国土交通省の作った衝突被害軽減ブレーキに関する啓蒙ビデオをしっかり見よう
YouTubeにアップロードされ、話題を集めている10分ほどの映像がある。タイトルは『【国土交通省】衝突被害軽減ブレーキは万能ではありません!』というもので、トヨタ、日産、スバル、マツダの協力のもと、AEBS(アドバンスドエマージェンシーブレーキシステム)や自動ブレーキとも呼ばれる「衝突被害軽減ブレーキ」について、衝突を回避できないケースがあることを、実際にテストコースでシステムが苦手な状況を作って実証するという内容だ。
たとえば、カメラをセンサーに使ったタイプでは西日などがカメラを直撃したときに対象物をロストすることがあるという実験をしているし、赤外線レーザーセンサーを用いたシステムではカバーできる速度域を超えたときにAEBSが機能しないといったシーンを紹介している。また、シングルカメラを使うシステムでは雨天で衝突を回避できないといった実験結果も紹介されている。さらに昼間には衝突を回避できた速度、路面であっても夜間には衝突を回避できないケースもあるという。
さらに、衝突被害軽減ブレーキの作動タイミングというのは、平坦な舗装路を基本としているため雪道や下り坂といった制動距離が伸びてしまう状況でも、やはり衝突を回避することはできない。ただし、ここで注意したいのはセンサーが対象物を検知できないときは、ほぼ減速なしでぶつかっているのに対して、路面などの環境に由来するケースというのは、衝突被害軽減ブレーキは作動しているが止まり切れないという状況であるということだ。
つまり、衝突被害軽減ブレーキは、そのメカニズムによって作動しないケースがあるという課題と、路面状況によってはきちんと作動しているにも関わらず止まり切れないという課題があるということだ。さらに、実験はしていないがセンサーの誤認識によって障害物がないのにブレーキが作動してしまうというトラブルが起きていることも、この映像では紹介されている。
こうした映像をみると「だから自動ブレーキなんて役に立たないんだ!」と全否定したくなるかもしれないが、国土交通省が映像を制作したのは、そうした批判的意味ではない。自動ブレーキという言葉によって期待値が高まっているが、実際にはドライバーがよそ見をしたりしている万が一のケースにおいて、バックアップとして作動する衝突被害軽減ブレーキであって、システムごとの不得手な部分はユーザーがしっかりと把握しておきましょうという啓もう活動の一環だ。
そもそも衝突被害軽減ブレーキは、それなりの急ブレーキで停止するため日常的に利用するものではない。仮に安全に停止できたとしても、ドライバーが意図してブレーキを踏まないというのは安全運転ではないのだ。あくまでも、ドライバーがよそ見や居眠りといったミスをしたときに、カバーしてくれる可能性があるというシステムであって、自動運転のようにとらえてしまうのは間違いである。そして、いわゆる自動ブレーキは渋滞対応ACCの停止ブレーキとも意味がちがう。たしかにACCの停止ブレーキは、非常に上手で滑らかに止まるクルマも少ないのも事実だが……。
この映像によれば2016年の段階で新車の66.2%に衝突被害軽減ブレーキが搭載されているという。これだけ普及してくると、いろいろと勘違いしたユーザーが出てくることも避けられない。クルマごとの特性や機能をしっかりと把握することが重要になってくる。もちろん、それ以前の問題としてドライバーがミスを犯さなければ、衝突被害軽減ブレーキは機能する必要はない。何度も言うが、あくまでもミスをカバーしてくれるバックアップ的な機能である。「自動ブレーキに頼るようなドライバーになりたくない」といった意味合いの発言も見かけるが、大前提として意図して頼るといった使い方をするシステムではないという基本から理解しておきたい。
(文:山本晋也)
VIDEO
ビデオ公開…衝突被害軽減ブレーキは事故を回避できない?! 国交省
国土交通省は、自動ブレーキの機能を過信して事故が発生するのを防ぐため、衝突被害軽減ブレーキでも衝突を回避できない場合があることを理解してもらうための啓発ビデオをウェブサイトに公開した。
衝突被害軽減ブレーキの普及が進んでいるが、装置が正常に作動していても、滑りやすい濡れた路面など、走行時の周囲の環境によっては障害物を正しく認識できないことや、衝突を回避できないケースがあり、実際に衝突被害軽減ブレーキを過信したことによる衝突事故も発生している。
これを受けて国土交通省では、衝突被害軽減ブレーキにより衝突回避が難しい状況で、不動作状況時の車両挙動を実車の走行試験で確認し、衝突被害軽減ブレーキの使用上の注意点を解説した啓発ビデオをウェブサイトに公開した。
国土交通省では「衝突被害軽減ブレーキは完全に事故を防ぐことができない」ことや、「運転者はシステムを決して過信せず細心の注意をはらって運転する」よう呼びかける。さらに、衝突被害軽減ブレーキの作動する条件は、自動車の取扱説明書に記載しており、車種ごとに異なる作動条件を把握することも訴求していく。
スバルのアイサイトが完璧なんて言わないし
先日もレクサスで突っ込んでるなんて事故も聞く
辣腕弁護士も死亡事故 高齢ドライバーと自動運転への教訓
高齢ドライバーによる事故が相次ぐ中、78歳の男性が起こした死亡事故は、“色々な意味”で注目を集めた。単に男性が著名人だったから、ではない。
男性は後期高齢者だが、世間では「矍鑠とした現役バリバリの辣腕弁護士」として通っており、“危うい運転をする高齢者”とは最も縁遠いイメージの持ち主だった。また、運転していた車は、事故防止の機能が高いとされる「最先端の安全機能」を搭載していた。
“慎重なベテラン運転手”と“最新の技術”の組み合わせでも重大事故を避けられなかったという事実は、今後も懸念が広がる「日本の高齢クルマ社会」に大きな教訓と課題を残した。
◆ブレーキ痕はなかった
2月18日の朝7時過ぎ、東京・港区白金の閑静な住宅街が騒然となった。弁護士の石川達紘氏(78)の運転する車が歩道に乗り上げ、歩いていた男性を巻き込んで道路脇の金物屋に突っ込んだのである。石川氏はかつて東京地検特捜部長などを歴任した法曹界の重鎮だ。事故が起きた時、店舗兼住居の2階で寝ていたという金物屋の店主が語る。
「大地震が来たのかと思うくらい、ものすごい衝撃音と振動でした。車が突っ込んだ店内は惨憺たる有り様。店の前のガードパイプと電信柱はグニャリとへし折れていました」
巻き込まれた37歳の男性は病院に運ばれたが間もなく死亡。運転手の石川氏は右足骨折で入院した。
「事故のすぐ後、現場でゴルフバッグを持った若い女性と会いました。石川さんとゴルフに行く予定だったそうです」(前出・店主)
関係者によると、「彼は自分で運転して週に何回かゴルフに行っています。弁護士の業務も通常通りにこなしていましたし、とてもお元気な様子でしたよ」という。高輪警察署の説明はこうだった。
「石川さんは待ち合わせしていた場所に停車、知人がトランクに荷物を積もうとした時に車が発進し始めた。積むのを手伝おうとしたのか、運転席のドアを開こうとしていたようです。車の走行距離は約200メートル。防犯カメラなどで検証していますが、スピードは相当出ており、ブレーキ痕はありませんでした」
直進した車は反対車線を横切り、右側の歩道に乗り上げて店に激突した。
「急発進の原因については調査中で、はっきりと確定していません。石川氏は入院中で、まだ事情聴取もできていない状況です。石川氏が運転していた車は『レクサス』のLS500hというタイプのものでした」(同前)
◆安全装置の“守備範囲”は
レクサスはトヨタ自動車の高級ブランドであり、その中でも「LS」シリーズは最高級のセダンに位置づけられる。最先端の安全装置も搭載されており、衝突リスクを軽減する「自動ブレーキ」もその一つだ。トヨタ広報部はこう説明する。
「レクサスLSには『レクサスセーフティシステム』という、自動ブレーキを含む様々な予防安全機能が標準装備されています。2つのグレードがあり、“対車両”の速度低減量は時速約40キロ、約60キロです。また、“対歩行者”の速度低減量は約30キロ、約60キロとなっています」
元レーシングドライバーで自動車ジャーナリストの桃田健史氏が解説する。
「一般的に自動ブレーキと呼ばれているものは、“停止して衝突を回避する機能”ではなく、“速度を低減して、衝突の被害を抑える機能”です。したがって、低減できるスピードを超えて走行している場合は停止できない。たとえば速度低減量40キロの場合、100キロで走行していたら、検知後に60キロまでは落ちるということです」
高輪警察署は「石川さんはアクセルとブレーキを踏み間違え、さらにアクセルを踏み込んでしまったようだ」と説明していると報じられており、「100キロ以上のスピードだった」という事故の目撃者証言もある。
だとすれば、自動ブレーキが作動しても時速40キロ~60キロまでしか減速されず、衝突時に重大事故となることは避けられない。自動ブレーキの作動条件も状況によって変わってくる。
「詳細を把握していないので今回(石川氏)の事故について言及できませんが、自動ブレーキが作動する条件であっても、ドライバーがアクセルを踏み込んだり、ハンドルを切ったりした場合は、ドライバーの意思が優先されます」(トヨタ広報部)
一方、安全装置にはペダル踏み間違えを防止する機能もある。
ただしこの機能は、「駐車場などでの停車時や低速走行時を想定したもので、車の進行方向に障害物を検知した場合にエンジン回転数を下げるという仕組みです。踏み間違いをした場所が障害物のない道路上であれば作動しません。作動したら、走行中に強制的に急ブレーキをかける状態になり、むしろ危険です」(前出・桃田氏)という。
つまり、石川氏の状況では、踏み間違いがあったとしても防止できないということになる。各自動車メーカーがCMなどで表示しているように、安全装置はあくまで「補助」でしかないのである。
◆あくまで“安全性を補助”
「ADAS」(アドバンスド・ドライバー・アシスタンス・システム)と呼ばれる安全装置も、年々技術が向上しているという。
「運転には認知・判断・操作などの能力が必要ですが、高齢になるにつれて低下していく。それらの能力をサポートするのがADASです。たとえば、ステアリング補助で、カーブや凍結路面での運転をサポートしたり、ハンドリングが危なくなれば警報が鳴ったりします」(桃田氏)
ただし、ADASも自動ブレーキと同様、あくまで“安全性を補助”するシステムであり、「最終的に事故を回避できるかどうかはドライバーの運転技術や能力に委ねざるを得ないことに変わりはない」(前出・桃田氏)のが現実だ。
反対車線から暴走した車がいきなり突っ込んでくる──そんな想像しようもない事態が起き、1人の命が失なわれた。この出来事は、自動車メーカーにも、ドライバーにも、そして高齢化がさらに進む日本社会にも様々な課題を浮き彫りにした。
※週刊ポスト2018年3月9日号
結局どんなにクルマがお利口さんになったとしても結局扱いのは人間だって事でしょ
こんなんじゃ自動運転とか夢のまた夢ってもんでしょう
Posted at 2018/04/28 22:23:04 | |
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