2019年08月12日
消費税の「逆進性」に関する疑問
さて・・、消費税率アップまであとわずか1カ月半に迫ってきましたが、還元ポイントの具体的な話がいまだに伝わってきません。政治的な話にはあまり言及しない当ブログですが、ここでは、消費税にまつわる話をまとめておきます。
前にも少し書いたことがありますが、我が国における消費税の始まりは平成元年であって、私にとってはそんなに大昔の話ではないのですが、今の若い人にとっては、消費税は生まれる前からあった存在です。
消費税のなかった昭和の終わりごろ、モノの値段は大体10円が最小単位で、スーパーマーケットでの買い物を別とすれば、日ごろ1円玉や5円玉を使用することは少なく、財布の中の1円玉や5円玉は「邪魔者」扱いとなっていました。
それが、平成元年の消費税導入で、導入当初の税率が3%だったこともあり、突然需要の高まった1円硬貨がたくさん製造されました。「1円玉の旅ガラス」という歌も発売されましたよね。
その後、平成9年に消費税率が5%へアップ。厳密に言うと、この時に地方消費税が導入されて、消費税は4%、地方消費税が1%で、計5%なのですが、一般的には「消費税5%」という言い方をされます。
そして、現在はご存知の通り消費税8%。今度の10%化で初めての軽減税率制度が始まります。私は軽減税率には反対なのですが、消費税に「逆進性」があるとかいう人に限って軽減税率に賛成したりするので、わけがわかりません。
食料品の税率を8%に据え置くことは、一見すると低所得者層に優しいように見えて、実は高所得者層に有利に働きます。なぜなら、食料品購入の絶対額は低所得者層より高所得者層の方が大きいからです。安い食料品を購入しても、どんな高級食材を購入しても、すべて税率8%になるわけで、高級食材を購入する層の方が軽減税率適用の恩恵をより強く受けるのです。それは、消費税に逆進性がないことの裏返しとも言えます。
自民党は本心では軽減税率には反対で、連立を組む公明党の主張で渋々軽減税率導入を決めました。公明党も軽減税率がトータルで見ると高所得者層に有利に働くことを知らないはずはないのですが、自民党の消費税率アップに何も言わずに賛成するだけでは連立与党内で埋没してしまうので、「自民党の消費税率アップ案にもただ賛成するだけではなく、公明党としてちゃんと低所得者層に配慮した案を主張して、それを自民党に飲ませましたよ」というポーズをとる必要があったのだと思います。
その結果、政府は、軽減税率導入について国会で野党から問題点を追及されまくります。でも、自民党的には、厳しい追及を受ければ受けるほど、「公明党のせいで、やりたくもない軽減税率を導入することになって国会で追及を受けて、懸命に対応した」という姿勢を見せることで、公明党に対して「貸し」を作ることができます。
さらには、もともと増税にはあまり乗り気でない安倍首相。財務省の圧力で消費税率アップは実行するものの、謎の還元ポイント制度で実質的に増税を骨抜きにしようとしています。
もうひとつ言えば、新聞業界の圧力で、新聞には軽減税率適用。こうして、党利党略でどんどん例外制度が作られて税制が複雑化していく・・。これが私の見立てです。
さて、ここからが本題。そもそも消費税という税の問題点として「逆進性」が指摘されます。しかし、消費税は(軽減税率のことはここでは置いておくとして)、低所得者層だろうが高所得者層だろうが、誰が何を買っても一律10%課税されるわけで、こんなに均等な課税はありません。もちろん、所得税のような累進性はないけれど、逆進性もないのです。
もっと言えば、低所得者層よりも高所得者層の方が年間の消費絶対額は通常大きくなります。ということは、負担する消費税額は、高所得者層の方が大きくなります。これを見ても、消費税に逆進性があるなどとは絶対に言えません。
それでも、高所得者層は貯蓄に回すお金が多いので、その年の収入に対する消費税の負担額の割合で見ると逆進性がある、と主張する人がいます。例えば、年収300万円の人が全額をその年の消費に回すと、単純計算でその10%にあたる30万円を消費税として負担する。一方、年収1000万円の人がそのうち600万円を消費に回して、残りの400万円を貯蓄する。そうすると、消費税の負担額は60万円となる。前者である低所得者の収入に対する消費税負担額の割合は10%。後者である高所得者の収入に対する消費税負担額の割合は6%。ほら、低所得者層の方が負担割合が大きくなるから、やっぱり消費税は逆進性があるんだ、という主張。
この主張には2つの誤りがあります。まず、累進性とか逆進性を考えるのに、「割合」で比較しようとしていること。納税者にとって「割合」が重要なのではなく、厳然として存在する「絶対的な負担額」が重要なはずです。先ほどの例で言えば、前者は30万円、後者は60万円、それぞれ負担している。そこに着目すべきです。
そして、もっと大きな誤りがあります。先ほどの例で高所得者が貯蓄した400万円には消費税が全くかからないような前提で負担額が計算されていますが、その400万円は翌年以降に消費に回されて、その時の消費税率で消費税がかかります。もしかしたらその時は消費税率は10%より大きくなっているかもしれません。
すると、「それは翌年以降の話であって、その年の消費税負担としては出てこないから」と言われます。それを言うなら、その人はその年の収入である1000万円とは別に、前年からの貯蓄分を消費に回してその年に消費税を負担しているかもしれません。
所得税は「収入」というタイミングを捉えて課税するし、消費税は「消費」というタイミングを捉えて課税します。両者をごちゃ混ぜにして論じるから何がなんだかわからなくなるのです。
ちなみに、ミクロ経済学では「異時点間の最適消費」という計算問題があって、私はこの計算問題が好きでした(笑)。
というわけで、消費税に逆進性はありません。「累進性がない」という言い方が正しいと思います。そのことを踏まえて、最近では、消費税の問題点を語るにあたって「低所得者層の負担感が大きい」という言い方がされるようになってきました。ただ、それは累進課税を前提とした所得税制との比較で生じることであって、消費税という税そのものの特性ではありません。所得税だって累進課税制を採用しないことも理屈としては可能です。
所得税が所得額の多寡によって税率をコントロールできる税であるのに対して、消費税はそういうコントロールをすることなく、すべての国民に均等に負担させる税であるということです。
そして、それがいいことなのかどうか、消費税率は何%が適正なのか、といった問題はまた別問題です。おわり
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Posted at
2019/08/12 01:39:41
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