どもです。思ったよりもこのカンバン方式に対しての御意見などが多々あり少々びっくりしております。何しろ結構説明しにくい上に、わかりにくいところが多々あるのですが、御拝読、本当にありがとうございます。カンバン方式の最終章を書いてみたいと思いますので、相変わらずわかりにくいところも多々あるかと思いますがお付き合いいただけると幸いです。
コスト削減のなれの果て - カンバン方式の破たん
カンバン方式の弱点をもう少し掘り下げてみた
今回はもう少し広い範囲で書いてみたいと思います。若干カンバン方式からそれるかも知れませんがご容赦願いたいと思います。
先のブログにも書きましたがこのカンバン方式の弊害の一つとして
コスト削減至上主義に走りやすい
と言う事を書きました。具体例を出してみたいと思います
1)自動車部品メーカーの場合
まず、モノを作るときは大まかに2つのタイプを用意します
1)メーカー向け
2)アフターマーケット向け
そしてそのメーカー向けの内訳を述べると
1)OES/OEM
2)Genuine(純正)
この二つが作られます。先ずOEMというと大抵の方はこういうものを思いつくのではないのでしょうか
OEM事例
1)三菱 i-MiEVとPeugeot ION/Citroen C-Zero
2)スズキ ワゴンRとマツダAZ-ワゴン
概念的には同じでメーカー向けの新車に載せるための部品の事を指します
純正というのはよくディーラーとかで売られている補修用のパーツの事を指します
アフターマーケットはその名の通り量販店なので販売されている補修パーツの事を指します。
物自体に関して言えば
同じ材料で作られているし、工程も全く同じである
ではここで一つの疑問が生まれてくると思いますが、なんで同じものがディーラーにおいてあるものが高いのかとなると
生産工程において品質管理部がほぼ全品検査を行っている
ここが大きな違いになってきます。ではなぜ、そんな全品検査を行うかというと
メーカーで不具合が発生した際に法外なペナルティーをかけられる
ここに尽きるんです。部品メーカーでやっているものに対しては外注に出しているものは少ないところもあるので万が一ペナルティーをかけられたらとんでもないことになるので全品検査を行い、ペナルティーを発生させないよう心掛けております。
また、部品メーカーにとってOEM/OESって一番嫌なものなんです。
純正と同じくらいの品管工程を費やさなければいけない挙句、メーカー側ものすごい安い価格で要求してくるので部品メーカー側は場合によっては赤字覚悟でやらないと商売にならない。しかもカンバン方式の場合はタイミングも守らなければいけないのですべてがものすごいシビアな環境で行うので、ミスが許されない非常に緊迫した環境で作業することになります。故に体調不良者などが大量に出ます。
しかしこのOEM/OESをやらないと所謂Genuine(純正)が作れません。なぜかというと納入契約の際、OEMを作っても良いけどGenuineの価格はこちらで決めさせてくださいあるいはこちらの意向を最大限考慮してくださいとなるのでOEM生産で赤字を出したとして純正部品で何とかカバーできるレベルになります。それだけだと営利企業としては成り立たないのでアフターマーケット向けを作って売らないと商売的には成り立たないのが現状です。
つまりカンバン方式の弊害の一つとして、メーカーの責任は全て下請けに押し付けていく傾向が強くなります。それが故に部品メーカーも同じことを下請け(メーカーから見ると孫請け等)に強要します。これでお分かりになったと思いますが、悪の連鎖というのが始まり、最終的には問題が起きたら責任のたらいまわしが起きやすい傾向になります。
2)J-SOXと4半期決算
最近、何かと企業の間で話題になっているのがJ-SOX(日本版サーバンオクスレイ)と四半期決算ですが、何気にこれ、直接カンバン方式にはつながりませんがかなりの悪影響を日本企業に与えております。
まずJ-SOXは説明すると非常に長くなるので覚えておいて欲しい概念というのは
不正(会計や情報システム)を未然に防ぐためのシステム
これだけ、覚えておいてください。
元々このJ-SOXが生まれた歴史というのが一部の方はご存じかと思いますが
エンロンの損失隠し
が事の発端で作られたシステムなのですが、これを導入するとどういうことが起きるかというとものすごく端折って言うと
あらゆるものに対して稟議書や申請書を書き、認証プロセスを受けないと物事が決まらない
簡単な例としては社内LANで使うパソコンのユーザーアカウントの設定
導入前ならば人事や部長クラスからこういう方が来るからアカウント作ってと言えばそれで終わりでした。
ところがJ-SOXが適用されると
1)どのクラスであれ申請書を書く
2)申請書を担当部署で受け取り担当者が認証する
3)担当者レベルで確認できていることを再確認するため担当部署の課長や部長が署名する
4)不正を防ぐためアカウント作成は別の人間が行うが実際には人数が足りないためユーザーアカウントは受け付けた担当が作ることができる(本来なら好ましくない)
5)メールボックスは別の担当者が作る
6)すべての申請書は保存される
7)初めてパソコンにアカウント設定がされる
とにかく非常に長いプロセスがかかります。
元々、日本企業の場合、会議とかが多いので、何かを決断するのにものすごい時間がかかります。このJ-SOXが適用されるともともと長くかかるところがさらに長い時間がかかるので場合によってはビジネスチャンスをなくす可能性すらあります。
カンバン方式はスピードが優先されなければいけないはずのものが、こういう制度によって鬩ぎ合いに陥ることなります。
それから四半期決算ですが、これの概念というのは
会社の透明性を高める
この概念だけを覚えておいていただければ結構です。
要はJ-SOXの延長線で、不正を起こさないためにも会社の透明性を高めなくてはなりません。そのためには今までは一年に一回出していたものが、年4回も提出しなければなりません。そうなると収益書や決算報告書が頻繁に出る以上、簡単に結果が出ない研究部門などは当然赤字となります。赤字を嫌がるのはトップマネージメントもそうですし、株主も然りです。なにしろ
赤字=経営が良くない
という認識を与えかねませんから。
そのために今までは社内での研究ができていたのが思うようにできにくくなり、分社化や子会社を作ったりして連結決算という形で見えにくくさせます。またもう一つの手段としては今まで社内でやっていた研究を下請けに丸投げしたりします。
当然、それができる規模のところならいいのですが、できないところもあるので今度は分散して孫請けに丸投げしたりします。つまりは責任の放棄が進んでいるのが現状かと思います。
よく自動車メーカーの事を自動車を製造(Made)しているのではない、自動車を組み立てている(Assemble)だけだなんて言われますが、この認識はあながち外れていないと思います。
カンバン方式、J-SOX、四半期決算、これだけでも今の製造業というのはかなり難しい綱渡りをしているのがご理解できたかと思います。では海外の場合はどうなんでしょうか
事例1 ルノー・日産アライアンス
ルノーで作っている車の一つでKoleosやLatitudeというのがありますが、これ実際には
ルノー、日産、三星自動車が共同で作っています
Koleosの場合だとプラットフォームとディーゼルエンジンがルノー、駆動系とガソリンエンジンが日産、組みたては三星という感じです
Latitudeも似たようなもんでやはりこの3社で作られているのですが、問題は三星やルノーでストライキなどが発生したらそこで製造が止まりますし、今回のような日本で災害が起きると当然製造に支障をきたします。
事例2 PSA(プジョー・シトロエン)とBMW
PSAとシトロエンの場合、エンジンで共同開発を行っております。なぜ共同開発をするかというとコスト削減の為です。双方で出し合わせばいくらか抑えられます。当然コストが重視されるので、ぱっと見はかなりいいエンジンに見えますが、Mini CooperやPeugeot、Citroenで採用されているTHPエンジンには致命的な欠陥があり6万キロでタイミングチェーンが切れたりします。
事例3 フォルクスワーゲングループ
フォルクスワーゲングループは傘下にVW、AUDI、SEAT、Skoda、Lamborghini、Bentley、Bugattiと知られているブランドからあまり日本ではなじみのないブランドまでそろっています。VWグループも当然ながらコスト削減を行っておりますがそのやり方というのが
徹底的な部品共有
でしてAUDI、VWの部品がふんだんにSEATやSkodaに採用されていますし、場合によってはLamborghiniにもAUDIの部品が利用されていたりします。
顕著なのはAUDI A4、VW Passat、Skoda Superbなんですが、よく見ると同じ部品があちこちで使われていたりします。で、値段差もかなりあります。そうなると無理にAUDIなんか買わなくてもいいのではという意識が芽生えてしまいます。その結果、最近ではAUDIというブランドは好きだけど、買うならSkodaで十分という方が増えています。これはLexusとトヨタにも同じことが言えますけどね
ちなみに海外の事例3つ並べましたが傍から見たら、なにもカンバン方式とは関係ないじゃないかと思えますが、よく見てください。たった一つ共通点があるのです
コスト削減
世界中のメーカーがトヨタの成功にあやかりたいと言う事でBMW、メルセデス、VW、ルノー、PSA、GM、どこもこのトヨタ生産方式を学んだのです。確かに今までと比べて不良率は下がりましたが、コスト削減は否めませんし、ましてや一度リコールが起きると多車種に及ぶ傾向が出ています。
先ほども書きましたがTHPエンジンに不具合が出たらプジョーなら207、308、シトロエンならC3、DS3、C4にまで及びますしBMWグループならMini Cooper Sが対象となります。エンジン共有やプラットフォーム共有というのは効果的にコスト削減ができますがその反面不具合が発生すると多車種に及びます。先のトヨタのリコール問題は記憶に新しいところだと思います。
ではモノづくりに支障を起こさないためにも海外生産や海外に技術を持っていったらどうかというご意見もありましたが
海外で日本と同等の質が得られる国は非常に限られる
と言う事なんですよ。また下手に海外に日本の技術を持っていくと産業スパイによってごっそり持って行かれるのが目に見えてますからね。
例えば日産のマーチ、あれ80%近くが現地調達部品となっておりますが、実際に見に行ったり、試乗してみた方、欲しいと思った方はどれくらいいらっしゃるでしょうか。
正直な話、このフランスではまだ一台も見たことがありません。同じ現地調達が高い車でよく見かけると言ったらトヨタのヤリス、スズキのスイフトはかなり見かけます。
日本車が売れていた理由はグローバル化などではなく
比較的入手しやすい価格でありながら高品質で装備も充実している
ここに尽きるんですよ。
よく考えてみてください、このカンバン方式が浸透した結果、町工場の数も減ったと思います。また、生産拠点を一か所に集中しすぎている傾向も感じます。
今回の震災で得られた教訓としては
1)現行のカンバン方式では災害等が起きた場合、メーカーにとって致命傷になる
2)町工場が減ったことによって一部の下請け、孫請けだけに集中することにより、そこに何らかの形がダメージを受けるとすべての生産に支障を与える
3)海外に生産拠点を持って行ったとしても日本と同じ品質が得られる国は限定される
この震災の復興のカギは、個人的には町工場や中小零細企業の復権に他ならないと思います。
大企業が所謂J-SOX等によって大企業病に侵されている以上、柔軟な研究開発ができるのは他でもない、中小零細企業しかないと思います。
また、大企業もコスト削減至上主義から脱却しないと日本企業の復権など無理でしょう。
例えば経団連なんかは支那に未来があると言って進出したけど、結局は日本の中小零細企業に頼り、支那は単なる組立工場ではないのか?もし日本と同じだと品質だと言い切れるのならばなぜ逆輸入しないのか。結局、支那製は支那製のレベルだと言う事ではないのでしょうか。特に自動車に関して言えば。
日産のマーチも売り出した当時は売れた売れたなんて騒いでいたけど、今、ほとんど聞きません。むしろ軽の方が売れているのではないのでしょうか。
しかも今回の地震で世界中が日本の部品に頼っていることが証明されている以上、コスト競争を支那や東南アジア各国としても勝ち目などありません。
まして支那の場合、人件費は上がっているが品質は大して上がっていない以上、日本メーカーはコスト削減至上主義から脱却すべきだと思います。
こういう例を挙げるのもなんですが、100円ショップのものですべて代用できるでしょうか?たとえ代用できたとしても、今までのが数年以上持っていたとしたら、100円ショップ製のだと数日から1年持てば良いレベルではないのでしょうか。
安くすればするほど定期的に買い替えなければいけない以上、結局高くていい物を長く使うよりも高くつくのではないのでしょうか?
個人的な意見を言わせてもらうとカンバン方式自体を大きく見直し、中小零細企業に活力をもたせ、安易なコスト削減戦略ではなくかつて言われた
Made in Japan=品質No1
の復権が今回の東日本震災の復興とつながっているのではないか、自分はそう思います。日本国は昔から地震大国でありながらも、乗り切ってきってこれたのは日本全国に職人がいたからこそ乗り越えてこられてきたと思います。職人の復活こそが日本のモノづくりの再復権、ひいてはこの震災に復興につながると確信しております。
いつも以上にまして大変読みにくい文章だったと思いますが、御拝読ありがとうございました。