◼︎画像は総て8/9に都下の薬用植物園で撮影。
まだまだ若かった時代、
毎年夏が近づくと、何とも言えぬ
高揚感が知らず湧きあがってきた。
(注)文章も長いうえ写真枚数も多目です。
残念ながら今はもうそんな気持ちになることはない。
【1】
いつの頃からだろう?
「夏」という響きに心が躍らなくなったのは。
【2】
今でもこの季節に平時との違いがあるとするなら、
「たった数日間仕事を離れられる」という些細な開放感があることだ。
いや「そんな権利をいつ行使しようか」という気持ちの僅かな余裕と言うべきか。
【3】
いずれにしても現生活の延長線上に、半ば合理的に、半ば現実逃避的に、
小さな「楽」や「愉しみ」がある!と自己暗示にかけることが出来るわけだ。
【4】
現実問題、休暇が取得できたところで、
非日常の何か素晴らしい体験が待っているわけではない。
日常に存在するイベント毎の構成比率が、平時とは少しばかり変わるに過ぎない。
【5】
しかし、会社勤めが30年以上に及ぶと、
例えそれがたった数日であっても、生活サイクルの変化は一定の刺激にはなる。
【6】
リフレッシュと言えば聞こえが良いが、いわばガタのきた身体への油さしだし、
いつしか頑固になりつつあるアタマの揉みほぐしでもあり、
どことなく渇いたハートへの給水といった、微々たる刺激ではあるのだが。
【7】
話を冒頭に戻すと、ここに挙げたリフレッシュは全て日常の延長であり、
「特別」な夏を予感させることはない。
それが解ってしまっているから、心が躍らなくなったのか。
【8】
では若かった時分には、何を想像して気持ちを昂らせていたのだろう。
【9】
「まだ見ぬことへの無限の想像」が高揚をもたらす源泉だったのかも知れない。
【10】
可能性というものに、確率や統計、現実の概念を持ち込まなかったから。
逆に言えば、あり得ない、出来ないという枠を嵌めなかったから。
【11】
だからこそ、既定路線の延長を見透かそうとするのではなく、
全く異なる世界を勝手気ままに思い描くことが出来たように思う。
【12】
それは取りも直さず、若さの特権であり、青さの象徴である。
だが今、僕等の世代には、自分自身に若さの特権は許されない。
【13】
勿論諸先輩方が活躍される中、まだまだ青二才であるには違いないが、
社会的な位置付けや加齢によって嫌でも積まれた経験は、
世間的には所与のものと見做されて致し方ない。
【14】
そして何より重い「現実」を知って、相応の「責任」を負っていることも事実だ。
【15】
無垢な憧れを抱ける時代を遥かに超えてしまったことは否めない。
だから、一般的に「夢」のような出来事を想像することはできないものだ。
【16】
現実を直視して、現実のちょっぴり先に目標を定めて、
面白くもない世間体や自己スキルや経済力や社会的位置付け等を以って、
起こり得る出来事を自ら限定した上で、夢と現実の折り合いをつける。
【17】
それが真面目で堅実な生活設計なのだと言い聞かせる。
それこそが実直で幸せな倹しい生活の具現化なのだと。
【18】
そんな考えを持つようになった頃から「夏」という響きに心躍らなくなった。
【19】
型に整然と嵌ることを美しいとする文化は、異端児を認めない。
予定調和の安堵を享受したいから、画一的なアウトプットを求める。
異質なものを排除し続け、排他色を濃くし、孤立感を極める。
【20】
それがオトナの落ち着き、分別ある男の所作なのだろうか。
そんなオトナの集団に囲まれることが、皆にとって本当に幸せなことなのか。
【21】
時の経過は誰にとっても平等だ。
あの人歳をとったなと思うとき、身体的には自らも同じ分だけ老化しているのだ。
【22】
しかし精神面は時間経過に耐性があると思える。
【23】
もちろん肉体と精神のバランスがあればこそだろうが、
気持ちを必要以上に老けさせるべきではない。
【24】
何でも「過度」は避けるべきだが、総てを「型に嵌める」ものでもない。
【25】
気持ちの余裕、遊び心、創造力、挑戦の姿勢などを持ち続けたいものだ。
【26】
するとまた、ギラギラとした夏が蒸し暑いだけの嫌な季節から、
どこかが輝く眩しいものに見え始めるかも知れない。
【27】
あの頃の純粋な憧れを呼び戻すことができなくても、
せめて大量生産の最寄品だけを紡ぐことは終りにしたい。
【28】
夏の声を聞くとき、賑やかな海辺やキラキラと輝くプールサイド、
丸々としたスイカ、開け放たれた縁側から漏れるナイター中継、
ぼんやりと浮かぶ神社に並ぶ夜店の灯り、鳴り響く大太鼓のリズム、
七色の花火の華に照らされた浴衣の頬、微かな蚊取線香の煙、
炎天下に真っ直ぐ育つ向日葵、傾く陽に影が伸びるあの丘、
哀しげに聞こえるヒグラシの声、遠く低く籠って響く雷鳴などを、
いつまでも忘れずにいたい。
【29】
いつまでもそんな体験の出来る、夏であって欲しい。
【30】
そう、そんな夏を想い、心をときめかせる大人でありたい…。
【31】
8月も終わろうとしている今日という日に、
夏真っ盛りだった日の花たちを添えて・・・。
【32】
※EOS 5D MarkⅢ EF100-400㎜ F4.5-5.6L IS Ⅱ USM
(了)