~今回のHot-Version vol.137は盛り沢山過ぎる〜
今月の『Hot-Version vol.137』はどのコーナーから紹介したらいいのか、迷っている。
パッケージを受けとった時には、さあ、9月5日のメディア対抗4時間耐久の舞台となった筑波サーキット。あの時にみせてくれた『土屋圭市 鬼神の走り』がやっと見られるぞ、と舌なめずりをしてしまった。それにその前菜役を務めた『The Drift Muscle 2015 Rd.4 筑波』も合わせて鑑賞しなくては……。と、異常を告げるタイトルが目にとびこんできた。『魔王戦線に異状アリ⁉︎ アルボーS2000 衝撃のクラッシュ』!
誰がやったのか? クラッシュの程度は? あえて表紙に謳っているのだから、それほどのことではないのかもしれない。それならばいいが。
とりあえず、再生機にセット。画面の現れるのがもどかしい。
いつもの3人の賑やかなやりとり。それに絡んで群サイのマドンナが蠱惑の肢体で雰囲気を盛り上げる。が、もうそんなものはどうでもいい、先を急いで58分35秒の該当ポイントへと直行する。
栃木県日光市にあるARVOUのガレージが大写しされ、続いていつもは童顔の柴田優作代表が、キリッとした表情で、登場する。本田俊也編集長得意のドキュメンタリー・タッチの構成らしい。
−−−歴代3番手のタイムをマークし、魔王取りまであと一歩。今回の狙いを高らかに謳い上げる。
「約1年をかけて自信のもてるセットが出来上がりましたので、ことしの魔王決戦に臨みたい。ただ、今度は(群サイに)行けないんですけど、かなりたくさんのメニューを用意してうちのメカに渡そうと思っています。その中で、せっかく群サイで、それも(超一流の)ドライバーさんに乗っていただけるので、割と思い切ったセッティングをした状態で、群サイに持ちこめるんじゃないかなと……」
このさきの異変を予感させる力の入りようから、スタートしている。なるほど、柴田代表が勝負に出るのも無理はない。リアのアッパーアームの取り付け位置を変更可能にした上に、HKSのGT SUPERCHAGERとTODAのキットで武装されたエンジンは、410psを発生するという。
シーンは群サイに移った。担当はオリダーこと織戸学君。いまやスーパーGTドライバーとしてもその技量は高く評価されているドライバーである。
「久々にアルボーさんのS2000に乗ります。かなり細かいところを去年よりつめてきているらしいんで……どうでしょうか?」
そういい残してコースイン。1本目、オーバーステアが顕著で、コーナーで暴れるARVOU S2000をステアリングワークで抑えこむ織戸。ベストタイムにはほど遠い。
「うしろが、まだ踊るなぁ。1コーナーはまだしも、2コーナーがちょっと……」
ピットに帰ってくるとARVOUのメカニックに状況を伝える。まぁ1周だから、タイヤも暖まっていないし、もう1周だけ、行ってみようか。こういい残して再びコースイン。2本目はアンダー方向に走り方を替える。それでも手の動きは忙しい。
「乗り方を変えたら、ダイブして後ろがいなくなる感じは消えたけれど、パワーをかけるとフロントタイヤを軸に、前後が振り回される。パワーがかけられない」
さあ、どうしたらいいのか、と対策が見えてこないARVOUのメカニック。
それでも、オリダーは中古タイヤにもかかわらず、ベストまでコンマ3秒までに詰めてきた。それでもピットに帰ってくるなり訴える。
「攻めきれないよ、このクルマは! 結構、いい勢いで走っているんだけどなぁ」
マシンから降り立った織戸君が、身振り手振りを混じえて、動きを説明する。
「とにかく、危ないクルマなんだよな。つねにクルマが踊っちゃて!」
そこでリアのアッパーアームの取り付け位置をチェックする。その調整作業を覗き込みながら、オリダーが解説をつける。
「クルマ自体の、タイヤの動き方が変わってくるのよ。レーシングカーは結構、こういうところをいじるのよ、1ミリ単位で」
取り付け位置をノーマルに戻したARVOUが再びアタックする。織戸のステアリングワークが生き生きとしはじめた。
「こっちの方向だよ。後ろの動きが穏やかになった。ところが逆にトゥの部分で悪いところがでている」
それがメカへの報告だった。再びアライメントの調整。それにしても、クルマを煮詰めていくこの作業、いつか、どこかで何度か見てきた。オリダーの真摯な取り組みに、なるほど、と肯けるものがあった。ドリキン譲りなのだ。
セットアップも煮詰まってきた。タイムも上がってきた。リアの車高を5mm上げる。するとここまでのベストタイムがでた。車載カメラが織戸君のホッとした声を捉える。
「ああ、難しいクルマだ。ああ、もう(アタックを)やめよう」
そんな気分を、流しながらコーナーを回ってピットへ帰ろうとするARVOU S2000の後ろ姿で表現している。
ベストまで、あとコンマ2秒。ARVOUはNewタイヤを投入してラストアタックに入った。1本目、アタック区間で25秒371。記録更新! 「やりました!」とメカニック君が歓声をあげる。手応えをつかんだオリダーは、この日初めてバトル区間もアタックする……。まだタイムが詰められると確信したオリダーは「もう一丁、行こう」ピットに帰ってくるなり、また飛び出した。
ナレーターの声が妙に変調し始めた。あ、この周かな。不吉な予感がした。
「オリダーが出したタイムは歴代魔王に迫るタイム。しかも、あとコンマ2秒で現・魔王に並ぶ。そしてこれがNewタイヤに替えて2本目のアタック。オリダーなら出してくれる。スタッフもそう信じていた……。
最初の下り、スピードメーターは145km/hを一瞬、表示した。マシンのリアの跳ねが大きすぎないか? そして減速しながら左回りのコーナーを、まずくぐり抜けている。次の右回りコーナー。手の動きに力みが感じられる。回りきったところからコースは下る。92、98、108、130になった時フロントノーズの向きが左に切れていく……クゥーと異様なブレーキ音。マシンが傾く。左の土手に左前輪が乗ったのか! 白いガードレールが迫る!
カメラが切り替わる。ヘアピンに設置されたカメラが、コーナーから真っ直ぐガードレールに向かってしまった白いマシンを捉えていた。
「織戸、クラッシュ」の報が、すぐにスタッフ基地に伝えられる。顔を覆うメカニックの青年。
「やっちゃったあ」オリダーの呻くような声。虚しくワイパーが左右に揺れている。その向こうは笹薮。ともかくドライバーに特別な異変はなさそうだった。
土屋君を先頭にスタッフが現場に駆けつける。どうやら前にも同じようなアクシデントがあったらしく、ここは難所のコーナーらしい。
クルマから降りた織戸君が「すみません、ほんとに」と頭を下げながらこちらへやってくる。
「乗り上げたのか、ここに」と土屋君が土手の方を指差す。
「乗り上げちゃった。そこの手前で滑っちゃって」
「怪我なくてよかった……」とドリキン親分。
そこでオリダーがカメラに向かって反省をこめた顛末を説明する。しかし、
こんな時、もっとも頭を抱え込んでいるのは、当然、編集長の本田君。わたしには痛いほどわかる。まず、クルマの補償、コースの修復代、その他モロモロ。それを乗り越えるにはどうすればいいか、答えは一つしかない。
そんな本田編集長から、こんな元気なメールが届いた。
−−−今月は「95分間目が離せない」構成を狙ってみました。クラッシュは不本意なものですが、露出するならば、ときっちり作りこみました。
お知らせですが、講談社との共同プロジェクトで「ベストモータリング公式チャンネル」をYou Tubeにてスタートさせました。
まずは現行ホットバージョンを含めたYouTube上での著作権管理が目的のため、コンテンツ数はまだ少ないですが、粛々と増やしていく予定です。
ベストモータリング公式チャンネル
https://www.youtube.com/channel/UCrmsruqPgCIs4PImiZs0t9w
合わせて、よろしくお願いいたします。 本田俊也
このハラの据わりようなら大丈夫。この際、大いに「Hot-Version」の売り上げに協力する。これが何よりのパワーになってくれはず。明日は早速、書店に足を運んでみよう。あ、明日は箱根の「ガンさん邸餅つき大会」。それでは月曜日には、かならず……。