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2012年04月24日

引き金となった前年の『炎上惨事』 ~1973.11.23の最終戦をめぐって~

引き金となった前年の『炎上惨事』 ~1973.11.23の最終戦をめぐって~  ノンフィクション作家の中部博さんから、4月15日付の丁寧な手紙が届いた。
「……4月25日に、自著『炎上 1974年富士・史上最大のレース事故』を文藝春秋より上梓することになりましたので、ご報告申し上げます。この本の原稿は、月刊『レーシングオン』に連載しました〈1974.06.02 まだ振られていないチェッカーフラッグ〉をもとにして書き上げたものです。(このあと、ぼく=正岡との交流への謝辞を頂戴しているが、ここでは省略)ノンフィクションを書き続けてきたわたしは、愛好するモータースポーツを、記録文学として成り立たせたいと傾倒してきました。いまだに文章修業の道なかばではありますが、その仕事がひとつかたちになったと思います。これからさまざまなご批評をいただくところでありますが、ともあれ日本のモータースポーツ発展の一助になれば幸甚とねがっております。拙著は版元からお手元へお届けする次第です」

 念願の本が書きあがって、世の中へ出る。物書きとしての期待と不安、達成感と反省。さまざまな想いがないまぜになってドッと押し寄せる。中部さんはいま、そのど真ん中で揉みしだかれる至福のなかにいることだろう。

 日を置かず、文藝春秋からその本は届けられた。早速、拝読。ここから先は、中部さんの『炎上』が書店の棚に並ぶ頃合いを見計らってから、感想やら収穫を紹介するのがマナーというものだろうが、この際、ぼくはその露払い役を務めたい。このノンフィクション作品の主題となる「1974年6月2日」が、突然やってきたのではなかった、という視点で、その「前夜」の出来事や世相を、幕が上がる前の「序奏曲」として記しておこう、と思い立った。


*1974年6月2日の炎上現場(当時の東京12チャンネルの録画放映シーンより)

 まず、これまで手元に集まっている資料を洗いなおすことから始める。

「74年シーズンの事実上のトリガー(引きがね)は、その全要因が73年11月23日に行われた富士グランチャン最終戦の惨事にスタートしている。その日富士30度バンクでスタート直後に起きた状況についてはあらためて書くつもりはないが、偶然この日から日曜、祭日のガソリンスタンド閉鎖が指導された例の石油ショックのスタートだっただけに、事故そのものよりのモーターレースに集まる何万人の観客のほうが社会的な問題としてクローズ・アップされてしまった。石油消費節減策の話題をまっていたマスコミにとっては、絶好のテーマとみられるように大きく扱われ、スポーツを罪悪視する空気が一気に広がった」
 この一文は「Auto Sport Year’75」に掲載された池田英三さん(故人)の「国内モータースポーツ’74~’75」の書き出しからの抜粋である。この当時、こんなに冷静に「富士多重事故」を解析し、将来への提言、処方箋まで目配りされたレポートが発表されていたことに、ぼくは注目していた。ちなみに池田英三さんは、稲門(早稲田大学)自動車部の草分けで、後年、AJAJという自動車ジャーナリスト集団の会長まで務めた重鎮のひとりである。

 池田さんの論述は、このあと石油供給不足のあおりでアタフタする自動車業界の施策に触れ、富士グラチャンのあり方についても、今になって読んでみても、なるほど、と首肯させられる内容であった。が、ここではひとまず、では、当時の新聞報道がどんなものであったのか、検証することから始めたい。



 まず、1973(昭和48)年11月24日(土)付け『読売新聞』朝刊の社会面。ど真ん中の10段を費やして「ガソリンスタンド休業初日」の様子を「“ガス欠”ハイウエー」と大見出しをつけて伝え、中見出し、小見出しが散りばめる。「相次いでSOS」「“知らなかった”“何とかなるさ”無関心、アツカマ族」「都内のスタンド99%休業」。読まなくとも、盛り込まれた内容が伝わってくる力の入れようだが、その左側を「浪費レジャー突っ走る」という黒地に白抜きゴシック文字が躍っている。
 そこへ「接触事故を起こし炎上するレースカー」とキャプションの添えられた2段にまたがる写真。さらに5段にわたってレポートが展開する。読んでみよう。

【御殿場】二十三日、静岡県駿東郡小山町大御神の富士スピードウェイで、時速二百キロのスピードを競う富士グランチャンピオンシリーズが開かれたが、前日から二日間のカーレース見物に二万台の車が押しかけたほか、出場車がハイオクタンのガソリンをまき散らす大量消費。同日の決勝レースが午後零時半からテレビで実況中継され始めると「ガソリンのムダ遣い」と抗議の電話が読売新聞社に相次いだ。そのあと事故でレーサー四人が死傷したためその後レースは中止、突っ走ってきた日本経済の現状を象徴するようなざ切の幕切れとなった。

 ここで読売の記者は、ガソリンがどれくらい費消されたかを計算する。

 主催者の富士スピードウェイ会社の話では、この日の決勝レースに用意したガソリン(ハイオクタン)は約三千四百リットル。二千CCクラス三十四台が出場したので、一台当たりの消費ガソリンは百リットル、一台が二百キロ走ったから、一リットル当たり二キロしか走れない計算で、普通車の四,五倍もガソリンを食っている。
 しかも、前日のタイムトライアル、一週間前からのトレーニングを含めると、こんどのレースで計約八千リットルのガソリンが消費されたことになる。また、二日間にわたるレース中、見物に訪れたファンの車は延べ2万台で、このガソリン消費もかなりのもの。

 そこへ、レースの事故が加わったのである。

 この日午後零時四十五分ごろ、同チャンピオンシリーズ最終戦の決勝レースのスタート直後、第一コーナーのカーブ(傾斜角度三十度)で、レーシングカー八台が接触したり、ガードレールに激突して、うち四台がコース上で炎上、ほかに二台が勢い余ってガードレールを飛び越えて大破した。
 このため炎上した車を運転していたヒローズ(ヒーローズの誤植か?)・レーシング所属の中野雅晴選手(二四)は車に閉じ込められ、救急隊が救出して病院に運んだが、途中、全身やけどで死亡した。ほかの炎上車から自力で脱出した清水正智(二六)田島基邦(二六)岡本安弘(三〇)の三選手も御殿場市内の病院に収容されたが、両手足、顔などに二-三週間のやけどを負った。
 御殿場署の調べでは、先頭グループにいた生沢徹選手の車がスピンを起こした。このため後続の車が避けようとしてそれぞれ激突、三台が炎上した。

 おおかたの状況は、ここまでの記事で把握できるだろう。が、さきに黒井尚志さんが「偏見に満ちた記事」と指差した朝日新聞は、どんな報道だったのか、つづけて検証したいが、それは次のエントリーまでお待ちいただきたい。

ブログ一覧 | 実録・汚された英雄 | 日記
Posted at 2012/04/24 00:09:32

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この記事へのコメント

2012年4月24日 7:44
中部さんの著書、待ちきれず予約してきました。
手元に届いたら一夜で読破してしまいそうです。

それに先だって、局長の「序奏曲」が始まるということで、
次回エントリーが待ち遠しいです。

追伸:
富士スピードウェイ30°バンク行ってきました。
やはり画像で見るのと実際に目の当たりにするのでは
全然違いますね。まさに「壁」でした。

下りながら須走落としに向かうバンクは
「吸い込まれて行く」という形容が相応しい迫力で、
30年以上前の数々のレースシーンに想いを馳せました。
コメントへの返答
2012年4月24日 11:10
30度バンクを歩いての感想、ありがとう。

また、想いを深めて「序奏曲」に取り組みます。
2012年4月24日 21:04
正岡さんのブログをみたり、今の現状を見て自動車文化というものが根付いていなかったとことが悔やまれます。。
もし、根付いていたらレースのある程度の受け入れや売るための車づくりもなかったではないかと。

本販売されたら一度見てみたいです。

コメントへの返答
2012年4月25日 0:03
オタオタしすぎる自動車メーカーの取り組みに、まず問題があるのは当然でしょうが、簡単に、そうとは言えないこの国の資質。

クルマへの愛、まだまだ、かな。

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1959年、講談社入社。週刊現代創刊メンバーのひとり。1974年、総合誌「月刊現代」編集長就任。1977年、当時の講談社の方針によりジョイント・ベンチャー開...
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