではない。徐々に、セブンの攻撃態勢が整っていく。
クルマを理解するほど、よりタイトに420R チャンピオンシップを運転できるようになる。このセブン自らも、求めていることのようだ。
過去にないほど激しく、ブレーキペダルを蹴飛ばす。ギリギリのポイントで。6速シーケンシャルMTで次々にギアをつなぎ、エンジンの回転に合わせて走行速度がダイレクトに高まる。
コーナーでは、アクセルオンのポイントを徐々に早めていける。周回を重ねるほど、タイヤの温度が上昇。1m、2m、3mと、4周前なら姿勢を乱していたであろうポイントに迫れる。
ハードコアなケータハム・セブンの全貌が見え始める。エンジンの熱を感じる。ノイズもうるさい。すべてが温まりきっていないようだが、圧倒するほどにエネルギッシュだ。
短いシフトレバーを手前側に引くだけで、シフトアップできる。低めに設定されたエンジンのレッドラインへ都度当たる。シンクロメッシュがないことで、メカの動作は一層滑らかだ。
前方を見ていても視界へ入るところに、変速タイミングを教えてくれるシフトライトが付いている。運転へ没入してしまう。バランスに優れ、正確に狙った通りのスピードを絞り出せる。
公道用セブンと異なるアグレッシブなマナー
アシストの付かないステアリングも、ペダルも、積極的な入力を受け付ける。ステアリングラックは、どんなケータハムよりクイックだという。
エイボン社製のスリックタイヤにも感服する。熱の入り具合が充分でなくても、公道用モデルでは考えられないようなグリップ力を生み出す。狙い通りの温度に上昇すれば、軽いシャシーと相まって、顔を剥がしそうな横Gにも耐えるのだろう。
もう少しダウンフォースがあっても良いかもしれない。だが、想像以上にグリップの抜けは漸進的だ。
420R チャンピオンシップのドライビング体験を掘り下げるなら、路面に限りなく近いシャシーを手懐けることが求められる。古いシングルシーター・レーサーのように、幅200のリアタイヤをある程度滑らせた方がタイムは縮まる。
カウンターステアに頼らず、パワーを掛けてコーナーの出口を目指す。この方が速いだけでなく、最高に楽しい。
公道用セブンとの1番大きな違いは、そのアグレッシブなマナー。だが、不用意に挙動が乱れることはない。ノイズが大きくグリップも甚大。ドライバーを喜ばせてくれる、表現力にも溢れている。
実際、筆者は比較的短時間のうちに自信を持って振り回すことができるようになった。優れたバランスを活かし、望み通りのドリフトも引き出せた。
試乗車には備わっていなかったが、リアにアンチロールバーを追加すれば、より手懐けやすくなるだろう。あるいは、スプリングマウントでクルマの角度を調整しても良い。同時にすると、尖った操縦特性にもなり得るが。
極上のサーキット体験を与えてくれる
当然ながら、セブン 420R チャンピオンシップの見事なサーキットバランスを得るには、それなりの価格も求められる。中古のポルシェ・ケイマンRと同等の予算が必要になるというが、サーキットで得られる充足感は比較にならないほど深いと思う。
ただし、その予算ならシリーズ3のロータス・エキシージ・カップも魅力的だ。独立懸架式サスペンションに、専用のラッピングも備わっている。よりエレガントだし、中回転域でのトルクを活かせる。そして、一般道も走れる。
このケータハム・セブン 420R チャンピオンシップは、完璧とはいえないかもしれない。だが、孤高のドライバーズカーとして、極上のサーキット体験を与えてくれる。セットアップの幅も極めて広い。
奥の深いサーキットマシンとして、ユニークで非常に惹かれる存在だと感じた。
ケータハム・セブン 420R チャンピオンシップ(英国仕様)のスペック
英国価格:4万6495ポンド(約706万円)から
全長:3100mm(標準420R)
全幅:1575mm(標準420R)
全高:1090mm(標準420R)
最高速度:212km/h
0-100km/h加速:3.8秒(予想)
燃費:−
CO2排出量:−
車両重量:560kg
パワートレイン:直列4気筒1999cc自然吸気
使用燃料:ガソリン
最高出力:177ps/7300rpm
最大トルク:19.7kg-m/6100rpm
ギアボックス:6速シーケンシャル・マニュアル
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Posted at
2021/12/31 16:42:42
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