2022年07月07日
クラシック・ミニを電動化 エレクトロジェニック・ミニへ試乗 楽しい個性はキープ 前編
Aシリーズ・エンジンを電気モーターに置換
近年の欧州では、クラシックカーをバッテリーEV(BEV)に変換(エレクトロモッド)する事例が増えている。その理由は、重いクラッチペダルや面倒なキャブレター、トランスミッションを変速するという手間から開放され、乗りやすくなるからのようだ。
だが、ポルシェやフェラーリなど、内燃エンジンが大きな魅力を構成しているモデルの場合は、クルマとしての魅力を奪っているようにも思える。今後、自然吸気の水平対向6気筒やV型12気筒が量産車に採用される可能性は、極めて低い。
市街地を元気に走る美しい姿を目にできるという点では、筆者も賛同できなくはないけれど。読者はどうお感じだろう。
反面、エンジンが主役ではなかったクラシックカーの場合は、少し話が違う。エレクトロモッドのベースとして、悪くない候補になり得る。シトロエンDSなどは近未来的なスタイリングと相まって、電気モーターが似合いそうに思える。
英国では、オースチンが開発したAシリーズと呼ばれる直列4気筒エンジンが、多くの量産モデルへ搭載されてきた。チューニング次第で大幅に能力を高めることも可能で、クルマ好きに愛されたユニットでもある。だが、基本的には実務的な機械でもあった。
そんなAシリーズを搭載していたモデルの1つが、BMCミニ。今回試乗したのは、英国のエレクトロジェニック社が1994年式のミニから内燃エンジンを降ろし、BEVへ生まれ変わらせ1台だ。
車両代抜きの改造費は約534万円から
AUTOCARを定期的にお読みいただいている方なら、同社が手掛けたポルシェ356をご記憶かもしれない。このクルマにも、それに近い技術が施されている。
初めに触れておくと、エレクトロジェニック・ミニは量産車ではない。基本的にオーダーメイドに近く、ミニやポルシェに限らず、名前を聞いたことのない様なクラシックカーでも、充分な予算を用意すればエレクトロモッドしてくれる。
ミニに限っては需要が高いらしく、比較的ローコストでBEV化できるという。納期も他のモデルより短いらしい。今回試乗させていただいたクルマは、英国のスモールカー・ビッグシティ社によってオーダーされたものだそうだ。
ちなみにこの会社は、クラシック・ミニでロンドンを観光する企画を展開している。所有するミニのすべてを、これからBEVへ改造する予定だという。
観光企業がこんな計画を組むほどだから、他のモデルのように驚くような金額を準備する必要はない。実施規模が大きいほど、コストは下がっていく。といっても、良好な状態のベース車両とは別に、3万2000ポンド(約534万円)の改造費が必要ではある。
ボディやサスペンション、インテリアのレストアが必要な場合は、さらに費用は膨らむ。幸い、BMCミニは錆びやすいことで有名なクラシックカーではないけれど。
最大121psで航続距離は最長160km
3万2000ポンド(約534万円)でエレクトロモッド社が与えてくれるものは、内燃エンジンとガソリンタンクの代わりに、テスラ・モデルS用の21kWh駆動用バッテリーと、駆動用モーター。航続距離は、128kmから160km程度だという。
もしリアシートを省いても構わないのなら、駆動用バッテリーは大容量化することも可能。ガソリンの給油口には、美しく削り出されたキャップが与えられ、充電ソケットが埋め込まれる。最大50kWまでの急速充電に対応する。
駆動用モーターはネットゲイン社製。同社は、エレクトロモッド用のモーターを専門に開発しており、エレクトロジェニック・ミニに積まれるハイパー9というものの場合、最高出力121ps、最大トルク23.8kg-mを発揮できる。
ただし、このミニの場合はオリジナルのガソリンエンジンと同じ、51psへ制限されている。英国では、レンタカーとして認可を得やすいことが理由だそうだ。個人的に乗る場合は、121psというすべてのパワーを開放しても構わない。
元のトランスミッションは流用はできず、シトロエンC1用の5速マニュアルが組まれ、前輪を駆動する。シングルスピードのATを専用に開発するのは、高く付きすぎる。
一通り概要を確認したところで、実際に運転してみよう。その印象は、異想像以上にミニだった。見た目が殆どオリジナルのままなことに加えて、ドライビング体験の特徴も、ほぼ何も失われていないように思えた。
この続きは後編にて。
クラシック・ミニを電動化 エレクトロジェニック・ミニへ試乗 楽しい個性はキープ 後編
インテリアもサスペンションもオリジナル
エレクトロジェニック・ミニは、内燃エンジンが載っていないという1点を除いて、オリジナルの雰囲気を見事に保っている。インテリアも基本的には手が加えられておらず、サスペンションも円錐形のラバーコーンのままだ。
BEV化は重量増を招きがちだが、この例では数kgのプラスに留められている。寒い時にエンジンの始動で用いるチョークケーブルも、機能していないが残っている。ダッシュボードの水温計もそのままだが、コスト次第では別の機能を与えることもできるだろう。
システムオンは、従来的なキーを回して。駆動用バッテリーのインジケーターが灯り、出発可能な状態にあることを教えてくれる。
ギアを入れてクラッチペダルを放しても、エレクトロジェニック・ミニはピクリとも動かない。アクセルペダルを踏んで、やっと進み出す。
ギアは繋ぎっぱなしでも構わないが、クラッチペダルを踏んで半クラッチにした方が、滑らかにスタートできる。発進前に、筆者は担当者から2速が良いと聞いていた。静止する際も、クラッチを切り離す必要はない。
駆動用モーターのコントローラーは一般的な量産モデルほど洗練されておらず、急発進になりがちだった。エレクトロモッド社は、より滑らかな制御が可能なモジュールを用意しているが、1500ポンド(約25万円)のオプションだという。
走行中に、3速へシフトアップもできる。意外にも走りの印象が良くなり、ミニを運転しているという気分を濃くしてくれる。
オリジナルのミニらしく活発に走る
シフトダウンには注意が必要。どのくらい駆動用モーターが回転しているのか、音だけでは把握しにくいためだ。クラッチペダルを緩めるポイントも。
といっても、駆動用モーターからは明確な回転ノイズが響いてくる。面白いことに、それがオリジナルのミニのように感じさせる特徴にもなっている。独特のサスペンションと組み合さって、本当にミニらしく走る。
タイヤは、ヨコハマ・クラシック。27歳のミニのシャシーを限界まで攻めるようなことはなかったものの、ビスター・ヘリテージ社のテストコースに敷かれたアスファルトを、粘り強く掴んでいた。
パワーアシストの付かないステアリングホイールは重い。しかしコミュニケーションが取りやすく、バンプを超えてもキックバックなどは皆無。小さなミニを、勢いよくコーナーめがけて飛び込ませていける。
洗練されたフィーリングとはいえない。だが、運転を楽しくしている要素の1つだ。
最高出力51psでも、数字以上に速く活発に感じる。あと20psくらいパワーがあっても歓迎できるが、不満と感じるほどではない。
121psを発揮するとしたら、オーバーパワーかもしれない。その場合は、摩擦ブレーキのアップグレードも必要になるはず。エレクトロジェニック社は、ノーマルのまま手を加えていないためだ。
ブレーキにはサーボアシストは備わらず、制動力を強めたい場合は、ブレーキペダルをそのぶん強く踏む必要がある。51psなら、充分に効くと感じる。
回生ブレーキと摩擦ブレーキとの制御に感心
発進時は洗練不足に思えた駆動用モーターのコントローラーだが、回生ブレーキは機能する。アクセルペダルを放すと、エンジンブレーキのような減速感が得られる。効き具合いは走行中に変更できないが、オーダーする際に強さを指定はできるらしい。
感心したのが、回生ブレーキと摩擦ブレーキとのバランスのさせ方。ブレーキペダルのストロークには途中で感触が変わるポイントがあり、軽く踏んでいる限りは回生ブレーキが働く。更に強く踏むと、徐々に摩擦ブレーキが効き始める。
とても自然に減速できる。一部の量産BEVより、印象は良いほど。
エレクトロジェニック・ミニの運転はとても楽しい。30年もののガソリンエンジンをいたわる必要もないし、エンジンオイルやファンベルトの交換といった手間もなくなる。ミニらしさも、ちゃんと残っている。
もしベース車両から探す場合は、完全に仕上げて乗り始めるまでに、6万ポンド(約1002万円)近くは必要になるだろう。新車で買えるミニ・エレクトリックの2台分だと考えると、確かに安くない。合理的とまではいいにくい。
だが、美しくレストアされたオリジナル・ミニは、強く惹かれてしまう魅力を備えている。市街地をクリーンに小気味よく移動したいなら、悪くない出費だと筆者には思えた。
エレクトロジェニック・ミニ・クーパー(英国仕様)のスペック
英国価格:3万2000ポンド(約534万円/ベース車両を除く)
全長:3051mm(標準ミニ)
全幅:1410mm(標準ミニ)
全高:1346mm(標準ミニ)
最高速度:−
0-100km/h加速:12.0秒(予想)
航続距離:160km(予想)
電費:−
CO2排出量:−
車両重量:710kg(予想)
パワートレイン:AC永久磁石同期モーター
バッテリー:21.0kWhリチウムイオン
最高出力:51ps(121psまで対応)
最大トルク:23.8kg-m
ギアボックス:5速マニュアル
Posted at 2022/07/07 23:06:14 | |
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