〜日産セレナ2部門制覇とVOLVO XC90の栄光〜
【左のショットは色づく秋を楽しみながら、ホテルツインリンクからサーキットへ向かうR35 GT-R MY17]】
年に1度の「ツインリンクもてぎ」詣でがやってきた。日本自動車研究者・ジャーナリスト会議(通称RJC)の2017年次カーオブザイヤーの最終選考会は、そのテストデイに備え、サーキットに隣接する高台のホテルに前泊できる(もちろん、自前)仕組みになっている。さて、今年はどの車で行こうか? そちらの選定の方が、正直いって、気軽で楽しい。
4年前の2013年次はNISMOバージョンのフェアレディZで往復した。何しろその年の日産からは、三菱自動車とのジョイントで送り出した「デイズ」が辛うじて予選(シックスBEST)を通過したに過ぎなかった。加えて、その年の9月の8日間、2012モデルのGT—Rと「同棲」した余韻がたっぷり残っていた時期だ。ためらいなくNISMO特製のZを選んだのである。
2014年次は、予選落ちで試乗する機会を失った日産ティアナにしようか、それとも、もうすぐ走行距離が10万キロに達するわがプログレにしようか、と悩んだが、結局、ティアナにした。
この車幅1.83mの2.5ℓのFFセダンの正体は、北米市場向けの秘密兵器だった。それに盟友・徳大寺有恒さんが彼岸に旅立ったばかりで、ホットなマシンは遠慮したい気分でもあった。
*2013年はNISMOバージョンのフェアレディZで
*2014年はティアナで
*2015年はクラウンアスリートで
そして2016年次。デビューしたばかりのクラウンアスリートで。ご自慢のボディカラーは「天空(そら)」で、町走りでも、駐車場でも目を惹いた。
クラウンはマイナーチェンジということでエントリーされてなかったが、クラウンアスリートに搭載されたダウンサイズターボは、たしかにレクサスサウスのNX、ISに用いられているためブランニューではないが、ボディ構造のスポット溶接打点を100箇所近くふやすという「TOYOTA秘伝」を駆使している。それらを「試食」するいい機会だ。途端に心配になった。最終選考テストに残った6ベストの各車を診る目が厳しくなり過ぎはしないか、と。
2016年11月15日AM6:00。 iPhoneが律儀にコールする。そうか、ここはホテルツインリンクの一室だった。今回はスタートの練馬からずっとご一緒の飯嶋洋治さん(RJCに入会して2年目。やっと今年から投票権を取得)と、ゆったりしたツインルームでの、同宿だった。
「朝食は?」
「7時からです」
「じゃあ、それまで、『みんカラ』BLOGとメールのチェックを済ませておこう」
飯嶋さんに断って、持ち込んだ「Dyna Book」の電源をONにする。80歳の超シニアがよくやるなア。表情にこそ出さないが、飯嶋さんは心の内で呆れ顔を噛み殺しているに違いなかった。
7時。1Fのレストランへ。バイキング式になっていて、和食には目も向けず、サラダ、ヨーグルト、パンと牛乳、それにフルーツの順でピックアップする。それはいつも摂る朝の食事と全く同じものではないか。結局、誰かに飼い馴らされて、こうなるものらしい。
*圏央道菖蒲PAにて。RJCメンバーの飯嶋洋治さん。結局、往路のドライビングはほとんどを担当してもらった。
ヒョイと窓の外を見やると、夜来の雨も上がって、八溝山地の名も知らぬ山々が、雲海に浮かぶ島々という風情で、こちらの目を和ませてくれる。いいテスト走行と選考会になってくれそうな予感がする。
前夜にホテル入りし、懇親会で親しく交流した各自動車メーカーの商品開発の関係者や、広報部員、RJCメンバーも三々五々、朝食を済ませると、ホテルを後にして、試乗会場の基地となるサーキットのパドックへと急いでいる。緊張した空気が伝わり始めた。
「われわれもソロソロ……」
「はい。受付は8時からです」
飯嶋さんのレスポンスは、いつも小気味よい。部屋に戻ると、忘れ物はないか、をチェックして(必ず何かを置いていく癖は、年とともにひどくなっている)、チェックイン時に支払いを済ませてある1FのフロントにKEYカードを返して、駐車エリアへと急ぐ。待っていたのは、オレンジカラーのR35 GT—R MY17であった。
10月上旬に届いたHot-Version vol.142の巻頭企画『GT—R 2017年モデル 全開アタック&BATTLE!!』で、まず味見する。ドリキン土屋が「足がしなやか。動きがいいなあ。ああ、いい感じ、ヒューっと入ってくれるよ!」を連発しながら1分4秒台を軽くマークするのにも、当然惹かれたが、決め手はこの人のコメントだった。
「ベスモ同窓会」のメンバーでなおかつ「R35 GTRクラブ」会長でみんカラネーム「あど」さんこと、折戸聡氏が語りかける。
「見た目がガラッと変わって、(ボディカラーも)新しい色が出て、新しい物好きには評判がいい。街中を走っても抜群に……」
「ツインリンクもてぎ」までの往路ドライブは、ほとんど飯嶋さんが担当したので、もっぱらこちらはカメラ係に徹した。紅葉の始まったホテルからサーキット専用路までの下り坂は絶好の撮影ポイントだった。そしてパドック手前の、いつもの定点撮影も無事クリアして、午前8時からの受付を済ませ、試乗開始前のブリーフィングに臨んだ。
午前9時。試乗開始。真っ先に足を運んだのは、コントロールタワー寄りの手近なピットを割り当てられている(正岡註:これは第1次選考会終了後の抽選による=今回は国産車グループが最終コーナー寄りの遠い方へ)VOLVOのXC90である。
ともかく誠実に、国産車、輸入車両部門の「シックスBEST」に選ばれた12車種すべてのステアリングを握って、ロードコースの外周と東コースとを組み合わされた4キロほどの特設試乗コースを走りたい。しかし、与えられた時間は午後1時まで。その間、せっかくの機会だから、各車の担当者とも歓談したい。となると、時間があるようで足りるはずがない。実際にはある程度、緩急をつける必要があった。
VOLVOを試乗の1番手に選んだ理由はもう一つ。RJCが「イヤーカー選び」を終えた後、年次報告書として発行予定の『Bulletin』で、「XC90試乗記」の原稿執筆を要請されており、いくつか確認したいこともあったからだ。
*試乗コースに組み入れられた東コースへ入るXC90
XC90のおっとりした顔つきとがっしり体躯。北欧からやってきたSUVの新しい挑戦者。2017年モデルでアップデートされた先駆機能を、改めて確認したかった。販売も好調らしい。スタッフの対応もキビキビしていて、今回は故あって欠場しているSUZKI顔負けの熱っぽさが印象的だった。加えて、4人乗り限定の受注生産車『VOLVO XC90 EXCELLENCE』が持ち込まれていて、よかったらドライバーを用意しているので、後部座席でゆっくり「VIP気分」を楽しんでください、と来た。「有難いお誘いだが、それは時間の余裕ができたら、ぜひお願い」と断って、お隣の「プジョー」ピットへ移動する。
「プジョー」「アウディ」「Jaguar」「メルセデスベンツ」「BMW」とインポート部門を順序よく訪問し終わる予定が、顔なじみの広報責任者の陣取ったピット・ブースでは、ついつい話し込んでしまい、気がつくと、すでに午前12時が迫っていた。そこで作戦を変更、「国産車部門」はすぐ乗れるクルマを優先することにした。
結局、「インプレッサ」「プリウス」「アクセラ」「ムーブキャンパス」の順に「対話」を済ませ、直近に試乗したばかりの「セレナ」と「フリード」はパスせざるを得なくなった。ま、わたしの中での採点を再確認するための試乗は、これ以上、必要としなかったわけでもある。
午後1時、ブリーフィングルームに集合、名札と引き換えに事務局から投票用紙を受け取った。
午後2時、開票が開始された。まずテクノロジー部門。競り合っていたのは前半だけ。日産セレナ搭載の「プロパイロット」があっという間に、メルセデス・ベンツ Eクラス搭載の「インテリジェントドライブ」に62ポイントの差をつけてしまう。これで日産の悲願である「2部門制覇」が現実味を帯びて来た。
続いて「インポート部門」。こちらは「アウディ A4」が最後まで「VOLVO XC90」を追走したが、最後には29ポイント差で力尽きた。
注目すべきは、プジョー・シトロエン・ジャポンからの「プジョー318 Blue HDi」ではなかったろうか。ちょっと小粋なハッチバック。最新の排ガス対策を施したディーゼルエンジン搭載。第1次選考では「ルノー・トゥインゴ」のエントリー辞退で繰上げ出場という形であったにもかかわらず、本選では3位にランクアップしている。乗ってみての好感度が高かったからだろう。
無念さがこみ上げる。順位はともかく、こうしたステージにポルシェ718ボクスターが混じっていれば、もっと味わいのあるテスト試乗ができただろうに、と。
*プジョー318 Blue HDi
国産車部門に与えられる「カーオブザイヤー」の栄冠は、開票と同時に「日産セレナ」が独走した。運転支援装置の「プロパイロット」人気に加えて、ミニバンに先進技術を傾注し、利便性を格段に高めた点が評価された。それを情熱を持ってアピールした開発担当、広報担当それぞれの働きが、快く実ったクルマ、それがセレナというミニバンであったのか。
*XC90でインポート・カーオブザイヤーを獲得したVOLVOジャパンチーム。
*カーオブザイヤーを狙って、栄冠に輝いた日産セレナチーム。
*「テクノロジー」までゲットした日産セレナチーム(技術担当組)
午後3時、結果の発表。散会。ピット・ブースに戻っての記念撮影を見守ってから駐車パドックへ。ひと際、存在感をアピールしてくる佇まい。R35 GT-R 2017バージョンが待っていてくれた。さて、このKEYを飯嶋くんに渡したものかどうか、まだ心が決まっていなかった。 (この項、次回更新まで)
*西日が落ちて行く。シルエットは筑波山。復路のGT−Rは常磐道を経由?