スバルはなぜ唯一無二のメーカーと呼ばれ、評判が高いのか?
ここ最近、さらにスバルの評価が上がっています。特にエース車種といえるインプレッサ、フォレスター、レヴォーグ、WRXは、悪い評判をほとんど耳にしたことがないほど。
なぜスバルはこれほど評価が高いのでしょうか? 実際に商品がよいから? 経営陣が優秀だから? それともイメージの問題? なんとなくいま「スバルは今イチ」などと言うと「あいつはクルマのことがわかってない」と思われそう? 何がスバルの強みであり、どこが他メーカーと比べて優れているのか、自動車ジャーナリストの渡辺陽一郎氏に伺いました。
文:渡辺陽一郎 写真:SUBARU
■「なんとなく褒めなければならないイメージ」
スバル車は全般的に評価が高い。理由は大きく分けて3つある。
まずは商品開発に対する考え方が、ほかのメーカー以上に明確かつ具体的にユーザーへ発信され、商品に反映されていること。
2つ目は上記に基づく商品の特徴が、ユーザーにとって共感の得られる内容であることだ。
そして3つ目に、優れた商品力がスバルのブランドイメージを高めたことも挙げられる。メルセデスベンツなどにも当てはまることだが、スバル車ではなんとなく褒めなければならないイメージができあがった。
このブランドイメージが、スバル車の欠点を隠している。スバルは愚直に技術開発に専念するメーカーに思えるが、実際には相当に商売が上手で、トヨタ以上かも知れない。
まずは商品開発に対する考え方と発信される内容だが、当たり前のことを真面目にやって評価を高めた。
典型的なのは安全に対する考え方だ。「0次安全/走行安全/予防安全/衝突安全」という、事故に至るプロセスを順序立てて追いながら安全技術を高めている。
この内の予防安全はアイサイトなどによる積極的な事故の回避、衝突安全は衝撃吸収ボディやエアバッグによる乗員保護で、他メーカーも同じようなことを発信している。
■「走り出す前から安全性を高める」という考え方
スバルの説得力を高めるのは0次安全だ。0次安全とは、デザインや操作性などの基本設計を工夫して、走り出す前から安全性を高める考え方になる。
この考え方を確立した背景にあるのは、事故に至る最初の根本原因のひとつに、車両の周囲に潜む危険の見落としがあることだ。視界が良ければ「これは危ない」と気付いて注意するから事故には至らない。しかし視界が悪いと気付かず、事故の危険が増してしまう。
事故の危険が増した時に備えて、予防安全のアイサイトなどが用意されるが、それ以前にドライバーが対処したほうが良いのは当たり前だ。この当たり前をスバルでは0次安全という具体的な考え方に発展させ、視界の良いクルマ造りを行う。
このほか正確な運転姿勢、疲れにくいシートなども、スバルでは「快適」ではなく「0次安全」としてアピールしている。
■「走る楽しさ」は安全を追求した結果
走行安全には、低重心の水平対向エンジンや4WDの搭載に基づく優れた走行安定性、ハンドルやブレーキ操作に対して忠実に反応する車両の挙動などが挙げられる。ほかのメーカーではこれを「走る楽しさ」として訴求するが、スバルではやはり「安全」だ。
もちろんスバルも走る楽しさに気を配るが、それは表に出さない。あくまでも安全を追求した結果、車両が正確に動いてドライバーが一体感を得られ、運転を楽しめるという考え方を貫く。アイサイトのツーリングアシストも同様だ。作動中は車間距離が自動制御されてペダル操作が軽減され、ハンドル操作も支援されて快適性を高めるが、「快適にすることで安全性を向上させる」のが目的になる。
このように明確な考え方を確立させた上で商品開発を行い、ユーザーにも分かりやすく発信しているから、スバル車は共感を得やすい。
特に近年では安全性が重視される。「クルマに走る楽しさなんか求めない」と考えるユーザーは大勢いるが、「安全性は求めない」と考える人はいないだろう。他メーカーは「安全」と「楽しさ」を同時に訴求するから、表現が曖昧になってユーザーには考え方が中途半端だと受け取られるが、スバルは安全だけだ。一見すると愚直に思えるが実に巧みなアピールで、仮に他メーカーがスバル車と同じクルマを造っても、スバルの方が安全で優れた商品に思える。
そして安全は交通事故がゼロになるまで進化を続ける重要な技術でありテーマだから、スバルの「0次安全/走行安全/予防安全/衝突安全」という発信も継続して続けられる。「やっちゃえ日産」という安全を重視すべき自動車メーカーにあるまじき浅はかで刹那的な表現に比べると、継続性があって説得力も強い。
ちなみに日産の「やっちゃえ」は、先般の本当に「やっちゃった」今では、もはや使えない。しかし安全を愚直に表現するアピールをしていたら、「ごめんなさい、さらに精進致します」で使い続けられただろう。自動車のような危険性を伴う商品の場合、安全性を高める継続性を伴った発信こそが重要で、スバルはそこをまっとうかつ上手に行っている。
■「安全」だけでなく価格も割安
以上のようにスバル車は安全に対する考え方を社内的にも、市場に対する訴求でもシンプルに確立させ、これに基づいて商品開発を行ったことにより優れた商品を投入している。
筆頭に挙げられる機能は走行安定性と乗り心地だ。4WDとの相乗効果もあって走行安定性が高い。カーブを曲がる時は後輪の接地性を高く保ち、その上で車両を操舵角に応じて正確に曲げる設定にしている。機敏な印象が薄く峠道などでの面白さはいまひとつだが、安全で疲れにくく、長く使用しても飽きない。直進安定性も向上するから、高速道路における安心感と疲労軽減の効果も大きい。
そして走行安定性を高めるためにボディ剛性を高めて足まわりを柔軟に伸縮させるから、乗り心地も快適になる。この優れた乗り心地も、先に述べたように安全性を向上させる。
価格が割安なことも特徴だ。スバルでは他メーカーに比べて車種/プラットフォーム/エンジンの数が限られ、緊急自動ブレーキを作動できる安全装備もアイサイトに一本化した。そのために技術やユニットを共通化しやすく、開発と製造の両面でコストを下げやすい。今のスバル車はアイサイトの標準装着を進めたが、改良前のレヴォーグでは、アイサイトバージョン3をUSB電源などと併せて10万8000円で設定した。そうなるとこの時のアイサイトバージョン3は、単品価格では8万5000円前後になって機能を考えると割安であった。これもコスト低減の恩恵だ。
その代わり欠点も生じる。確立された安全思想もあって商品開発が硬直化することだ。同様の傾向は今のマツダにも見られるが、背の高いコンパクトカーやミニバンは開発しにくい。ミニバンのエクシーガは売れず、クロスオーバー7に変更した。スバルはトヨタルーミー&タンク、ダイハツトールの姉妹車(OEM車)をスバルジャスティとして扱うが、これもスバル車のイメージに合わず販売不振に陥っている。5ナンバー車はOEM車を除くと皆無だ。外観のデザインも、マツダ車ほどではないが、似通った品ぞろえになりやすい。
■サイドウィンドウの下端は1mm単位で議論
そしてインプレッサは新しいプラットフォームが採用されて走行安定性や乗り心地をさらに向上させたが、0次安全で重視される側方と後方の視界は先代型に比べて悪化した。外観に躍動感を与える目的で、サイドウインドウの下端を後ろに向けて持ち上げたためだ。
それでも例えばライバルのマツダアクセラやトヨタオーリスに比べれば視界は優れているが、あえて0次安全を大々的に掲げるスバルとしては、明らかな退歩だろう。
そこで開発者に「スバルの代表となるインプレッサが視界を悪化させるとは、一体どういうつもりなのか。ほかのメーカーと同じように視界を堕落させるのか」と尋ねると、「インプレッサの視界については、社内全体で相当な議論があり、サイドウインドウの下端の位置は1mm単位で検討を重ねた。この高さと形状であれば、ギリギリではあるが視界の確保に支障はないと考えている」との返答であった。
■トヨタは全国4900店舗に対して、スバルは460店舗
このほか販売面では、購入しにくいこともスバルの欠点だ。トヨタ86はトヨタ4系列の全国4900店舗で扱うが、姉妹車のスバルBRZは460店舗だ。トヨタの10%以下になる。日産の2100店舗、ホンダの2200店舗、マツダの1000店舗と比べても圧倒的に少ない。そのためにスバル車が欲しい場合、地域によっては遠方の販売店まで出向かねばならない。車検や点検の時にも面倒が発生する。
これも先に述べたスバルの商売上手で、店舗数を限ったため、1店舗当たりの車両販売に伴う売り上げは日本車ディーラーではレクサスに次いで2番目に多い。店舗数を抑えて1店舗当たりの売り上げを伸ばせば、販売会社だけでなくメーカーも販売促進のコストを軽減できる。
以上のようにスバルは、国内のメーカー別販売ランキングでは7位に位置しながら、商品力と販売効率では、ナンバーワンのメーカーになっている。
ただし購入のしやすさについては改善を図るべきだ。店舗数の少ない地域では、スバルショップ(業販店)をさらに工夫したい。
スバルレガシィが生み出した「ツーリングワゴンブーム」という熱狂
今をさかのぼること28年前、1989年1月、スバルが再起をかけて開発した新世代モデル「レガシィ」には、セダンと共に「ツーリングワゴン」が設定されていました。
なかでもスポーツセダン並みの走行性能を持つ最上級グレード「GT」の存在は、レジャーや日常の使い勝手の良さに加え、走りも楽しめるという新たな価値が与えられ、それまでの「ワゴン」が持っていたイメージ、概念を大きく変化させ、そのブームは「スポーツワゴン」という新たな魅力と潮流を生み出しました。
本企画では1990年代に大きく花開き、国産全メーカーを巻き込む「時代」を作ったレガシィについて語ってみます。
文:大音安弘 写真:SUBARU
■初代から脈々と息づく「走りのワゴン」というコンセプト
日本自動車界ではまだバブル真っ只中だった1989年、スバル(当時は富士重工)が社運を賭けて開発した新世代モデルのレガシィは、セダンとツーリングワゴンの2本立てであった。これまでのスバルのイメージを覆すモダンな内外装に加え、スバル伝統の走りの良さを磨き上げていた画期的なモデルだった。特に従来は実用一辺倒だったツーリングワゴンの概念打ち破ったレガシィツーリングワゴンは大ヒット。のちのツーリングワゴンブームへと繋がることになる。
レガシィが特徴的だったのは、発売間もなくして、より快適装備を満載した最上級グレードのターボモデルの「GT」をセダンとツーリングワゴンに共に追加したこと。これがスポーツワゴンとしてレガシィの独自のポジションを確立。その人気ぶりは、のちにSTIチューニングによるコンプリートカー「レガシィツーリングワゴンSTi」が発売されたことからも伺える。
■続々と表れたフォロワー、ライバルたち
レガシィツーリングワゴンのヒットに刺激され、各社からは、スタイリッシュでスポーティなツーリングワゴンを続々と投入した。トヨタのカルディナと三菱のリベロが新開発車としてデビュー。ホンダは、北米より逆輸入でアコードワゴンを導入。日産はフルモデルチェンジしたプリメーラにツーリングワゴンを新設定するなど、レガシィが築き上げた「ツーリングワゴン市場」に続々と参入、追従を見せた。
さらに1993年にレガシィが2代目へと進化すると、より他社のバリエーションは拡大され、日産からは「スカイラインワゴン」と噂されたスポーティなツーリングワゴンのステージアが、三菱からは当時同社の中心車種だったギャランのツーリングワゴンに当たるレグナムが投入され、ツーリングワゴンは日本車のメインストリームのひとつとなった。
■スポーツモデルもお約束だった
もちろん、ツーリングワゴンはレガシィ登場以前より各社がラインアップしていたが、そのポジションは(やや乱暴な言い方だが)いわゆる「豪華なライトバン」であり、スポーティな走行性能など求められることはなかった。そこに革命を起こしたのがレガシィであり、先に挙げたライバルとなるツーリングワゴンには、対レガシィに向けた高性能なスポーツグレードが軒並み設定されていた。
その中の印象的なモデルを紹介すると、トヨタカルディナはプラットフォームを共有するセリカの最強モデル「GT-FOUR」のパワートレインをそっくり受け継ぐ、2代目GT-T、3代目GT-FOURを設定。日産ステージアは280psを発揮するRB25DET搭載グレードに加え、GT-Rワゴンと呼べるオーテックバージョン260RSを設定。レグナムもセダン版となるギャランのトップモデル同じVR-4を設定していたことは記憶に新しい。
まさになりふり構わず「打倒レガシィ」を目指したわけだ。
■受け継がれるスポーツワゴンスピリット
隆盛を迎えた90年代がすぎ、2000年代にはやや鎮火したものの継続的に販売を伸ばし、2010年代に入る直前の2009年にレガシィは5代目へとフルモデルチェンジ。
しかしこの頃になるとレガシィの販売の中心は北米に移っており、ニューヨークショーでプロトタイプが先行発表され、ボディもひと回り大きくなったことなどからも、レガシィの「軸足」が徐々に日本市場から離れていったことが伺える。
それもそのはずで、その頃から日本市場での販売現場ではミニバンやコンパクトカー、ついでSUVの台頭が目立っており、ツーリングワゴン市場はすっかり下火となっていた。
こうした状況を踏まえて2014年4月の5代目生産終了アナウンス時、レガシィの次期モデル(6代目となる現行型)はセダンのB4とクロスオーバー仕様のアウトバックのみが設定され、ツーリングワゴンは「レヴォーグ」に引き継がれること、またB4のターボ仕様もWRX S4に統合されレガシィからは廃止されることが公表された。
新境地を開拓したレガシィさえも「スポーツ仕様のツーリングワゴン」は後継車へとバトンを手渡したかたちとなったが、しかしスバルのスポーツワゴンスピリットは、国内市場をメインに開発されたレヴォーグにしっかり受け継がれており、いまも日本のスポーツワゴンファンの心をしっかりと捉えている。
レヴォーグとWRXも2020年位にはフルモデルチェンジをして2代目になるんだろうからまだまだこれからを期待したいね
Posted at 2017/10/16 22:09:05 | |
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富士重工 | 日記