〜花言葉は、高貴、純粋、無垢、雄大な愛etc〜
密やかに、誰かに呼ばれた気がして、目が覚めた。枕元の時計を見る。午前5時か。締め切ったカーテンを透かして、朝の光が薄っすらと、夏の朝が始まりつつあるのを知らせる。
ハッと気づいた。すぐに起き上がって、リビングルームを覗く。
「お! やっと咲いたか」
純白の花が一輪だけ、こちらに向かって、恥ずかしそうに俯いたまま、笑みを送ってくれている。
2週間前に五木寛之さんから届けられたカサブランカの鉢植え。肉厚の葉っぱに守られた蕾たちは頑なに身を縮めたままであった。いつになったら開いてくれるのか、心待ちにしていた。前夜も寝る前に蕾のふくらみ具合をチェックし、蕾の先が微笑み始めているのを確かめていた。
「ユリの女王」カサブランカの花言葉……。高貴、純粋、無垢、雄大な愛、甘美、純潔のシンボル。
たっぷりと時間をかけて、すこしばかり勿体ぶっておのれの裸身を披露する……見事な演出ではないか。そのドラマの始まった瞬間を伝えたくて、眠っているわたしを呼んでくれたのか。
届けられた鉢植えには三本の支柱にガードされて、3株のカサブランカがそれぞれに、たっぷりと繁った葉っぱを装って、素っ気なく突っ立っていた。1株に五つの蕾。それが全て満開になった時、どんなドラマチックな「絵」になっているのだろうか。その幕がいま、開かれたのだ。
朝の光を受けて、まだ一輪だけが先駆けて開花したカサブランカ。六弁の純白の花びらの中心から、紅い雌蕊(めしべ)が六つ、アクセントをつけるように舌出しをしている。なんと魅惑に満ちたオープニングシーンだろう。これがこれからは一輪、一輪、時を刻んで順番にご挨拶をしてくれるのか……。もう、こちらもベッドに戻る気になれるものではない。背筋がピンと伸びて、仕事部屋へ向かう。PCの起動スイッチを押す。「ボオオーン」と元気よくiMacが目覚めてくれた。8月がスタートして五日目。ご無沙汰したままの「ブログ更新」にやっと取り組むパワーが蘇ってくれたのが、なんとも嬉しい……。
まず取り掛かったままの『ノートNISMO S』の試乗レポートをしっかりと仕上げなければならない。
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新型NSXの赤いオーラに惑わされ、首都高速でミスコースしてしまった飯嶋洋治さんに替わって、箱崎ICからの下道はわたしがステアリングを握っている。
江戸時代より安産・子授けの神として人々から厚い信仰を集めている蛎殻町の水天宮を右手に見ながら、北に伸びる大通りを「三速ホールド」で馳けるノートNISMO S。甘酒横丁。人形町。東京下町の名残をとどめる町並みが続く……。
「ベストカー」「ベストモータリング」の現場を取り仕切っていた遠い時代、スタッフに向かって、よく注文をつけたものだ。
「クルマでA点からB点に行くのにもっとも効率のいいルートを走ること。それが男の美学だ」
今ならカーナビやスマホが水先案内をしてくれるだろうが、それを素早くイメージできるよう、日頃から経験を積み重ねることが、この世界で生きて行く上でどれだけ役に立つか。それを伝えたかった。少なくとも、各自動車メーカーの関連事務部門へのルートくらいは、諳んじて言えるよう、要求したものだ。
「確か、人形町を過ぎたあたりで、左へ向かう一方通行の大通りがあって、それが日本橋三越本店の脇を抜け、続いて日本銀行本店の先で、今度は右へ向かう一方通行が待っているはずですが、そこからのルートは流れによっては、ちょっとエキセントリックですよ」
今はナビシートにおさまって周りの風景に見入っている飯嶋洋治さんに、そう予告する。
「NSXのおかげで、思いがけない東京下町ドライブができ、その上に何があるのか、これは楽しみですね」
「ふ、ふ、ふ」
それがわたしからの返事だった。
結局、人形町で左折、小舟町を過ぎると、頭の上で上野方向への首都高速道路が重々しくかぶさってきた。この辺りから三井グループによるプロジェクト「日本橋再生計画=残しながら、蘇らせながら、創っていく」に乗って、今や注目の観光・商業スポットとして若々しい賑わいを取り戻しているゾーンだ。
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さてここから、どう書き続けようか。日本橋三越本店の脇を抜け、日銀本店を右手に確認したら常盤橋の交差点だ。それを右折すると外堀通りと呼び慣わされている405号線。さあ、そこから一方通行、5車線の絶妙の疾走区間が待っている。そこで、この気分をこう書き留めておきたいな。
「鎖を解かれたプロメテウス」さながらに、NISMOによって丹念に調整された心臓(エンジン)と、強靭な腱を植え込まれた脚元のもたらす新しい境地を、舌なめずりしながら疾駆している至福の時間が訪れた。左回りの大きなコーナーが竜閑橋を過ぎれば待っている。こんな時、MT車は好みのシフトワークを駆使できるぞ……」
ここまで書き上げたところで、気分転換をしたくなって外へ出る。いつものウォーキング・コースは真夏の強い陽射しに灼かれ、ゲンナリと萎れている。蝉の合唱だけが賑やかだ。そんな中、百日紅(さるすべり)だけは、そこいらじゅうに元気と愛嬌を振りまいている。羨ましい存在だ。
帰宅すると、Hot-VersionのVol.147が律儀に届いていた。リビングルームに落ち着くと、すぐに異変に気付いた。なんとカサブランカの花がもう一輪、いい匂いを放ちながら開いて、最初のカサブランカに寄り添っている……。それぞれの命が脈動し合う夏。去年は「鎮魂の夏」に気分は影響されて過ごしてしまったが、さて、今年は?
(この項、ここで一服)
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還暦+青春の21歳 | 日記
Posted at
2017/08/06 14:30:39