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2012年02月26日

標的にされた「速すぎる男」  ~それからのドス黒いドラマ②~

標的にされた「速すぎる男」  ~それからのドス黒いドラマ②~  この朝日新聞の記事(7月5日付け)の書き手は、恐らく6月3日の事故第1報を執筆した「山下記者」ではないだろう。その内容に、モータースポーツに疎い読者に対しても、なんとか理解が届くようにと心を砕いた、あのジャーナリストの情熱のかけらも感じとれないからだ。有態にいえば、静岡県警捜査一課と御殿場署が、黒沢元治選手を「業務上過失致死傷」の容疑で静岡地検に書類送検する、とスクープしようと急ぐあまり、その容疑内容について警察側の資料をそのまま引用している、といえるからだ。それでも社会に与えるインパクトは強烈過ぎた。



*1974年7月5日の朝日新聞社会面(クリックで拡大)


 なにしろ当日の社会面を開くと、「特等席」といわれる左上欄5段スペースの半分を費やして、大きな3本の見出しと記事が踊っている。加えて、ガンさんの顔写真まで添えて……。
「富士スピードウェイ事故 黒沢選手を書類送検へ」
「規則を破り接触」
「競技事故 初の刑事責任追及」

 これでは、あたかも黒沢選手が事故を起こした罪により、いまにも逮捕されるような印象を与えるではないか。そして、その記事の内容がお粗末そのものだった。37年が経過した今になって「TV放映録画」をつぶさに見ることができたからこそ指摘できることだが、黒沢/北野車が接触した直後の様子を相変わらず、こんな風に間違ったまま、書いているのだ。

「これまでの調べでは、6月2日午後2時5分ごろ、1周6キロのコースを参加17台が2列縦隊で2周ローリングし、メーンスタンド前からそのまま一斉にスタートした直後、右回りの第1コーナーの手前200メートル付近で事故が起きた。先頭の高橋国光選手のすぐ後ろをほぼ並んで走っていた黒沢選手の車と北野元選手の車が数度にわたって接触、はずみで北野選手の車が左側ガードレールに衝突してはね返り、コースを横切って右側のフェンスを突き破った」

 確かに、それは一瞬の出来事で、黒沢車と北野車の接触が引き金となって、忌まわしい惨事が起こったのは分かるにしても、詳細は不明のままだった。だからこそ、新聞報道には正確な事実確認が望まれる。にもかかわらず、実際には北野車は黒沢車との接触でグリーン側に押しやられ、左の前後輪が抵抗の大きい芝生にはみだし、そこから右前のカウルが持ち上がり、次にカウルが元の位置に収まった瞬間イン側に切れ込んでいったのを、ガードレールに衝突してはね返り、と全く事実にないことを書いている。



 これは6月3日の「毎日」「読売」が同じような記述をしている。グリーンにはみ出す接触と、弾き出されてガードレールに当たり、そこから跳ね返されてコースを横切るのとでは、えらい違いようである。それに接触事故のあった地点の左側はコンクリートの壁で、ガードレールが設けられているのは、鈴木・風戸の両車が炎上した地点からである。

 そうした情勢を朝日の記者が確認・取材できないはずがない。記者自身がこう書いているではないか。

「同県警は、事故発生直後から約1か月間、参加15人のレーサー、大会責任者、観客など数十人から事情を聞く一方、レースを中継していたテレビ局のビデオテープ、観客席のアマチュアカメラマンが事故寸前まで撮った8ミリフィルム、燃えずに残った黒沢選手の車の傷痕などを調べた結果、黒沢、北野両選手がコーナーに入る寸前まで数度にわたって接触していたことがわかった」

 ジャーナリストとして、この事故原因の真実を突き止めようという気持ちさえ持ち合わせていたなら、この過程で映像をみるくらいのことは、できないはずがない。事情を聞かれたレーシングドライバー、関係者のなかの何人かは、映像を見せられたと証言している。もし、記者が見ていた側の一人なら、「ガードレールに衝突してはね返り」などというありもしない出来事を書くわけもない。だからぼくは、捜査側の資料から書き取ったものではないか、と失礼な言い方をしてしまった。

 しかし、この朝日の記事によって黒沢選手がますます窮地に追いやられた。3日後の7月8日、ガンさんはJAFに競技ライセンスの返上を申し出てしまう。その際、JAFスポーツ委員長に提出した文書はこうだった。

「今般、私に因を発する新聞を媒体とした社会批判は、モータースポーツ界に多大な悪い影響を及ぼし、とりわけ貴連盟、ドライバー諸氏、関係役員の方々、その他モータースポーツを応援して下さっているスポンサーの方々、ファンの方々にご迷惑をおかけいたしましたことは遺憾であり、申し訳ないことと、お詫び申し上げます。
 ここに謝罪と反省の意を表し、その証として貴連盟発行の競技運転者許可証を返上し、自身へのいましめとする次第です。      黒沢元治」




 このことを当時のCG誌が「国内スポーツ」欄で紹介していた。そして、こう伝える。

「(前略)すなわち、日本最速のレーシングドライバーの一人、黒沢元治が、そのレーシングドライバー生活からひとまず身を退くことを決意したのである。その数日前のA新聞に発表された“書類送検か”という記事が、彼の決意に少なからず影響を与えているといわれるが、結局彼は7月17日、静岡県警および御殿場署により業務上過失致死傷の疑いで静岡地検沼津支部に書類送検されてしまった。(中略)亡くなられた二人に続いて、日本のモーターレーシング界は、また一人、惜しむべき人材を失ったことになる。そしてある意味では、黒沢は第3の被害者といえるかもしれない。なお、現時点では、彼に対するJAF側の態度は決定していないといわれる」
 
 7月17日、CGの記事にあるように、ガンさんは「書類送検」される。
静岡県警がガンさんに過失があるとしたのは、なんと「安全無視の幅寄せ」だというのだから、驚きである。
「富士グラン・チャンピオンレースの特別規則書の安全規定に、周囲の安全を確認したうえで進路変更しなければならず、故意であるなしを問わず、幅寄せをしてはいけない、と定められているのに、黒沢が高橋選手の車のスリップストリームを利用し、コーナーを有利に回るため、すぐ左を走っている北野選手の車に注意せず、急激に左外側に進路変更した点。初めこれを否定していた黒沢も、その後の調べに対し過失があったことを認めた」(朝日新聞7月18日の記事より)

 それからさらに7か月後の1975年2月27日、静岡県警沼津支部はガンさんの不起訴を決定。事件はここで終結したはずである。が、ガンさんの泥沼でもがくような苦闘はこのころから、さらに深刻化していった。レース界に復帰するには様々なハードルが待ち受けていたし、家庭崩壊、新しく始めた事業の失敗。あっという間に、ガンさんは大切にしていたものをすべて失った。なぜガンさんだけが、それほどまでに人権を無視され、社会的な制裁をうけてしまうことになったのか。「ドス黒いドラマ」には様々な背景、思惑があるようだ。
ブログ一覧 | 実録・汚された英雄 | 日記
Posted at 2012/02/26 05:05:34

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この記事へのコメント

2012年2月26日 9:25
おはようございます。

一人の、黒沢元治ファンとしてこの事故についてはかねてから興味を持ち、疑念を抱いておりました。
しかし、私が調べられる範囲では事故の詳細はわかるものの、何故ガンさん一人が悪者にされたのか?
それを知ることは出来ませんでした。
ただ、明らかに何か別の「力」が働いたか、この「力」を含んだ歪んだ『何か』のせいでこうなった事だけは私でも感じることは出来ました。
正岡さんの一連のブログを拝見し、事実が何かをしっかり見極めていきたいと思います。

報道は、今も昔も「売れること」が最優先のような気がしてならず、書き手(会社)の主義や思想に大きく影響を受けており、中立に事実を報告する事は二の次ですよね。これは新聞だけでなく、殆んどのマスコミと呼ばれる世界に共通する、ある意味“当たり前”のことに、恐怖を感じずにはいられません。

我々読み手が、「報道は中立ではなく、ただの一情報源」だということを認識し、様々な立場の人の意見を聞き分け自分の考えにする、ということを常に心がけなければいけませんね。

特に今の時代は、あらゆる所から「情報」が垂れ流しになってますから・・・
コメントへの返答
2012年2月26日 18:03
コメントが遅れて申し訳なし。

確実に、心の通じた読み手にコンタクトできたことに、大いに励まされます。当ブログを引き受けてよかった、と心が満たされております。

その試みが中途半端にならないよう、研鑽をつづけます。これからもよろしく。
2012年2月26日 19:35
こんばんは。
いつもブログの内容が非常に深く、興味深く読ませて頂いております。ガンさんは大きな物を背負っていながら、ベスモではいつも笑顔で、そんな過去も知らずに気楽にベスモを見ていた自分がいました。歴史を知る、真実を知ることの大切さを一人のガンさんファンとして感じます。
コメントへの返答
2012年2月26日 22:09
心強いです。ガンさんの真価を判っていただけているのが、こうした形で伝わってくることが。

もっともっと、書き込みたいと願っています。
2012年2月26日 23:52
 A新聞は、もとより自動車に対して敵対する傾向があるようですね。26年間テレビで自動車情報番組の司会をしていた、第一期評論家のM氏がそう評していたような気がします。

 書類送検の時点では容疑者であり、犯人と決まったわけではないのですが、犯人と決めて報道する当時らしい報道のように感じます、松本サリン事件での反省でこうなったのでしたっけ??

 道具を使って複数の人が同時に競技をする、自動車やオートバイのレースに、他のスポーツの論理で報道しようとした姿が記事から読めます。このことからすると、当時はまだ自動車スポーツに対する世間の目というのは色目で見られていたのでしょうか?
コメントへの返答
2012年2月27日 0:14
これはあなたの言う「M氏」が、事故レポート該当号の「From Outside」に執筆したもので、吉田匠さんとの伝言やり取りに触れたとき、すでに紹介した一文ですが、記憶していますか。参考までに。

「とにかく、TV用の演出か、安全確保のためか知らないが、本年度第1回のGCレースは妙に感激が薄かった。主催者側は予想以上の観客動員をよろこんでいたし、私も盛会だったことはよろこんだが、なにかスッキリしないので、GC第2戦は助手だけを取材に出し、私自身は鈴鹿でモーターサイクル・レースを取材することにした。
「何かありそうですから……」と富士スピードウェイへ行った助手のカンは正しくて、鈴木、風戸の両選手が死亡するような大事故が発生してしまった。このニュースは、鈴鹿サーキットで取材中の私の耳に、事故発生5分後に届いた。新聞記者からの電話を傍聴したもので、「出場選手の鈴木、風戸が死亡、取材中のカメラマンも死ぬかも知れぬ重傷」と聞かされ、助手の安否を確め,事故発生時に現場に居合わせなかったことを知って胸を撫でおろした。
新聞記者の速報はありがたいが、「そちらでは死亡事故などないですか、あれば“東西サーキットで事故死”と見出しがたてられる」と冗談ばかりではなさそうな問い合わせにゾッとさせられた。(中略)
 事故後に聞こえてきた“噂”や取材メモでは、どうも気が滅入るはなしが多い。レーシングドライバーが「黒沢の出場するレースには参加しない」と申し合わせた、とか「警察の事故調査には口裏を合わせて答えた」とか「12chの録画ラッシュを特定の人達には見せて事後処理の参考にしたが、警察に見せるのは拒否した」とかの類だ。
「モータースポーツは危険で、万一死に至る事故が発生しても、何人にもその責任を負わすことはできない」。こんな但し書はヨーロッパやアメリカのようにモータースポーツが盛んなところでは常識になっており、万一事故発生のときには徹底的に原因を追求し、後々の安全の糧にするのも常識である。(中略)
 モータースポーツの安全は、特定の誰かが出場するレースをボイコットしたり、問題の派生を怖れて原因追求を怠ったり、阻害したり、非協力的だったりすることで保てるわけはない。10余年の間、日本や外国でのモータースポーツをカメラのファインダーからのぞいていて、今度の事故を知ったとき、なんだか胸に大きな空洞ができたように感じた。別にモータースポーツを至上視したり溺愛したりはしていないが、心の底ではモータースポーツから得られるであろうナニかを常に期待していたからかも知れない。」  
2012年2月27日 16:59
こんにちは。

段々と「消されたレーサー」の話に近づいて来たようですね。

話は違うのですが、数年前にTVで「騒音おばさん」と言われる方が話題に成った事があります。TV映像や報道内容は物凄い形相で鍋を叩いたり、大音量で音楽を掛けたりして近所の迷惑になってるとの内容でしたが、今ネットの世界では「騒音おばさんの真実」として本当の事実は報道とは180度違う内容だったと認識されています。あれはメディアの身勝手な数字取りの犠牲になった結果だったのではと。

私たちは事件・事故の事は、結局は新聞やTV、ラジオなどで一方的に流される話を単に聞き流しているだけで、その事の真贋についてはまったくの無頓着であります。
最近のニュースの内容ですら本当なのかどうか疑わしい内容が多く感じられます。

真実とは・・・難しい問題ですね。

変な内容で失礼致しました。
コメントへの返答
2012年2月27日 18:22
いろんな要素を、一つ一つ検証・実証していく必要があるのですが、これまで取り組めずにいました。

やっと、資料らしきものを入手できたので、急がず、焦らず、じっくりと解析できれば、と願っています。

ま、これまで、新聞報道のもつ危うさを伝えたかったのですが、いくらかその役割が果たせそうなので、力も湧いてきます。

また、ご意見、聞かせてください。お待ちしています。
2012年2月27日 21:06
このブログのニュースでだんだんと黒沢さんから気持ちが離れていったことは事実です。しかし、当時今のような情報網(インターネット)が発達していなく新聞やニュースを信じるしかなかたったという部分もあり複雑です。この事故の真実はなんだろうと考えるようになりました。話はそれますが、AUTOSPORT1972年12/15号に、「73年のGC線の主催者保証額が2900万円」と書かれてあり、当時としてはかなりの値段。この時にはどのくらいになっていたのだろうと思い、主催者も辞めたくなってきたのではないかとも思われてなりません。
コメントへの返答
2012年2月27日 22:26
当時の新聞報道がどんなものだったか。検証はまだほんの入口ですが、このあとも1973年に遡って、洗ってみます。

自動車産業の狼狽ぶりは、まったく今の様子と重ね合わさるものがあります。

スペシャルブログ 自動車評論家&著名人の本音

プロフィール

「終戦の日から80年。「耐え難きを耐え、忍び難きを忍び…」の玉音をラジオから聴き取った9歳の少年の記憶を今日こそ書き残して置こうと言い聞かせながらルーチンのデイリー買いに。虎軍団の巨人戦への昂ぶり。快し。それの比べて孤軍奮闘の翔平の痛ましさはどうだ! ま、パイレーツ戦に期待しよう。」
何シテル?   08/15 08:50
1959年、講談社入社。週刊現代創刊メンバーのひとり。1974年、総合誌「月刊現代」編集長就任。1977年、当時の講談社の方針によりジョイント・ベンチャー開...
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