〜前菜役の「レクサスRCF」を本気でしゃぶり尽くす〜
「いまの日本で、こんなにも心揺さぶる凄い奴らがいるのか」という、ちょいと洒落た小見出しをつけてしまった実況レポート。
――ドク、ドク,ドクン! 戦士たちの心臓の鼓動が聴こえてこないか。
あれは1年前の「Hot-version vol.126」のオープニングシーンだった。心の昂りを包み込むようなサウンドで、この号に対する本田俊也編集長たちの、「創り手」の情熱を予感させた。
樹立ちのむこうから、早朝の陽光が眩しく昇って行く。戦士たちのマシンが集結する様子をシルエットで丁寧にカメラがとらえ、すぐにナレーションがかぶさる。
「雪によるコース閉鎖を目前にした群馬サイクル・スポーツセンター。この日を待ちわびた峠の猛者たち。はりつめた空気の中、静かに準備がすすめられていた。ついに、史上最高の闘いが、はじまる」
そして、あの梅本J’s RACINGが、藤田FEED に「峠の魔王」の称号を毟(むし)りとられてしまった……それから1年、研鑽を重ね、牙を研いだ戦士たちが、再び群サイに集結した。もうすぐ雪に閉ざされるという、2014年11月最後の機会なのに、折から「聖地・群サイ」は降りしきる雨のなかにあった。路面に濡れた落ち葉が張り付く。それが妙に気がかりだった。
そんな重苦しい空気を吹き飛ばすように、いつもの3人組が、陽気に登場する……。「カバーガール」、いや「Fresh SHIMOBE Girl」と、これまたいつものようにジャレ合ったあと、Vol.132はテンポよくスタートした。
織戸学「今回は、いつもよりも、本気の“本気スペシャル”!」
土屋圭市「おれはいつも本気だよ」
織戸「その上をいく本気です」
同じやりとりを繰り返す二人……・
土屋「ということは、ヤバイってことじゃん」
織戸「そうです。ヤバイんです。したがって、今回はNewカーチェックと、お楽しみの“魔王決定戦”があるんですがァ、今日は趣旨を変更してチューナーによる魔王決定戦!」
土屋「あ、いいねぇ。俺らがやるときはドライ」
谷口信輝「雨はチューナーさんに……」
傘を叩く無情の雨。さすがの3人も、群サイの怖さは身にしみて知悉している。果たして『魔王決定戦』は成立するのか、と観る側を不安にさせたところで、谷口がスマートに割って入った。
「そこで、New Carチェックです。出たばっかりのLEXUS RCF。ざあーっとこのクルマを説明すると、5ℓ、V8、477馬力、トルク54kg、電子制御8速トランスミッション、よく判りませんけど、だから凄いミッションなんでしょ、車重が1790kg、価格、882万4074円……」
この谷口の説明に合わせて、このTOYOTA にこんな本気マシンがあったのか、と首を傾げる向きのために、その素性と氣になる数値部分を、カメラが追う。判りやすい。
土屋「ということは、35GTRにぶつけてるね、価格は」
谷口「ただ、ラグジュアリーなところもありつつ、スポーツも愉しめるという位置。GT-Rは完全なスポーツじゃないですか。そこらへんで、この群サイで乗ったらどんな感じなのか、と……」
織戸「やっぱり、ターゲットはBMWのM3、M4でしょう」
土屋「そうだよ。まずは乗ってみましょうかね」
谷口「これはチューナーさんじゃなくていいですか?」
土屋「これはわれわれ3人で……」
織戸「でも、雨ですよ」
群サイの空気が一変した。名手3人のなかから2014スーパーGT350クラスの年間チャピオンが、先鋒役を務める。恐らく、RCFだってこの瞬間を待ち望んでいたに違いない。おのれの本当の姿を「群サイ」という特別のステージで惹き出してもらえる……それも落ち葉の貼り付いた超ウエットのもと、である。
谷口信輝の声も弾んでいる。
「今回の新しいマシンには、オプション装備(40万円)のトルク・ヴェクトリング・デファレンシャル(通称TVD)という後輪左右の駆動力を電子制御する機能がついていて、それをチェックするというか、どのモードがいいのか、それを決めてから走りたい」
というなりコースに出た、と思ったら、タイヤのウォームアップをかねて、いきなりリアのありあまるパワーを使って、同じ位置でクルクルと円を描く、あの勝者の舞いを連発してみせる。
ナレーションも「TVD」について付言する。
――TVDは3つの制御モード(スタンダード・スラローム・サーキット)に切り替え可能。ドライブモードは5つ(ECO/NORMAL、SPORT S、SPORT S+、SXPERT、完全OFF)。
このテの「モード切り替え装置」はGT-Rや新しいメルセデスベンツのスーパーウェポン級にもとりいれられていなかったっけ?
谷口の注意深い走りっぷりは必見ものだ。われわれがFR車でウエット路面に出るときなどの「教科書」にしたい走りがそこにあった。まず、TDV のモードは一番ソフトなスタンダードモードから。ドライブモードはSPORT S+だった。
野太いエクゾーストノートが快く響く。ディスプレイの左下では、取り付けた車載CCD のお陰で、視聴する側にはデフの生き生きと動く様子が、即座に確認できるのがいい。
「このTVCですけど、まずアクセルの踏みはじめで、外側が少し強く、多く回る。内側のタイヤの回転を少しだけ差を付けて、少し減らして、曲がりやすくしている」
つづけてTVDをCIRCUITに切り替えた谷口、すぐにデフの左右切り替え差を指摘する。その辺を見る側にも味わえる創りとなっていた。
「サーキット仕様の方が、左右差が少なめにしてある感じ。挙動にもそういう風にでますね。ちょっと踏みはじめたところで、すぐ両輪がトラクションをトレースするので、
少しフロントを押し気味な旋回姿勢になりますね」
谷口から織戸へバトンタッチ。織戸の笑顔がいい。待ってました、とばかりに、親指を1本、立ててみせてから、コースへ飛び出す。
「こいつね、高級車ですね。ちょっと嬉しいです」
織戸は8速のオートマティック・トラコンに惹かれる。
「ギア比が6速で1.000か、超ローギアーですね。この低速のアップは凄くつながりがよくって、まるでレーシング・ミッションみたいなもの」
このような、雨の冷えた路面でも、安心したグリップ感がある、と手放しだった。もちろん、デバイスを入れたSPORT S+でも挑んだ。
「いやぁ、エンジン、ご機嫌だなぁ。1800キロありますからね」
車重があるわりにはブレーキの安心感がもの凄く高い、と評価する。
「これいいよ。スポーツカーだよ、これ。見た目より大きさを感じない。思ったより走れるクルマで楽しい、走れる。凄い、感動した!」
当然、トリはこの人。「走り屋」としてはレースの修羅場からは退いたものの、ここ群サイでは、まだ「現役」である。この若さはどこから来るのか。
「さあ、新車インプレッション、レクサスRCF。レース(スーパーGT500クラス)では結構がんばって、トップグループを走っていていますけどね、市販車はどうか、というところを見てみたい。まずはATモードで走って、次はMTで行ってみたい」
一踏みしたところで、「パワー、あるなあ」と最初の印象を。つづけて「この落ち葉、いやだねぇ。多分、みんないやだろうね。おっ、脚の、ギャップの吸収がいいねぇ。素晴らしくいいよ」といいながら、最初のタイム計測区間へ入っていく……。タイトなコーナーを抜けながら、アクセルを踏む。
「お、結構、グリップする!」
すでにドリキン土屋のドライビングに、見る側が同化しまったのを自覚する瞬間だ。
ナレーションもそこを計算して、土屋のドライビングのツボを伝える。
――ドリドリのクルマの評価で重要なポイントの一つが、フロントのタイヤの接地感だが、どうか……おっ、かなり飛ばしているってことは、いいってことか!
「フロントのグリップ、いいねぇ」
区間タイムが出る。ATモードで30”297。先に走った二人より1秒近く、速い!
「フロント、安心感があるね、このクルマ。フロントがちょっと浮いたり沈んだり、また、浮いたり沈んだりと。スピードが速いねぇ」
――(ナレーションがかぶさる)この症状は、ドライブモードの、その上のエキスパートにすることによって、解消するかも知れない。
画面は一転、MTモードに切り換えたドリキンRCFが、最初のストレートで吼える。
――やっぱり、477馬力は凄い! あっという間に148km/hが出ています!
コーナー毎に、3速のままがいいか、2速にシフトダウンした方がいいのか、探りを入れるドリドリ。下りのコーナーへ車速をあげながら、3速のまま飛び込む。
「オートマで乗るより、マニュアルで乗った方が穏やかだね、クルマが……」
そして、次のストレートでは159km/hをマークしてしまう。機嫌が悪いはずはない。さらに周回を重ねるドリドリ。次はコーナーへのアプローチを2速で試している。
「ここを②に落としてみて、ここでちゃんと加速して……こう入っていけばね」
ターンインの回頭性も、気に入ってしまう。タイム計測区間に入った。
「こんな感じだろうね」
パワーのあり余るRCFを柔らかく包みこむようなステアリングワーク。そうなると前の周回でマークした30秒台を切るのではないかな。
――なんと、29”294をマーク。少しずつ、路面の状況がよくなってきたのだろうか。そう思ってしまうような、身の 引き締まるタイム短縮だった。
タイム計測区間を抜けた後は、フィニッシュまでをRCFの行きたいままにまかせながら、ドリドリの独白がはじまる。
「凄く安心。これでもう、ホントに、サスペンションに車高調整なんかを入れてさぁ、ガンガン走ったら、割りとレベル高いんじゃないかなぁ。ただ35GT-Rと同じ重さがあるから、そこをどうこなすかだよね」
−−−車重はあっても、電子制御の介入も不快ではない。ちょっといいんじゃないか、それが世界最強TOUGEドライバー3人の、おおかたの結論であった。
で、それぞれが評価を点数で……。
土屋:94点、織戸:97点、谷口:96点。
「高いねえ」と、他の二人の採点に驚いてみせる土屋。
織戸が応酬する。「高いです。なんで高いか。まずカッコいいから。そして(値段は)高いけど、このパッケージでは金額的には安いのかなって」
土屋「900万だよ」
織戸「高いですよ。でも、ボク的には凄く乗り易くって、安心感があった。このウェットのなかで……」
谷口「LEXUSでこの完成度、内容で1000万行かないのは、お安いんじゃないかな」
土屋「そこはエライよ。ノーマルカーとしてはよくできました、だよ。ただ……」
ただ、と一区切りしたところで、土屋は自分の採点が他の二人より低くなった理由を、こう伝える。それが彼の独特の嗅覚なのだろう。
「乗ってみて、凄く乗り心地がいいし、パワーがあって直線番長的なんだけれど、ターンインも速い。そのあとアクセルを入れると、ストロークが多いせいもあるんだけども、クルマがアクセルに対して、ヘコヘコと無駄に動く。それが嫌だな。でもあの雨のなか、このタイムは立派なもんだよ。ドライだと?」
谷口「そう、雨で29秒2って、ドライで何秒まで行くのかな」
織戸「3秒短縮して26秒前半は考えられるかな……」
座長の土屋が、この10分にもわたった前菜役のコーナーを締める。
「考えられるけど、このヘコヘコがドライになってどう動くかだよ。もっとグリップするわけじゃないか。それにしても、この参考タイムは立派よ、雨のなかで。さあ、続いては!」
織戸・谷口「遂に来ました、2014年魔王頂上決戦。でも、この雨!」
そこで画面に、こんなテロップが流れる。――とっても危険なコンディションのため、とっても乗りたくない模様。
こちらも都合がいい。今回はここで一旦、休息して次回に備えるとしよう。
ところで今回は、出来るだけ「New carチェック」を忠実になぞってみた。理由は二つ。
① TOYOTA がベンツのAMG、BMWのMシリーズにならって、LEXUSブランドで本気の最強マシンをつくりあげていた驚き。
② HOT-VERSIONがお仕着せのステージでなく、群サイにまで持ち込んで、自由闊達にテストできる能力の持ち主たちの、貴重なテストぶり。
これができるメディアは「HOT-VERSION」以外にない。そのことへの感謝からであった。 (以下、次回更新まで)