〜『ベスモ同窓会編集部』カズマ君の試乗記もどうぞ〜
あっという間の師走入り。取り掛かったまま、いくつかのテーマが眠っている。申し訳ない。怠け心に鞭打って、iMacに向かっている……。
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2017年モデルのR35 GT-Rを専有して3日目、RJCカーオブザイヤー最終選考会で「ツインリンクもてぎ」に遠征する朝が来ていた。
真っ先に血圧を計測した。120/67/60。うむ、この数字なら大丈夫だろう。
なにが大丈夫なのか。決まっている。この日はMY17との時間をたっぷり楽しむつもりであったからだ。
しかし、単独のドライブについては、最近、周りからブレーキをかけてくる気配がヒシヒシと感じ取れるだけに、遠出の場合は、どなたか、都合の一致する方にお付き合いいただくようになった。
運よく今回も、同行者、めでたく調達。
午後2時。実は、最寄り駅前のロータリーで、同じRJCメンバーの飯嶋洋治さん(このところ、頻繁に、いや常時、登場していただいてますな。お世話になります)と待ち合わせていたのである。
何しろ、MY17の地を這う姿をご存知ならお分かりいただけるだろうが、一段高いところに陣取っているわたしの棲むマンションの駐車場への出入りには、やたらと神経を使わなければならない。
アプローチの傾斜で、かりにバックで入ろうとしても、かなりアングルを斜めにしていないと、間違いなくチンスポイラーをガリッとこすってしまう。
それが嫌だから、2キロほど離れた懇意の自動車修理工場に預けてあった。だから出迎えた車がプログレになってしまった。
「えっ!?」と飯嶋さん。この日の主役に異変でもあったのか、と心配する想いと、落胆しそうなのを一つにした表情が、素直に出ていた。

*いつもお世話になります飯嶋さん。でもこの恍惚の表情。クルマ好きガ滲み出ていますなあ
20分後、オレンジカラーのMY17は関越自動車道を北へ向かって快走していた。ステアリングは当然、この日を楽しみにしていたRJCのホープさん。MY17を引き取った時にオートロックKEYを渡し、一旦、わがマンションまで引き返しプログレを駐車スペースに納めてから、関越・圏央道経由で真岡に出て、モテギ入りするよ、と告げていたのだ。
助手席に収まっていると、ドライバーの心理が結構、読めるものだ。
ETC専用の料金所のバーが跳ね上がると、前方がいきなりひらけた。
と、それまでの「CONFORT」モードで「街走り」をキープしていたドライビングスタイルを、飯嶋さんが豹変させる。
左手がスッとセンターコンソール上部に陣取った「セットアップスイッチ」の右端に伸びる。
そしてセットアップスイッチを上へ押し上げた。
続けて真ん中の足回りを決め込むバーを、チョンと押し上げた。
それに合わせてアクセルを踏み込む。
恐らくそれをやりながら、ステアリングの裏側に位置するパドルシフトを手前に引き、マニュアルシフトにしておいたのだろう、いきなり MY17はセクシーな喚声をあげると、猛獣と化した。
おお、これがGT—Rだよ。
路面を掴む、猛獣の昂りが、なんともセクシーじゃないか。
しかし、それもほんの30秒足らずの「特別の時間」で、すぐに周りの流れに従わなければならなくなる。
「この先の三芳サービスエリアで珈琲ブレークにしょうか」
サッと左側車線へ寄る飯嶋GT-R。この方、いつも素直なンだよね。
スタバ珈琲で一息入れたところで、ここからのドライバーはお任せあれ、と宣言する。
スポッとお尻が収まる快感がなんとも好ましい。
日産のクルマって、どんなにご無沙汰していても、操作系のスイッチが同じ位置に収まっているので、戸惑うことはない。扱いやすい。それに1972(S47)から6年間、スカGを3台乗り継ぎ、富士フレッシュマンレースでは、サニー、パルサー、EXAのお世話になっている。日産のDNAがしっかり染みついている。
好ましいスピードレンジに MY17を導いた。
オートマティックに預けたままだから、こちらは鼻歌交じりとまでは言わないが、なんだか咄嗟に浮かんできたメロディーと歌詞がある……。
♪好きよ あなた 今でも今でも
暦はもう少しで 今年も終りですね
おひょ! 吉幾三の『雪国』じゃないか。なぜ『雪国』なのか?
答えは簡単。MY17に向かって、ただ、「好きよ、あなた」と歌いかけたまでのこと。でもなんだか、MY17って艶歌の匂いがするよ。
と、その時、背後から黒いスポーツカーが迫ってきた。おお、RX-8。そして左サイドにひらりと車線をかえると、あっという間に、こちらを誘うようにして前へ駆け抜けて行った。
♪逢いたくて恋しくて 泣きたくなる夜
追いかけて 追いかけて……追いかけて 雪国
ほんとうは、無礼なRX-8を追いかけてやりたかった。が、もうすぐ鶴ヶ島JCTで圏央道へ分岐点が迫っていた。あそこのループが結構、きついんだよね、と減速モードに入り、川島、桶川方面を目指した。

路面にぴったり貼りついた4つの脚。まるで、いま流行りの運転支援システムに導かれているかのように、軽く切り込んだスレアリングが、無修正のまま、ループに対応していく。ドリキン土屋が筑波の第1コーナーに飛び込むなり、
「動きがいいなあ。しなやかだなあ。ヒューっと入っていくよ」
を、連発したのを思い出してしまう。おっしゃる通りだよ。そう共感できたところで、アルティメイトシャイニーオレンジ色のMY17は、待ちに待った直線路へ流入していく。待ちうける「Rモード」への変換……その誘惑に、わたしは耐えた。菖蒲SAの標識が見えたところで、わたしのこの日のドライビングは完了。改めて、飯嶋さんにバトンを託したのである。
そしてここから、モテギのツインリンクHOTELまでのルートで、大迷走をしでかすのだが、犯人は?
(この項、つづく)
さて、ここで「リトルマガジン」を同載したい。
「ベスモ同窓会編集部」研修スタッフの一人、九郎田一馬君(ご存知のカズマ君のペンネーム)の試乗レポートを紹介させていただく。モテギへ赴いた前々日の土曜日の箱根で、仁川一悟君とペアで試乗する機会をプレゼントした時のものである。
わたしが踏み込むのをグッと我慢した「Rモード」の世界がそこにあるので、ご参考までにぜひどうぞ。
●GT-R 2017年モデルの「進化」を試食する 九郎田 一馬
10年ひと昔…とはよく言ったもので、2007年のデビューから来年で10年目を迎える日産GT-R。普通に考えれば次期モデルの声が聞こえてきても何らおかしくはないタイミングではあるものの、いまだ一級品の性能と名声を備えているのは、ここに至るまで毎年のように絶え間なく進化を続けてきた成果とも言えるでしょう。
そして今回の2017年モデル。外装はコストのかかる鉄板プレス部品も変更、内装にいたってはフルモデルチェンジとも言えるほどのデビュー以来最大規模の変更が施された1台。おそらくはあと最低でも3年は現行モデルをつくり続ける!という日産の強い意志を感じるその進化のほどをお届けしたい。
と言いつつ、毎年のように絶え間なく進化を続けてきたとはいえ、いまでもディーラーでの試乗が実質的に不可能とも言える状況である以上、実際にそれら全てを毎年つぶさに乗り比べることができたのは一部の関係者、もしくは毎回買い替えを繰り返してきた熱狂的GT-Rファンしかいないでしょう。
かくいう私も、R35 GT-Rは2009年モデル以来。いまやエンジンパワーは570psと、当初の480psから90psも向上。ゆえに価格も2007年モデルは777万円スタートだったものが、17年モデルはPure editionで922万3000円(ともに税別価格)とおよそノート1台分の約145万円上昇しています。もっともこれは初期型777万円スタートが大バーゲンかつ戦略的な値付けだったともいえますが……。
特徴的なドアノブを指で押しながら引っ張り着座。シートも初期型から比べれば随分と進化を遂げているものの、GT-Rの戦闘力の高さを考えるとやはり専用RECAROかNISMOに装着されるホールド感とローポジションなシートが欲しくなるところ。インテリアはものの見事にガラリと雰囲気を変えて一新。質感も増しており、ナビの画面の大きさ・操作系もイマドキのものとなって、10年間のギャップは随分と埋められた印象です。逆にメーターまわりだけが従来と大きく変わらない事の方に違和感を覚える方も多いのでは? ステアリングも新たなGT-R専用品を採用…ではなく、今度から北米向けスカイラインクーペと同形状になるのがスペシャル感という意味でも少し残念。コラム固定からステアリング固定に変わったパドルシフトもこのあたりの事情が関係しているものと思われます。
エンジンをスタートさせゆっくりと動き出す……。確かによく言われている通り、以前のGT-R比べて静かに、滑らかになったのが印象的。とくにリアから聞こえてくるトランスミッションの賑やかな音は随分と影を潜め、路面からの衝撃も幾分和らいでいる……と感じるのは、あくまで従来型GT-Rに乗ったことのある、経験のある方が相対評価で得られる印象。絶対評価でいえば、“最速の称号はあくまでNISMOが請け負い、ノーマル基準モデルでニュルブルクリンクのタイムを追う必要がなくなった” この17年モデルでも、“タダモノではない”感は相当に強いというのが率直な感想。脚はハードで(これでも随分改善されたほう)ボディ剛性は減衰の逃げが全く感じられないほど強靭で、油圧式パワステはずっしりと重く(再:これでも随分改善されたほう)、動き出しにちょっと癖のあるDCTに、とにかく抜群によく“キク(効く)”けれど同時によく“ナク(鳴く)”ブレーキなどなど……。しかしながらモデル中盤で追加された“SAVEモード”を利用すると、街乗りでの柔軟性は随分と増しており、ある程度の取り扱い易さは実感できます。
と、そんな細々した事を考えていても仕方がないので、いざGT-Rらしさを発揮すべくスピードを上げていくと、その破壊的な加速力とトラクション性能の良さに惚れ惚れ…否、ちょっと恐怖を覚えるほどに圧倒されます。アクセルペダルのストロークが長めな事もありますが、スロットルOFFの減速だけで首がつんのめる(それだけ加速Gが強烈)感覚を味わえるのがこのGT-R。DCTのつながりもよくスムーズに吹け上がる……なんて考えている余裕なんてなく、1~2速はあっという間。3速に入ってようやくエンジンフィールを確認できるゆとりが産まれます。アクセル全開を公道で合法的に味わえるのは、おそらく2~3秒あたりでしょうか。少しでも路面温度が冷えていれば、前255後285の巨大で強烈なグリップのダンロップの20インチランフラットタイヤを空転させるその加速力。のんびりゆっくり走っている時にはいまいちスムーズでない6速DCTも、飛ばす際には待ってました!と言わんばかりの電光石火シフトで何の躊躇も違和感もなし。その圧倒的な速さと重さをキチンと支え限界領域が全く分からなくなるサスペンションとボディ、そして何よりこの高速巨体をがっしりと受け止め速度を殺すスチール製で最高峰といえる(あのポルシェに負けるとも劣らないと思わせてくれる!)素晴らしいブレーキ。この圧倒的な速さというステータスを見せつけられると、いやはや参りました……そういってしまう迫力がこのGT-Rには備わっています。そこに10年という月日は良い意味で熟成と進化という形で表れていると言えるでしょう。
そうは言いつつさすがに古さも隠しきれない……速いという価値を除けばクルマとしての味わいってまだまだ薄いんじゃないか……そんな声も聴かれることでしょう。しかし、他のどの車にも似ていないし真似できない、この車でしか味わえない世界観“GT-R world”がしっかりと築き上げられていることは、日本車として賞賛に値するレベルにきている事は間違いありません。昨今の第2世代GT-Rの中古車高騰の話題を耳にする度に、実は世界でGT-Rの良さ凄さを1番スルーしているのは日本人なのでは……そんなことを考えつつ、「紅葉と蜜柑色との濃厚なアンサンブル」を存分に味わうことができた秋晴れの1日でした。
(もう一人のインプレッションレポートは次回に)