スポーツカー・ワールドカップ 第1ラウンド ー 前編
戦いの前に
最高のドライバーズ・カーを生み出すのはどの国かをハッキリさせようと、おなじみのコンテンダーと、骨のあるニューカマーによるトーナメントを開催。レフェリーを務めるのは、アンドリュー・フランケルだ。
5年前、われわれはホットハッチのワールドカップを開催した。8カ国の代表による、3ラウンドの戦いでどの国がベストなのかを競った。今回は、そのスポーツカー版だ。
とはいえ、過去にやったことをそのままリピートするのでは芸がない。そこで今回は、それぞれの歴史的背景に触れる項目をなくすとともに、参加国も倍増させた。
スポーツカーを生産する国は、ここに挙げた16か国だけではないとご指摘を受けるかもしれないし、われわれもそう考えてはいる。リヒテンシュタインで開発された、革新的な蓄電池を積むクアントeスポーツリムジンなどは、実に興味深い存在だ。
けれど今回のもっとも重要なテーマはスポーツカーのコンテストだということで、単にスポーティなクルマならいいというわけではない。ましてや、スーパーカーやハイパーカーの品評会でもない。
そのため、特殊なハイパーカーしか持たない国はエントリーから除外した。そして、比較的シンプルで軽量、そしてドライビングに熱中できるクルマを擁する国が、往々にして次のラウンドへと進むこととなった。
われわれの考えるスポーツカーとはそういうものであり、また、がんばればどうにか手に入れられるものであるべきだと考えている。
そこで、ワイルドカード的なものを除き、エントリーリストに載るクルマには£150,000(2,106万円)の価格上限を設定することにした。実際のところ、ワイルドカード勢にはそのスポーツカーの核心から甚だ逸脱しているものも多いが、われわれの基準に照らして参加国を選出すれば、この16か国が妥当なセレクトであることをご理解いただけるだろう。
まずは第1ラウンド。16カ国8試合をおこなう。そこで勝ち残った8台が準々決勝。さらに絞り込まれた4台で準決勝となる。決勝にはなにが残るのだろう? そして勝者は?
前置きはこのくらいにしておこう。いよいよ、バトル開始だ。
1ラウンド
第1試合:ドイツ vs ポーランド
アウディR8 V10 vs アッリネーラ・フサリアハイパフォーマンスカーを多数抱えるドイツだが、真打ちは後のラウンドに残しておこう。ポーランドの騎兵に因んだ名を持つスーパーカーを迎え撃つのは、アウディの高い評価を受けるミッドシップだ。
800psオーバーの公道仕様も登場することが決定しているフサリアだが、現時点で生産されているのがレース仕様のみだということはハンデとなる。
とはいえ、このカーボンを多用したマシンに、立ち上げ間もないスポーツカーとしては圧倒的な信頼感があるのは、リー・ノーブルとワルシャワ大学が開発に関与しているからだ。
判定ドイツの圧勝。なにしろ相手は、公道を走れないのだから。
第2試合:オーストリア vs 中国
KTM XボウR vs ニオEP96分45秒09。中国製の「メガ」スーパーEVが、ノルドシュライフェでマークしたラップタイムである。
ニュルブルクリンクの市販車最速タイムを叩き出したというわけだが、今のところ生産台数はたったの6台で、市販車というにはあまりにも特殊なクルマだ。
しかも、中国車の毎度の例に漏れず、デザインは欧州車から無断引用した要素だらけだ。対するXボウは、決して新しいモデルではなく、いささか高価ではあるが、真剣そのものの、麗しいまでのエンジニアリングが注ぎ込まれたスポーツカーである。
となれば、結論はひとつしかない。
判定中国チームの努力は買おう。しかし、次のラウンドに駒を進めるのはオーストリアだ。
第3試合:アメリカ vs スペイン
ダッジ・バイパーSRTクーペ vs スパニアGTAスパーノアメリカ的にはこのチョイスに不満があるかもしれないが、彼の国きってのマッスルカーであるヴァイパーは、スペイン初のスーパーカーを叩きのめそうとするだろう。
しかし、興味深い点がある。
スパーノがミッドシップにマウントするのは、ヴァイパーのV10をベースにしたツインターボユニットなのだ。
番狂わせはあるか。
残念ながら、答えはノーだ。
2009年に発表され、その後もバージョンアップを重ねてショー会場を賑わせているスパーノだが、これを実際に走らせたという体験談は耳にしたことがないのである。これ以上は、言わずともわかるだろう。
判定アメリカの勝利。スペックでは圧倒するスペイン車も、実物に触れていなければ採点不能だ。
第4試合:フランスvs 韓国
アルピーヌA110 vs ヒュンダイ・ヴェロスター名ホットハッチの宝庫であるフランスだが、スポーツカーとなるとムラがある。実際のところ、現時点で市販されているフレンチ・スポーツカーは存在しない。
しかしこの不具合は、韓国にしても同じことだ。いや、韓国製スポーツカーというものは、これまでに誕生したことがない。
どうしたものかと悩んだのだが、フランスからは発売を間近に控えたアルピーヌを、韓国からはメガーヌにそっくりでスポーティなクーペ風のハッチバックであるヴェロスターをエントリーさせた。苦肉の策だが、ご容赦いただきたい。
判定とりあえず、主催者の判断でフランスの勝利。間もなく、それが正しいことを実証できるに違いない。
スポーツカー・ワールドカップ 第1ラウンド ー 後編
第5試合:イングランド vs デンマーク
ケータハム・セブン160 vs ゼンヴォTS1 GT
まず言っておきたいのは、これが単なる力比べの舞台ではないことだ。なにしろ、馬力差が1000psを超えるマッチメイクが成立するのだから。
しかも今回は、非力な軽自動車用エンジンのケータハムで十分だ。イングランドが誇る、数多のコンパクトでシャープなスポーツカーにお出座願うまでもない。
何も「トップギア」が叩きのめしたからといって、ゼンヴォの実力をナメているのではない。
TS1GTは、そのときいろいろと炎上したST1よりグレードアップしているのだが、いかんせん彼らの10周年を記念するワンオフモデルで、試乗しようにもその機会を設けることができないのだ。
判定デンマーク人の挑戦には敬意を表するが、本命はケータハムだ。
第6試合:イタリア vs クロアチア
アバルト124スパイダー vs リマック・コンセプト1
もし、大会名が“スーパーカー・ワールドカップ”なら、こんなしちめんどくさいマッチメイクなどに頭を悩ませることなく、イタリアの不戦勝を宣言すれば事足りる。
しかし、ことスポーツカーとなると、意外にも彼らの立場は怪しくなる。ありがたいことに、今ならばアバルトが適当なモデルを用意している。
対するは、クロアチアの途轍もないスーパーEVだ。かのニコラ・テスラの故郷が生んだリマック・コンセプト1は、四輪を独立駆動する4モーターのEVで、出力1000psを超えるモンスターである。
注目度の高まるクロアチアのEVメーカーだが、現時点での生産台数は6台に留まっている。
判定元気で楽しいアバルトこそ、“スポーツカー・ワールドカップ”の初戦を突破するにふさわしい。
第7試合:日本 vs スウェーデン
日産GT-R vs ケーニグセグ・レゲーラ
日本の生んだモンスターといえば、ゴジラとこのGT-Rが世界的にも存在感を示している。
対するケーニグセグは、スカンジナビア半島のキングコングといったところか。朝食の度にドーピングしたようなこのハイパーカーは、ブガッティ・シロンに匹敵するパワーを備えたPHVだ。
これまで登場した新興ハイパーカーたちと違い、ブランドは20年以上の歴史を持ち、このクルマは市販が軌道に乗っている。最終的には80台が生産される予定だ。とはいえ、スポーツカーと呼べる走りを備えているのはGT-Rの方だろう。
判定誕生から10年を経たGT-Rだが、弛みない改良で日本の勝利を確実にするだけの実力を保っている。
第8試合:オランダ vs メキシコ
ドンカーブートD8 GTO-S vs マストレッタMXT
この対戦を予想できただろうか? オランダはともかく、メキシコに関しては、主要メーカーの現地工場でない自動車産業が存在したことすら知らないかもしれない。
しかし、本当に存在するといえるのだろうか。
というのも、マストレッタはウェブサイトでこのMXTを宣伝しているものの、ページの更新は2012年以降ストップしているのだ。一方、ドンカーブートはますます意気軒昂。
D8 GTOはその最上位モデルで、これをグレードアップしたGTO-Sや、限定モデルのGTO-RSもラインナップする。ここに登場した他のモデルたちにも負けないくらい、立派なスポーツカーだ。
判定言うまでもない。ドンカーブートの不戦勝だ。
と言ってもジャパンの記事よりも英国本国のライターの記事の方が面白かったんだけどね…
Posted at 2017/06/11 22:45:38 | |
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