
9月1日、午後4時6分。この日のためだけに用意された23台のレース仕様のロードスターが、たかぶる闘争心をぐっと抑えて、ローリングスタートに入った。恒例だった「ルマン式スタート」を見たかったのだが、いつの間にか、返上されたらしい。
筑波サーキットの夏は、まだ終わっていない。西の空から、惜しみなく陽光が、戦士たちを眩しく、捉え続ける。
エンジン音の集団が遠ざかっていく。第1ヘアピンからダンロップ・コーナーを抜け、第2ヘアピンへ向かったのがわかる。一瞬、時間がとまった。と、第2ヘアピンで折り返したマシンたちが、最終コーナーを目ざして直線路に入ったらしい。大きなエネルギーの塊が、はじかれたようにこちらへ戻ってくる気配。何ごともなければ、先導するペースカーがピットロードにそれ、レースがはじまるはずだ。ぼくらの目と耳は、最終コーナーへ。
*いきなり1周目で1分09秒853をたたきだした大井貴之クン。相変わらずだね。
*この⑬がスタートラインを抜けると、レースがはじまる。(わがスマホ携帯にてパチリ)
ゼッケン⑬の青いマシンが現れた。公式予選で、唯一、1分10秒を切ってポールポジションをとった大井貴之の「ENGINE」編集部だ。このマシンがコントロールタワー前を通過すれば、レースがはじまる。あっという間に、10台あまりがスタートラインを抜けて行く。やや間を置いて次の集団がやってくる。ゼッケン88番、「みんカラ」カラーをまとった加藤拓人編集長のドライブする「カービューロードスター」が、前車との間合いを保ちながら、走り抜ける。
*パドックの注目を集めてコースインする「みんカラ」号。プレッシャー、ビンビンだね。
さて、これからはじまる北畠蘭知亜、北畠主税、伏木悦郎、そして再び北畠蘭知亜とバトンタッチされるはずの4時間バトル。どんな試練と波乱がまっているのだろうか。そして前年度優勝の、あの栄光が単なる『ラッキーパンチ』にすぎなかったのか、どうか。メディア仲間の好奇の目が、88番に集まっているのも、事実だった。
トップグループが戻ってきた。先頭は⑬ではない。ああ、大井がどこかでしくじったな。瞬間、そう思ってしまったが、すぐにその間違いを訂正する。スタート・ドライバーは大井であるはずがない。ましてや、今回から参加の国沢光宏でもない。編集部の誰かのようだった。その証拠に、この後、周回を重ねるごとに⑬はずるずると順位を落として行ったのだから。
そんなことは、どうでもいい。「みんカラ」の加藤編集長車はどうした!?
おっ! ピットロードからこちらへ戻ってくるのが88号車ではないか。どこかでやってしまったのか。それとも、マシンに変調が!?
ピットは、それを当然のように迎えた。11番ピットの前で88号車はピタリと止まった。加藤編集長はマシンに乗ったままである。レース主催側のピット監視員立会いのもとで、タイム計測がはじまった。
「180秒だぞ!」
北畠タンボ君が、こちらのピットマンに確認を与える。そうか、カービュー編集部は、いきなり賭けに出たのだ。前回優勝のハンディキャップとして、3分間(180秒)のピットストップが課せられていたのだ。それを、レース開始と同時に消化してしまおうという作戦だった。
*いきなり3分のハンディ消化のため、ピットにストップしたままの「みんカラ」号
それにしても、180秒は長い。1分経ったところで、監督の山本享が「9,8,7」とカウントダウンを始める。それを慌てて止める蘭知亜。監督の指示に危うく反応しかかった加藤編集長も、エンジンをかけかかった手の動きをとめた。危ない、危ない。それほどに、何もできない「3分」とは、恐ろしく長い、ということだった。
やっと、3分を消化して、加藤編集長はコースへ復帰した。トップグループからはすでに3周近く離されてしまった。それでも、最初の計測タイムは報告される。1分13秒の前半だ。去年のレースの後、ほとんど実車での走行練習ができない分、時間をひねり出しては「グランツーリスモ」通いで腕を磨いてきたという。しかも、レース開始前のセレモニーで優勝カップを返還する役をこなし、モチベーションは高いままだ。第1コーナーのインに飛び込んでいく姿勢には、一段とたくましさがましており、安心して見ていられる。
*前年の優勝CUPを変換しレプリカを受け取る加藤編集長
与えられた50分を消化して、第2走者、北畠蘭知亜のバトンをわたす。ほとんどの周回を12秒台でこなし、トップとは3Lap遅れ。つまりハンディキャップがそのまま、差になっているだけの話じゃないか。
もっとも、あと3周ほどでピットインできるところまで順調に来ていながら、ダンロップ下でクルリとやってしまい タイムをロスしたのを、しきりに悔しがる。
「今回も、タンボさんの友人の杉野(勝秀)さんが来てくれて、綿密な燃費計算をやってもらっています。なにしろ今年の指定タイヤ、POTENZA RE-11Aのグリップ力が想像以上によくなっていて、コーナーからの立ち上がりで、踏み込みのタイミングがはやくなっている。恐らく、終盤は燃費競争になって、土壇場でのガス欠車続出、なんてことも予測されます。それに備えて、きっちりやっていれば、シングルの位置も、けっして夢じゃない」
加藤編集長が無事帰還してくれ、北畠蘭知亜を送り出したところで、伏木悦郎がこう解説してくれる。まだ、「ライトON」までには時間がある。第1ヘアピンで蘭知亜の走りを「鑑賞」したあとで、「ベストカー」や「ホットバージョン」のピットを訪問するとするか。普段なかなか逢えない連中と交流する……、サーキットならではの効用であった。
蘭知亜のポジションがあっという間に、14~15位までに回復した。この続きは、このあと、じっくり書き上げたい。この日もまた、懐かしい昔の仲間と逢えたり、わざわざ会いに来てくれた「みんカラ」仲間がいたり、と。
*「ベストカー」チームは中谷明彦を起用。左が勝俣社長兼総編集長、右端が宇井編集局長
*北畠タンボちゃんの追撃は次回で。第1ヘアピンにて。
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黄金の日々 | 日記
Posted at
2012/09/02 08:04:50